行政は調べずに「安全」主張
静岡市は昨年10月以降、本格受け入れを開始し、12月までに700トンを処理したという。
同市廃棄物政策課によれば、「もともと飛灰も溶融できるとの触れ込みだったのですが、竣工後にどうも調子が悪かった。原因を調べてみると、飛灰が舞い上がって溶融されず、そのまま煙道に入ってしまい、煙道を閉そくするなどの問題が生じたため、飛灰はいっさい溶融していません」と説明する。
焼却灰のみの放射能量でも67万2000ベクレル。溶融後に回収できているものは36万6400ベクレルだから、いまだ半分近い、30万ベクレル以上が不足する計算だ。
こうした一連の指摘について聞いたところ、同課の担当者は「バグフィルターでほぼ100%捕捉できるので安全である。一応それで大丈夫だと判断している。総量の話は我々としては考えてない。通常運転時の静岡市のゴミと変わらないというスタンスです。市民による調査結果については、見ていないのでコメントを差し控えさせていただきます」と回答した。
環境省はのちに「島田市の試験焼却データに関する見解について」との文書を公表し、野田氏の推計に対して反論している。
これによれば、(1)仮定に適切ではないものが含まれている、(2)排ガスの放射性セシウム濃度は検出限界未満(ろ紙で1立方メートルあたり0.33~0.46ベクレルが検出限界)であり、「安全性にはまったく問題ありません」、(3)環境省の調査では除去率が99.9%以上と計算されている──ことから改めて問題ないとの考えを示している。
野田氏は「前回の試算に不十分な部分もあるでしょうが、環境省の説明は根拠として十分ではない。今回のように降下ばいじんでも外に出ていることが示されたのだから、行政がきちんと調査をして検証しなくてはいけないはず。なのに焼却・溶融処理を強行していることは安全もないがしろにしているといわざるを得ない。安全ですという一点張りで何もしない行政の不作為に憤りを感じます」と語る。
前出の名古屋大学名誉教授・古川路明氏は今回の調査結果について、こう評価する。
「継続的に測定して検証する必要はあるが、試験焼却の影響でセシウム137の降下量が増えた可能性は十分ある。自治体は放射性物質が含まれているのを承知のうえで引き受けた以上、きちんと調べる責任があるはずです。静岡でこれだけ出るのだから、関東ならより大きな影響があるのではないか。焼却の影響だけでなく、通常でも降り注いでいるものがあるはずです。放射性物質は身の回りにあって良いことはありません。まずは現状をできるだけ正確に把握する必要があります」
行政側の調査結果に問題があることを示しても論理をこねくり回した反論が返ってくるか、無視される。本来なら行政の責任で実施すべき調査が放置され、市民が身銭を切って調べざるを得ない。それが震災がれきの広域処理を取り巻く現状だ。国や自治体はいい加減、現実と向き合うべきではないか。