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被災地は「実験場」ではない 国家不在の悲劇

産経新聞 3月13日(水)8時30分配信

被災地は「実験場」ではない 国家不在の悲劇

政府主催の追悼式で黙とうされる天皇、皇后両陛下と参加者=11日午後、東京都千代田区の国立劇場(代表撮影)(写真:産経新聞)

 東日本大震災の発生から2年が過ぎた。復旧の遅々とした歩みは、関西にいてももどかしく痛ましい。なにかがおかしい。平成7年1月に起こった阪神大震災の復興を見てきた立場から、気になることを若干、挙げる。

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 同年2月、阪神大震災からの復興の基本方針を定めた法律ができた。理念は「阪神・淡路地域における生活の再建及び経済の復興を緊急に図る」と、いたってシンプルだ。

 一昨年6月にできた東日本大震災復興基本法は、「復興の円滑かつ迅速な推進」に加え「活力ある日本の再生を図る」ことを目的としている。理念を述べたくだりには、「新たな地域社会の構築がなされるとともに、21世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指して」「我が国が直面する課題や…人類共通の課題の解決に資するための先導的な施策」などの文言が並ぶ。

 つまり阪神の基本法では被災地の復興が単純に念頭に置かれている。それに対し、東日本では日本全体や人類まで視野に入れ、新しい社会を築くことを目指そうとしているのだ。まずは被災者の生活再建ではないのか。

 復旧のスピードはどうだろう。被害の規模が異なり、原発事故も加わった東日本と、都市型の災害である阪神を単純に比較することは難しい。ごく一部を見てみる。

 阪神大震災から2年後、産経新聞は大阪市立大学の協力を得て被災者アンケートを行っている。震災前に着工していた建物の転用分も含めてすでに約5300戸の災害復興公営住宅が兵庫県で完成。そこに移った被災者の半数近くが「復興した」と感じ、仮設住宅に住んでいる被災者の6割は復興が「全く進んでいない」「緒についたばかり」と感じている。仮設ではなくちゃんとした住宅がいかに大切かがわかる。

 東日本大震災後の2年間で完成した復興住宅は、復興庁によると先月末現在、84戸にすぎない。

 ■「基本方針」は机上の論理

 一昨年7月、ときの菅政権が出した「東日本大震災からの復興の基本方針」を見ると、政府の目が新しい社会の構築や日本全体の再生に向いていることが、より明らかになる。

 「日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない」「新しい東北の姿を創出する」。こんな「基本的考え方」のもとで、これでもかこれでもかと施策の方針が盛り込まれている。

 コンパクトで公共交通を活用した街づくり。環境先進地域(エコタウン)の実現。医療や介護などのサービスを一体的に提供する地域包括ケア。地域の絆やつながりを持続させられるような市町村への支援、などである。

 一つ一つはもっともに聞こえるが、それらは被災地で当面やらなければならないことではない。郊外店の発展による市街地中心部の衰退、地縁の崩壊などは現代の日本社会全体が抱える問題であり、その解決を東北の被災地に求めるなど本末転倒もはなはなだしい。基本方針は「少子高齢化社会のモデルとして」「先導的なモデルの構築に取り組む」などと意気込むのだが、被災地は「実験場」ではない。

 青臭い理想主義に染められたこの「方針」が招いたのが、昨秋問題になった復興予算の転用だった。震災をきっかけとした企業の海外移転を警戒するという「方針」のために岐阜県の工場に補助金が申請されたり、クジラ肉が被災地の産業に貢献しているという理由で反捕鯨団体対策の費用が計上された。各省庁が復興予算を取り合っていた、というほかはない。

 ■国家不在の悲劇

 さらに注意したいのはこの「方針」が、復興事業を被災自治体に事実上丸投げしたことだ。復興を担う行政主体は市町村とされている。国は方針を示し、制度設計を行い、金を出す。

 しかし被災は複数の県に及び、阪神大震災よりはるかに広域である。住民の意見を尊重し地域の実情に合った街づくりを進めるのは必要だが、非常時に県の単位を超えて復興を主導すべきなのは国をおいてほかはない。復興はそれぞれの被災自治体に委ねられ、市町村は人員不足に苦しみながら計画を立てた。復旧の遅れもやむなしといわざるをえない。

 空疎な一昨年の「方針」に戻ると、民間活力の導入などに加え、「宇宙人」といわれた民主党初代首相の鳩山由紀夫氏が好んだ、NPOなど「新しい公共」の導入がしきりと言及されている。

 市民運動出身の菅氏や浮世離れした鳩山氏の思惑が反映されているであろう、この基本方針の根底にあるのはなにか。なんのことはない、国家と市民を対置させ、国家権力は悪であり市民は善であるとしてきた戦後おなじみの左傾思潮ではないのか。市民の安全を守るべき国家が国家たりえなかったことが、東日本大震災の苦痛をより大きくしている。

 安倍政権は7日、国が工程表を点検しながら27年度までに2万戸近い災害公営住宅を造ることや、原発事故の立ち入り制限区域で国がインフラ復旧の準備に取り組むことなどを盛り込んだ新しい施策を決めた。国がより具体的にかかわっていこうとしていて、評価できる。基本方針も見直してほしいものだ。(編集委員 河村直哉)

最終更新:3月13日(水)8時30分

産経新聞

 

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