2013年3月11日(月)

震災から2年 世界の原発は今(1) アメリカ

傍田
「今日(11日)の特集『ザ・フォーカス』は、『世界の原発は今』と題して、2日連続で各国の最新の原発事情を取り上げます。
1日目の今日は、アメリカ。
現在、世界で430基を超える原発のうち、最も多い104基を抱える原発大国です。」

鎌倉
「東京電力・福島第1原子力発電所の事故から2年。
オバマ政権が国を挙げて原発を推進する一方、エネルギー事情の変化や使用済み核燃料の保管費用など、採算が取れるかどうかに厳しい目が向けられるようになり、アメリカの原発政策は曲がり角を迎えています。」

アメリカ 岐路に立つ原発

ニューヨーク中心部マンハッタン。
2月、市内有数の一流ホテルでウォール街の投資家たちを集めた会議が開かれました。
主催したのは、アメリカのNEI=原子力エネルギー協会。
原発業界で作る団体で、原子力への投資を呼び込もうと、著名な投資家など1500人を招待しました。

「アメリカの原発は世界一安全です。」

協会のトップ、フェルテル氏は、この2年で原子力に対する市民の信頼は回復し、アメリカの原発は極めて安全だと強調。
原発への積極的な投資を呼びかけました。

原子力エネルギー協会CEO マービン・フェルテル氏
「原発の安全性に自信があります。
アメリカは安全面にとても厳格で、安全性が最優先されるのです。」

福島第一原発の事故を受けて、アメリカの原発業界は安全対策の強化に力を注いできました。

ニューヨーク州のナインマイルポイント原発。
「フクシマプロジェクト」として徹底的に事故原因を分析しました。
その結果、すべての電源が失われた場合への対応が最も重要だという結論に達し、最新の安全対策を導入しました。
1台しかなかった大型のポンプ車や発電機を大幅に増やし、原子炉を長時間にわたって冷やし続けることができるようにしたのです。
安全対策を進めるアメリカの原発。
しかし、今、コストという大きな課題に直面しています。

ウイスコンシン州、キワニ原発。
採算が合わないという理由で廃炉が決まりました。
背景にあるのは、アメリカで急激に開発が進められている「シェールガス」です。
「シェールガス」の出現によって、ガスを燃料にする火力発電のコストが低下。
その結果、原発の価格競争力が落ちたのです。
アメリカでは、地域によっては、原発による電力と火力発電による電力とが競い合う形で売買されています。
エネルギーの専門家は、競争力が低い4基から5基の原発が廃炉の危機にあると指摘しています。

エネルギー関連コンサルタント ブルース・ビーワルド氏
「現在の電力市場において、巨額の投資を必要とする原発は経営を続ける合理性を失っています。」

原発から出る核のゴミ、使用済み核燃料の保管にかかる費用も原発のコストを押し上げています。
最終処分場として国が整備する予定だったネバダ州の「ユッカマウンテン」。
地下水が汚染されるおそれがあることなどから、計画が破棄されました。
今年(2013年)1月には、処分場の整備が2048年まで事実上、先送りにされることが決まり、行き場のない使用済み核燃料が各地に留め置かれる事態になっています。

北東部メーン州にある、「メーンヤンキー原発」の跡地を訪ねました。
9年前に廃炉作業が終わり、跡地には自然が戻っています。
しかし、一角に目を向けると、コンクリートでできた四角い物体があります。
「キャスク」と呼ばれる、使用済み核燃料を収めた容器です。
その数は、60以上にのぼります。
撮影のため敷地内に入ろうと近づくと、止められました。

電力会社職員
「この道より先は立ち入り禁止です。
警備員に呼び止められますよ。」

テロを警戒して、24時間体制で警備が続いています。
屋外に「仮置き」されたままの“核のゴミ”。
仮置きの施設をつくるのにおよそ20億円、維持や警備にも年間7億円かかっています。
いずれも電気料金に上乗せされ、原発の競争力の低下につながっています。
撤去のめどがたたない核のゴミ。
住民からは、失望と不信の声が上がっています。

レイモンド・シャディスさん
「原発跡地はここから西に2キロです。」

レイモンド・シャディスさん。
メーンヤンキー原発の近くで30年以上、暮らしてきました。
廃炉が決まったときには、原発跡地が住宅地や商店街などとして住民のために使われることを願ってきました。
しかし、使用済み核燃料の処分のめどがつかない今、原発の厳しい現実をあらためて実感しているといいます。

レイモンド・シャディスさん
「あの使用済み核燃料は100年以上なくならないでしょう。
未来の世代に有毒な負の遺産を意図的に残すのは、おそらく人類史上、私たちだけです。」

安全対策導入で原発推進へ

傍田
「スタジオには、取材にあたった小原記者に来てもらっています。
福島第一原発の事故から2年が経って、アメリカでは少なくともその原子力業界の側は、原発推進に向けた動きを加速しているように見えますけども、どういう状況なんですか?」

小原記者
「事故から1年前の去年(2012年)3月、2年目となる今年で明らかに違うのは、仰ったとおり、原発業界による新たな安全対策、目に見える形で導入され始めたということかと思います。
この安全対策、もともとはアメリカの原子力規制委員会が各地の原発、全ての原発に対して求めていたもので、それに応える形で導入が始まったと。
VTRの中でも紹介したポンプ車ですとか、発電機、こういったものは前からあったんですけれども、ただやっぱりポイントとなるのは、福島第一原発事故のように複数の原子炉でメルトダウンが起きてしまう様な事態、これを未然に防ごうということで、なので大幅に増やしているという様な事になるんですね。
福島第1原発事故っていうことは、基本的には原子力規制委員会が分析を続けているんですけれども、原子力業界としては、この安全対策、自ら『フレックス』と名付けているんですが、これを独自に導入することで、それをさらにアピールする事で、事故で広がった不安を払拭して、再び原子力への投資を呼び込もうというのが狙いなんだということです。」

コストの壁 廃炉になる原発も

鎌倉
「そういった状況がある中で、一方で採算が取れないということで廃炉になる原発もあるわけですよね、この状況はどう見ればいいんでしょうか?」

小原記者
「今回の取材を通して、アメリカの原発の運営を左右するものは、どちらかというと市民の反対の声の高まりというよりもコストなんだということを…。」

傍田
「採算とれるかどうか?」

小原記者
「そうなんですね、すごく実感したんですね。
VTRで紹介した廃炉が決定した原発っていうのは、実は国から運転期間の延長が認められたばかりで、これから10年は運営できるというような状況だったんですね。
しかし、結局『シェールガス』、今、非常に注目されていますけど、その掘削などによる天然ガスの価格の下落というのが想定以上に進んでまして、それが結局、廃炉に追い込んだということになります。
背景には、やっぱりアメリカでは『電力の自由化』がありまして、その地域によっては、原発が生み出す電力と火力発電による電力が、ある種、市場原理に基づいて売買が競争的に行われているんですね。
そうした中、天然ガスの価格の下落というのは、実はエネルギー全体の価格下落に非常に一致していまして、そうした中、もともと原発は、例えば安全対策ですとか、更に老朽化の対策、それに将来の廃炉の費用とかも実は電力の価格に上乗せされているんですね。
そうしたコストがある関係で、例えば中西部など、人口の密度があまり高くない地域、こういった所では原発による電力の価格が他の電力よりも相対的に高くなってしまいまして、原発のメリットが薄れているということがあると思います。」

傍田
「アメリカで起きているシェール革命が、原発を取り巻く状況にも随分影響を与えている構図になっているわけですね?」

小原記者
「そうですね。」

原発への意識 どう変化?

傍田
「小原さんは、震災の直後からアメリカの原発っていうのを継続的に取材しているわけですけれども、国民の意識は、アメリカの人たちの原発に対する意識というのは、今どういう状況にあるというふうに見ればいいですか?」

小原記者
「福島第1原発の事故の直後は、アメリカでも原発の反対運動が各地で沸き起こって、私もニューヨークを中心に東海岸を随分取材して、すごく勢いは感じたんです。
ただ、その反対運動が事故から1年目となって、そのころはまだあったんですが、2年目と近づいてきますと、だんだん勢いを失ってきているように感じています。
その理由はなんだろうかとなりますと、福島第一原発の事故が、どうも日本特有の事故なんじゃないかという認識が広がっているという事情もあると。」

鎌倉
「どういうことですか?」

小原記者
「それはですね、アメリカの地元メディアを見てますと、やっぱり福島の事故について、東京電力の災害に対する備えが不十分だったんではないかとか、政府の対応がよくなかったんではないかという様な指摘がありまして、それが広がっているということがあるのではないかと受けてます。
さらに結局、記憶がだんだん事件後から時間が経って遠のいていることもありまして、こうした状況は、意識の変化にあらわれているんではないかというふうに見ています。
そうした中、住民の反対運動というよりも、コストの面で原発が廃炉に追い込まれるというのは、私自身も取材をしていて驚かされました。
また、アメリカでは20を超える原発が、計画されているんですが、実際には進んでいなかったり、(計画が)中断している原発が多いんですね。
要因としては、結局メドが立たない使用済み核燃料の問題、こちらの問題も関係していると指摘されていまして、原発推進を抱えている世界最大の原発大国アメリカでも、計画通りに原発を推進することの困難さに直面しているというのが福島第一原発事故から2年経って、あらためて見えてきているなというふうに思っています。」

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