第178回 ユーロ・グローバリズム(1/3)
ユーロの根っこにある発想は、もちろん「グローバリズム」だ。グローバリズムの定義は、大雑把に書くと以下の三つを「自由化」し、国境を越えた移動の自由を認めることになる。
(1) モノ・サービスの移動
(2) 資本移動(直接投資、証券投資)
(3) 労働者の移動
ユーロは、上記三つを「ほぼ完ぺき」に満たしてしまっている。ユーロ域内のモノの輸出入では、もちろん関税をかけることはできない。さらに、サービスの輸出入を妨げる可能性がある各国の社会システム(アメリカの言う「非関税障壁」)についても、相当程度「同一化」が進んでいる。
また、当然の話としてユーロ加盟国間の資本移動は自由だ。直接投資だろうが、証券投資だろうが、ユーロ圏内の企業や家計は好きなように域内で資本を移すことができる。
現在、ギリシャやスペインの住民が、将来的な自国のユーロ離脱を恐れ、自らのユーロ建て預金を域内の信用が高い国、例えばドイツに移す動きが広まっている。ギリシャやスペインがユーロから離脱し、国内のユーロ建て預金が独自通貨に強制的に切り替えられると、瞬間的に両国の住民の金融資産の価値が暴落(少なくとも半分未満に)してしまう。
というわけで、
「今のうちに、ドイツにユーロ建ての預金を移しておこう」
と考える、ギリシャやスペインの国民が増えているのだ。ユーロ域内の資本移動は完全に自由化されているため、ギリシャ政府やスペイン政府に自国民の預金移動を止めるすべはない。
結果的に、ドイツの銀行にユーロ建ての預金が集まっているわけだが、同国は現在「ユーロ・バブル」崩壊の影響で、民間の資金需要が少なくなっている。結果的に、預金が流入したドイツの銀行は国債を買うしかないわけだ。現在のドイツの長期金利は1.5%にまで下がってきているが、これはドイツ国民のみならず、ギリシャなど他のユーロ加盟国の預金も流れ込んできているためだ。
さて、(3)の労働者の移動の自由であるが、EU加盟諸国はシェンゲン協定という「ヒトの移動の自由化」を認める協定を結んでいる(島国のイギリスとアイルランドは除く)。シュンゲン協定加盟国間では、国境を越える際に国境検査がない。パスポート一つ見せることなく、西は大西洋から東はポーランド、スロバキア、ハンガリー三国の対ベラルーシ、ウクライナ国境まで、北はバルト三国 から南はイタリア、ギリシャまで、自由自在に動きまわることができるのである。
マーストリヒト条約やシュンゲン協定に代表される各種の国際条約で、上記の(1)から(3)までの「ユーロ・グローバリズム」が完成を見た結果、今回の財政危機の引き金となる経常収支のインバランス(不均衡)が始まった。いわゆる、ユーロ・インバランスの拡大だ。
【図178-1 ユーロ主要国の経常収支の推移(単位:十億ドル)】
出典:IMF World Economic Outlook October 2012
図178-1の通り、1999年の共通通貨ユーロ開始以降、ユーロ圏では経常収支の黒字組(ドイツ、オランダ)がひたすら黒字幅を拡大し、赤字組(スペイン、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど)が、これまたひたすら赤字幅を広げていく「ユーロ・インバランス」が進行していった。スペインやギリシャなどの経常収支赤字が拡大した主因は、もちろん貿易赤字である。
何しろ、ユーロ圏内では上記(1)から(3)までの自由化が実現している。逆に言えば、スペインやギリシャは、ドイツからどれほど凄まじい輸出攻勢を受けたとしても、関税で自国市場を保護することはできない。
さらに、何しろ「共通通貨」ユーロである。ドイツが対スペイン、対ギリシャで莫大な貿易黒字を稼いだとしても、為替レートの変動はないのだ。ドイツの1ユーロは、環境がどれほど変化しようとも、ギリシャやスペインの1ユーロなのである。
というわけで、ユーロ域内の生産性が低い国々(ギリシャ、スペインなど)は、一切の盾(関税、為替レート)なしで高生産性国(ドイツなど)の輸出攻勢を受け続けなければならないのだ。結果的に、ギリシャやスペインの経常収支赤字は「一切の調整なしで」膨らんでいった。
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