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【犠牲の灯り】

<犠牲の灯り 第1部「ちむぐりさ」> 番外編(上)〜沖縄・福島の叫び〜

 年初から計八回にわたり報じた連載「犠牲の灯(あか)り」第1部「ちむぐりさ」。東京電力福島第一原発事故の収束作業で働く沖縄の作業員や技術者らの姿を通じ、戦後日本の「平和」や「豊かさ」が沖縄や福島の犠牲の上で成り立っていることを描いた。私たちは沖縄や福島の痛みにどう寄り添い、その解決を目指せばよいのか。大田昌秀元沖縄県知事(87)と清水修二福島大教授(64)に聞いた。

 (「犠牲の灯り」取材班)

◆「自分は正義」許されぬ 清水修二・福島大教授

しみず・しゅうじ 東京都生まれ。京都大大学院博士課程満期退学。福島大経済経営学類教授で、2008年4月〜12年3月に副学長。東京電力福島第1原発の事故前から、原発立地を促進する電源三法交付金制度を批判するなど原発の問題点を指摘。昨年開かれた脱原発の集い「原発いらない! 3・11福島県民大集会」の呼び掛け人代表も務めた。

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 −福島事故からまもなく二年がたつ。

 昨年十月に双葉町を視察した。美しかった水田はセイタカアワダチソウが生い茂り、道路わきは雑草だらけ。倒壊した家屋は放置されたままだ。町はあの事故から時を刻むのをやめている。

 (一九八六年の)チェルノブイリ原発事故の周辺では二十六年たった今も食べ物の放射線量を測定しながらの生活を余儀なくされている。放射線量は一時より減ったが、それでも子どもたちは内部被ばくの危険性にさらされている。「いつかは戻れる」と考えている福島の人たちが、いずれ同じような生活を送らねばならないのかと思うとつらい。

 −福島の苦悩は続いている。

 さらに深刻だ。最近は、脱原発サイドからも冷たい視線を感じることがある。例えば、福島に残って子どもを育てる親に対し「子どもがかわいそう」「身勝手だ」などという外からの非難、もっと言えば攻撃だ。県民の九割以上は今もとどまっているが、それは仕事や経済的な理由で仕方がないことだ。福島の子どもを一番心配しているのは、その親なのに…。いわれのない批判が福島の人たちを苦しめている。

 福島に戻ろうとする住民らの努力に対する冷めた見方もそう。微量の放射性物質で汚染されたがれきの県外処理では、各地で持ち込み反対などと激しい反対運動も起きた。「汚いものはすべて福島に閉じこめておけ」と、言わんばかりの風潮がどれだけ福島を傷つけているか。

 −これだけの犠牲を払いながら、日本は脱原発に向けた道筋が見えない。

 多額の交付金が地元に落ちる原発は「麻薬」といわれる。しかし、それは単なる思い込みにすぎず、立地自治体を突き放した言い方だ。事故があった福島は当然だが、他の立地自治体も計画的に原発を廃止することはできる。雇用だって廃炉が始まれば多くの作業員が必要で、ある程度は吸収できるはずだ。原発を国策で進めた以上、廃炉も国がサポートするのは当然だ。

 ものすごく乱暴な言い方だが、事故の影響が首都圏まで及んでいたら事態はかなり違っていたと思う。国民の多くが原発についてもうちょっとまじめに考えてくれたのではないか。今も十六万人が避難する大事故が起きたにもかかわらず、残念ながら福島の問題として片付けられているのが現状だ。

 −国民の側にも問題があると。

 私は福島事故の責任について東電が四割、政府三割、自治体二割、そして国民が一割だと思っている。一割の責任とは、無自覚に原発を受け入れてきた点だ。現状追認の怠惰な現実主義と言っていいだろう。態度をあいまいにし、いざ事故が起きると、電力会社や政府を非難し、国民もマスコミも自分はまるで正義の側にいるように振る舞う。福島の人間にとって、これは到底納得できない。

 最近の「原子力ムラ」たたきが典型だ。白か黒かのレッテルを貼り「推進派は追放しろ」と非難する。しかし、推進派の人間こそ、事故の責任を果たさなければならない。収束作業の現場では誰もが必死にがんばっている。国民の多くが「自分たちは関係ない」という姿勢なら、福島の犠牲から何も学べない。

◆無関心が負担を強いる 大田昌秀元沖縄県知事

おおた・まさひで 沖縄県久米島町生まれ。早稲田大卒業後、米シラキュース大大学院修士課程修了。沖縄師範学校に在学した19歳の時、学徒隊の鉄血勤皇隊に動員され、沖縄戦に加わった。戦後は大学教員として沖縄戦を研究。1990年から2期8年、沖縄県知事。2001〜07年、参院議員。NPO法人沖縄国際平和研究所(那覇市)理事長。

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 −沖縄は太平洋戦争で唯一の地上戦が行われ、戦後は在日米軍基地が集中立地している。

 沖縄に対する差別は今に始まったことではない。米外交官、ジョージ・H・カーの著書「琉球の歴史」によると、明治政府が一八七九(明治十二)年に琉球藩を沖縄県にしたのは軍隊を置くための前線基地にしたかったからだと書いてある。当初から同一民族、同一言語の同胞(はらから)として日本に迎え入れたのではなかった。

 戦後の占領期に政府が米国に送った要請文書には、東京から離れた地域での米軍進駐やシベリア抑留の日本兵の早期帰還−などの要望があったが、本土防衛のため捨て石にされた沖縄については何の記述もなかった。

 −それなのに沖縄の犠牲に対する国民の関心は低いと。

 「不利益の分配」という言葉で語れると思う。カネをやる代わりに嫌なものを、東京など大都市圏から遠く離れた経済的に恵まれない地方に押しつけることだ。沖縄が戦後も基地問題などで絶えず苦しめられているのに、その苦しみに無関心であったり、仕方ないと容認する国民が多いのはこのためだ。

 この構図は原発も同じだろう。しかし、原発は自治体が誘致したのに対し、米軍基地は住民から強制的に土地を奪った。嘉手納基地や普天間飛行場の周辺では土地の提供を拒む「反戦地主」がいる。彼らは「先祖代々守ってきた土地を再び凄惨(せいさん)な場にしたくない。戦争ではなく、人間の幸せに結びつくものにしたい」と願っている。

 −一般的に基地が沖縄の雇用や地域振興に役立っているという見方は根強い。

 それは違う。基地関連は一九六一(昭和三十六)年に県民総所得の52%を占めたが、七二年の本土復帰のころには15・5%にまで低下していた。現在はわずか4・6%だ。雇用も復帰前の五万五千人から今は九千人に激減している。基地がなくなったら、沖縄は駄目になるという報道や国民の認識はおかしい。

 今、沖縄を支えているのはエコツーリズムなどの観光産業だ。米軍基地跡地に開発した新都心のおもろまちでは、百人以下だった雇用が二万人に増え、地域の売り上げ規模も二百倍になった。基地がなくてもやっていけることが証明された。普天間を県内の辺野古に移設すれば、観光産業は打撃を受ける。

 −沖縄の痛みはどうすれば取り除くことができるのか。

 沖縄の負担軽減とよく言われるが、逆に言えば「それでも負担は残りますよ」と言っているようなものだ。なぜ、同じ日本の領土である沖縄だけが負担を強いられるのか。尖閣諸島で領有権を主張する勇ましい人たちが同じように沖縄の米軍基地で日の丸を掲げただろうか。

 基地問題は外交面から語られることが多いが、実は切実な国内問題だ。それなのに国民の多くは安全保障や日米同盟の言葉が出た途端、思考をやめてしまっている。もちろん基地を単に、他の都道府県に移設すればいいというわけではない。沖縄の痛みが他に移るだけだ。日米安保条約などを見直し、米軍基地を国内から撤収させることも考える必要があると思う。

 ちむぐりさ=他人の痛みを自分の痛みとする意の沖縄言葉

◆福島原発事故 県民16万人いまなお避難生活

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 福島第一原発事故では、周辺の十一市町村に避難区域が設定された。国や県のまとめでは、県民約十六万人がいまなお県内外での避難生活を余儀なくされている。十一市町村のうち双葉、大熊町など九町村は役所機能をほかの自治体に移さざるを得なくなった。

 避難者は長引く避難生活の中、損害賠償の遅れや町民の集団移転などへ不安を募らせる。各市町村の中でも放射線量によって帰還できる時期や損害賠償の内容が地域ごとに異なり、地域の分断も懸念されている。

 県内では、事故までに福島第一と福島第二で計十基の原発が稼働していた。発電した電気は地元ではなく首都圏へ送られ、都会の暮らしや経済活動を支えていた。

◆米軍基地問題 少女暴行、オスプレイ配備… 国内の7割超が沖縄にひしめく

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 戦時中、県民のほぼ四人に一人、十二万人が犠牲になった沖縄県には現在、在日米軍基地が三十四施設ある。米軍が民有地を強制接収するなどして巨大な基地群を形成。広さは二百三十二平方キロメートルで、県の面積の10・2%を占める。日本の面積のわずか0・6%にすぎない沖縄に国内の米軍基地の73・9%が集中する状態が続く。

 米軍基地周辺では米軍機の墜落や騒音、少女暴行など米兵の犯罪などが続発。基地関連の事件・事故は本土復帰の一九七二年から二〇一〇年末までに千五百四十五件にも達する。日米両政府は墜落事故が相次ぐ米軍の新型輸送機「オスプレイ」の沖縄配備を計画しており、地元では「日米安保に名を借りた新たな負担」と反発する声が強まっている。

 連載へのご意見をお寄せください。連絡先を明記し、〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「犠牲の灯り」取材班へ。ファクスは052(201)4331。メールアドレスはshakai@chunichi.co.jp

 

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