宮城県岩沼市にある弁当屋「Oasis」を営む大泉功太郎さん(29)と俊介さん(24)の兄弟は、3月5日から、60歳以上を対象とした給食宅配サービスも始める。
1食300円で煮物やおひたしなど、不足しがちな野菜のおかずも充実。毎週、決まった曜日の午後に届けることで、高齢の単身者や夫婦の安否確認にもなる。いま、15世帯に届ける予定だ。
「震災をきっかけに一人暮らしになったり、みなし仮設住まいで地域とのつながりが乏しい人たちが生まれたり。そんな被災地の復興に役立ちたいのです」(功太郎さん)
大泉兄弟が東日本大震災をきっかけに弁当屋を始めたのは2011年7月。震災から4カ月後のことだ。
2人は震災直前、めずらしい野菜を食べさせる観光農園を5月にオープンさせようと準備を進めていた。ところが、津波は農園とともに2人の夢も破壊していった。
「震災の3日後に見に行ったら、2棟のハウスは見る影もありませんでした。まるで毛糸が絡まってぐちゃぐちゃになったみたいで。当時は、『塩害で5年は作物が育たないだろう』と言われました」
震災直後は、物流が寸断されたことで食料が不足し、混乱状態に陥った。食べ物のありがたさが身に染みた2人は、地元産の野菜も使える「弁当屋」を開こうと考えた。
「決意はしたものの、先立つものがありません。知人に相談したら、紹介されたのが元気玉プロジェクトだったんです」
元気玉プロジェクトとは、リバースプロジェクトがインターネットを活用し、震災復興を始め、夢を持つ人を応援するプロジェクトだ。企画を募り、企画に共感した協力者たちから集めた資金を企画者に提供する。この「クラウドファンディング」という仕組みは、少額の支援でも受けいれられることから、個人と個人を結びつけやすい。
2011年6月から8月にかけて募集した大泉兄弟の「弁当屋」開設という企画には、目標額の1.5倍近い87万円が集まり、元気玉の第1号として認められた。
2人の新しい夢となった「Oasis」は、現在も母が経営する40坪ほどの生花店を半分、間借りして営業を続けている。いまでは、祖母の知人など近くに住む60〜70代の女性4人が働き、小さいながらも復興地では貴重な雇用を生み出している。しかも、女性たちのうち3人は夫が津波で亡くなったり、家を失ったりした。大泉さんたちも祖父母が家を失った。
「お弁当のメニューを僕たちで考えるのには限界があります。かつて惣菜屋で働いていたおばちゃんもいて、すごく助かっています。おばちゃんたちにとっても、働くことでつらい思い出を紛らわせられる時間になっているようです」
1個500円の「おばあちゃん弁当」は日替わりでおかずが変わる。煮物やおひたしなど野菜をたっぷり使ったボリューム満点のおふくろの味が好評だ。慣れない弁当屋経営で売上げが落ち込んだ時期もあったが、最近、ようやく「全員が食べられる程度」にはなってきた。
「これまでは『復興支援のため』という名目で買ってもらえた部分もありました。でも、復興需要が落ち着いてきた、これからが正念場。配食も軒数を増やし、もっと地域に役立つお弁当屋さんに育てていきたいですね」
「元気玉」という名前は、人気漫画「ドラゴンボール」の主人公、孫悟空の必殺技が由来という。リバースプロジェクトを主宰する伊勢谷友介が作者の鳥山明から許可をえた。 復興を支える元気玉プロジェクトはいまや30を超える。人と人をつなげ、国内外を元気にするプロジェクトに成長中だ。そのひとつに、原発事故の影響を受けた村のこどもたちに向けたものがあった。(つづく)
(ライター 角田奈穂子)
俳優、映画監督の伊勢谷友介が09年に株式会社リバースプロジェクトを設立。東京芸術大学の同級生らとともに、デザインで、社会的に利用価値が低いとされているものに新たな命を吹き込み、よみがえらせる「再生プロジェクト」を展開している。原発事故で見送られた卒業式を飯舘村の子どもたちにプレゼントするなど、社会貢献につながる「元気玉プロジェクト」なども活動している。
その正体は…卵の下部に磁石が内蔵された卵型のクリップホルダー
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