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黒騎士誕生編
第3話 アクシデントと一角獣
第3話 アクシデントと一角獣







・帝国都市への森の中の道

「騎士隊長、皇帝陛下がお呼びです」

 皇族の護衛任務の道中。

 俺は皇族を乗せた馬車の前を、愛馬であるジャスティに跨り帝国都市へと帰還している。

 その最中、後ろから部下に報告を受けた。

「解った、悪いがここを頼む」

「ハッ!」

 俺は部下にそう言い、皇族の乗る馬車の横に並ぶ。

 現在この馬車の護衛は、俺を合わせた10人。

 他国との代表会議の帰りだった。

「陛下、コンラット、参りました」

「おお、コンラットよ。済まぬが少し休憩してはくれまいか? 娘のエレーネが気分が優れぬ様なのだ」

 そう言ったのは、現皇帝であるジェームズ・グラートス様だ。

 金髪に髭を生やし蒼い瞳の、金の貴族服を着、赤いマントには皇族の紋章である一角獣ユニコーンが刺繍されている。

 今年40歳になられるお方だ。

 内容は姫様のご様子が理由らしい。

 まぁ、無理もないだろう。

 エレーネ姫様はまだ13歳。

 今回の様な他国までの遠出は、初めてだ。

「分かりました、それでは少し休憩と致しましょう。全兵停止!」

 俺は兵士に止まるように指示する。

「コレより陛下達が休息をとられる。全員配置に付き警戒に当たれ!」

「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」

 俺が指示すると、部下達はそれぞれ配置に付く。

 護衛兵は、魔導師3人、剣士2人、弓兵3人、騎士2人。

 今回は騎士隊長である俺が指揮官を務める事になった。

 皇族の乗る馬車の後ろには侍女数名を乗せた馬車が着いてきており、その者達の護衛も兼ねている。

 その馬車から侍女5名が出てきて、あっという間にテーブルから椅子、日傘をセットしてしまった。

 いつ見ても仕事が早い。

 そう思っていると、皇族の馬車から、陛下、妃、皇太子、姫が出てき席へと座る。

 いつ見ても妃…クレア・グラートス様はお若い。

 見た目は20代後半で、金色の髪を丸く束ね、二重の大きな蒼い瞳が印象深く、鼻や口も綺麗で、解りやすく言えば皺一つない美貌の持ち主だ。

 金の刺繍が施されている、ドレスがより彼女を引き立てていた。

 しかし、外見とは裏腹に、妃の年齢は40を過ぎている。

 俺も始めお目にかかった時は驚いた。

 陛下が年上と言われれば納得いくが、実は妃が年上と知った時は雷に打たれたかのような気分だった。

 決して声には出せないが若づくりにも程があるだろう……。

 そんな妃と陛下の間に皇太子と姫が席に着いている。

 クリス・グラートス皇太子。

 陛下達と同じく金色の短い髪に切れの長い二重の蒼い瞳の、蒼い貴族服を身に纏った美男子。

 15歳という若さで、我々皇族直属の軍の中でも手練れの者達と渡り合える程の剣の使い手であり、学問においても優秀なお方だ。

 身長は現在165クアメイトだが、まだまだ伸びるだろう。

 世継ぎとしては問題ない方だ。

 そしてもう一人。

 皇太子と妃の間に座る、エレーネ・グラートス姫。

 金色の長い髪に、大きな蒼い瞳の美少女。

 淡いピンク色のドレスがとても似合っている。

 姫は好奇心旺盛な上マセタ性格で、俺達も手を焼いている。

 そんな少女も、初めての長旅で疲れたのだろう。

 さすがに大人しくしている。

 彼等は4人仲良く、侍女たちが用意した紅茶を飲みながら、くつろいでいる。

 この光景を見ると、ただの仲慎ましい家族にしか見えない。

 しかし、彼等は皇族。

 最近彼らを狙う輩が増えてきた。

 陛下自身は帝国に住む者達の為に懸命に政治を行っていている。

 だが、最近になってごく一部の貴族達が反発しだし、皇族を狙うという事件が多発しているのだ。

 幸い大事には至っていないが、彼らによって帝国の治安が悪い方へと傾いてきている。

 その代表的なのが奴隷オークション。

 帝国では奴隷は禁止されており、それを犯した者は問答無用で処罰される。

 それなのに、帝国内での人狩りの被害者が次々に増え、都の裏町でオークションが開かれている。

 何としても現場を押さえたいのだが、なかなか尻尾がつかめない。

 そうでなくても最近、魔物の活動が活発になってきて、更に忙しくなり手が回らないのも原因だ。

 今回の他国会議に本来連れて行かない、王妃と姫を同行させたのはそれらが原因だったからだ。

 危険な事に変わりはない。

 実際、魔物の襲撃があったが、軍でも手練れの者達を選んできた為対処するのに苦労は無かった。

 このメンバーならトロールやオーガが出てきても大丈夫だろう。

 アレらは単独行動で生息して、出くわすとしたら1体だけだろうから。

 まぁさすがに3体以上出てきたら、通常なら俺一人でも問題ないが、陛下達や侍女達を庇いながらの戦闘はきついがな。

 それに後1時間ほどで都に着く。

 だからこの時、俺は油断してしまった。



――――グオォォォォォォォォオ!



「!? これは!」

 周囲から、とてつもない雄たけびが響き渡った。

 俺達は皇族一家と侍女達を囲んで警戒する。



――――ドッシ! ドッシ! ドッシ!



 徐々に近づく音。

 1体、2体何んてものじゃない!



――――ドッシーッ!!



「! ……嘘だろ」

 四方から巨大な石の斧を担いだ、5メイトはあるオーガが大きな地響きを立てて5体現れた。




**********



 少し時間は遡り。



**********



 私は現在どことも知れない森の中の、綺麗な湖の前に立っています。

 そして、とてつもなく困っています。

 なぜなら、

「都ってどっち?」

 どの方角に進めばいいのか全く分からず、立ち往生しているからです。

 助けてもらってこんなこと思うのもなんだけど。

 どっちに進めばいいのか教えてほしかったよ。

 まぁ、あのとき進む方向聞かなかった私も悪いんだけどさ。

 ………。

 とりあえず水でも飲もうかな。

 私は湖の辺にしゃがみ、アーメットの顎の部分を外す。

 実はこのアーメット、顎の部分が取り外し可能なため、被ったままでも飲食が取れる。

 どんな時でも私の容姿を隠せるようにと天照様が作ったこの鎧。

 私としても、これから相手にする敵に情報何んて洩らしたくないから、日常的にもこの鎧は装着するつもりだ。

 それに、この鎧かなり快適なのだ。

 全身密閉しているが、蒸す感じもなければ、勿論寒くもない。

 これなら野宿する時毛布はいらないだろう。

 もしギルドに入る事になっても、任務時の荷物が軽減されるな。

 そう思いながら、私は両手で水をすくう。

 本当に綺麗な水。

 すくった水を口に含む。

 冷たくて美味しかった。

 それに空気も美味しい。

 現代日本で生活していた私にとって、こんなに澄んだ空気や水何てそうそう味わえなかったから。

 私は当たりの気配を探り、朔夜を残して鎧をブレスレットにする。

「はぁ~、良い気分」

 私は腕を広げ仰向けに横たわる。

 何だか解放された感覚だ。

 そう言えばいつも、家に居る時以外安心できることなかったな。

 学校では勇介ファンクラブからの嫌がらせ。

 街を歩けば、何時襲撃されるか解らない。

 ………。

 あの勇介バカのせいだ。

 だけど!

 今現在、勇介バカはいない!

 この世界に存在すらしていない!

 なんて素晴らしいんだ!!

 私は、ニヤついた顔を抑えられなかった。

 しばらく、この感動に浸っている。

 その時。

「ん? 」

 私はさっきまで無かった気配に気づく。

 しかし敵意は全く感じない。

 ちなみに私が気配に敏感なのは、説明するまでもなく、日本での生活のせいである。

 気配は段々と近づいている。

 野生動物か何かだろうか。




――――カサカサ




「えっ!?」

 私は、木々の陰から現れた動物を見て驚く。

 その生き物は、毛並みは真っ黒で馬と同じ姿をしているが、頭に角が生えていた。

 その姿はまさに神々しいという言葉がふさわしいだろう。

 ………。

 いや待ってよこの状態何?

 何で目の前に幻獣、一角獣ユニコーンが居るの!?

 私はしばらく固まってしまった。






 一角獣ユニコーン

 それは、地球では伝説上の生き物。

 文献には白い馬の姿に鋭い角を生やした姿と記録されている。

 獰猛で、力強く、勇敢。

 足が速く、馬や鹿にも勝り、長く鋭く尖った角は強靭で、どんなものでも容易に突き通すことが出来たという。

 その角には水を浄化し毒を中和、病気すら治す力があると言われている。

 不思議な事に処女に思いを寄せると言われており、処女の香りを嗅ぎつけるとその純潔さに魅入られ自ら近づいてくる。

 そして、その処女の膝の上に頭を置き眠り込んでしまう。

 その事から一角獣ユニコーンは『純潔』『貞潔』の象徴とされる。

 だが一方獰猛な性格の為、悪魔の象徴ともされ、七つの大罪の一つ『憤怒』の象徴でもある。

 このエルドアでも姿、性格、特性は殆ど変らない。

 しかし地球と違い、『処女』ではなく、一角獣ユニコーンが認める程の力を持つ『騎士』に惹かれると言われている。

 更に神に近しい動物として崇められ『癒し』『強者』の象徴とされている。

 つまりこの一角獣ユニコーンに認められた騎士は、最高の騎士と言われ、この世界で憧れない騎士はいないと言われている。

 当然、一角獣ユニコーンのプライドが高ため、認められる騎士は500年に1人と言われる。

 人々の間では伝説になっている。

 そしてもう一つ違う事が、黒い一角獣ユニコーンの伝説がある事だ。

 その一角獣ユニコーンは、白い一角獣ユニコーンより魔力、速さ、知能を遥かに上回り、浄化や病気だけでなく、怪我の治癒や体力を回復させる能力まで備わっていると言われている。

 性格は穏やかと言われているが、白い一角獣ユニコーン以上に誇り高い。

 しかし、その姿を見た者は誰もいない。

 そして現在。

 その誇り高黒い一角獣ユニコーンが私に甘えている。

 もう一度言う。

 黒い一角獣ユニコーンが私に甘えている!

 私に頬をスリ寄せて!

 なにこの状況!

 私の頭爆発寸前である。

 顔も引きつっている。

 だが、さっきまで神様と話をしていた事を思い出し、それに比べたらまだ現実味があるため、何とか気を取り直す事が出来た。

 とりあえず首を撫でてみる。

「ブルルルル」

 嬉しそうに鳴いた。

 なんか可愛い、和む。

「……お前、私と一緒に来る?」

 何となく私がそう言うと、角が輝き、思わず目をそらす。

 しばらくして光が消えると、そこには馬具が装着された姿で黒い一角獣ユニコーンが立っている。

 どうやら私は主と認められたらしい。

「お前本当に私で良いの? 他にもっとふさわしい奴いるかもしれないのに?」

「ブルルルル!」

 一角獣ユニコーンは凄い勢い首を振って否定し、私に甘えてくる。

 私は『やれやれ』と思いながらも嬉しくて一角獣ユニコーンを撫でる。

 これが私と相棒の出会いであった。







 しばらく撫で続けて和んだ私。

「お前さ、都への街道ってどっちにあるか解る?」

 私はコイツに聞いてみる。

 だって、このままじゃ日が暮れる。

 そう言うと一角獣ユニコーンあぶみを私に近づける。

 どうやら乗れと言う事らしい。

「あ、鎧装着しないと」

 私は鎧を装着するように念じると、黒い靄が全身を包み、漆黒のプレートアーマーとアーメットを装着し、左腰に朔夜を装着する。

 ちなみに朔夜は磁石の様に、しっかりと吸いついている。

 自分の場所はここだと言う様に。

 一角獣ユニコーンは鎧を装着した私を見て、誇らしそうに満足した雰囲気で目が輝いていた。

 なんか恥ずかしいな。

 そう思いながら左足を鐙に掛け勢いをつけて跨った。

 知識の中に乗馬の知識が入っていて助かった。

 私は手綱を握る。

「じゃぁ、どの方角にってわぁー!」

 向かう方向を聞こうとしたらいきなり猛スピードで走りだし、思わず叫んでしまう。

 そのあまりの速さに驚きはしたが、私は感動していた。

「すごい! お前早いな!!」

「ヒヒーン!」

 私が言うと、当然だと言わんばかりに鳴く一角獣ユニコーン

 木々を可憐に避けながら駆けるその速さは、まさに疾風しっぷうの様だった。

 疾風………。

「よし! お前の名前は『ハヤテ』! 私の国の言葉で疾風って意味!!」

「ヒヒーン!」

 気に入った様だ。

 鳴き声も弾んでいる。

「良かった! よろしくねハヤテ!」

「ブルルルル!」

「ハハハ! あ! 明りが見えて「キャァァァァァァ!」! 悲鳴!?」

 私は気配を探ってみると、進んでいる先から何人かの人の気配と、嫌な感じの大きな気配が複数感じられた。

 嫌な予感がする。

「ハヤテ急いで!」

 ハヤテは解ったと言わんばかりに、スピードを上げる。

 私は勇介みたいなお人好しではない。

 だけど誰かが危険な目にあっているのに見捨てる事も出来ない。

 アニメや漫画の様なヒーローになりたいとは思わないけど、薄情な人間だけにはなりたくない。

 勇介の時は見た目からして勇者召喚の魔法陣と解るものがあったため、害がないと判断したからほっとこうとしたけど、今回は明らかに嫌な感じしかしない。

 急がないと!





**********



「グッ!」

 俺はバスタードソードでオーガの斧の攻撃を受け止める。

「うぉぉぉぉぉ!」

 腕に力を込めてオーガを押し返す。

 バランスを崩したオーガの隙を見逃さず、俺は高く跳びあがり、オーガの額に剣を突き刺す。

「グガァァァァァァア!」

 オーガは悲鳴を上げ倒れる。

 額から血が出てくる。

 俺は止めを刺す為に、深く剣を押しこむ。

 するとオーガは白目を向き、俺は剣を引き抜く。

 しばらく痙攣した後、そのオーガは完全に動かなくなった。

 残り2体。

 周りには他に2体のオーガの死体が転がっている。

 侍女達や皇帝一家は少し離れたところに固まっている。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 チッ!

 さすがに息が上がってきた。

 周りを見ると、部下も限界のようでもう動ける状態ではなかった。

 立っているのは俺一人だけ。

 くそ!

 いったいなんだって言うんだ!

 本来単独行動のオーガが、5体同時に現れる異常だ。

 それにオーガは20人がかりで1体を相手にするのが普通の相手だ。

 オーガ相手に1人で相手出来るのは帝国最強って言われてる俺ぐらいで、他の連中じゃまず無理だ。

 下級モンスターのオークやゴブリン、中級モンスターのコボルトやハーピーならまだしも、上級モンスターのオーガが集団で現れるなんてありえない!

「一体何が「キャァァァァァァ!」!? しまった!」

 姫の悲鳴に気付き後ろを見ると、オーガの一体が陛下達の近くに居た。

 陛下と皇太子が剣を構え、後ろには妃や姫を守る様に侍女達が前に出ている。

 陛下と皇太子の剣の腕前はかなりのものだが、それでもオーガ相手に2人では無理だ。

 まずい!

 離れすぎた!

 俺は急いで駆け付けようとしたが

「グオォォォォォ!」

 もう一体のオーガが立ちふさがり、近ずく事が出来なくなった。

「くそっ! どけー!」

 俺はバスタードソードで切りかかる。

 しかし

「グルァァ!」

「ガハッ!」

 オーガが俺の身体を殴り飛ばす。

 後ろに飛ばされた俺は地面に叩きつけられる。

 ヤバい…。

 このままじゃ陛下達が。

 顔を向ければ、今まさに巨大な斧を陛下達に振り下ろされようとしていた。

 しかし起き上がろうとするが力が入らない。

 どんなに力を入れようとしても、駄目だ。

 畜生…。

 冗談じゃねぇーよ…。

 帝国最強と騎士隊長と言われた男がこの様かよ。

 何が騎士隊長だ。

 何が帝国最強だ!

 俺はこんなに弱い!!

 頼む!

 誰か…。

 陛下達を助けてくれ!!



――――グチャッ!



「グア…ガ」

 え?

 何が起きた?

 何故か陛下達に襲いかかっていたオーガの胸に大きな穴が開いていて、後ろに向かって倒れていくところが見えた。



――――トン!



「良かった間に合って」

 何かが着地した音のする方から、低い男の声が聞こえ俺はそっちに目を向ける。

 そして俺は目を見張る。

 そこに居た、伝説の黒い一角獣ユニコーンに跨った黒騎士の姿に。



 これが俺達帝国軍……いや、帝国を変える黒騎士との出会いだった。





To be continued
あとがき

此処まで読んでいただいて誠に有難うございます。

第3話如何でしたでしょうか?

今回準主人公コンラットと相棒ハヤテの登場篇でした。

この1人と1頭は今後のストーリーで深くかかわっていくキャラですので、もしよろしければこれからも応援よろしくお願いします。


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