中国:習近平氏視察で村は一変 周辺部は苦しいまま
毎日新聞 2013年03月14日 01時02分(最終更新 03月14日 01時53分)
中国の国会にあたる第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議は14日、北京の人民大会堂で全体会議を開き、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(70)の後任として習近平(しゅう・きんぺい)共産党総書記(59)を選出する。習氏が総書記就任(昨年11月)後に視察した河北省の貧しい農村では、新主席による生活改善に期待の声が上がる一方、周囲の村民からは「指導者個人ではなく、社会の仕組みが変わらなければ何も良くならない」との冷めた声も聞かれた。【阜平(ふへい)県(中国河北省)で工藤哲】
北京から車で高速道路に乗り南西に約4時間。岩山の合間の道を抜け阜平県駱駝湾(らくだわん)村にたどり着いた。人口約500人で、トウモロコシが主な収入源だ。習総書記は昨年12月29〜30日にこの村を視察し「貧困を解消し、民生を改善し、共同富裕を実現する」と強調した。
習総書記を自宅に迎え入れた唐栄斌(とう・えいぶ)さん(69)によると、当日午前8時に村の幹部から「総書記が来る」と知らされ、約1時間後、本人が数百人を引き連れ村に姿を見せた。部屋の中で「農地の広さはどのくらいか」「テレビは何台あるか」「暮らしぶりはどうか」などと30分ほど質問は続いた。唐さんは「温和な人だった」と振り返り、「生活をもっと豊かにしてほしい」と語った。
視察の様子が中国メディアで大きく報じられると、村の生活は一変した。企業や北京在住の個人から約20万元(300万円)の寄付が届き、食料や衣類、本なども各地から届いた。村の60代男性は「総書記は各家庭に1000元(1万5000円)を配った」と明かす。村一帯が清潔になり、家屋の壁は白く塗られ、「幸福な生活において党を忘れるな」というスローガンが新たに書かれていた。
しかし村から一歩出ると、近隣住民は生活の苦しさを口にした。「医療費として月200元(3000円)もらえるはずなのに、去年は1カ月60元(900円)だった。(今年は)3月になっても受け取れない。指導者が言うことは支持するが、現場で本当に実現しているのかが見えてこない」。農業などで年収3000元(4万5000円)で暮らす孫振沢(そんしんたく)さん(64)はこう訴えた。他の村人も「生活は何も変わっていない」と訴えた。