奇跡の豪脚 ミスターシービー
英国の詩人バイロンは「真実は小説より奇なり」と言ったが、誕生のエピソードからレースぶり、競走人生に至るまで、小説顔負けのドラマを演じたのが、史上3頭目の三冠馬に輝いたミスターシービーである。
父のトウショウボーイと母のシービークインは現役時代に同じ新馬戦でデビューし、先行争いで天賦の才を競い合った間柄。シービークインの馬主であり、生産者でもある千明大作氏は、その時に目の当たりにしたトウショウボーイのスピードに魅せられ、愛馬の繁殖入りに際し、配合相手にトウショウボーイを選んだ。オークス3着、毎日王冠のレコード勝ちなど快足で鳴らしたシービークインと“天馬”トウショウボーイの仔なら、きっと一流の逃げ馬となるに違いない。そんな千明氏の青写真で誕生したミスターシービーは、神の悪戯か、稀代の追い込み馬へと成長を遂げていく。そして、シービークインは運命の仔を授かって以降、何故か産駒に恵まれることはなかった。
母同様に手綱を吉永正人騎手に預けたミスターシービーは、初陣こそ親譲りのスピードで先行したものの、2戦目以降は追い込みに転じ、スリリングな走りでファンの熱狂的な支持を集めていった。不良馬場の皐月賞では泥だらけになりながら接戦の末に優勝。ダービーはスタートで出遅れる波乱の幕開けから、直線で豪快な末脚を繰り出してスタンドを興奮の坩堝(るつぼ)に変えた。当時のダービーは出走頭数が多く、序盤で10番手以内につけることが勝利のセオリーとされていた。ミスターシービーの破天荒なレースぶりは人々の度肝を抜き、その末脚は“神業”とさえ言われた。そして、夏風邪の影響で前哨戦4着からの挑戦となった菊花賞。「ゆっくり上り、ゆっくり下る」が定石とされる2周目の3コーナーで、早くもミスターシービーはスパートを開始した。早すぎる――。誰もがそう思ったが、直線では脚勢が衰えるどころか、逆に後続を突き放す強さを見せつけ、昭和58年のクラシックを壮大な叙事詩へと昇華したのだった。
翌年は天皇賞(秋)にも優勝。番組改革により3200メートルから2000メートルに短縮された伝統の一戦で、導入されたばかりのターフビジョンが英雄の姿を映し出すと、観衆は新たな時代の風に沸いた。競走生活後半は1歳下の三冠馬シンボリルドルフの躍進に押される格好となったが、その哀愁さえも人気の原動力とし、人々の心を捉えて離さなかった。引退後は皐月賞2着のシャコーグレイド、天皇賞(秋)3着のヤマニングローバルらを出し、晩年は千明牧場で母シービークインとともに穏やかな余生を過ごした。
血統表
| ミスターシービー 牡 黒鹿毛 昭和55年4月7日生 浦河・千明牧場生産 調教師 松山康久(美浦) 馬主 千明牧場 |
父 トウシヨウボーイ 1973 鹿 |
テスコボーイ |
Princely Gift |
|---|---|---|---|
| Suncourt | |||
| ソシアルバターフライ |
Your Host | ||
| Wisteria | |||
| 母 シービークイン 1973 黒鹿 |
トピオ |
Fine Top | |
| Deliriosa | |||
| メイドウ |
アドミラルバード | ||
| メイワ |
成績表
通算 15戦8勝
| 年月日 | 場 | レース名 | 距 離 | 着順 | タイム | 斤量 | 騎 手 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 昭57.11.6 | 東京 | 新馬 | 1600 | 1 | 1:38.5 | 54 | 吉永 正人 |
| 57.12.4 | 中山 | 黒松賞400万下 | 1600 | 1 | 1:36.3 | 54 | 吉永 正人 |
| 57.12.25 | 中山 | ひいらぎ賞800万下 | 1800 | 2 | 1:50.4 | 55 | 吉永 正人 |
| 58.2.13 | 東京 | 共同通信杯4歳S | 1800 | 1 | 1:49.5 | 55 | 吉永 正人 |
| 58.3.6 | 中山 | 報知杯弥生賞 | 1800 | 1 | 1:50.2 | 55 | 吉永 正人 |
| 58.4.17 | 中山 | 皐月賞 | 2000 | 1 | 2:08.3 | 57 | 吉永 正人 |
| 58.5.29 | 東京 | 東京優駿 | 2400 | 1 | 2:29.5 | 57 | 吉永 正人 |
| 58.10.23 | 京都 | 京都新聞杯 | 2000 | 4 | 2:03.2 | 57 | 吉永 正人 |
| 58.11.13 | 京都 | 菊花賞 | 3000 | 1 | 3:08.1 | 57 | 吉永 正人 |
| 59.10.7 | 東京 | 毎日王冠GII | 1800 | 2 | 1:47.5 | 59 | 吉永 正人 |
| 59.10.28 | 東京 | 天皇賞(秋)GI | 2000 | 1 | R1:59.3 | 58 | 吉永 正人 |
| 59.11.25 | 東京 | ジャパンカップGI | 2400 | 10 | 2:28.2 | 57 | 吉永 正人 |
| 59.12.23 | 中山 | 有馬記念GI | 2500 | 3 | 2:33.3 | 57 | 吉永 正人 |
| 60.3.31 | 阪神 | サンケイ大阪杯GII | 2000 | 2 | 2:01.4 | 59 | 吉永 正人 |
| 60.4.29 | 京都 | 天皇賞(春)GI | 3200 | 5 | 3:22.3 | 58 | 吉永 正人 |
※レース名は当時の表記による
主な産駒
- ヤマニングローバル……デイリー杯3歳S、アルゼンチン共和国杯、目黒記念
昭和61年顕彰馬選出
2012.5.26 レーシングプログラム掲載