小児甲状腺がん3人発症 福島県の検査に母、不信感
わずか数十秒、他機関と結果ずれ
福島県の「県民健康管理調査」検討委員会は先月、18歳以下の2人に甲状腺がんが見つかったと報告した。昨年9月に1人が判明しており、計3人となった。県は福島原発事故との因果関係を否定するが、「安全神話」に徹した姿勢に批判は強い。何より、検査データを当事者にすら十分開示していない。保護者たちの不信と不安は募るばかりだ。(林啓太)
「県の検査は『安全です』という結果ありきではないかと…」。福島県伊達市の主婦島明美さん(43)は、そうつぶやく。
手には小学5年生の長女(11)が受けた甲状腺検査の報告書があった。「異常は見られませんでした」と記されていた。
だが、島さんは市内の診療所で再検査させた。すると、液体のたまった囊胞(のうほう)が2つ見つかった。中学1年の長男(13)も、県の検査では囊胞が1つだったが、2ミリ大が2つ見つかった。
同市の主婦津田亜紀子さん(39)も県の検査に納得せず、別の医療機関で子どもを再検査させた。結果は異なっていた。
小学6年生の長男(12)と5年生の長女(11)で、県への問い合わせで、長男は「最大2.5ミリ」、長女は「複数」の嚢胞があることが分かった。
別の医療機関の検査結果では、長男の囊胞は最大3.8ミリが2個で、長女の囊胞は4ミリ大を筆頭に12個以上。長女の検査写真には、囊胞のつぶが無数に写っていた。
環境省発表 長崎など3県、福島より高く
ただ、囊胞が被ばくの結果とは言い切れない。環境省が8日に発表した長崎など3県での子どもの甲状腺検査では、計56.6%に小さなしこり(結節)などが見つかった。約41%の福島県より高い。八王子中央診療所(東京都八王子市)の山田真医師(小児科)も「囊胞と結節は、がんと直接は関係がない」と指摘する。
それでも、島さんや津田さんらの不安は尽きない。県の検査への姿勢に粗さが目立つからだ。
例えば、時間だ。県の検査で甲状腺に超音波を当てる時間は、異常な所見がない限り1人当たり短いと数十秒。たいていは2〜3分だ。広報担当は「詳細な検査が必要な人を見つけ出す『スクリーニング』」と話す。
一方、島さんが再検査に利用した診療所は、10分以上かけて調べた。その診療所とは別に再検査を受け付けている「ふくしま共同診療所」(福島市)所長の松江寛人医師(放射線科)は「たった数十秒では、がんにつながる重要な病変を見落とす可能性がある。一見、異常な所見のない子どもでも15分はかけて調べるべきだ」と言う。
事故との関連なお論議も
先月の「県民健康管理調査」検討委員会の発表では、甲状腺がんの3人以外に7人が疑いがあるとされた。席上、県立医大の鈴木真一教授は「甲状腺がんは最短で4〜5年で発見というのがチェルノブイリの知見」と述べ、福島原発事故との関連を否定した。
だが、世界保健機関(WHO)によると、大人を含む甲状腺がんの発生率は人口10万人に対して男性1.7人、女性4.7人。山田医師は「患者とその疑いのある人が、3万8千人のうち10人。割合は多い」と指摘する。事故との関係を、本当に否定できるのか。
鈴木教授の「上司」にあたる山下俊一・県立医大副学長が約20年前に書いたチェルノブイリ原発周辺の子どもの甲状腺がんを研究した論文を読むと、疑問が浮かぶ。
山下氏が放射線影響研究所の長滝重信元理事長らと執筆した論文は「チェルノブイリ周辺の子どもの甲状腺の病気」。事故時に10歳以下だった約5万5千人を検査し、4人を甲状腺がんと診断した。「放射線への感受性が高い小児は、初期の急性被ばくとその後の低線量被ばくで甲状腺が傷つけられる可能性がある」と懸念を示していた。
北海道の深川市立病院の松崎道幸医師(内科)は、福島県郡山市の児童・生徒らが市に対し「集団疎開」を求めた仮処分の申し立てで、「山下論文」を基に「福島の小児甲状腺がんの発生率はすでにチェルノブイリと同じか、それ以上になっている可能性がある」との意見書を作成した。
保護者らが不安を覚えるのは当然であり、その解消には検査データの伝達、公開こそが前提となるはずだ。
ところが、県の対応はその逆。今回の発表でも、がんや疑いがあるとされた子どもたちの年齢や居住地区、被ばく線量などは伏せられた。山田医師は「これでは放射線と甲状腺がんの関連を考察できない」と県の姿勢を批判する。
詳細情報 当事者に非公開
当事者への情報公開も不十分だ。県の検査で高校2年生の長女(17)に複数の囊胞が見つかった伊達市の主婦大山かよさん(49)は、詳しい報告書や超音波で撮った写真を求めたが、担当者は「渡せない。見たければ情報公開請求をして」と伝えてきた。情報公開制度は時間がかかり、資料の複写の費用なども自己負担だ。県健康管理調査室は「調査を素早く進めるため」と釈明するが、大山さんは「データは当事者のものなのに」と憤る。
島さんのように別の医療機関で子どもに再検査を受けさせる保護者が増えている。松崎医師は県の対応にこう忠告した。「情報を隠そうとすればするほど、保護者の不信の蓄積は募っていく。県にはもっとオープンになり、一緒に甲状腺がんの脅威に立ち向かう、という姿勢を示すべきだ」
県民健康管理調査 福島県が福島原発事故を受けて、全県民を対象に実施している。被ばく線量を推計する「基本調査」と、事故後の健康状態を把握する「詳細調査」がある。甲状腺検査は詳細調査の一環で、事故発生時に18歳以下だった36万人が対象。計画的避難区域の居住者から始まり、2011年度までに詳細な検査を終えたのは3万8000人。
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