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『シェルノサージュ』ボーカルCD&サントラCD発売記念──志方あきこさんと土屋暁ディレクターに直撃インタビュー!
そんなファン待望のCDが満を持して発売されたことを記念して、歌姫であり作中のBGMなども手掛ける志方あきこさんと、ディレクターであり多くのファンを魅了する世界を生み出したキーパーソン・土屋暁さんにインタビューを行った。
※ インタビューには、『試練編最終幕』(セカイパックVol.4)までの軽度なネタバレが含まれるのでご注意ください。
■ お二人の出会いや『シェルノサージュ 試練編』、そして『崩壊編』について
──土屋さんと志方さんの出会いはどのような感じだったのでしょうか。
土屋暁さん(以下土屋、敬称略):以前『アトリエ』シリーズの制作に携わっていた時に、『アトリエ』のファンの方から志方さんのことをお聞きしました。muzie(インディーズ音楽配信&コミュニティサービス)などで楽曲を公開されていたので、楽曲を聴いて「これはすごい!」と思い、次の作品ではぜひお願いしたいなと。それがちょうど『アルトネリコ』(2006年発売)の制作がスタートする直前でした。
『アトリエ』とは違う雰囲気で作品を作りたいと考えていたのと、より民族的であったり、壮大な音楽で盛り上げたいという思いとマッチしていたので、志方さんのCDを5枚ほど購入して、上司たちに説得材料として渡したりしました。そういう経緯もあり、『アルトネリコ』でご一緒させていただきました。
志方あきこさん(以下志方、敬称略):土屋さんと初めてお会いしたのは、実は冬のコミックマーケットの時でした(笑)。土屋さんがごあいさつに来てくださって、興味があるようなら、と誘ってくださいました。その後、資料をいただきまして、土屋さんが描こうとしている世界観にとても感動しました。こんな世界の中で音を作れたらいいだろうなぁと思い、私でできることであればとご協力させていただくことになりました。
──今では土屋さんの作品に志方さんの音楽が欠かせないものになっていると思うのですが、楽曲を制作されるには細かく話し合われたりするのでしょうか。
制作の際には、最初は土屋さんといっぱいお話をさせていただきました。「こういう世界でこういうことをやりたい」とか「こういうものを表現したいんだ」という、土屋さんの『アルトネリコ』についてのお考えを伺って、それに対して私は「では、それはこういうことなんでしょうか?」というように、キャッチボールをしながら勉強させていただきました。
さらにシナリオや資料をたくさんいただいて読み込み、例えばミシャ(『アルトネリコ』のヒロインの1人)だったらこんな時はこう感じるのではないか、とか考えたものを土屋さんに聞いていただいて、そこでまたキャッチボールといった感じでしたね。そうして、キャラクターの性格や世界観を少しずつ深めていきました。
──では新しい作品となった『シェルノサージュ』ではどうだったのでしょうか。
志方:『アルトネリコ』とつながる世界ではあるけど別の軸のお話なので、『シェルノサージュ』らしい表現をしなければいけないということで「これはまたすごい難題がきた!」と思いました(笑)。さらに詳しいお話を伺いながら、『アルトネリコ』以上にアジアとかエスノの要素が出るといいなとか、作品中に天文と地文という対立した組織があるので、方向性の違う表現ができるんじゃないかなとか、いろいろ膨らませていきました。
土屋:志方さんと『アルトネリコ』のプロジェクトでご一緒して一番思ったのが、作曲する方に資料を渡して、互いに必要な部分を確認して「はいどうぞ」という感じで終わるケースも多い中、志方さんの場合、そこから根掘り葉掘り聞いてくるんですよ。「この詩はこう書いてあるんですが、より状況をつかみたいので、前後のシナリオも見せていただいていいでしょうか?」とか。
私はどちらかというと全体を俯瞰して、チェスの駒を動かすようにキャラクターを作ってしまうので、心情などの細かい部分で矛盾とかが生じてしまうことも多いのですが、志方さんはキャラとなって謳う仕事もされるので、キャラクターの心情を汲み取ってくれて、それでよくなったところがすごくたくさんあります。そんな感じで、一緒に世界を創ってもらったなという印象がすごく強いです。
『シェルノサージュ』でもそういう風にかかわってほしいと思ったので、詩だけではなくBGMまで含めて、音楽側から世界を作っていただけませんかということで、特に夢世界関連のサウンドディレクションもやっていただいています。そういうことなので、最初からシナリオや世界観の資料を全部お渡しして、ご協力いただきました。
──『シェルノサージュ』の資料だと、かなりの分量があったと思うのですが。
志方:逆にそれがありがたかったです。こちらから「完成していなくても構わないので出せる資料があれば全部ください」とお願いするくらいなので(笑)。土屋さんの描く世界はとても壮大かつ綿密で個性的な世界なので、それを表現するためには、少しでも資料があったほうが世界に溶け込めて助かるんです。
──普段の音楽作りでも、資料などはすごく読み込まれたりするんですか?
志方:そうですね、資料などはあればあるほど助かります。いただいた資料を読み込んで、そこでインスピレーションをもらい、さらにそれを返させていただいて、どんどん理解を深めていくといった感じですね。
──恥ずかしながら、音楽の制作はもっと直感的なものがウェイトを占めているのかと思っていました。
志方:私は比較的勢いのある曲が得意だったりするんですけど、ヒロインには繊細な表現が必要だと思うので(笑)。例えば『アルトネリコ2』の楽曲『EXEC_over.METHOD_SUBLIMATION/.~ee wassa sos yehar』などは、「あのー、呪詛でもいいですか? 大丈夫ですか?」という感じで、わりと勢いよくすぐにできましたね。
一方で『アルトネリコ』でミシャの曲を考えた時は、本当に悩みました。自分の環境や気持ちに比べて、彼女はすごくかけ離れた特殊な状況に置かれているんですよね。それを身近なものとして捉えたくて、極端なお話になってしまって今となれば少し笑ってしまうのですが、資料やシナリオをブツブツと読んで覚えたあとに、部屋を真っ暗にして「この中で謳い続けるんだ」って言いながら、ろうそくだけを灯して暗い中で作曲をしてみたりとかすることもありました。
空想の世界やキャラクターたちを確かな“肉”を持って表現するには、なんでもやらなくちゃ、という感じで。でもキャラクターの気持ちになりきると、ついついそれを引きずってしまうことがあるので少し困ってしまうんですよね(苦笑)。
──それでは続きまして、少し前に一段落した『試練編』についてお聞かせください。『試練編』の楽曲を制作するうえでのテーマや特に気を配ったことなどはありますか?
──ちょうど話題にも挙がりましたが『試練編』に続いて『崩壊編』となりますが、音楽などはどのようになるのでしょうか。かなり違った感じになるのでしょうか。
土屋:そうですね、『崩壊編』というくらいですから。ただ“崩壊”と言ってもいろいろありますよね。単純にすべてがガラガラと崩れて無に帰するわけではなく、何かが崩れて何かが生まれる“転機”だと思ってください。
『試練編』はプレーヤーの皆様に世界の雰囲気やキャラクターを理解して溶け込んでもらい、なじんでもらうというところが一番大事でした。『崩壊編』ではそんな世界で「実はこんなことがあるんです」というのが示され、今までの4話で培ってきたものに対して衝撃的なものが待ち受けています。
──『崩壊編』では音楽的に「こうしていきたい」ということや、テーマはあったりしますか?
志方:『試練編』のイオンちゃんは生まれたばかりの……ひよこ?(笑)で頼りないけれど、やる時にはきちんとやるというのを表現するのが苦心したところです。『崩壊編』ではもっと世界と密接にかかわることになり、苦悩もするけれどそのうえでどんどん成長していくので、その成長をダイナミックに描いていきたいと思っています。
──今回たくさんの曲を作られていますが、すんなりできたりとか、特に気に入っている曲があれば教えてください。
志方:どの曲も作った時はすべてを出しきった「これで!」というものとはいえ、思い返すともうちょっとこうしたらよかったかなというのはやはりあるのですが、そんな中でも『Ahih rei-yah』は個人的にもすごく好きですね。BGMの方だとシャールの巣で流れる『フラスコの海』、ダイブゲートで流れる『夢の栖』、第三幕で流れる『宵闇の花』が自分の中でもすんなりできましたし、気に入っています。
土屋:あの3曲は、アンケートなどでも本当にすごい人気ですね。
土屋:実はサントラでは、ゲーム上の音楽とミックスがちょっと違うんですよ。
志方:ゲーム上だとPS Vitaのスピーカー特性のことなどもあり、またバイオリンなど人の声とかぶりやすい帯域の音もあるので、その辺は削ったりしています。それをそのまま曲として聴くと物足りなくなってしまうので、すべてサントラ用にリミックスしてあります。あとはゲームだと曲がループ状態で流れていますが、それに対してサントラではエンディングっぽいものを作ったりしているので、ゲームの雰囲気も感じつつ、サントラならではの世界観を楽しんでいただけたらいいなぁと思います。
──『アルトネリコ』でもご一緒されてきましたが、改めて土屋さんからみた『シェルノサージュ』の曲というのはどのようなものでしょうか。
土屋:これはもう、本当に志方さんに感謝しきりですね。さまざまな事情を鑑みて、こちらからはこの曲数でとお願いするわけですが、シナリオを読まれて「ここはこういう曲があったほうがいい」「ここはこうしたほうがいい」「ここはこれがないとちょっとシーンとして盛り上がらない」などいろいろと手を施していただき、ものすごく曲が増えました。私としてはとてもありがたいお話なのですが、ご苦労おかけしました、と(笑)。でもお陰様でどの曲もすごくよいものになっていて、プレイヤーからの評判もとてもよいです。
──BGMだけでなくもちろんボーカル曲の人気も高いですが、作中でも印象的に使われるこれらの詩について、より詳しく教えていただけますか。
■『詩無き丘へ』(オープニングテーマ)について
今回のボーカルCDでは残念ながら短いまま収録していますが、あえてここで切っています。これにもきちんと意味があるのですが、その意味はまだ明かすことはできません。ただし今後、その意味は必ず明らかにしますし、そして後に続くものなので、ぜひその時を楽しみにしていただければと思います。
制作作業的な面では、基本的にOPはいつも私がメロディを作り、そこへ志方さんにコーラスアレンジと歌唱をしていただく形です。こんな感じでお願いしますと伝えると、世界観を汲んで、コーラスを入れて華やかにしていただけるという感じですね。
■『Ahih rei-yah』(試練編第一幕でイオンが謳う詩)について
制作にあたってはアジアの要素、和だったり中華だったり中近東あたりとか、その辺の要素を強くしたいというご要望もいただいていましたし、天文ではなく地文ベースの曲なので、そこを意識して作りました。あとは作中でイオンが詩によって咲かせるのが、花自体が強いイメージを持つ蓮だったので、少し祝詞的な歌詞にしてみたり、どうか咲きますようにと祈るような気持ちを表現しました。
──制作で一番苦労されるのは、そういうイオンの心情的な部分の表現だったりするのでしょうか?
志方:実を言うと、イオン役でとお話をいただいた時には少し戸惑いもありました。『アルトネリコ』の時は強めにいくのが得意なキャラクターにあたることが多かったのですが、イオンちゃんは強いというよりは柔らかい印象が強く、かといって強めにいきすぎるとイオンちゃんらしくない、けれどもやる時はやるというさじ加減が、新しい挑戦という感じでした。
でもよくよくお話を聞いてみると、あとにいけばいくほど、私にお話をいただいた意味合いが強くなってくるというのは感じられました。なので成長する前の頼りないところを表現しつつも、あとで化けるよという片鱗をのぞかせる案配がとても難しかったですね。
■『天地咆吼』(試練編第二幕でカノンが謳う詩)について
志方:こちらは逆に、謳い手の城南海さんがたゆたうような、おおらかで美しく艶のある声をお持ちなので、曲自体は破壊をもたらすものではありますが、それだけにとどまらず、城さんの持ち味を出せる曲にしたいと思って作っています。あと、他の謳い手さんに曲を提供したのが初めてだったので、失礼があってはいけないなと緊張しました。
カノンは気が強い面もありますが、そうせざるを得ない彼女の気持ちだったり優しさだったり、そういうところが少しクローシェ(『アルトネリコ2』のヒロインの一人)に似ているなぁと作曲しながら思いましたね。なので攻撃的な部分がありつつも、なぜそうしないといけないのかというところをきちんと説明できるように、攻撃的な“急”なシーンと、おおらかで“ゆるやか”な「私はこういう気持ちです」というのを伝えるシーンを同居させたいと考え、ああいう緩急のある曲にしました。
──それであのような曲になっていたのですね。では続いて……タイトルがすでに読みにくいといいますか。
■『QuelI->{ein te hyme};』(試練編第三幕でイオンが謳う詩)について
志方:謳うほうとしても、とても難しかったですね。この詩を謳う時のイオンは決意をしているけれど、その決意というのはまだ芽生えたばかりのものなんですよね。なので大々的に出すというのはちょっと違う。けれどきっかけは余興の舞台だったとしても、皇女として出場するからには、それなりの覚悟を見せなければいけないという部分で悩みました。
クローシェの決意は、いろいろあったうえでの切羽詰まったような強さがありましたが、イオンの場合は目覚めたばかりのみずみずしい決意であり、あまり強くなりすぎない、でもしっかり表明しないといけないという感じの決意です。
■ 『ネプトリュード』(試練編最終幕でネイが謳う詩)について
土屋:そうですね、『ネプトリュード』は……。ええと、ネイがネタバレにつながりやすい難しいキャラなので、なかなか言いにくいのですが(苦笑)。今後にご期待くださいということでお願いします。
■“好き”が増えていくのがうれしい
──『シェルノサージュ』も発売して10カ月ほど経ちますが、制作していて印象に残っていることなどはありますか?
志方:どんどん曲が増えていってしまうことですね(笑)。「身を削っているなぁ」というのもあるのですが、それよりもこれだけのものを任せていただけているので、自分なりの表現をしてみたいなぁという思いもあります。
──作曲をされるうえで、自分の中で常に心がけていること、軸になっていることなどはありますか?
志方:その作品を愛していらっしゃる方々に満足していただけるようにしたい、という思いが一番にあります。自分ではこういう風に作るかもしれないと思ったとしても、この作品で考えた場合には、その手法ではなくこうしたほうがいいかなというのは、まだまだ至らない部分も多いですが常に心がけています。そういう風に、作品作りの端っこではありますが表現させていただけることによって、自分の活動でも幅が広がるので、すごくありがたいなと思っています。
──これはどちらかというとプレイヤー視点での話になるのですが、『シェルノサージュ』のお気に入りの部分などがあれば教えてください。
志方:『アルトネリコ』の時から「世界観がすごい素敵!」というのがずっと続いていて、背景などを手掛けられている松本秀幸さんのイラストが本当に大好きなんです。制作過程でイラストを先に見せていただくこともあるのですが、毎回新しいイラストが上がるたびにわくわくしながら見て、「あ、こういう曲が合うかな」って思ったりしています(笑)。
志方:民族でガチガチな感じの曲を作ることが多いのですが、たまにフレンチポップみたいな曲もやってみたいなとは思います(笑)。
──それはまた、イメージとはまったく違った方向ですね。
志方:民族系の需要が多いので、なかなか依頼が来ない感じのジャンルですね。あとは自分のラインに近いということでいくと、ホラーな曲などもやりたいなぁと。ドロドロした感じで「こわ~い」みたいな、ひずんで、ゆがんだ感じの曲とかを作ってみたいなぁって思ったりします。
──普段作曲されている時は、自分とはかけ離れたものを作ってみたいというような欲求はあるのでしょうか。
志方:全然違うものを作ってみたいというのは常にありますね。ただ、そういう実験的なことは自分がもっと年齢を重ねたりとか、別の境遇になった時にもできるので、今求めていただけているものがあるのだとしたら、まずはそこをきちんとお返ししたいなと思います。
あとはいろんな作品にかかわらせていただけることによって、自分の中で“好き”がたくさん増えるのがうれしいんですよ。曲を書く時に最初にやることが、その作品に触れさせていただいて、その作品で自分は何が一番好きかというのを明確にすることなんです。この作品のここが好き、このキャラのここが好きという、たくさん“好き”が増えていくってうれしいんですよね。その作品を愛しているユーザーの方に「そうですよね、ここ好きですよね。私もこことか好きなんです」と、音楽で訴えかけていく感じですね。
■土屋さんから志方さんに挑戦状が!?
──サントラには書き下ろしのボーナストラック『煌の砂漠を旅する少年』が収録されていますが、この曲についても詳しく教えていただけますか。
志方:当初は特に書き下ろしとかはない予定だったのですが、どうせならば新しい何かがあれば楽しいのではないかと考えて収録させていただきました。もともとは廃墟のBGMにいいかなと構想していたのですが、そこには別の曲を使ってしまったので、結局使わなかった曲になります。
『シェルノサージュ』はイオンちゃんの心の旅であり、実際に夢世界の中では世界を旅していて、旅のイメージが強くあったので、この曲もすごく旅をイメージした曲になっています。サントラで各地の曲が流れる中、最後に“旅をしてきた”ようなオチがつくといいよねという意図もあります。
──ここまでお話を聞いて、土屋さんがかなり志方さんを信頼してお任せされているなと感じましたが、土屋さんから志方さんへ、今後ここを期待をしているというようなメッセージはありますか。
土屋:これからイオンは、それはもうすごいことになっていくので、「バーーーン!」という感じでお願いします。私は志方さんご自身が「これだ!」という曲を自由に作っていただくのが、誰にとっても一番だと思っているので、迷わず突き進んでください(笑)。
志方:なんだかすごい挑戦状を受け取った気がします(笑)。
──それでは最後に、今回発売されたCDについてひと言いただけますでしょうか。
志方:ボーカルCDは曲がロングバージョンになっていて、私の曲だけでなく、他の方の曲もすごくスケールが大きくなっています。ゲームの中だと限られた時間しか聴けませんが、実はそれだけではないというスケールの大きさを楽しんでいただけるとうれしいです。
サントラのほうは、PS Vitaのゲーム音源だと聞こえない音とかがクリアに聞こえるようになっています。ゲームの音楽そのままを踏襲しつつも、音楽として楽しめるようにリアレンジしましたので、こちらも楽しんでいただけるとうれしいです。
(C)GUST CO.,LTD. 2012
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