2011-10-10
ウルトラセブン/正義と悪
北海道で「ウルトラマン授業」を行っている公立中学校教師・神谷和宏先生の著書『ウルトラマンと「正義」の話をしよう』を読みました。神谷先生はウルトラシリーズに “勧善懲悪や善悪二元論で片付けられない” テーマ性を見いだし、子供達に正義とは何か?悪とは何か?を考えさせる教材として適切な物と捉えられたのです。
実は自分も幼少期からウルトラシリーズが大好きで、一時期など漢字もろくに覚えられない僕がウルトラ怪獣の名前なら全て記憶していたほどです。
中でも幼少期から壮年期間近の今日に至るまで、特に大好きで大好きで仕方ないのが「ウルトラセブン」です。
なぜここまで「ウルトラセブン」が好きなのか。
それは神谷先生も仰られている通り、ウルトラシリーズにおいて最も社会問題が直接的に提起されている作品だからです。
様々な怪奇事件を科学の力で解決していく傑作ドラマ「ウルトラQ」が製作された後、円谷プロが満を持して発表したヒーロードラマが「ウルトラマン」です。
「ウルトラマン」は正義の味方という肩書きを背負って登場しますが、ではここでいう「正義」とは何なのか。
「ウルトラマン」の中でも、国の犠牲となった人間の哀しき末路を描いた第23話「故郷は地球」を筆頭に、正義とは何かに関する問題提起がなされています。ただし「ウルトラマン」の敵はあくまでそのほとんどが “怪獣” であり、多くは地球を侵略しようとする怪獣をヒーローが撃退する方向になっています。
そして「ウルトラマン」にもいくつか含まれていた「故郷は地球」のような問題提起作をさらに進化させたのが、「ウルトラセブン」なのです。
「ウルトラセブン」の敵は怪獣でなく “異星人” です。言わば地球と別の文化を有した “外国人” なのです。
現在世界のいろんな場所で起きている戦争や内紛において、どちらの側にもそれぞれの「正義」という名分が存在するように、「ウルトラセブン」における人間側と星人側にも当然お互いの正義があります。
ではこの場合、果たしてどちらが「正義」、どちらが「悪」と呼べるのでしょうか。
見方によっては一方が正義でありうるし、別の見方によるともう一方が正義でもありうる。そんな事って日常的にはすごく頻繁にある事だと思います。そういった人間が生きていく上で必ずや考えていかなければならない事を、わかりやすく学べる機会が「ウルトラマン授業」なのだと思います。
せっかくこういった文章を書き連ねてきたので、問題提起作の多い「ウルトラセブン」の中でも特に有名なエピソードをいくつか紹介します。
まずは先程述べたような正義と悪の観念を最もシンプルに描いた作品が、第26話「超兵器R1号」です。本著でも一番最初に言及されており、表紙も飾っています。
〜あらすじ〜
地球防衛軍は宇宙からの侵略に備えて、惑星攻撃用兵器「R1号」を開発した。
ウルトラ警備隊の面々も「使わなくても威嚇としての効果が十分期待できる」と開発を喜んだ。しかしダン(ウルトラセブン)だけは違った。
自分たちが強力な兵器を作れば、敵はもっと強力な兵器を作ってくるだろうし、互いに競うように強力な兵器を作り合うことは “血を吐きながら続ける悲しいマラソン” だと言い放った。
R1号の実験は実行され、生物が棲まないと確認されたギエロン星を木っ端微塵に消滅させた。実験の成功に歓喜する地球防衛軍。しかし悲劇は起きる。
実はギエロン星には生物が存在していた。母星を破壊されたギエロン星獣は、R1号由来の放射能を身に纏って地球へやってきた。ギエロン星獣にもはやR1号は効かない。
ウルトラセブンは本当の被害者がギエロン星獣だという事を知りつつも、地球を守るためにギエロン星獣を葬った。
この一件の後、地球防衛軍は反省と自戒の言葉を口々にし、予定されていた次なる兵器「R2号」の開発を中止した。
これが最も有名な善悪とは何かを問うたエピソードです。
このエピソードの中で特に観る者の心にズッシリと響くのが、
“血を吐きながら続ける悲しいマラソン” という言葉です。
ここでは「終わりなき兵器開発競争」を表す言葉として用いられていますが、自分の中では「報復に対する報復」に関しても同じ言い方ができるのではないかと思います。
「報復」は被害者側からすると一見正義に思えますが、報復される側もまた新たな被害者となるわけで、ここにはっきりとした正義と悪は存在しません。映画「キングダム/見えざる敵」など様々な作品で提起されたこの問題に関しても、「ウルトラセブン」はいち早く作品に取り入れていたように思えます。
このエピソードでは、ウルトラセブンがいつになく残酷に徹しています。ギエロン星獣の最期は惨たらしいです。しかしこの時のウルトラセブンからは「安らかに眠ってくれ」という願いが溢れているように感じてなりません。
そして肝心のラスト。地球防衛軍は自らの過ちに気がついて兵器開発を中止しますが、僕としては最後を「今回のような敵にも対応できるような兵器を作らねば」という言葉で締めてもらいたかったと思っています。一本の問題提起作として完成させるためには一切の救いを断ち切る事が必要だったように思えてなりませんが、あくまで一般視聴者の多くが子供達なので最後に救いを残す事で「人類は過ちを学び、正しい道を選択する事ができる」という事を提示する必要性があった事も理解できます。
次に紹介するのは、これまた有名なエピソードである第42話「ノンマルトの使者」です。
〜あらすじ〜
人類は海底開発を進めていた。
海岸で休暇を過ごしていたダンとアンヌの前に、真市と名乗る少年が現れた。
真市はウルトラ警備隊から海底開発を止めるように進言してほしいと訴えかける。
その直後、海底開発センター爆発の事故が発生する。
真市は地球防衛軍に対し電話で「海底はノンマルトのものだから、侵略すると大変なことになる」と警告した。
「ノンマルト」とはダンの故郷M78星雲では地球人の呼称であったため、不思議に思ったダンとアンヌは真市を捜索する。
真市は驚くような事を口にした。この地球はもともとノンマルトと呼ばれる種族の星だったが、後からやってきた現地球人がノンマルトを海底に追いやった侵略者だと言うのだ。
そうしている間にもノンマルトが操る海獣ガイロスが出現し、ダンはやむを得ずセブンに変身、ガイロスを撃退した。
ノンマルトの生き残りはウルトラ警備隊の攻撃によって全滅した。
キリヤマ隊長は「我々の勝利だ。海底は我々のものだ」と宣言する。
その後、ダンとアンヌは海岸の墓標に花を供える女性を見つけた。
彼女は真市の母親で、2年前に真市をこの海で亡くしたのだという。
墓標には「真市 安らかに」という文字が刻まれていた。
ノンマルトが先住民であり、現地球人こそが侵略者だったという証拠はなく、本エピソードでもはっきりと明かされていません。あくまで観る者の判断に委ねられています。
しかしこれを人間と動物との関係で言い表すと、人間は明らかに侵略者と言えます。
以前、沖縄の美ら海水族館に行った時、魚に関するクイズパネルというものが壁にかかっていて、問題の書いてあるパネルをめくると中に答えが書いてあるというものでした。
そのクイズパネルの最終問題が「地球上で唯一多種を絶滅させる生物はなにか?」という問いでした。
パネルをめくるとそこには鏡が置かれていて、自分のはっとした表情が映し出されていました。
人間は自分の欲望や利益のために他者を蹴落とす生き物です。
「ノンマルトの使者」は自らのために開発を続け、その結果多くの犠牲を強いている状況に警鐘を鳴らした作品だったとも言えます。
さて最後に紹介するのは「ウルトラセブン」ではなく「帰ってきたウルトラマン」からの名エピソード、第33話「怪獣使いと少年」です。
〜あらすじ〜
地球に探査目的でやってきたメイツ星人。
メイツ星人は佐久間良という身寄りのない少年と出会う。
メイツ星人は人間の姿になって “金山” と名乗り、二人は工業地帯のぼろぼろのバラックに身を寄せて一緒に住むようになった。
しかしあまりに異様な雰囲気を醸し出す彼らを、民衆は宇宙人ではないかと憶測するようになった。
嫌がらせで良に危害を加えようとする者も現れ始め、やむを得ず金山は超能力を使って陰ながら良を守ろうとする。
良はしきりに穴を掘っていた。
地中にはメイツ星人の隠した円盤があるのだが、環境汚染のひどい地球で著しく体力を消耗したメイツ星人の力では円盤を出す事が出来なくなっていたのだ。
良は円盤を掘り出し、金山と一緒にメイツ星に行こうとしていた。
郷秀樹(新マン)はそんな良を不憫に思っていた。
そんな良に対する迫害はいっそう増し、パン屋にはパンすら売ってもらえない。
ある日とうとう民衆の不安は頂点に達し、暴徒と化してバラックに乗り込んだ。
良を連行しようとする民衆に対し、金山は自分が宇宙人である事を告げる。
「宇宙に帰りたがっているんだから、帰してやりなさい!」という郷の声もむなしく、警察官の手によって金山は撃ち殺されてしまう。
その直後、金山の無念と怒りが形となったように、怪獣ムルチが出現した。
民衆は郷に対し「早く退治しろよ」とけしかけたが、郷は「勝手なことを言うな。怪獣を呼び寄せたのは自分たちだ」と怒りを隠せない。
しかし街を破壊する怪獣を放っておくわけにはいかず、郷はウルトラマンに変身、怪獣を撃退するのだった。
残された良はたった一人、円盤を見つけるためにただただ穴を掘り続けるのだった。
このエピソードは差別問題をストレートに提起した究極の作品です。
この場合、正義とは悪とは一体誰を示すのでしょうか。
ここにあるのは民衆の “悪” ではなく、“不安” なのかと思います。
自分の身を脅かすものや、自分の理解の範疇を超えるものを、人は恐怖します。
この恐怖や不安が人々をあらぬ方向へと導いてしまうのではないかと思います。
また、人々が集団になるとその団結心が時として残酷かつ強力な力となって少数派や弱者達を痛めつけてしまう事もあります。ドイツ映画「WAVE」を例に挙げると、自分でもはっきり良くわかっていないのに周りに流されて一致団結し、集団が形成されると自分の力を誇示するようになり、排他的な行動を取るようになります。
こういった団結による恐怖は映画「ミスト」でも描かれています。こちらの場合は不安の極限に至った時にすがりつく “宗教” の信仰が他者を圧し、その場を制圧していく恐怖でした。
長々と書き連ねましたが、ウルトラシリーズにはこういった現在も大きな問題となっている社会背景を深く取り入れたメッセージ性の強い作品が多く存在しているのです。
「ウルトラセブン」には他にも、偶然にも地球の軌道上に乗ってしまい衝突を免れなくなったペガッサ星人が、地球は動かせる惑星だと勘違いして交渉にきたものの、地球防衛軍によって母星を破壊され、たった一人地球に取り残されてしまうという悲劇を描いた第7話「ダーク・ゾーン」や、ロボットに人間が支配された世界に迷い込んだウルトラ警備隊員達の脱出劇の中で機械に頼りすぎる文明の落とし穴を警告した第43話「第四惑星の悪夢」など、社会問題を提起した作品はごろごろあります。
こういった諸問題を子供達にわかりやすく視覚を通して教え、子供達にありのままの意見を出し合ってもらう授業は、ほんとに有意義なものだと心から思いますし、自分もこの授業を受けたかったなぁと強く感じています。
さらに子供達を対象とするだけでなく、一般の大人達を対象にした授業があっても良いのではないかと思います。(もう講演等をされているのかもしれませんが)
神谷先生による一般市民を対象にした「ウルトラマン授業」が開催される機会があれば、是非一度ご教授願いたいと心から思います。
神谷先生も仰る通り、一番大切なのは何が良い何が悪いを即座に判断するのではなくて、当事者も第三者も互いの言い分をしっかりと聞き、議論を行う事なのかと思います。
大切なのはちゃぶ台囲って話し合う事だ!
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