2012年10月10日(水)

ありのままでいい ~‘未完’の親子が贈るメッセージ~

阿部
「『ありのままの親子でいい、悩んでもいい。』
今、そんな一人の母親のメッセージが共感を呼んでいます。」


 

鈴木
「6月に出版されたこちらの本、『未完の贈り物』。
書いたのは、ニューヨーク在住の倉本美香さんです。
重い障害のある娘との日々を記録したこの本は、こうした手記としては異例の7万部を売り上げ、反響が広がっています。」
 

阿部
「多くの読者の心を動かしているのは、自らを『未完成な母親』だと悩みながらも、娘の命と向き合い続ける姿です。」

“未完”の親子 苦しみの中で

「よろしくお願いします。」

『未完の贈り物』の著者、倉本美香さんです。
ニューヨークで結婚し、その後みずから会社を興すなどキャリアウーマンとして活躍しました。
 

「おくちくちくち~。」

本に書いたのは、娘の千璃(せり)さんが生まれた時からの記録です。

「おはなはなはな~。」
 

千璃さんを出産したのは9年前。
それは衝撃的なものでした。
千璃さんが産声を上げた直後から、分娩室は混乱に陥ったのです。

倉本美香さん
「娘が産まれた時点で、もう本当に分娩室がうわーっと騒々しくなって、そのまま娘が連れて行かれて、主治医がドアの外へ逃げて行ってしまったので、一体何が起こったんだろうと。」

医師が告げたひと言。
倉本さんは言葉を失いました。

『No Eyes.(目がありません)』

 

倉本美香さん
「“がく然とした”の一言。
何が起こったのか分からない。
“目がない?”“どういうこと?”“そんなことあるのだろうか”。」

眼球がない「両眼性無眼球症」という深刻な障害。
さらに知能や会話など、発達の遅れもあります。
他の子どもと比べて、思うように成長しない我が子…。

倉本美香さん
「首がすわらない、寝返りできない、普通2歳くらいになったら、スカートはいて普通に歩いているだろうなと思うことができなかったり、1回1回くじけると言うかどうなっていっちゃうんだろうと。」

さらに、母親である倉本さんを追い詰めたのは、よく知らずに励まそうとする周囲の人々の言葉でした。

倉本美香さん
「友人に“目が見えないのよ”と言うと、“他に秀でたものがあるんじゃない?”(と言われる)。
“うちは実はそうじゃないのよ”と言わなきゃいけない時のつらさ、現実と皆さんが持っている理想、期待とのギャップ埋めていく期間、一番きつかった。」

悩み苦しみ、焦りばかりが募る毎日。
そんなある日、頭を思い切り殴られたようなショックを受けました。
去年(2011年)3月11日の東日本大震災。
テレビに映し出されたのは、当たり前の日常が瞬時に奪われてしまう現実。
それを見て、ひとつの決断をしました。
その日、千璃さんは8歳の誕生日を迎えていました。
これまで書きためてきた思いを、つらい体験をした人たちに伝えたい。

ありのままを生きる“未完”でもいい

本のタイトルに選んだのは「未完」という言葉。
「未完成なままでもいい、ありのままに生きて欲しい。」

倉本美香さん
「どこまでたっても完成品にはならないと思う。
でも“未完”だからこそ、すごく可能性がある、希望がある、この子が生まれてきて生きてきたかいがあったなという娘に育てたい。」

今、倉本さんと千璃さんは、この社会で生きていくための挑戦を続けています。
義眼を入れるための治療です。
顔の骨格の変形を防ぐのが主な目的です。

倉本美香さん
「より自然に近い形にしてあげることが本人、周囲、社会全体に対して、その子がより自然に幸せに生きていくことにつながる。」

全身麻酔を伴う手術を30回近くも繰り返してきた千璃さん。
過酷な治療に耐える娘に、心の中で謝り続けました。

本文より
『千璃、怖い思いをさせてごめんね。
嫌なことは忘れてね。
健康に生んであげられなくて、本当にごめんね。』

 

くじけてばかりのお母さんを許して。
心が折れそうな倉本さんを励まし続けたのは、千璃さんが見せる小さくても確かな成長でした。
これからも続く娘との日常。
「生きている」ことに感謝しながら、親子は歩き続けます。

倉本美香さん
「朝起きて、目が見えて、おいしいご飯が食べられて、手足が動けて自由だということが当たり前じゃないんだ、不便を強いられている中でもやっぱり生きていることが本当にこれだけすばらしい、ありがたいことだと感じるようになった。」

鈴木
「千璃さんの無垢な笑顔と、辛くても笑顔を絶やさない倉本さんの姿が印象的でした。

阿部
「千璃さんへの深い愛情を感じました。
『生きていることが素晴らしい』という倉本さんの言葉、心に響くものがありましたね。」

鈴木
「9歳になった千璃さん、今では、自分でスプーンを握って食事をしたり、ハミングで歌を歌ったりもできるようになったそうです。」

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