京都府・城陽市。
子どもも大人も食い入るように見つめる先には・・・
京都に本拠地を置く、サッカーJ2「京都サンガF.C.」の選手たち。

3年ぶりのJ1昇格を目指して、今月から練習を開始。
城陽市の練習場には、熱心なサポーターが訪れています。
(Q.どこのチームのファン?)
<サポーター・子ども>
「サンガ!」
(Q.どこが好き?)
「パス回しが上手いところとか」
<サポーター・男性>
「やっぱり地元やから。ホーム(試合)は全部行ってます」
そのサンガ、現在は京都市の「西京極競技場」をホームグラウンドとしていますが、府はおととし、サッカーなどの専用球技場を建設すると発表。
先月、ある自治体が誘致に成功しました。
その舞台とは・・・
あの「保津川下り」で有名な亀岡市です。
京都府の西部に位置し、人口およそ9万人の都市です。
<記者リポート>
「建設予定地は、亀岡駅の北口を出てすぐの所なんですが、今は見渡す限り田園風景が広がっています」
こちらのJR亀岡駅北側のおよそ13ヘクタールの農地に建設されるのです。

スタジアムの誘致には、亀岡市、京都市、城陽市などが名乗りをあげましたが、最終的に府は総建設費がおよそ113億円と最も低いことなどから、亀岡市に決定したのです。
これは、亀岡市が誘致に向けて独自に作成した完成イメージ図です。

亀岡市から徒歩3分、完成すれば2万5,000人を収容できます。
しかも西京極にあるような陸上トラックが無く、間近でプレーが見れる迫力満点のスタジアムになります。
今回の決定を受け、人口減少や不景気に悩む地元経済界は「活性化の起爆剤になる」と期待を寄せています。
<亀岡商工会議所 渡邉裕文会頭>
「喜んでる人が多いですね。商店とかホテルとか、みんな(建設を)計画してますからね。一部は住宅とかね」
こちらのスタジアム誘致をマニフェストに掲げ、再選を果たした亀岡市長は・・・

<亀岡市 栗山市長>
「亀岡がテレビを通じて(ニュースなどで)放映してもらえますよね。それだけでも、知名度がすごく上がる、計り知れない効果がある」
地元にとっては、夢のようなスタジアム構想。
しかし、サポーターからは不安の声も上がっています。
<サポーター・女性>
「(亀岡は)さすがに遠いので、仕事帰りとかいけないなとか思って」
<サポーター・女性>
「行きたいですけど、やっぱ遠いなと」
<サポーター・男性>
「交通が不便なので。わざわざあちらの方までとなると、ちょっと足が遠のくかな」

サンガは、京都市や府南部をホームタウンとし、サッカー教室などを開いてサポーターを増やしてきただけに、亀岡の新スタジアムまで足を運ぶのか心配されているのです。
しかも、人口147万人の京都市に立地している「西京極スタジアム」でも、1試合の集客は平均8,000人ほど。
それが人口9万の亀岡市に移れば、集客は容易ではありません。
西京極の担当者は、そもそも今の施設で十分試合は行えるといいます。
<財団法人京都市体育協会事業管理課 西村文秀課長>
「競技場としては劣ってるとは思っていないんですね。一定の老朽化はあるが日常的にこまめに修繕して、できるだけ利用者に気持ちよく使っていただけるように努力はしています」
しかし、京都府は府内に1つは大規模な球技専門競技場が必要だと主張。
集客面については、京都駅から快速電車でおよそ25分、今年度末にも大山崎インターチェンジと沓掛インターチェンジ間が繋がる高速の「京都第2外環状道路」が完成するなどアクセスが改善されるため、問題は無いと説明します。
ところがサポーターを呼び込めたとしても、巨大な施設のため維持費の問題も出てきます。
神戸市・兵庫区。
こちらは昨年までJ1だった「ヴィッセル神戸」の本拠地、「ホームズスタジアム」。
もともと球技専門施設として建設されました。
しかし、中に入ってみると・・・
最新設備の整ったスポーツジムや、サウナ付きの温水プール。
さらには、ピッチの間近で挙式ができる結婚式場まで・・・

チケット収入だけでは維持できないため、施設を有効活用せざるを得ないのです。
<神戸ウィングスタジアム 森博之社長>
「売り上げが約6億円、支出もそれに近い形で。なんとか収支トントン、若干黒字と」
150万人都市、神戸の中心部にあり、昨年までJ1だったチームのホームスタジアムでも難しいスタジアム運営。
さらに亀岡市でのスタジアム建設によって、ある絶滅危惧種の生息が脅かされる恐れがあるというのです。
その生物とは…
去年暮れ、京都府の球技専用スタジアムの建設が亀岡市に決定しましたが、集客面などに不安の声も上がっています。
ところが問題は集客面に留まらず、スタジアム建設によってある希少生物の生息に影響が出る可能性も指摘さているのです。
一体どのような生物なのでしょうか。
(Q.この川には何がいるんでしょうか?)
<亀岡市環境政策課 木村彦司課長>
「天然記念物に指定されています、『アユモドキ』」

アユという名がつきながら、ドジョウ科の変わった生物、「アユモドキ」。
国の天然記念物に指定され、種の保存法という法律で保護されています。
実はこの場所、スタジアムの建設予定地のすぐそばなんですが、「アユモドキ」の数少ない生息地があるのです。
<亀岡市環境政策課 木村彦司課長>
「天然記念物を獲れば、5年以下の懲役または100万円以下の罰金。それほど貴重だということですね」
「アユモドキ」、生息数が減り絶滅が危惧されていて、今では亀岡市と岡山県でしか生息していません。
日本に残るもう一つの生息地、岡山では天然の「アユモドキ」がほとんど見られなくなり、人工産卵場を整備したり小学校など地域ぐるみで繁殖・飼育するなど、種を絶やさぬよう保全活動が行われているのです。

<岡山市の男子小学生>
「ふだんエサをあげたり、たまに(水槽の)ゴミを取ったりしています」
<岡山市の女子小学生>
「(岡山市の)瀬戸町か京都にしかいないから、これからは守っていきたいと思っています」
亀岡市でも数が減ってきていたため、外来魚駆除など10年前から保全活動などに精力的に取り組んできました。
しかし、ここにきて目と鼻の先に巨大スタジアムの建設。
専門家は周辺の開発が進めば、「アユモドキ」の生態系に影響を与える可能性があると指摘します。
<琵琶湖博物館 松田征也総括学芸員>
「田んぼの中で繁殖するという話もありますので、田んぼがあるということ、その田んぼにいく水路、それから落差がないことも重要になってきます。(開発で)都市化が進めば、そういった環境が失われる可能性は高いので、そうなれば『アユモドキ』たちの住める所が減っていくと考えられますね」
新スタジアムをめぐって懸念される、環境面や採算面の問題。
京都府はどう考えているのでしょうか。
<京都府 山田啓二知事>
「『アユモドキ』に関しては、きちんとしたサンクチュアリ(保護地区)を設けながらやっていくという形で、亀岡市さんが非常に配慮していただいるところです」
一方、採算面については・・・
<京都府 山田啓二知事>
「体育館よりも運営費が安く行ける場合があります、そういった例があります。というのは、体育館は照明とか暖房とか冷房がありますけど、少なくともスタジアムでは暖房も冷房もいりませんしね。十分費用対効果としては、府民のみなさんに納得いただけると思ってます」
早ければ、4年後にも完成する新スタジアム。
多くのサポーターを呼び込み、地域の活性化につなげることができるのか。
行政の手腕が試されます。
|