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 タイトルは全てを語る……。
 もしかしたら、タイトルを変更するかもしれません。
 “英国旗”と書いて“ユニオン・ジャック”と読みます。
第九章 変わりゆく世界~1943年~
第六十九話 紅き鋼鉄の鮫 英国旗を喰らう
12月28日 バルト海

 北ヨーロッパに位置する地中海にして、古来より海上交通網が発達しているバルト海にて、大日本帝国海軍海上護衛総隊所属の第六護衛艦隊の数十隻の艦艇と、黎明艦隊司令長官の二階堂紅蓮海軍大将の命によって臨時編入されている防空巡洋戦艦『吾妻』『八雲』『浅間』『常盤』からなる一大輸形陣が形成されていた。第六護衛艦隊は『相模』級護衛航空戦艦一番艦『相模』を旗艦として、護衛航空戦艦4隻、護衛空母4隻、重航空巡洋艦4隻、護衛駆逐艦24隻で構成されており、実質二個護衛艦隊に匹敵する戦力を保有していた。それに対して、ソ連海軍バルト海艦隊の潜水艦は性能こそ旧式であるものの、配備数が史実よりも多い64隻と大量に配備されており、さらにドイツ海軍Uボートが得意――と言うより専売特許とも言える“群狼戦法”をソ連海軍潜水艦隊が導入したために、12月28日現在までに輸送船18隻22万2582トン、駆逐艦9隻1万1233トン分が撃沈され、さらにバルト海にてイギリス海軍『クイーン・エリザベス』級戦艦三番艦『バーラム』、『リヴェンジ』級戦艦六番艦『レジスタンス』が雷撃を受けそれぞれ中破の損害を受ける等、潜水艦による被害が酷いために、輸送船団護衛に精通している海上護衛総隊が輸送船団の護衛を務める事になったのだ。
 早速、ノーフォークからフィンランドの最前線に存在する自軍及び各国の部隊への物資を送り届けるために、輸送船18隻、商船24隻、タンカー12隻、CAMシップ(カタパルト装備商船)8隻からなる輸送船団――『パイオニア船団』の護衛任務を任され、イギリス海軍からも駆逐艦16隻、特設防空艦2隻、コルベット4隻、そして船団後方に展開する護衛艦隊には『リヴェンジ』級戦艦一番艦『リヴェンジ』と三番艦『ラミリーズ』、空母『スワロー』と『リヴァイアサン』、重巡『ロンドン』『サフォーク』『カンバーランド』『ノーフォーク』、軽巡『ナイジェリア』『マンチェスター』、護衛駆逐艦12隻が護衛に付いたため、その規模は史実の1942年9月2日にナチス・ドイツとの戦争状態にあったソ連に対する救援物資輸送船団であるPQ18船団を凌ぐ程であった。


 第六護衛艦隊旗艦『相模』の艦橋にて、同護衛艦隊司令官の梶岡定道海軍少将は仁王立ちでフィンランド湾を見下ろしていた。歴史の偶然か、彼は史実でも1944年4月8日に結成された第六護衛船団司令を務め、同年9月12日に乗艦の海防艦『平戸』が撃沈した際に戦死した史実の経緯を持っているため、ある意味、歴史の“バタフライ効果”は皮肉なものであった。
 それはそうと、梶岡はもう一度、懐中時計を確認してから、もうそろそろ対潜警戒部隊が燃料補給のために戻ってくる時間だな、と胸の中で呟いた。彼の呟きはすぐさま現実となった。輸形陣を形成する護衛艦隊から先行して、ソ連海軍の潜水艦の警戒・撃退にあたっていた二式艦上対潜哨戒機『東海』一一型と九五式艦上攻撃機三三型が補給のために戻ってきたからだ。『相模』以下航空戦艦は、史実の『伊勢』級航空戦艦よりも徹底的に改装が加わっており、船体中央から後部にかけてV字型飛行甲板となった事で左舷斜面飛行甲板が離艦用、右舷斜面飛行甲板が着艦用と役割を整えた事による作業の簡略化と効率の向上を推進し、エレベーターの配置も飛行甲板中央部と後方部に中型エレベーター、両舷に1基ずつ2基の小型サイドエレベーターと言う配置によって艦載機の収容が素早く行える作業効率の向上に繋がっている。
 右舷斜面飛行甲板に着艦した『東海』と九五式艦上戦闘機はすぐさま右舷のサイドエレベーターで格納庫に収納され、反対に左舷サイドエレベーターからはローテーションで定められた対潜哨戒部隊が飛行甲板に上げられ、左舷斜面飛行甲板にいるカタパルト要員の手によって呉式3号1型油圧式カタパルトに接続されると、飛行甲板の舷側に存在する発進指揮所にいるカタパルト要員が発進ボタンを押す。それと連動してカタパルトが作動、全備重量4000kg近い『東海』を前方に押し込むかのように発進される。先行する対哨戒機部隊は『東海』12機、九五式艦上戦闘機12機の一個中隊24機で構成されており、機体尾部のKMXと呼ばれる日本独自の対潜哨戒用の磁気探知装置を装備しており、史実では15隻を探知し6隻を撃沈させた戦果を持つKMXは、今物語では第一次転移によって輸送艦の中に装置自体とマニュアルが存在していたため、これを空技廠が調査を行った後、“零式1号1型磁気探知装置”として正式採用され、対潜哨戒機を中心に配備が進んでいる。

「まもなくゴトランド島を通過します」

 航海長が透き通った声を上げた。輸送船団から見て左側に見えるのが、バルト海最大の2994平方キロメートルもの面積を持ち、中世においてヴァイキングが支配して通商・貿易の拠点として栄えた歴史を持つスウェーデン領ゴトランド島であった。

「これで、ようやく航路の半分が過ぎたか……」

 梶岡はこれまでの航路を頭の中で思い出しながら呟くように言った。

「ここから、露助共の鋼鉄の鮫が潜んでいると思われているから、油断はできないな」

「まさか。この艦に限って被弾は無いでしょう」

 梶岡の呟きに、参謀長の今里義光海軍大佐はかぶりを振った。

「だって“元ソ連海軍戦艦”の『ガングート』級ですし、第一次旅順沖海戦でも航空機の集中攻撃を受けても姉妹艦共々生き残った“強運・幸運艦”ですからね」

 忘れている人もいるかもしれないが、『相模』級護衛航空戦艦の元となった艦艇は“元”ソビエト海軍第1航空機動艦隊所属の『ガングート』級戦艦であった。第零航空艦隊航空戦隊から発進した述べ200機を超す航空攻撃を、同航空機動艦隊旗艦だった空母『ラプテフ』と共に最終的には日本海軍に捕獲されたものの、幾多の航空攻撃から耐え切り生き残った“強運・幸運艦”であり、旅順海軍工廠で改装された後、『ラプテフ』こと『嵐龍』は黎明艦隊に、『ガングート』級こと『相模』級は海上護衛総隊に配属され、第二の新たなる道を日本海軍の艦艇として歩む事になった経緯を踏まえた上で今里は言ったのだ。

「あぁ。その幸運が今回も起こればいいのだが……」

 今里の言葉に同意しつつも、長年の海軍経験が梶岡自身に言葉では言い表せない“何か”を訴えかける。その彼の心理を移したかのように、バルト海の空は灰色の雲が立ち込めた曇天で覆われていた。


 バルト海の深度40メートル地点に、数隻の潜水艦が沈黙を保ちながら存在していた。その内の一隻――611型潜水艦S-105は史実では存在しない潜水艦であった。そもそも611型潜水艦(NATOコードネーム『ズールー』型潜水艦)は、“奇跡のUボート”と謳われたドイツ海軍『UボートXXI(21)型』をソ連がドイツから戦後賠償として保有したのを、ソ連三大潜水艦設計局の一角にして海洋工学研究所のルービン設計局が開発したのが611型潜水艦であった。UボートXXI型から得た水中行動性能を向上させるための流線型の船体や、ヴァルター機関と呼ばれる高濃度の過酸化水素が分解したときに発生する水蒸気や酸素を利用する熱機関であり、ロケットエンジンにも使用されている技術だ。ヴァルター機関のメリットは燃焼用の酸素を外部から供給する必要がない事にあり、これを知ったドイツ海軍は潜水艦用の水中動力として1937年から開発が始まり、1940年には出力1840kW(2500馬力)の低温式ヴァルター・タービンを備えた排水量80トンの小型試作艦V-80が建造され、潜航中の最大速力26ノットを記録したのだ。だが、当初は無視された形となったものの、第二次世界大戦末期、ドイツ海軍は潜水艦戦の不振を取り返すためにさまざまな水中航行用動力を装備した水中高速潜水艦を建造したが結果的に戦局に影響を及ぼす事が無かったと言う皮肉な結果に繋がった。戦後、水中高速を発揮できるヴァルター・タービン潜水艦は戦勝国に注目され、イギリスとアメリカは1隻ずつXVIIB型(U1406とU1407)を接収して研究調査目的に供し、1956年にイギリス海軍はエクスプローラー級潜水艦2隻を試作したが、大量の過酸化水素が必要であることと、過酸化水素の安全性の問題からほとんど実用に供されなかった。アメリカ海軍でも小型潜水艦X-1で実験はしたが、表面上はより高性能で安全な原子力潜水艦の成功によって取りやめとなり、ソビエトも接収したXXVIの資料を元に616計画で試験を行い、1950年代にS-99潜水艦を建造したが実用化には至らなかった――それが史実でのヴァルター機関に関する出来事であった。
 それを踏まえた上で、なぜ611型潜水艦S-105が存在しているのかと言うと、UボートXXI型の特徴である優れた水中行動性能に加えて、保有している潜水艦が余りに旧式である事に対する次世代型潜水艦の更新を兼ねて航洋型潜水艦として現在まで24隻が就役しているのだ。
 その611型潜水艦の記念すべき一番艦がS-105であり、バルト海艦隊潜水艦隊には就役した12隻全てが編入されて通商破壊に駆り出されているのだ。尚、先ほど申し上げた輸送船・駆逐艦の撃沈及び『バーラム』『レジスタンス』の被雷による中破損害は、全てバルト海艦隊所属の611型潜水艦によるものである。その潜水艦隊司令艦とも言えるS-105艦長兼潜水戦隊司令を務めるパーヴェル・ヴィジマノフ海軍中佐は、潜望鏡を通して映り込む光景を見て、思わず口笛を吹いた。あまりに何重にもいる“獲物”の存在に、潜水艦エースとしての血が騒ぐのに加えて、大規模輸送船団にもう二度と会えないがために一世一代の大攻勢を掛ける事に興奮を覚えているからだ。

「素晴らしい規模だ。戦艦と空母に護衛されている輸送船団――獲物にしては不足無しだ」

「はい(ダー)。これをなるべく多く撃破すれば、赤軍勲章ものです」

 航海長であるドミトリー・アニシェフ海軍大尉も、潜望鏡を通じて大規模輸送船団を覗いた人間の一人である。

『選り取り見取り……狙い甲斐がありますね』

 そしてもう一人――この艦に宿りし精霊にして艦魂――S-105こと『ナイアード』(水の精霊)も自らの目――潜望鏡から見える輸送船団を見た者であった。

「あぁ。中には、宿敵ライミー(イギリス)とヤポン(日本)の戦艦と空母がいるからな――やるぞ。潜望鏡下げ。1番から8番魚雷発射管用意」

 ヴィジマノフは帽子を被り直して顔を上げると、その瞳は妖しく輝いていた。そして対水上戦の命令を魚雷発射管室に通達させる。命令を受けた同室では、潜水艦では初めての機構となる自動装填装置が作動し、従来の533mmから大口径の622mm『Type57』魚雷が発射管に装填される。Type57魚雷にはTNT換算で525kgもの炸薬が弾頭部に充填されており、この高威力炸薬と“もう一つの要因”によって輸送船18隻、駆逐艦9隻を沈め、戦艦2隻を中破にまで追い込んでいる。

「輸送船団を中心に護衛の戦艦と空母を狙う。目標に対して、10時方向から02時方向にかけて扇形を描くように発射せよ」

 扇形に発射する事によって、広範囲に密集している輸送船団と護衛艦隊に多くの被害を被る事が出来る可能性があるメリットを“もう一つの要因”が作用する事によって、より効果的にしかも無駄なく戦果をあげる事が出来るのだ。

「発射10秒後に、『例の信管』を作動させろ。味方に当たっては、どうもこうも無いからな」

「艦長。魚雷発射準備が完了しました。何時でもいけます」

「分かった。では――発射ッ!!」

『受け取れ。少し遅いクリスマスプレゼントだ』

 水雷長の言葉を聞いたヴィジマノフは、力強くも響く声で発射命令を下した。発射命令と同時に、1隻あたり8発――12隻合計96発の622mm/Type57魚雷が力強く海中に飛び出した。全長872cm、直径622mm、全備重量1936kgにも及ぶType57魚雷が、海中を25ノット(46.3km/h)で掻き乱しながら直進していたが、10秒後に弾頭部に存在していた『例の信管』が作動し、信管が探知した“獲物”の方向にへと進路を変えた。

「急速潜航、深度90」

 敵護衛駆逐艦や対潜哨戒機の探知・攻撃から逃れるべく急速潜航する中、魚雷直撃までの秒読みをストップウォッチを使って測っていた。

「……46、47、48、49、50――時間だ」

 刹那、幾多にも及ぶ金属がぶつかり合う甲高い金属音が鈍く響いた。ヴィジマノフは不敵な笑みを浮かべ、周囲の水兵・士官も微笑を浮かべた。勿論、ナイアードも喜びの感情で体中が震えていた。潜水艦と言う兵器に宿る精霊の運命――己の身が砕け散るまで永遠に祖国のために戦い続けなければならない――それしか存在価値が見出せない艦魂の宿命を成し遂げているからこそ、ナイアードは喜んでいた。
 ――“自分は戦争の道具に宿った精霊。ただ祖国のために戦い続けるだけ。それだけを成し遂げる存在”――ある意味、兵士としては“完璧な存在”であったが、戦い続けるしか己の存在価値を見い出せない“哀れな存在”でもあった。

「本当なら潜望鏡を上げて、戦果を確認したいが……現在の状況では無理だな。このままの深度を維持しつつ、戦闘海域を離脱する。後は友軍の潜水艦隊に追撃を任せる」

 戦果の確認よりも艦艇の保全を優先したヴィジマノフの命令によって、12隻の潜水艦は密かに戦場を後にした。


 パイオニア船団護衛艦隊司令ロバート・ブルネット海軍少将は、旗艦『スワロー』の艦橋に立ち尽くし、海上の惨劇を見つめていた。
 海上には幾多の黒煙が噴出し、夜空になりつつある空を焦がしている。
 敵潜水艦から放たれた魚雷が、護衛駆逐艦『フォークナー』『マーチン』『フュリー』、コルベット『カメリア』『ディアネラ』、輸送船『テンプル・アーク』『グーリスタン』『ダン・ヤ・ブリン』『オリガーキ』、タンカー『アセルテンプラー』、給油艦『ブラック・レンジャー』に命中し、水線下に巨大な破孔を穿ったのだ。
 『フォーナー』『マーチン』『フュリー』は竜骨を圧し折られて船体を真っ二つにされ、艦首と艦尾を逆さに立てた状態で沈みつつあり、『カメリア』『ディアネラ』も魚雷命中した直後に天にも轟く大爆発を引き起こし、黒煙が収まった時には艦の姿は海中に沈んでいた。
 『テンプル・アーク』『グーリスタン』『ダン・ヤ・ブリン』は転覆し、赤い下腹を海面に覗かせており、『オリガーキ』は艦尾を中心に浸水したのか艦尾が完全に海中に姿を消し、艦首が天高く聳え立ちながら沈んでいった。
 『アセルテンプラー』『ブラック・レンジャー』の周囲には、船内のタンクから流出した重油が広がり、海面をどす黒く汚している。
 パイオニア船団の他にも、本来安全であるはずの後方に展開している護衛艦隊にも損害が出ていた。
 護衛艦隊司令ブルース・フレーザー海軍中将が指揮を執るために乗艦している旗艦『ラミリーズ』を始め、重巡『サフォーク』『ノーフォーク』、軽巡『マンチェスター』、護衛駆逐艦『モフェット』『ソマリ』が雷撃を受けたのだ。
 『ラミリーズ』『サフォーク』『ノーフォーク』『マンチェスター』は、防水扉と急速注排水装置によって傾斜を押さえたが、排水量1000トンクラスの『モフェット』『ソマリ』は輸送船団の護衛に当たって被雷した護衛駆逐艦と同様の運命を辿っていった。
 これで損害艦は戦艦1隻、重巡2隻、軽巡1隻、沈没艦は護衛駆逐艦5隻、コルベット2隻、輸送船4隻、タンカー1隻、給油艦1隻となる。
 輸送船が搭載していたフィンランド戦線で戦闘を繰り広げている自軍と対フィンランド軍への救援物資には、戦車・装甲車・火砲・航空機と言った、近代戦には不可欠な兵器が大半であり、同時にタンカーと給油艦も失った事でこれも近代戦には不可欠な重油を失った事になる。
 僅か12隻――だが、発射された数は96発。しかもその大きさは水上艦艇が搭載する魚雷発射管と同口径である622mmであるために、その威力は今回の損害に克明として証明された。それだけではない。もう一つの要因こそが答えの“カギ”となっており、それとは弾頭部に搭載されていた“音響追尾(ホーミング)装置”――所謂誘導装置が搭載されていたのだ。仕組みは、艦艇が航行する時に発生する自己発生音を弾頭部の音響追尾装置が探知し、探知した艦艇に魚雷が誘導されると言う画期的な装置であった。しかしこれには思わぬ弱点が存在していた。それは、魚雷自らが出す自己発生音により音響追尾センサーが影響される事であった。これは、史実でも同じ機構を採用していたナチス・ドイツ軍のG7es魚雷にも同じ事が発生していたのだ。これを解消すべく改装を施すものの、根本的な解決には辿りつけず、結果、雷速を25ノットに定めざるを得なかった。しかしながら、雷速が遅い事でその分、航続距離の延長と元からあった追尾性能によって驚異の戦果を上げる事が出来たのだ。
 当然、この事を知らない輸送船団は『ソ連海軍の潜水艦はかなり近くに、しかも数が多く存在している』との判断を下したのか、護衛艦艇が周囲の海中に向けてソナーの電波を照射し続け、上空では対潜哨戒機が必死で海中を探知するものの、ソ連海軍潜水戦隊はとっくの昔に戦闘海域を離脱していたため全くの無意味であった。

「司令。護衛駆逐艦への指示が終わりました」

 参謀長のエドワード・カービー・ジュニア海軍中佐が報告する。

「沈没した艦艇の乗員救助に、護衛駆逐艦3隻を残します。これ以上、戦力を割いては、これから先の護衛任務に支障をきたす場合があります」

「……やむを得ないな」

 ブルネットは、力無く頷いた。
 先に先行していた日本海軍の艦艇には、距離の問題からか奇跡的に損害が無いものの、イギリス海軍の護衛艦艇の損害が大きく、これ以上護衛艦艇を割いては、自国の護衛船団を自国の海軍では無く日本海軍が護衛すると言う現象が起こってしまい、かつて7つの海を支配した栄光ある英国王室海軍(ロイヤル・ネイヴィー)の名に傷が付いてしまう恐れがある。それを考えれば、沈没船の乗員救助に回せる護衛駆逐艦は3隻までが限界であった。
 護衛艦隊司令部から、乗員救助の指示を受けた護衛駆逐艦3隻が隊列を離れ、後方へと引き返して乗員救助の任に就いた。
 健全な輸送船とタンカーは、数を減らした自国の護衛艦艇に護衛されながら、北東にへと針路を取る。
 パイオニア船団は輸送船4隻を失ったものの、救援物資を満載した輸送船14隻、商船24隻、タンカー11隻、CAPシップ8隻はまだ健在であった。
 所詮は三等海軍の悪あがきに過ぎない。我がロイヤル・ネイヴィーと大日本帝国海軍が本気を出せば、受けた損害を数倍返しにしてやろう。
 輝かしい栄光を持つロイヤル・ネイヴィーをイギリス軍人――いやイギリス人として心の底から誇りに感じていたブルネットは、いつか来るであろう“復讐の時”を待つべく、ソ連本国があるであろう方向を殺意を込めて睨んでいた。


 ――後に、ブルネットの“復讐の時”がやって来る事になる。
 ある意味、複雑に絡み合い、混沌としている“その時”と同時に……。
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