アーティストの藤元明(37)のもとにアコヤ貝の貝殻が届いた。岩のようにゴツゴツした部分が取り除かれ、磨き込まれた器のようだった。ふと「らでんの器」が思い浮かび、東京芸術大時代の仲間で漆作家の中島靖高(40)に漆で貝を固められないか相談することにした。すると、「面白いじゃん。ちょっと色々試してみる」。
1週間後、ジュエリーデザイナーの村瀬熱紀(40)も合流した打ち合わせには、すでに試作品が用意されていた。「漆は表面をコーティングするものだから成形に使うのは難しいけど、樹脂だとうまくできそうだよ」と中島。アコヤ貝をスライスして並べて樹脂で固めたものには、オーロラのような光沢が鮮やかだった。
藤元は村瀬とコンセプトを練った。「ポップなデザインで若者にも手に取ってもらいやすくしたい」と、今までにないアプローチを模索した。
出した答えは洋菓子の「マカロン」。樹脂をピンク、緑、黄色、青、白、透明、紫、黒の8色に染めた。
「女の子の感覚がない、男2人のギリギリの発想でした……」
商品名は「Repearl.」に決まった。真珠を育てる母貝からできていることがわかるよう、シリーズ名は「マザーズ(母)ロック(岩)」とした。
決めなければならないことはまだあった。より多くの人にピアスをつけてもらうために、価格をどうするか。メンバーで話し合った。
「やっぱり、1万円以下にしたいね」
「片方ずつ、違う色をつけてもかわいいと思う」
議論の末、1個8千円で売り出すことにした。
真珠をダイヤモンド型にカットしたシリーズは「1点もの」にこだわって金具に18金を使い、高級感を演出した。ピアスは1個、2万2500円。ネックレスは5万円。リングは6万2500円から。いずれも決して安くはない。でもそこには、ピアスが生まれるまでの「物語」という価値が込められている。
愛媛・宇和島で、棄てられるはずだったアコヤ貝の貝殻や宝石になることのなかった真珠がアクセサリーとしてよみがえった。「REPEARL PROJECT(リパール・プロジェクト)」に素材を提供する土居真珠の社長、土居一徳(38)は言う。
「とにかく面白い。いままで棄てることが当たり前だったものが、人々の手に渡っていくんですから」
真意は、また別のところにある。
「真珠を生みだしてくれる自然にせめて恩返しをしたいと思うんです」
リバースプロジェクトを率いる伊勢谷友介(36)はできたてのアクセサリーを手に取って、こう言った。
「もっと男っぽいデザインも見てみたかったな。女性がごつめのデザインをつけてたらかっこいいと思わない? 形もランダムでいいと思うし」
率直な思いだった。やわらかく、かわいいデザインのほうが多くの人に手に取ってもらえるかもしれない。でも、ただモノを売るのとは違う。
「一つひとつのインパクトがもっと強くないと届かないよ」
リバースプロジェクトの掲げる「再生」による社会をいかにつくるか。伊勢谷の偽らざる思いがにじみ出ていた。
「Repearl.」のアクセサリーは28日、リバースプロジェクトのオンラインショップで売り出される。
(敬称略=おわり)
俳優、映画監督の伊勢谷友介が09年に株式会社リバースプロジェクトを設立。東京芸術大学の同級生らとともに、デザインで、社会的に利用価値が低いとされているものに新たな命を吹き込み、よみがえらせる「再生プロジェクト」を展開している。原発事故で見送られた卒業式を飯舘村の子どもたちにプレゼントするなど、社会貢献につながる「元気玉プロジェクト」なども活動している。
その正体は…卵の下部に磁石が内蔵された卵型のクリップホルダー
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