2005/07/11 (月)
0戦はやと/辻なおき 上下巻』
最近、厚手の復刻版が出るようになって、古いマンガファンである私など喜んでいるのだが、今回『0戦はやと/辻なおき 上下巻』を見つけた。
これは少年キングに「1963年創刊号〜1964年52号」まで連載され、当時読んでいたはずだが、「こんな話だったのかぁ?」というのが正直な感想だ。
話のチープさは今言ってみても詮無い事ではあるのだが、同時期少年マガジンに連載された『紫電改のタカ/ちばてつや』と比べても、それこそ「お話にならない」レベル。
一気に戦況を逆転するため精鋭戦闘機隊を結成する事になり、主人公とライバル他名だたる零戦乗りが集められる…(このあたりの設定は、紫電改の剣部隊がモデルだろうな)というのが発端で、主人公とそのライバルが64機撃墜で「少年撃墜王」と呼ばれているというのはともかく(それより撃墜数が少ない編隊長も多いのに、二番機が精々の二飛曹にそんなスコアは出せっこない)として、嫌味な上官は最後まで主人公たちと敵対したままだし、主人公とライバルの間以外、この飛行隊員の中でもめ事は一切起こらない。
主人公はラストで宿敵を倒すのだが、ここでもその前に出てきた伏線(宿敵が、実は主人公の父親を尊敬していて、窮地に陥った主人公を助けたりもしている)はどこへやら、敵を撃墜して単純に喜んでいるだけなんだもんなあ。

この一騎打ちが最後のエピソードで、ここでは隼人も銃弾を胸に受けていたのだが、このエピソードを含め特に盛り上がった様子は見せず、「その後の隼人はどうしたであろうか…」以下数カットのナレーションを並べて、それでおしまい。
このあたりは、今見るとまるで打ち切りか?と思えるほどだが、当時は、前述の『紫電改のタカ/ちばてつや』を含めてこれが普通で、誰も不思議とは思わなかったんだよな。
この作品の前に少年画報で連載していた『0戦太郎/辻なおき』でさえ、事ある毎に主人公を窮地に追いやっていた嫌味な上官が途中で改心したり、ライバルが主人公に秘技「木の葉落とし」を伝授するなど、盛り上がるシーンが結構あったのになあ…。
こうなると、『0戦太郎』の方を読みたくなってきたのだが、『別冊宝島』のマンガ特集にさえタイトルが出てこないくらいだから、復刻版など望むだけ無駄なのだろう。
もっとも「面白かった」というのは薄れた記憶が作り出した脳内妄想の可能性もあるから、「見ない方が幸せ」という可能性も高いのだが…。

2005/10/26 (水)
0戦あらし/辻なおき 上下巻』
以前 0戦はやと/辻なおき』の話を書いたが、今度は同じ作者の『0戦あらし 上下巻』という作品を見つけたので、買ってしまった。
こっちは「1972年」に少年チャンピオンで連載されたようだが、話はさらに無茶苦茶だ。
主人公達の飛行隊「電撃隊」は、昭和16年8月に攻撃の帰還が遅れた事で全員戦死と報告されてしまい、幽霊部隊になってしまう」というのが発端だ。
まあ、この設定にはいくら何でも無理があると思うが、おかげで真珠湾攻撃などで多大な功績があったのにもかかわらず昇進などは無縁の存在となってしまい、最後まで隊長は大尉のまま、主人公である嵐剛一も一飛曹のまま。
そもそも、こんな状況に陥ったのは主人公のせいなのだが、主人公は反省をするどころか、遥かに上官である中佐とタメ口をきいているし、何かあると後先や人の迷惑も考えず突っ走ってしまうんだ。
(この中佐は、お馴染みの主人公を敵視する上官だが、それに対して「あんた」呼ばわりはいくら何でも無いだろう:笑)
そしてこの中佐の陰謀で主人公の機体から機銃弾が抜かれ、翌日の戦闘で窮地に陥った時、所持していた拳銃で敵パイロットを撃つのだが、その拳銃がブローニング風だったのはともかくとして、拳銃弾が無くなったら隊長が手渡しするってのはなあ…(笑)。
(まあ、奇襲を受けたのならともかく、普通は戦闘空域に入る前に、機銃の発射テストをしておくものだが)
おまけにその隊長も、主人公の立てた、敵基地の周りを火の海にする事で酸欠状態を作って、基地を無傷で奪うという作戦では、海上に逃れた基地の地上勤務兵に対し、「海面に機銃掃射だ!」と命令するんだもんなあ…。
当然アメリカ軍にも強敵がいるのだが、前半で登場したレッド・スコーピーは、その秘密を解いた時点で放置(ついでに、主人公にライバル意識を持っていた佐山も)されてしまう。
次に死神マックという強敵が出現、父親(嵐剛造大佐)が撃墜されてしまう(この人の作品では、佐官が戦闘機に乗って空戦するのは当たり前になっている)のだが、その時死神マックが「撃墜されたふりをしてきりもみで逃れ、反撃、撃墜」と言うのを訊いて主人公は「ひきょうだ!!」と叫ぶのだが、「お前も似たような事をやって来たじゃないか」とツッコミを入れたのは、私一人ではあるまい。
最後にその死神マックと一騎打ちの挙げ句撃墜して、おしまい、だ。
もうツッコミどころ満載で、読むのが疲れるくらいなのだが、とか言いながらも、「著者紹介」にある『0戦太郎』は当然として『0戦仮面』も、早く出してくれないか……などと思っている(笑)。
ちなみに、主人公を敵視している連中は、主人公の愛機から機銃弾を抜きとった上、空戦中に背後から銃撃しただけでなく、「主人公の愛機の昇降舵を外れるように細工する」とか、勝手に部隊の規律を作って主人公を暴れさせ独房に入れようとするなど、あの手この手で主人公を亡き者にしようと計るものの失敗ばかり。
おまけにその手段が、「そこまでやるくらいなら、もっと簡単な方法があるだろうに」と思わせるようなものばかりなのだ。
無論これは大昔の「子供向け漫画」の典型で、だからこうやって突っ込む方が野暮と言うものである事は分かっているのだが……。

2006/04/20 (木)
0戦太郎/辻なおき 1〜3巻』
今日本屋で『0戦太郎/辻なおき 1〜3巻』を見つけて買ってきたのだが、全三巻ではなく、まだ続くようだ。

それにしても、いくら40年前とは言え、大きな記憶間違いをしていた。
まず、主人公のライバル(月影)が、自分の必殺技を教える場面。
0戦の機動性は他の追随を許さない」、 「機体を垂直にすれば、揚力が極端に小さくなるので、一気に高度が下がる」 そして、 「敵機は0戦と違って機銃が主翼に付いているので、その機銃の射線中央なら撃墜される可能性が低い」 だから、 「わざと敵機に追わせた上で射線中央に入り、機体を垂直にすると共にエンジンの回転数を落とす事で敵機をやり過ごし、その後撃墜する」 と説明し 「他の奴はともかく、お前ならできる」、 と断言するのだが、ここで、私の記憶では 「敵機の射線の中央という位置を、どうやって知るのか」 という主人公の質問に対し、 「車のバックミラーを取り付ける」 と答え、その後現物を見せるシーンがあったと記憶していたのだが、それが無いんだ(汗)。
もしかしてこのエピソードは、『0戦はやと』で出たのだろうか。
次に、主人公を陥れようと画策してきた上官が、改心する場面。
主人公が敵基地に偵察に行く事になり、パートナーとしてその上官を連れて行き、その上官のせいでトラブルに巻き込まれ負傷するものの、ともかく帰還、おまけに上官の手術に必要な輸血もする。
それを知った上官が改心して子分になるのだが、ここも私は、敵基地で捕虜になっていた間に改心したと記憶していたのだ。
もしかしてこれも、『0戦はやと』にあるのだろうか。
いや、たしかに以前『0戦はやと/辻なおき』も買ったのだが、考えてみればその時に読んでなかったんだ(汗)。
部屋のどこかにあるはずだから、探して読んでみよう。

2006/06/02 (金)
0戦太郎/辻なおき 4〜6巻(最終巻)』
0戦太郎/辻なおき 4〜6巻(最終巻)』が出た。
当然、早速読んだのだが、 「 当時はこの程度の話で喜んでいたのかぁ…… 」 と改めて思い知らされるような内容だったな(汗)。
でもまあ、作品に対する思い入れがあるだけに、「1,890円×6巻」を惜しいと思うどころか、復刊してもらえた事に感謝している。

ところで、私は 「 少年画報での『0戦太郎』の連載が終わってから、週刊少年キングで『0戦はやと』の連載が始まった 」 ような気がしていたのだが、初出を見ると4巻は「1963年」とあるから、連載が少年キングの『0戦はやと』とダブっていたんだな。
だから、話を盛り上げる意味で、木の葉おとしを会得させるとともに、改めて「主人公をいびる上官」を登場させたのではないかと思うのだが、思ったほどの効果が得られず、結局最後の方は、 「 週刊マンガ雑誌に圧されて売上げが低迷してきたから、そろそろ終わりにしようか 」 とでもいうような話があって、終わらせたのではなかろうか。
その主人公をいびる上官どころか、最初の方から出ていた最強の敵すら放置されたままというあたりは、『0戦はやと』より情けない終わり方と言えるのだが。

ちなみに、 以前 書いた、 「 ライバル(月影)が自分の必殺技(木の葉おとし)を伝授する場面で、敵機の射線の中央を確認するのに車のバックミラーを使う、と教えるシーンが無い 」 というのは思い違いだった事がわかった。
重傷を負った月影から口頭で木の葉おとしの説明を受けたものの、アメリカ空軍最強の敵に使えない(機銃が機首にもある機体のため)事もあってその後練習をしてなかったのだが、その相手がP-51ムスタングを使い始めたので練習してみたところ、敵機の射線の中央に入る事と、敵機をやり過ごしてから後ろに付くのに時間が掛かりすぎる事がわかり、解決できずに悩んでいたところ、月影が夢枕に立って教えてくれる。
という話の展開だったんだ。
それにしても、
イカダを並べた上から離陸する
  (山の木を伐りだしたはずなのに、いつの間にか角材になって、表面が揃っている)
敵空母に強行着艦して乗っ取る
空母を操舵する
即座に敵機(アベンジャー)が操縦できる
  (これは、以前の巻でもあった)
操縦士がやられた一式陸攻に空中で乗り移り、そのまま爆撃に行き、急降下爆撃を行う
  (まあ、米軍機が操縦できるのなら、同じ三菱が作った一式陸攻など操縦できて当然か)
零戦の増槽タンクに似せた容器に入って、敵前に落下
  (『サンダーバード』のゴードン並の頑丈さだな)
とまあ、当時の作品では珍しくもなかったのだが、超人的な大活躍なんだな(笑)。

ちなみに、主計長のエピソードは、『大空のサムライ/坂井三郎』にあったものだ。

2006/07/23 ()
0戦仮面/辻なおき』
以前、『0戦あらし/辻なおき』の 感想 で触れた『0戦仮面』が出た。
これは「週刊少年キング」誌で連載されていたもののようだが、この頃はもう週刊漫画雑誌を読まなくなっていたので、これが初読になる。
それも「原作:梶原一騎」という『タイガーマスク』コンビなだけに期待したのだが、ストーリーのメチャクチャさは他の「0戦シリーズ」と大差なかったな。
おまけに、納得できない部分は増えているんだもんなあ(笑)。
まず冒頭の説明で、時代は「昭和17年」、そして 「 少年撃墜王0戦太郎といわれた桜太郎や、0戦はやとといわれた東はやとのニュースは、このごろの新聞にはのらなかった 」 のだが、 「 かおは仮面でかくし 」 ていたため誰もその名を知らず、敵は「0戦仮面」とおそれ、味方は「仮面少尉」と呼ぶ新しい0戦エースがあらわれた、とある。
そして、最前線基地のベテランが落とされてしまったので、その補充として各地の撃墜王が集められるのだが、それが『0戦はやと』に登場した「宮本大尉」「石川兵曹長」、『0戦太郎』に登場した「花岡中尉」、主人公「仮面少尉」、それに、お馴染みの主人公を目の敵にする少尉が二人の計六人に過ぎず、あとは 「 予科練を出てまだまのない 」 二飛曹(二等飛行兵曹)、って、ちょっと待てい!
作者は「予科練」を何だと思っているんだ?
予科練というのは 「飛行予科練習生」 つまり、「飛練」(飛行練習生)として実際に飛行訓練を受ける前の、地上訓練とふるい落としをする場所なのだが(笑)。
(日本海軍の航空機操縦者は、「飛練」または「操練」(操縦練習生)のどちらかで、初等練習機から高等練習機そして実戦機の操縦訓練を受けた後、実戦配備されていた)
最後に「0戦仮面」が到着するのだが、着陸前にエンジンを停止して、 「 うまい ぜんぜん滑走路をつかわずに着陸した 」 って、それは腕前に関係なく、不可能ですから(笑)。
速度を落として失速状態になって初めて「着陸」できるのだが、腕前によって着陸に必要な距離に差が出る事はあっても、慣性の法則が存在する以上、失速速度になると同時に機速をゼロにすることは、(少なくとも、全金属製の戦闘機では)誰にもできない。
「リガチョフ・コブラ」だっけ? あのように機体を直立させて、空気抵抗により前進力を打ち消せばあるいはもしかして……と思わないでもないが、その場合は、機体が荷重に耐えられないように思えるし、そもそもプロペラ機でそのような高機動が可能とは思えないわな。
次のコマは操縦席で立ち上がって降りるシーンなのだが、その時点で背中に日本刀を背負っている事自体もどうかとは思う(何もわざわざ狭い場所で…)が、それ以上に驚かされるのが、同じシーンが描かれた次のページの絵と、刀の向きが異なる事だ(最初の絵は、左肩から右下だったのが、次の絵では、右肩から左下に変わっている)。
普通、右利きなら右肩から左腰に背負うのが当然だし、『0戦太郎』などを見てもそれで統一されていたのだから、なぜこの絵だけ逆になったのだろうな。
降り立った仮面少尉を見て、宮本大尉と石川兵曹長は「東はやとではないか」と思い、花岡中尉は「桜太郎にそっくりだ」と感じる。
まあ、この作者の場合、主人公と言えばこの顔一種類しかないのだから、似ているのは当然なのだが、それは言わないのがお約束だ(後には『タイガーマスク』に、誰が見ても正体がバレバレな「ゼブラ仮面」というキャラを出していたが、あれは開き直ったんだろうな)。
そもそも、 「 隼人がいなくなったのはきょ年10月 」 と明記されているのに、 「二飛曹が1年で 少尉 に昇進」するなどあり得ない事と誰も気付かないあたりもなあ……。
昭和18年以降は「二飛曹→一飛曹→上飛曹→飛曹長→少尉」と四階級だが、昭和17年でも「二飛曹→一飛曹→飛曹長→特務少尉」の三階級ある。
功績のある将兵が戦死しても「二階級特進」なのだから、いくら功績があっても、わずか1年で三階級も昇進できるはずがない。
あと、57頁左上のコマで、仮面少尉の仮面が白いのは単なるベタの塗り忘れだろうが、91頁で 「 宮本大尉、花岡中尉、石川兵曹長の3機は、11敵機の中につっこんでいった…… 」 と書いてあるのに、次のページで、 「 宮本大尉、花岡中尉、石川兵曹長の3機は、もうぜんと敵10機の中につっこんでいった…… 」 と数が減っているのは、校正ミスだな(10機が正しい)。
そしてその直前、オイルタンクを撃ち抜かれ前面の風防にオイルが付着して見えなくなった仮面少尉が刀で正面のガラスを破っているが、零戦の前面の風防には防弾ガラスが入っていたのだから、そんなに簡単に破れるとは思えないのだが。

まあ、その後もそんなこんながあるのだが、何と言っても特筆すべきはその終わり方。
ガソリンを手に入れるため敵基地に潜入しようとしたところ捕まってしまい、仮面少尉の正体を知ろうと敵の基地指令が仮面に手を伸ばしたところで終わり、という『0戦シリーズ』の中でも一頭地を抜く中途半端さなんだ。
これでは、 「 上手いオチが考え出せなかったから、連載を休止した 」 としか思えないわな(笑)。
とは言え、仮に仮面を取ったとしても、「桜太郎」か「東はやと」かという区別は、誰にもできないと思えるのだが。
ところで、以前この『0戦シリーズ』の感想で『紫電改のタカ/ちばてつや』を引き合いに出した事があるが、最近文庫版が出たので読んでみたところ、こっちも結構いい加減だった事に気付いた。
4巻で、坂井中尉が黒い紫電改に乗って滝(主人公)の前に現れるのだが、軍隊では初対面の相手はまず階級を確かめるのが習性のようになっているはずなのに、相手から 「 有名かどうかは知らんがその坂井だよ 下に中尉がつくぞ 」 と言われるまで、相手が上官である事に気付かないんだもんなあ。
(このシーンは昼間だから、階級章が見えなかったとは思えない)
その後花田の陰謀で軍法会議にかかることになった時なんて、営倉へ護送される途中で脱走しただけでなく営倉からも脱走、それも施設の破壊までしたのに、花田が死んだ後何のおとがめも無いんだ。
いくら何でも、そりゃあないよな〜〜(笑)。
たとえ軍法会議が他人のでっち上げによるものだったと判明しても、脱走という行為に対する罪は(情状酌量で減刑されることはあっても)帳消しにはならないはずだからね。


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