第1研究室 ライトノベルの書き方 | トップへ戻る |

リアリティのある世界観を作ろう

目次
はじめに
世界観作りとはルール作り
世界観とは何か?
魔法や超科学の存在する世界の常識は、私たちの常識とは違う
描きたい展開だけに目がいくと、底の浅い世界になる
聖剣、魔剣、霊刀の由来くらいは調べよう
読者は設定ではなく、ストーリーを読みに来ている
世界観に合わない描写をしてはならない
資料も読まずに小説を書いてはいけない
幻想を壊す現実性に注意!



はじめに
 私は多くの投稿小説を批評してきて痛烈に感じたことがあります。
 それは……
 たいていの人が世界観を、ないがしろにしているということです!

 こんな話が書きたい! という気持ちだけが先行して、舞台設定をまるで練っていません(汗)。
 本当にその世界が存在していると、どうなるのか?
 その世界に住んでいる人間はどんな考え方を持つのか?
 文化は? 産業は? 生活水準は? 暮らしは? どんな家に住んでいる? 服装は?
 こういったバックグラウンドをまるで考えないで、
 ただ自分の書きたいことだけ書いては、読者に呆れられます。
 おざなりの舞台装置で演じられる物語は、そりゃあもうみすぼらしいものですよ。
「あ、ママ見て!あのお家、段ボールでできているよ!?」 
 と観客席から子供の矯正と、失笑のざわめきが響いてきます。

 世界観がきちんと練られていない小説は読み手の信用を失わせます。

「ダメだこの人、資料も読んでいない上に設定も練っていない。テキトーに小説書いてら」
 と思われたら、その時点でお終いです。あなたの小説はそれ以上、読まれません。

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世界観作りとはルール作り
 
 小説というジャンルの特徴として、

●心情描写に向いている。
●頭脳戦、謎解きに向いている。
●アクションには不向き。


 ということが上げられます。
 情報を伝える方法が文章しかないため、アニメや漫画のように、
 かっこいいアクションシーンや映像美といった点で受け手を魅了することは、非常に困難なのです。
 戦闘を描くのであれば、戦闘シーンの視覚的な派手さではなく、
 戦闘に至るまでの経緯や、どうやって敵を倒すのか? 
 といった頭脳戦、心理戦、心情描写などで読者を魅了するのに向いています。

 戦闘の見た目的な格好良さにこだわったとしても、
 億単位のお金をかけてど派手なアクションシーンを制作するハリウッド映画などには絶対に勝てません。

 ハリウッド映画を上回る魅力を生み出そうとするのなら、映像美ではなく、
 頭脳戦、心理戦、心情描写という小説の得意分野で勝負するのが正解なのです。


 そのために必要なのが、ルールによる制約です。
 
 実は、世界観作りにおいて、もっとも重要なのが、その世界を支配するルール作りです。

 例えば、榊一郎のライトノベル『ストレイト・ジャケット』には、
 魔法を使いすぎた人間は魔族という怪物になるという設定があります。
 魔族は魔法を無制限に使って人間を襲う、人類の天敵です。
 魔族を倒すには魔法を使うしかないため、戦術魔法士という魔族退治専門の魔法使いがいます。
 主人公のレイオットは無資格の戦術魔法士であり、モールドと呼ばれる鎧に身を包んで戦います。
 
 モールドには魔族化を抑える機能を備えたデュラビットと呼ばれる端子が填っており、
 魔法を使うごとに、この端子が外れていきます。
 レイオットのモールドのデュラビット数は13であり、13を超えるデュラビットを消費すると、
 彼は魔族化してしまいます。
 威力の低い魔法はデュラビットを1つ消費するだけですが、
 強い威力の魔法となると2,3個、消費することになります。
 
 この制約の中で戦うために、どの魔法を選択するべきか? この局面で、魔法を使うべきか? 
 戦術や駆け引きが生まれるのです。

 
 単なる力押しの戦闘ではなく、こういった頭脳戦の要素を取り入れることで、
 読者は「自分ならどうやってこの局面を打破するか?」といった物語に参加する楽しみが加わります。


●ストレイト・ジャケットのルール

勝利条件
●魔族を倒せば勝ち。

敗北条件
●魔族に負ける(死亡)。
●自己の魔族化。
●13の魔法使用回数を使い切り、戦闘不能になる。
●封鎖区域の外への魔族の逃亡を許す(大勢の犠牲者が出る)。

戦闘条件
●主人公は13という魔法仕様制限の中で戦う。魔族は無制限に魔法が使える。
●魔族は時間が経つにつれて、進化し強力になっていく。
●魔族は脳の五割を破壊されないと死なない。それ以下の損傷は即座に魔法で回復する。
 魔族の脳は、身体のどこにあるかわからない。脳の場所を突き止めなくてならない。
●魔族に物理的な攻撃は効果が薄く、基本的に魔法攻撃によってしか殺すことができない。
●等級の低い魔族は、銃で倒すこともできる。
●6種類の呪文書式板をスタッフに装着しておくことで、詠唱なしに即座に魔法を放つことができる。
 これ以外の魔法は、口頭による詠唱でしか発動できない。
●魔族は理性が失われており、話し合いや説得はできない。破壊衝動のままに行動する。


 このような明確なルールがあるからこそ、どうやって敵に勝つか? という工夫が生まれます。

 読者は圧倒的に不利な状態から、主人公のレイオットがいかにルール内で試行錯誤して、
 敵に勝利するのか固唾を呑んで見守ることになります。


 この工夫の過程にこそ、人は熱狂するのです。
 図にすると

●圧倒的な不利な状況。
  ↓
●あっと驚く、解決手段(ご都合主義ではない)。
  ↓
 「ずけーっ! あの状況で、こんな手を思いつくなんて、カッコイイ!」
 「敵の行動を予測し、ここまで計算して動いていたのか!?」
 
 この快感は、チェスや将棋などのゲームのおもしろさに似ています。


 ストレイトジャケットは物語の後半になると、人の身で魔族同様に魔法を無制限に使うことを可能にする
 『生贄システム』を搭載した魔法兵器が登場します。
 これは人間を単なる魔法を生み出す消耗品として捉えたものです。
 魔法を使った際に発生する汚染物質『魔素』を、システムに組み込んだ他人に流すことによって、
 自分ではなく他人を魔族化させます。
 
 魔法を使った代償を他人に肩代わりさせる、他人を生贄にして無制限に魔法を使うという仕組みです。
 生贄にされた人間は、魔族化する前に、自動的に爆薬によって殺されるので、
 まさに銃弾同様の扱いです。

 魔法使いの戦いというと、いかに強い魔法を使うか? といった話になりやすいのですが、
 使用回数制限があるため、いかに使用回数を増やすか? といった方向に兵器が進化するのです。

 つまり、根底にあるルールが、他作品との差別化を生み、
 ストレイトジャケット独自の魔法世界を作り上げているのです。


 ルールによる制約を設けることで、発想は窮屈になるどころか、
 逆に様々な応用や工夫が生まれ、それが独自性となるのです。


(交流用掲示板の公ちゃんさんの書き込みより)
 2010年、日曜のお昼に放送されたビートたけしと国分太一の「ニッポンのミカタ!」で、
 我々クリエイターにとって興味深い実験がありました。

●実験内容
 12人の被験者に半分づつA、Bの2チームに分かれてもらう。
 全員に「怖い林檎の絵」を描いてもらう。

Aチーム
 「怖い林檎」を描くことだけを伝える。
 結果→ほぼ全員がハローウィンのように林檎に顔を描いた。

Bチーム
 上記に加え、「林檎自身には何も手を加えないで」と条件を追加。
 結果→異臭のオーラや遠近感、流血など全員が異なる方法で表現した。

 以上の結果から、番組では
 「あえて規制を作る事でオリジナリティが出る」という結果論が出されてました。



 さらに、『生贄システム』という残虐な兵器の登場は、
 魔族化を人為的に引き起こすことによるテロ、魔族化による自殺、復讐、
 といったエピソードとあいまって、ダークな世界観をよりいっそう深めています。

 魔法と魔族のルールが、戦闘を盛り上げるだけでなく、
 この世界を覆う、暗く退廃的な雰囲気までもを作り出しているのです。


 なにより見事なのは、主人公は魔族化した育ての親を殺しており、
 その贖罪のために、もっとも危険な戦術魔法士という職業についているという設定です。
 
 主人公の行動の動機と世界のルールが深くリンクしているのです。
 
 また、魔族と人間の間に生まれた少女や、父親が魔族化したことにより迫害を受けた少年、
 といったキャラクターが重要なポジションを占めることにより、
 ストーリーを進める中で、自然に世界観に触れていくことができます。
 世界を支配するルールが、キャラクター、ストーリーと強く関連し、
 相互作用的におのおの魅力を深めているのです。

ストレイトジャケットのルールの生み出す効果。
●キャラクターの行動の動機を作っている。
●戦闘に駆け引きや戦術を生み出す。
●主人公をピンチに陥れる(ピンチから逆転する過程こそが山場)。
●ダークな世界観を生み出す。
●他作品の魔法との差別化(オリジナリティ)。

 この作品のおもしろさは、まさに根底にあるルールが生み出していると言っても過言ではありません。


 他にも、乙一の短編集『Zoo』に収録された『神の言葉』には、
 魔力を備えた声を持った少年が登場します。彼の声には、以下のような力があります。

1・生物に対して、絶対的な強制力を持つ命令を発することができる(無生物には効果がない)。
 「死ね」と言えば、相手は死ぬ。「指が取れろ」と言えば、相手の指が床に落ちる。
2・「相手に命令を与える」と意識して言葉を発しないと効果がない。
3・一度、行使された命令は、取り消しが効かない。


 彼は幼い頃、些細なことから感情的になり、母親に対して、
 「おまえはアア、猫とサボテンの違いがわからなくなるウウウ……」
 という命令を発してしまいました。
 以来、母親は、サボテンを猫であると思い込んで、
 顔をすり寄せて血だらけになるという奇行を繰り返すようになりました。
 彼は、後悔しましたが、母は決して元に戻りません。

 少年はその後も、友人の朝顔を腐らせたり、凶暴な犬を手なづけたりと、
 自らの能力を使って欲求を満たしていきますが、そのたびに後悔することになります。
 果ては、憎くて仕方ない弟に「おまえは死ぬんだよ!」という命令をしてしまうのですが……
 その命令によって、彼は自分自身の記憶から消していた、恐るべき事実に気づいてしまいます。

 なんと、弟はすでに死んでいたのです。
 それどころか、彼は自らの能力で、
 人類はおろか、地球上の生物のほとんどを絶滅に追い込んでいました。
 これを後悔するあまり、彼は自分自身の記憶や認識を操作する命令を、
 自分自身にかけることによって、偽の世界を生きていたのでした。
 どうやって、彼は人類を滅ぼしたのでしょうか?
 まさか、こんな能力の応用方法があるとは、実に驚きでした。

 これ以上のネタばれは控えたいので、気になる人は実際にZooを読んでみてください。
 彼のかけた呪いによって人類が滅んでいく様は、実に恐ろしく、見事です。


 他にも、鎌池和馬 の『とある魔術の禁書目録』の主人公、
 上条当麻の持つ能力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」も、おもしろいルールを持っています。
 
 「異能の力であれば、超能力・魔術問わず、
 いかに強力な物であっても右手に触れただけで打ち消すことができる」というものです。


 この力は、一見無敵に思えますが、必ずしも万能ではありません。

 まず、相手の攻撃を無力化できるのは、右手首から上だけです。
 上条自身は多少腕っ節が強い程度のごく普通の高校生なので、
 異能の攻撃が、体の右手以外の部分に当たったら致命傷になります。
 さらに、異能の力を使わない物理的な攻撃、
 例えば銃で撃たれたり、爆弾で攻撃されたりした場合には一切効果がありません。
 もし敵が超能力で作った火の玉で彼を攻撃した場合、火の玉は右手で消せても、
 その爆発で飛んできた瓦礫の破片などは消せないのです。

 また、この能力は彼の意思に関係なく右手に触れただけで発動するため、
 味方となるはずの力まで、壊してしまう恐れがあります。

 このように強力でありながらも欠点や制約がある故に、使い方に応用や工夫が生まれるのです。

 読者は、自分だったら、この能力をこう使うのになぁ、と空想するだけでなく、
 上条を倒すにはこうすれば良いのじゃない? と敵になったつもりで攻略法を考えることもできます。

 ルールや制約があることで、読者を物語の世界に参加させることができるのです。

 ただし、なんでもかんでもルールを作ればおもしろくなるかというと、それは違います。
 ゲームの世界には、まったくつまらない糞ゲーと呼ばれる評価の低いゲームがありますが、
 これはルール作りに失敗したためです。
 どうすれば、ゲームがおもしろくなるか? 参加者がエキサイトしてくれるか? 
 緻密な計算が必要になります。

 ルール作りのコツ
1、シンプルで理解しやすいこと。
2、応用が利くこと。
3、致命的な弱点、リスクを持っていること(主人公をピンチに追い込む)。
4、物語に深く関わってくること。



 漫画では、少年ジャンプで連載された『デスノート』が好例です。
 これは、人の名前を書き込むと、その相手が死ぬ『デスノート』を手に入れた少年、
 夜神月(やがみ らいと)が、犯罪者を地上から抹殺し、理想の世界を作ろうとする物語です。
 犯罪者を殺し続ける彼を追う名探偵Lと、熾烈な頭脳戦を繰り広げます。

 デスノートには、細かいルールが決められており、このルールが二人の駆け引きを生み出しています。

・デスノートに名前を書かれた人間は死ぬ。
・書かれる人物の顔が頭に入っていないと効果は得られない。
・名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、そのとおりになる。
・死因を書かなければ、すべてが心臓麻痺となる。
・死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。
・デスノートから切り取ったページや切れ端などでもデスノートの効果は有効である。

 デスノートで人を殺すには相手の『顔』と『名前』が必要です。
 月は自分を追ってきたFBI捜査官を利用し、
 同僚の名前をデスノートに書かかせることで、彼らを全滅させてしまいます。
 Lはこれらの経緯から、一見無敵に思える超能力大量殺人者・通称キラが殺人を犯すためには
 『顔』と『名前』が必要であることに気づき、顔はさらすものの本名だけは知られないように工夫します。
 一方、月はLを殺すために、Lの本名を手に入れようとしますが、うまくいかず、
 逆にLに追い詰められてしまいます。

 もし、デスノートが、殺したい相手をなんの制約もなく殺せる道具だったら、
 このような駆け引きが生まれる余地はありません。
 Lはさっさと月に殺されて終わりです。
 
 デスノートに制約が存在するからこそ、
 弱点を突いたり、裏をかいたりすることが可能になるわけです。


 また、具体的なルールがあることによって、読者は、
 デスノートをもし自分が手に入れたら、どう使うか? どう応用してLと戦うか? 
 といったことを空想して楽しむことができます。
 
 ルールがあることによって、発想が膨らむのです。
 これはチェスや将棋のルールから無数の戦術が生まれるのと同じです。


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世界観とは何か?
 世界観とは、読んで字のごとく世界の「観」方です。

 もともとは、民族学で使用されていた学術用語でした。
 例えば、「イスラム教徒の世界観」などという使い方をします。
 イスラム教徒の目から見える世界は、それ以外の人とは異質なものになります。
 彼らはアラーの神を唯一神と崇め、聖典「コーラン」の教えに従って生きています。
 この世界はアラーによって作られ、アラーの教えに従って生きるのが正しいのだという世界観です。
     
 また、江戸時代の世界の「観」方と、現代日本の世界の「観」方も異なります。
 江戸時代は士農工商制度があり、お侍が一番えらいという価値観が支配していました。
「徳川家康公は神様と同じで、オラたち農民は、とにかく畑を耕して年貢を収めなけれならん!
 さっさ、とっと畑を耕しに行くだ!」という訳です。
 飢饉の時などは、口減らしのために生まれてきた子供を間引きするという、
 食料が豊富にあり、人権意識の発達した現代では信じられないこともやっていました。

 このように同じ地球上でも、土地、民族、環境、時代、によって世界観は大きく異なるのです。
 これが異世界を舞台にライトノベルだったらどうでしょう?

 異世界の住人が日本人と同じ世界の「観」方をしていることなど、絶対に有り得ません!

 例えば、15歳で元服(成人)を迎えて結婚できるような世界の少年少女が、
 日本の中高生と同じような感覚で生きていると思いますか?
 答えはノーです!
 15歳で結婚できるような世界の少年少女の精神年齢は、日本の中高生よりはるかに高いでしょう。
 そのため考え方もシビアになるでしょうし、恋愛観や貞操観念も異なってくると思います。 

 この辺を理解してないと、世界観作りに大失敗してしまいます。
 世界観作りとは、単に設定を作り込めば込めばイイというものではないのです。

 もし専制君君主制だったら、もし徴兵制度があるとしたら、もし電気や水道が無かったら、
 もし、ドラゴンや魔法が実在したら、その世界の人々はどのような価値観や行動様式を持つだろうか?
 と考えてシミュレートしなくてはならないのです。


 素人の作る異世界ファンタジーを読むと、
 日本の少年少女となんら変わりない思考の持ち主がゴロゴロでてきます。
 さらにひどくなると、現代日本の世界観どころか、
 ゲームの世界観をそのまま転用している小説まであります。
 少年少女が遠足気分で魔物や山賊退治に出かけて、当然のごとく勝ってしまうような物語です。
 そんな作品にはリアリティの「り」の字もありません。

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魔法や超科学の存在する世界の常識は、私たちの常識とは違う

 ライトノベルは、魔法や超能力、超科学が登場する架空の世界を舞台とした話がほとんどです。

 当然、魔法や超科学が存在する世界の常識は、私たちの常識とは異なっています。

 ライトノベルは、誰でも簡単に作れる低レベルの分野だと思っていませんか?
 もし、そう思われていたらそれは大間違いです!
 一般の小説は、現実世界を舞台にしています。
 そのため、資料集めさえキチンとしていれば、世界観作りにはそれほど悩まないのです。
 江戸時代の文化や風習、生活様式を調べれば、江戸時代の世界をリアルに再現できます。
 中世ヨーロッパの文化や風習、生活様式を調べれば、中世世界をリアルに再現できます。
 でも、ライトノベルの場合は、架空の世界を自分の頭で生み出さなければなりません。

 魔法が実在する西洋ファンタジーを描くのなら、
 中世の世界をそのまま再現したのではダメなのです。

 魔法を社会基盤に取り込んだ、変質した中世世界を描かなくてはなりません。

 どういうコトなのか、例を上げて解説しましょう。
 

●例1
 ファンタジーには回復魔法というのが良く登場します。
 怪我や病気、呪いを治すことができる大変便利な魔法です。
 たいていヒロイン役となる美少女魔法使いが身につけています(笑)。
 しかも、たった2,3年ほどの軽い修行で……(汗)。
 これを踏まえた上で質問します。
 この世界に現実世界と全く同じ『医者』という職業があったら、どうでしょう?
 お医者さんは、病人や怪我人の診察をして、その人にあった治療法を何日も続けて行います。
 無論、治療の際には薬や包帯、消毒液といった医療品を消費します。
 一方、美少女ヒロインは、呪文を唱えるだけでお手軽に患者を治せてしまいます。
 競合した場合、商売として成功するのはどちらでしょう? 
 そもそも、この世界で医術が発展すると思いますか?

 回復魔法が誰でも修得ができるような簡単なモノであるのなら、
 医者などという職業は生まれないでしょうね。

 
なにしろ、苦労して医術を身につけたとしても、
 その労力にあった見返りは得られないのですから……
 おそらく医者の代わりに、医療魔法士などといった職業が繁栄するでしょう。
 でも、医術と違って回復魔法を覚えるのは簡単なので、
 それほど尊敬される職業ではないでしょうね。
 
 魔法を登場させるなら、魔法を生活基盤に取り込んだ世界がいかなるものであるか、
 細部にわたって想像できないとリアリティが生まれません。



●例2
 もう1つ。
 例えば瞬間移動できる魔法があるとしましょう。
 これは、魔法学院の中等科で教える魔法で、
 魔法使いの称号を得た人なら、誰でも使えるという設定です。
 これを踏まえた上で質問します。
 この世界では、中世ヨーロッパと同じように、
 馬車が上流階級の主要移動手段に使われているでしょうか?


 ……考えてくださいました?(笑)


 ちょっと想像力を働かせればわかると思いますが、おそらくそんなことはありえないでしょうね。

 『時は金なり』はいつの時代、世界でも同じでしょう。
 一瞬で行きたいところへ行けるような瞬間移動魔法があるのに、
 ソレをメインに使わないのはおかしいです。


 趣味や道楽で、馬車を使う人はいるでしょうが、
 大多数の貴族は、お抱えの魔法使いを雇って瞬間移動魔法を移動手段に使うでしょうね。
 そうなったら、城壁や門というものの存在意義が希薄になりますから、
 物理的な防衛施設より、瞬間移動を防ぐための結界技術の方が発展するでしょう。
 城壁も中世と同じモノではなく、結界を生み出すための魔法陣とか呪文とかがビッシリと描かれた、
 不気味なモノになるかもしれません。
 道は、馬車が通ることを想定しない道幅、舗装になるでしょう。
 あなたはどう考えますか? いろいろ想像してみてください。

関連情報・第4研究室 「現実離れ」と「リアリティが無い」の違いとは?

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描きたい展開だけに目がいくと、底の浅い世界になる

 小説を書く一番の動機とは、おもしろい作品に出会い、
 それと同じような小説を書いてみたいと思うことでしょう。
 この想いが強いことは、小説を書く原動力になるので悪いことではありません。
 ところが、この想いにばかり囚われて周囲の事情に目が行かないと、
 底の浅い世界観ができあがります。


●例1
 城の生活がイヤで、国を飛び出したお姫様がいたとします。
 で、お姫様を拉致しようと狙う敵国の兵士がやってきます。
 お姫様は魔法使いで、呪文を唱えただけで、あっさり敵を撃退してしまいました。

 この話にリアリティを感じるでしょうか?
 私はまるで感じません。
 第1に、王城でぬくぬく育ってきた少女に負けてしまうような兵士って、兵士と言えるのでしょうか?
 兵士とは、戦争を想定した厳しい戦闘訓練を受けている者です。
 当然、魔法使いへの対処法なども訓練さているでしょう。
 第2に、王女が魔法使いとしての優れた才能を持っているのなら、
 それ以上の魔法使いを用意して捕獲しようと敵国の軍部は考えないのでしょうか?
 兵士は消耗品じゃありませんし、最初の任務に失敗して王女を警戒させたら、
 再チャレンジの成功率は極端に落ちます。
 「怖い目にあったので、やっぱりお城に帰る!」なんて心変わりされたら、目も当てられません。
 王女を捕らえる千載一遇のチャンスを、ずさんな作戦でドブに捨てるなんてマヌケのやることです。

 このように、
 
 
描きたいことだけに目を向けて、周囲の事情にまで考えが及ばないと、
 リアリティの無い小説になります。

 そんな小説は底の浅さがわかった時点で、多くの読者が見限って読むのをやめるでしょう。

 
●例2
 次の例を出します。
 当サイトの「新人賞の間」に投稿された小説の中にあったセリフです。

「後ろ暗い連中が、あいつらを雇って標的を殺させる。成功率はほぼ10割。規模がでかいから、とりあえず撃退してもまた別な奴がやって来る」

 この作品の中に出てくる暗殺組織「忍」は、ほぼ10割の成功率を誇る暗殺集団だそうです。 
 これだけで、著者が設定を深く考えていないことがわかります。 
 暗殺の成功率がほぼ10割などということはありえません。
 後ろ暗い連中の相手は、おそらくそれなりの有力者です。
 彼らも命がかかっていますから、プロの護衛を雇います。
 プロの護衛は無論、対暗殺者用の訓練を受けています。
 そんな相手と、10回戦って10回勝てる暗殺集団などいないでしょう。
 暗殺というのは敵のテリトリーに侵入して行うのものなので、
 守りを固めている相手に対してはほとんど成功しないのです。
 そうでなければ、世の中の有力者はみんな早死にしてしまいます。
 しかも、「忍」の刺客は、ヒロインである17歳の少女の暗殺に失敗して、返り討ちにされます。
 もう1人、暗殺者が派遣されますが、
 今度は彼女を守る少年に邪魔され任務を放棄して逃げ帰ります。
 子供に負けるような、実に質の低い暗殺集団です。
 こんな組織が、成功率10割なんて数字を出せるなんて信じられません。
 また、とりあえず撃退したら、その時点で黒星がカウントされるでしょう。
 言葉事態に、そもそも矛盾があります。
 これまたリアリティが皆無です。


●例3
 もう一つ、投稿された小説にあった例を上げます。
 「誰がためにキミは泣くの一幕です。
 
 主人公は魔法を教える魔法学園の生徒です。
 彼は学校授業の一環で、
 生徒同士で攻撃魔法をぶつけ合って戦うというバトルロワイヤルに参加します。
 バトルロワイヤルでは魔法の腕輪を身につけます。
 これは生徒の身を守るアイテムで、致死量の魔法攻撃を受けると、
 バトルフィールドの外に瞬間移動されるという便利な代物です。
 主人公は、このバトルロワイヤルを勝ち抜き、
 最後に友人との一騎打ちで最上級攻撃魔法を使います。
 なんと彼は、秘密図書館に保管されていた魔導書を読んだだけで、
 この魔法を覚えてしまったそうです。
 これまた恐ろしいほどリアリティがありません(汗)。

 最上級魔法を本で読んだだけで身につけられるのなら、
 彼は高い学費を払って学校に来る必要がありません。


 学校に通っている理由は、
 魔物を倒す戦士になるためだそうですから、もはや目的を果たしています。
 また、どれほどの天才かは知りませんが、一読しただけで最上級魔法が会得できてしまうなんて、
 この世界の魔法はなんとも底が浅いです。
 さらに、一般生徒に貸与できるほど溢れかえっている魔法の腕輪は、
 この最上級魔法さえ無効化してしまいました。
 スゴイ矛盾を感じます。どこが最上級なのでしょう?
 おそらくゲームの発想で小説を書いているために、こういう事態になってしまったのだと思います。

 ゲームの設定をそのまま小説に転用するようなことをすると、
 オリジナリティだけでなくリアリティすらなくなります。


 注意してください。


●例4
 あるオンライン小説で、このような記述がありました。

 アデプト・クラスの魔法使い。小さな国を1体で滅ぼせるような中級の魔物を、
 1人で倒せてしまうほどの存在である。


 この文章を目にした途端、たいていの人が読む気を無くすと思います。
 どこが悪いか解説しましょう。
 国を滅ぼせるような魔物を、単身打倒できてしまうなら、
 その人間は国家よりもはるかに強大な存在だということになります。

 そんな者がいたら、国家権力というのは成り立たないでしょう。

 彼は神にも等しい存在です。
 強盗、殺人、放火、どんな犯罪を起こそうと誰にもとめられません。
 国王でさえ、彼の自由を束縛することはできません。
 彼の気まぐれ1つで、国家は滅亡します。世界秩序は崩壊です。
 このアデプト・クラスなる者が、世界に数えるほどしかいないのであれば、まだイイでしょう。
 俗世との縁を切り、世界の真理に到達するための研鑽を続けている……
 とかいう設定なら納得できます。世界秩序は守られます。

 しかし、これが、まだ14,5歳くらいのふつう少女だったら、どうでしょう?
 しかも、苦労もなく育ってきたような娘で、血筋も特別なものではありません。
 そんでもって、主人公に誘われて、悪者を倒すための旅にホイホイ従います。
 どうですか? 鳥肌が立つくらいリアリティがありませんよね(汗)。
 どれほどの天才かは知りませんが、たかが10年ほど魔法を学んだくらいで、
 その領域に到達できるなんてふざけています。
 もう、それだけで、ものすごい安っぽさが鼻を突きます。
 しかも、彼女は超イレギュラー存在というわけではなく、
 こんな連中が、主人公の敵や仲間にはゴロゴロしているのです。
 生きる大自然災害が無自覚に徘徊する世界……恐いですね(汗)。

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聖剣、魔剣、霊刀の由来くらいは調べよう
 
 ゲームなどには、エクスカリバー、ティルフィング、ロンギヌス、村雨といった、
 なにやらカッコイイ名前の聖剣、魔剣、霊刀が登場します。
 これらを原作や由来も調べずに、そのまんま小説で使うと失笑を受けることになります。
 
●例
 小夜の手にした刀は「村雨」。
 人の生き血を啜り、魂を咀嚼して持ち主の霊力に変換する妖刀である。 
 その刃で切られた者は、どんな治療法でも傷を治すことができず、
 激痛にのたうちながら死ぬ運命となる。
 いにしえの時代より恐れられてきた最凶の刀だった。
 
 
 一見、もっともらしい説明をしていますが、
 村雨の由来を知っている人には顔をしかめられるでしょう。
 そして、「資料も読まずにテキトーに小説作っているなぁ」と思われて、ジ・エンドです。
 「村雨」とは江戸時代後期の人気小説「南総里見八犬伝」に登場する刀です。
 創作上の剣であり、実在しません。
 また、「村雨」は邪悪な妖刀ではなく、善玉である八犬士の1人・犬塚信乃が使った霊刀です。
 しかし二次創作物では、妖刀として有名な「村正」と混同され、妖刀扱いされることが多いのです。

 もし聖剣、魔剣、霊刀の類を登場させるなら、
 その由来や力を調べ、どこから伝来されたかくらい知っておきましょう。

 
 その他、伝説の武具の名前を借りてきて、
 まったく別の武器、魔法、必殺技の名前に使うという時にも、
 由来を調べておくことをオススメします。
 
 実はネーミングのコツは、そこに意味を持たせることだからです。

 例えば、北欧神話にはトールハンマーという、雷神トールが使う槌があります。
 トールハンマーは、別名『ミョッルニル』と呼ばれ、すべてを打ち砕く力を持っていました。
 投げれば相手を打った後に再び手元に戻り、掲げることで雷を呼び出すこともでき、
 大きさも自在に変えることができたとされています。
 『ミョッルニル』という名前を使うのでしたら、雷に関連する武器や魔法、必殺技、
 強力なハンマーなどに付けた方が、ネーミング的にマッチするのです。

 もし『ミョッルニル』という名前を炎を出す魔法の杖などに付けたら、
 北欧神話を知っている人にとっては、なにかしっくりこないことになりますので要注意です。 

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読者は設定ではなく、ストーリーを読みに来ている
 
 設定資料を細部まで作ることは、その世界にリアリティを与えるために必要な作業です。

 有名なライトノベル作家では「トリニティ・ブラッド」の吉田直さんや、
 「フルメタル・パニック」の賀東 招二さんなども、膨大な設定を書き連ねているそうです。
 事実、彼らの作品は、矛盾など一切感じさせない、完成度の高いモノに仕上がっています。
 設定を作り込むことは、大切なことです。

 ただし、設定はあくまでストーリーを引き立てるための要素に過ぎません。
 
 素人にありがちな失敗として、
 せっかく作った設定を披露したくて、とにかく設定を書き連ねてしまうということが上げられます。
 ストーリーにあまり関係してこない不必要な情報を書き込むと、
 テンポが悪くなるばかりが、読者を混乱させてしまうことになるので要注意です。

 読者は設定ではなく、ストーリーを読みに来ているということを忘れないでください。

 例として、当サイトに投稿された『Libera me〜革命の聖女〜』の冒頭の一文を上げます。

●例
 帝国暦四七七年十二月二十五日――この日、アストリア帝国首都ザンクト・フローリアンにあるエステルハーザ宮殿「天堂の間」は、華麗な礼装に身を包んだ三千人を越える男女によって埋め尽くされていた。
 天才画家ベルナルドゥスとその弟子たちが半世紀の生涯をかけて描いたとされる、天地創造の神話を題材にした荘厳な天井画が列席者たちを見下ろしている。
 広間の奥には大きな真紅のカーテンが架けられ、その前には帝国における最高の地位を担う人々が佇んでいる。
 重臣、大貴族、将軍、その他の高級官僚および軍人たち。彼らは幅三ファーデン(約六メートル)の赤絨毯を挟んで列を作っていた。
 向かって左側が文官の列、帝国宰相グロティウス公爵が最上位を占め、続いて財務尚書(大臣)ホフマンシュタール侯爵、外務尚書ヘーゼルシュタイン伯爵、内務尚書ラインスドルフ伯爵といった面々が立ち並んでいる。


 いかがでしょうか? あまりにも固有名詞の数が多くて、すんなりとは理解できなかったと思います。
 おそらく作者は、細部までこだわって作っていることをアピールしたくて、
 このような冒頭を作ったのでしょうが完全に逆効果です。

 人間の脳は、見知らぬ単語や人名をいっぺんに覚えられるようにはできていません。

 特に、カタカナ文字は日本人には馴染みが薄いため、読みづらく覚えにくいです。
 人名や国名などは小出しにして、
 読者に徐々に飲みこんでいってもらえるように配慮しなければいけません。

●例2
アストリア帝国、ザクソニア王国両国政府は以下の条約を相互に批准、締結する。一、アストリア帝国政府はファルツ大公ハインリヒ四世の公位継承を正式に承認する。二、ファルツ公国はアストリア帝国に対し二億ギルダーの保障金を支払う。三、アストリア、ザクソニア両国はファルツ公国におけるアストリア帝国の宗主権を再確認する。四、アストリア、ザクソニア両国の軍隊はバイエルラント、ファルツ、テューリンゲン、ヘッセン、ウェストファーレンの各領邦の占領地よりただちに撤退する。なお、撤退期限は条約批准より九十日以内とする。五、アストリア、ザクソニア両国は和平と友好の証として、アストリア帝国皇女エリザベートザクソニア王国皇太子フリードリヒ大公との婚約を締結する……」


 このセリフは、同じく『Libera me〜革命の聖女〜』の冒頭の一文です。
 これまた、人名や地名、単価などの固有名詞が多く、なにがなんだかサッパリわかりません。
 すべてを理解しようなどという気には到底なれませんし、
 理解せずに読み進めると、ストーリーが把握できなくなってきます。

 作り込んだ設定を作中で無理矢理全て使おうと思ってはいけません。
 表には出ていなくても、世界観を裏から支えてくれるのが設定です。
 人間ドラマを楽しむべき小説で、設定が大量に掲載されていては、
 読者が離れていく可能性があります。

 設定は必要に応じて小出しにしていくのがコツです。

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世界観に合わない描写をしてはならない
 
 これは、「タブー、これをやってはいけない!」でも触れていますが、

 その世界に無い物を描写に使うと、世界観を壊すことに繋がります。

 例えば、平安京を舞台とした陰陽師ものの小説で、
 キスやデートといった外来語を使ってはいけません。
 キスなら接吻、デートなら逢い引きと、その世界に合った言葉に直さないとダメです。
 ついうっかり、キスやデートなどといった言葉を使うと、舞台の雰囲気が台なしになります。

 また、西洋ファンタジーの世界で、
 『10円玉ほどの大きさの穴』『テレビのように遠くの映像を映しだす鏡』
 『火炎放射器のように杖から炎が迸った』などという表現を使うのはいずれもタブーです。
 10円玉ってなに?
 テレビってなに!?
 火炎放射器って、なにぃぃいい!?  
 と、読者はせっかく西洋ファンタジーの世界を楽しんでいたのに、
 現実に戻されて興ざめしてしまいます。 

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資料も読まずに小説を書いてはいけない
  
 例えば、医者や警察、自衛隊を小説の中に登場させるとしましょう。
 その際は、多少なりとも医者や警察、自衛隊のことを調べてから出してください。
 なにも調べずに、これらの特殊な職業を描こう思ってもまず描けません(汗)。
 街で暴れる凶悪モンスターにやられ役として(笑)、自衛隊をぶつけるとします。
 この際、自衛隊の装備や組織の仕組みに対しての知識があれば、
 それだけリアリティのあるストーリーが書けます。
 自衛隊が移動や輸送に使っている車種はなんなのか?
 各隊員は、どういった武器を貸与されているか?
 階級や命令系統はどうなっているのか?
 これらのことは、当然、自衛隊について調べなければわかりませんよね。
 単純に、バズーカでモンスターを撃った。小銃の乱射を怪物に浴びせた。などという描写より、
 84mm無反動砲でモンスターを撃った。89式小銃の乱射を怪物に浴びせた。
 の方が、カッコイイしリアリティがあるでしょう?
 小さなコトかもしれませんが、
 こういう細部にまで気を配らないと完成度の高い小説は作れません(涙)。
 資料集めというのは大事です。バカにしてはいけません。

 特に、魔法、武術、兵器などの資料はそろえておいて損は無いです。

 ライトノベルを書くのであれば、これらの知識は必然的に必要になります。
 魔法、武術、武器に関する資料は、当サイトの「創作お役立ち本」と、
 第2研究室の「ホントは教えたくない、秘蔵の創作お役立ち本」にて紹介していますので、
 こちらを参考にしてください。 

 また、異世界の世界観を作る際は、歴史や民俗学、宗教学の本を読んでおく必要があります。
 ええ?めんどくさ〜〜。などと思っていると、リアリティのある世界観は作れませんよ!
 近くに図書館があるのなら、そこで借りるのが一番でしょう。
 もっとマニアックな資料やピンポイントに知りたいことがある場合は、
 オンライン書店で資料となる本を探して頼んでみるのも手です。

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幻想を壊す現実性に注意!
 
 物語におけるリアリティとは現実に即していることではなく、リアルっぽく見える美しい幻想のことです。

 一言で言うと、「アイドルはトイレなんて行きません!」ということです。
 現実をありのままに作中で再現したら、リアリティに富んだすばらしい作品になるかというと、そうではないのです。
 これは、女性向けレーベルのライトノベル作家さんにオフ会でお会いして教わったことです。

「中世ヨーロッパにはトイレがなくて、人々は窓から溜まった汚物を捨てていた。とか、平安貴族のお姫様の頭は、実は虱でいっぱいだった。というようなことは、絶対に作中に描いてはいけません。美しい幻想が壊れちゃうでしょう?」
 と、その方はおっしゃっていました。

 女性に人気の物語の舞台として、中世ヨーロッパや平安時代がありますが、その時代をありのままに描いてしまうと、ライトノベルでは不都合な事態になるのです。ラノベというのは、人々の願望や幻想を反映して作られたものなので、それを壊すような現実性を持ち込むのは、自殺行為なのですね。

 お姫様を抱きしめたら、その頭に虱の大群がいたなんて話をされたら、萌えもへったくれもありません。
 ただのホラーです。
 汚物まみれの臭い城や街で恋愛したいなどと憧れる人がどこにいるでしょうか?
 
 ヨーロッパで香水やハイヒールなどが作られたのは、実は街が汚物まみれで、その悪臭をごまかすため、ドレスの裾を汚さないためでした。
 ファンタジーなどでリアリティを追求する場合は、魔法技術の進化発展の背景などを考えておくのが良いのですが、香水やハイヒールに関しては、なぜ開発されたかなどについては、一切言及しないか、別の理由を用意しておいた方が良いです。
 
 物語においては、美しさ、清潔感が大事です。
 
 現実には、キスをしたら、若くてきれいな娘が相手であっても口臭がすることがあって、「歯磨けよ!」と思うかも知れませんが、ラノベの美少女は、イイ匂いしかしません!
 フランスの太陽王ルイ14世はルーヴル宮殿が耐え難いほど不潔だっため、ヴェルサイユ宮殿に移ったと言われていますが、お城というのはピッカピカで、王子様やお姫様が夢のような恋愛をする舞台でなけなればならないのです!

 キャラや舞台のイメージを損なうような場合には、あえて現実性よりイメージを優先させた方が良いのです。

 例えば、漫画『ふしぎ遊戯』の作者、渡瀬悠宇さんは、中国皇帝の一人称は『朕(ちん)』だけれど、これだと登場人物のキャラに合わずに笑ってしまうため、『私』にしたと語っています。
 アニメ映画監督の押井守さんは、その著書「他力本願 仕事で負けない7つの力 」で次のように述べています。

「アニメの中で登場人物が読む新聞は、『クレヨンしんちゃん』であれば記事が縦の線で描かれているだけで十分だ。本物の新聞のように記事や写真が載っていたら、かえって違和感をもたらすことになる』
引用「他力本願 仕事で負けない7つの力 」押井守

 クレヨンしんちゃんは、幼稚園児の男の子が主人公のホームコメディなので、その主題から逸れて世界の広がりを感じさせるような情報は余計であり、隠しておいた方が良いということです。
 なんでも現実に近づければ、作品の質が上がるかと言ったら、そうではないのですね。

 また、ラノベのようなサブカル作品に登場するキャラクターには、以下のようなよく考えたらおかしい暗黙のルールがあります。

・怪力自慢の大男は三下や噛ませ犬であって、技やスピードを武器とする美形に格闘で絶対に勝てません。
 現実には、柔道やボクシングに階級制があるように、力や体格というのは格闘を圧倒的有利にする重要な要素です。
 これは技を極めればどんな力も制しきれるという願望があり、美形が華麗に敵を倒しているところがカッコイイからです。

・美少女戦士は、なぜか兜も着けず、おへそ丸出しの水着のような鎧を着ています。
 防御よりも色気を優先していて、魔物や敵に勝てるのでしょうか?
 これはプレートメイルのような全身鎧を着ていたら、表情が見えず、格闘アクションも萌えないからです。

 他にもライトノベルには人気作『スレイヤーズ』の主人公リナ=インバースのように、若干15歳にして、ドラゴンや魔王より強い美少女天才魔道士が登場します。
 よく考えたら、10代で魔法をほぼ極めているというのは、あり得ないことだと思うのですが、このあり得ないことを納得させるために、リアリティというのが重要になってくるのです。
 リナの場合は、「彼女の本当の年齢は数百歳」「魔竜王が人間に化けている姿である」などの噂が流されていることで、彼女がその世界の中にあっても特異な存在であること、他の生活している人間は我々と大して変らないことを客観的に示すなどの工夫がされています。
 
 つまるところ、ライトノベルに関しては、キャラや舞台のイメージが優先事項であり、リアリティはそのイメージを虚構だと思わせないための補強材料だということです。
 
 事実より願望、イメージを優先させたいというのは、人間の一つの性です。

 例えば、戦国時代に剣聖と謳われた塚原卜伝には、教えを請いに来た宮本武蔵が食事中に突然、木刀で打ちかかったところ、これを鍋ぶたで防いだという伝説があります。
 しかし、実際には宮本武蔵の生まれたのは1584年で、塚原卜伝は1571年に亡くなっているので、これは史実では有り得ません。
 宮本武蔵に関しては、その最大のライバルである佐々木小次郎が想像上の人物で実在していなかった、美形の天才剣士ではなく、60歳を超えた老年の剣士だったとも言われており、その伝説には創作が混入されているようです。

 現実などというのは、おうおうにして身も蓋もなくツマラナイものであり、歴史上の偉人というのは人々の願望によって、その伝説に脚色が加えられているのが一般的です。
 宮本武蔵が塚原卜伝に勝負を挑んでいた方がおもしろいし、謎の秘剣「燕返し」を使う天才美形剣士がライバルの方が、ドラマが盛り上がるわけです。
 その伝説がおもしろければ、事実かどうかなどどうでもイイというのが、人々の本音なのです。
 リアリティを追究する場合は、この点に注意し、読者の見たい幻想や願望をぶち壊しにするような現実性を持ち込まないように気を付けましょう。

 嘘を嘘だと思わせないために挿入された現実っぽさがリアリティの正体であり、現実をありのままに描くと幻想が壊れて、物語が台無しになることがあるのです。

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