プロローグ
春先の夜というのは、僕が一番好きな時間の1つだ。
夜だというのに熱くもなく冷たくもなく、生もなく死もなく、とても穏やかで静かな時間が流れるのだ。
僕はコーヒーを淹れるため、たき火に鍋をかけた。胡桃の木で作った密閉箱を開けると、中から炒って挽いたコーヒー豆とフィルターが出てくる。
フィルターを湯に浸して湿らせて、布でその水分を絞ると、豆を入れてポットに取り付ける。そしてそこに、ゆっくりと湯を注いでいくのだ。
やがてフィルターの底からじっくりとコーヒーがしたたり落ちてくる。僕はカップを2つ取り出した。
2つの内1つのカップは、とても小さい、ミニチュアのカップだ。僕は先に、そのミニチュアのカップにコーヒーを注いだ。とても小さいから、一滴一滴慎重に。
「フルトン、コーヒー淹れたよ」
僕は、自分のカバンにくくりつけられた小さな木箱に声をかけた。
木箱は、とても小さな書斎のような形をしていた。僕は箱書斎と呼んでいる。
紅茶葉の箱のようにしっかりと密閉された木箱には、とても小さな扉と窓がついており、その窓には明かりがともっている。
ミニチュアのコーヒーは、この書斎の主のためのものだ。
やがて、その小さな扉がゆっくりと開く。
「あぁ、ありがとうユジーン。いただくよ」
中から顔を出したのは、とても小さなネズミ。しかもその顔には、さらに小さなメガネがかけられていた。
彼はコミミトビネズミのフルトン。とても小さな、僕の旅の相棒なのだ。
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