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最終回 思惑
35
何の前触れもなく所長室のドアが開いた。
デスクで書類の決裁をしていた田辺は顔をあげた。
秘書の矢島玲子が一人の客を連れて立っていた。客人は、投資ファンド『ローズピンク・ヴァギナ』のマーガレットだった。
「ノックもせずにドアを開けるとは何だ」
田辺は玲子の非を責めた。
「……」
玲子は悪びれた様子も見せずに立っていた。
「ここは火災の被害がなかったようですね」
と、マーガレットが大股で近寄ってきた。
「何の用ですか?」
マーガレットに鞭で尻を叩かれ、3角鋲のついた拘束具で肉棒を責められた記憶が蘇って、思わず身構えた。
「もちろん、ビジネスの話をしに来ました」
ニッコリと笑った。
マーガレットの口ぶりは丁寧だ。女王様言葉を吐きながら鞭を振るっていたあのときとは、まるで別人である。それが、逆に不気味であった。
「あいにく、例の放火事件の後始末で忙しいのです。話なら別の日にしてもらえませんか」
田辺は書類にハンコを押して、既決用のトレイに入れた。
「あなたは緑の実を手に入れることに失敗しました」
と、マーガレットが話をつづけた。
「失敗とは心外ですな。あなた方に探すように命じられた緑の実、すなわちオシラポスの実の正体を突きとめたし、どこで手に入るかもわかりました」
「媚薬の開発や生産に必要な量を入手できなければ失敗したのと同じです」
「もちろん入手できますよ」
「彼らはオシラポスの実を我々に提供してくれるのですか?」
ふん、とマーガレットは鼻を鳴らした。
「金を積めば売るのではないですかな。寂れた田舎の村だ。いい収入源になるはずですよ」
「オシラポスの実は村人たちにとって命綱です。奇病のことも秘密にしておきたいはずです。そう簡単に話が進むとは思いません。しかも、実を作りだしている姉弟を拉致監禁するなどひどいことをしました」
「それは……仕方がないことで……」
田辺は頭を掻いた。マーガレットたちに依頼された仕事の期限は2週間足らずと短かった。自分の首もかかっていたのだ。事を早く進めるにはそうするしかなかったのだ。
玲子が進み出てきて、一枚の書類を差し出した。
「所長解任? どういうことだ」
田辺はマーガレットの方を見た。
「あなたは拉致監禁という罪を犯しましたからね」
「あの姉弟を拉致してきたのは相田美紀だ。罪を問うのなら、おれではなくあの女の方ではないか」
「でも、あなたは黙認しました。それに、源蔵という老人を監禁させたのは、あなたです」
「ぬうぅ……」
言い返せず、拳を握った。
「そういう卑劣な行為の末にできた大量射精薬は、仮にできたとしてもマイナスイメージです。しかも、奇病に苦しむ人々から奪いとったと非難される恐れもあります。これでは、想定している利益をあげられるとは思えません。それは、投資家たちの不利益となります」
「ちょっと待ってくれ」
「大量射精薬のイメージを必要以上に悪くしないためにも、あなたを所長のままにしておくわけにはいかないのです」
「都合の悪いことは、前任者のおれに被せようという魂胆だな」
田辺は奥歯を噛みしめた。
「わたしたちの仕事は出資してくださった投資家の皆さんの大切な資金を増やすことです。そのために必要な手は打つつもりです」
マーガレットの青い瞳がガラス玉のように冷たく光った。
「姉弟や村人たちに金を握らせれば黙っているにちがいない。現に、これまでマゾヒズム症候群なる奇病を隠してきた。オシラポスの実の由来を伏せる条件で話はつくはずだ」
田辺は主張した。
「それだけではありません。われわれは相田美紀という主任研究員を失いました。彼女は大量射精薬の研究に必要な人材でした」
「ふんッ。何の成果も出せなかったあの女がですか?」
田辺は鼻でわらった。
「セックスベリーに青い光りを当てて擬似男性ホルモンの含有量を増やすことに成功したではありませんか」
「たしかに、そのまま食べれば射精量が2倍に増える。だが、媚薬にすることも、希少なセックスベリーの栽培にも失敗している。だいたい、あの女は松本とグルになってここを放火した。あっちの方がよっぽど犯罪者だ」
「あなたは、ここで彼女を犯しました」
「いったい、誰がそんな根も葉もないことを――」
田辺は一笑に付した。
玲子が動いた。
デスクの脇にある観葉植物の鉢の中と、応接セットのソファーの裏に手を突っこんでから戻ってきた。
玲子はデスクの上に手にしていたものを転がした。
盗撮・盗聴用の電子機器だった。
「お前……こいつらに頼まれておれを監視していたのか! いったい、いくらの金で買収されたんだ、この女狐め!」
田辺は立ち上がって、マーガレットを指差しながら玲子に怒鳴りつけた。スパイしていたのなら、セックスベリーを枯らせたことがマーガレットたちに筒抜けだったのも合点がいった。
「玲子はローズピンク・ヴァギナの社員よ。大量射精薬の研究状況を把握するのが彼女の任務。そのために、身分を隠してここに潜りこんでいたのよ。情報こそが我々の命なので――。ウチの社員は白人女だけだと思っていた?」
マーガレットは口角を吊り上げながら、わらった。
「この1年間、所長のおちNぽを十分堪能させていただきましたわ。お世辞抜きで、すてきなおちNぽでした」
玲子がウィンクした。
田辺はチェアに崩れ落ちた。
「さあ、帰りましょう」
マーガレットがクルリと体を回転させた。
「頼む!」
田辺はマーガレットの前に走りこんだ。
「なにか?」
マーガレットが首を傾けた。
「クビにだけはしないでくれ」
田辺は土下座した。大学と高校受験を控えた娘たちを路頭に迷わすことはできない。
「しかし……」
「そこを何とか……役職は何でもいいです。お願いします」
田辺は床の絨毯に額を擦りつけた。
「では、備品管理室に行けるように取り計らいましょう」
「室長をやらせてもらえるのですね」
田辺は顔をあげた。
「いいえ。ヒラです」
☆
その1ヵ月後――。
美紀は研究者専門の転職支援会社の紹介で、性薬ベンチャー企業の面接を受けていた。
社長自らが面接官になって、美紀のこれまでの研究内容について質問してきていた。
社長は橋口という40歳ぐらいの男だった。メタボ体形の田辺とは対照的に爽やかな外見をしていた。自分も研究者だという橋口は瀟洒なスーツを着こなしている。
「なるほど。相田さんは大量射精薬の原料になりうる試料をお持ちなのですね」
「はい。こちらの遺伝子解析と組み換えの技術を応用できれば、原料を大量生産できる道もひらけてくるとおもいます。もちろん、簡単なことではありませんが――」
「それは、素晴らしい話ですね」
橋口社長は顔をほころばせた。
「ぜひ、おねがいします」
美紀は頭を下げた。
これまで、10社近くの性薬会社や研究所の面接を受けてきたが、結果は芳しくなかった。
媚薬開発研究所の放火事件の陰に美紀の存在があるのではないかという噂が流れている。ネガティブな噂は再就職を目指す美紀の足枷になっていた。田辺所長が流していたのではないかと美紀は疑っていた。
松本を美紀のアパートに匿っているので、放火事件と無関係だとは言わない。だが、いつまでも仕事が見つからないと、貯金も底をついてしまう。松本は警察に追われているだけに外出もままならないので、彼の収入をあてにできないのだ。
「いいでしょう。相田さんがよければ、明日から来ていただけませんか」
橋口が手を伸ばして握手を求めてきた。
「よろしいのですか?」
「もちろん。あなたのような優秀な人に来てもらえるのはありがたいです。何か不都合なことでも?」
「いえ」
また断られるのではないかと思っていたので、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった。
「あなたの研究成果に期待しています」
「はい。ありがとうございます」
美紀は橋口の手を握った。
☆
相田美紀が出て行くと、別のドアから背の高い白人女性が入ってきた。
「これでいいのですね、ジェニファーさん」
橋口は訊いた。
「はい」
ジェニファーは、相田美紀が座っていた向かいのソファーに腰をおろした。
「約束どおり、ローズピンク・ヴァギナは我が社に出資していただけるわけですね」
「ええ。ただ、もう一つ条件があります、ミスター・ハシグチ」
ジェニファーは人差し指を立てた。
「条件? まだあるのですか?」
「難しい条件ではありません。この男性も雇っていただきたいのです」
ジェニファーは1枚の履歴書を寄こした。
橋口はさっと目を通した。
「松本洋太、元媚薬開発研究所研究員……この男はもしかして――」
橋口はジェニファーを見た。
「はい。重要参考人として警察に追われているあの松本さんです」
青い瞳を真っ直ぐ橋口のほうに向けたまま、ジェニファーは答えた。
「ちょっと待ってください。そんな人間を雇えるわけがないじゃないですか」
「あの事件のことでは、警察は勘違いをしているようです。近いうちに、彼の疑いは晴れるはずです」
「それは、ローズピンク・ヴァギナが金の力を使って圧力をかけるという意味ですか?」
「さあ」
ジェニファーは肩をすぼめた。
「相田さんだけではダメなのですか?」
研究開発なら、試料を持っている彼女だけで十分だ。橋口はそう思った。
「彼女と彼は一心同体なのです。仕事も、そしてプライベートも――。彼は相田美紀の研究のために必要な人材です。そして、この会社に害をもたらす人間でもありません。それは、われわれローズピンク・ヴァギナが保証します」
「そこまで言われるなら……彼を雇うことにしましょう。ただし、無実であると警察が発表してからです」
「いいでしょう」
ジェニファーはニッコリと笑った。
「社長、銀行の方がお見えになっています」
ドアが開いて、女性秘書の矢島玲子が入ってきた。
「わかった」
橋口は手を上げた。
「若くて、とてもきれいな秘書さんね。社長の好みかしら」
ジェニファーはからかうように言うと、立ち上がった。
「まさか」
橋口は、ぎこちなく笑った。
ジェニファーが社長室から出て行くと、玲子が駆け寄ってきた。
玲子は白いスーツにピンクのタイトスカートを身につけていた。スーツの下に見え隠れする胸は豊かに膨らんでいる。それを、橋口の腕にピタリと押しつけてきた。
玲子はひと月前に、秘書専門の派遣会社を通じてやってきた。童顔ながら聡明な雰囲気を漂わせているところが気に入った。
「ねえ、社長。今夜も社長の太いおちNぽでわたしのおまNこをズボズボしてください」
玲子は甘えた声で誘った。
「やったばかりじゃないか」
橋口は玲子の腰に腕を回した。
昨夜、橋口は玲子の色香に誘われて3回もイッたのだった。
「だって、社長のおちNぽを思い出すと、アソコがジンジン疼いちゃって仕方がないんですもの」
玲子が橋口の手をタイトスカートの中に招き入れた。
パンスト越しに玲子の敏感な部分に触れる。
驚いたことに、玲子はショーツを穿いていなかった。パンストの網目の向こうに、息づく割れ目を指先で確認できる。そこは湿り気を帯びていた。
玲子の手が橋口の股間に伸びてきた。ズボンの上から肉棒を撫でる。まだまだ男盛りの肉棒は、あっという間に硬くなった。
2人が深い関係になったのは、玲子が秘書として働きはじめて3日目のことだった。
橋口は結婚していて、5歳の娘がひとりいる。出産後、同い年の妻とはセックスレス状態になっていた。そのせいで、橋口は欲求不満を日々募らせていたのだ。
そんなとき、秘書としてやってきた玲子に心が奪われたのである。
「わかったよ。今夜、いつものホテルで」
橋口は玲子と唇を合わせた。
☆
(これから、わたしの本当の仕事が始まる。忙しくなりそうだわ)
橋口と舌を絡ませ合いながら、玲子はそう思っていた。
相田美紀とは媚薬開発研究所で何度も顔を合わせている。彼女の再就職先に後から入社すれば怪しまれてしまう。だから、ひと月も前からこの性薬ベンチャーに潜りこんでいたのだ。さきほど面接に来た美紀は、玲子がここに居ることを不審に思わなかったようだ。
もちろん、ローズピンク・ヴァギナが、ここに美紀が再就職するように色々と策を講じていたのは言うまでもない。ローズピンク・ヴァギナの目的が世界初となる大量射精薬という実を育てて、きっちりとその権益をいただこうというものだからだ。
「玲子……」
何も知らない橋口の指が玲子の秘唇を弄っていた。
おわり
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