2013年3月11日(月)
ガストより発売中のPS Vita用ソフト『シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~(以下、シェルノサージュ)』。そのボーカル曲を集めたCD『Ciel nosurge Genometric Concert Vol.1~契絆ノ詩~』と、サウンドトラック『シェルノサージュ オリジナルサウンドトラック~音と世界の受信記録 Sec.1~』が、フロンティアワークスより2月27日に同時リリースされた。
▲『Ciel nosurge Genometric Concert Vol.1~契絆ノ詩~』 | ▲『シェルノサージュ オリジナルサウンドトラック~音と世界の受信記録 Sec.1~』 |
『シェルノサージュ』は、バンダイナムコゲームスとガストが共同開発した人気RPG『アルトネリコ』シリーズと世界の根源の部分を共有しており、その世界の中では詩が重要なファクターとなっている。もちろん作中でも印象的に詩が使われ、プレイヤーの心にとても強く刻まれている。また志方さんらが手掛けるBGMの評価も高く、2012年4月26日に本作が発売されて以降、音楽CDの発売が切望されていた。
そんなファン待望のCDが満を持して発売されたことを記念して、歌姫であり作中のBGMなども手掛ける志方あきこさんと、ディレクターであり多くのファンを魅了する世界を生み出したキーパーソン・土屋暁さんにインタビューを行った。
※ インタビューには、『試練編最終幕』(セカイパックVol.4)までの軽度なネタバレが含まれるのでご注意ください。
──土屋さんと志方さんの出会いはどのような感じだったのでしょうか。
土屋暁さん(以下土屋、敬称略):以前『アトリエ』シリーズの制作に携わっていた時に、『アトリエ』のファンの方から志方さんのことをお聞きしました。muzie(インディーズ音楽配信&コミュニティサービス)などで楽曲を公開されていたので、楽曲を聴いて「これはすごい!」と思い、次の作品ではぜひお願いしたいなと。それがちょうど『アルトネリコ』(2006年発売)の制作がスタートする直前でした。
『アトリエ』とは違う雰囲気で作品を作りたいと考えていたのと、より民族的であったり、壮大な音楽で盛り上げたいという思いとマッチしていたので、志方さんのCDを5枚ほど購入して、上司たちに説得材料として渡したりしました。そういう経緯もあり、『アルトネリコ』でご一緒させていただきました。
志方あきこさん(以下志方、敬称略):土屋さんと初めてお会いしたのは、実は冬のコミックマーケットの時でした(笑)。土屋さんがごあいさつに来てくださって、興味があるようなら、と誘ってくださいました。その後、資料をいただきまして、土屋さんが描こうとしている世界観にとても感動しました。こんな世界の中で音を作れたらいいだろうなぁと思い、私でできることであればとご協力させていただくことになりました。
──今では土屋さんの作品に志方さんの音楽が欠かせないものになっていると思うのですが、楽曲を制作されるには細かく話し合われたりするのでしょうか。
志方:土屋さんの作られる世界は本当に魅力的ですので、それをお伝えするお手伝いが音楽によってできているのでしたらなにより光栄ですし、とてもうれしく思います。
制作の際には、最初は土屋さんといっぱいお話をさせていただきました。「こういう世界でこういうことをやりたい」とか「こういうものを表現したいんだ」という、土屋さんの『アルトネリコ』についてのお考えを伺って、それに対して私は「では、それはこういうことなんでしょうか?」というように、キャッチボールをしながら勉強させていただきました。
さらにシナリオや資料をたくさんいただいて読み込み、例えばミシャ(『アルトネリコ』のヒロインの1人)だったらこんな時はこう感じるのではないか、とか考えたものを土屋さんに聞いていただいて、そこでまたキャッチボールといった感じでしたね。そうして、キャラクターの性格や世界観を少しずつ深めていきました。
──では新しい作品となった『シェルノサージュ』ではどうだったのでしょうか。
志方:『アルトネリコ』とつながる世界ではあるけど別の軸のお話なので、『シェルノサージュ』らしい表現をしなければいけないということで「これはまたすごい難題がきた!」と思いました(笑)。さらに詳しいお話を伺いながら、『アルトネリコ』以上にアジアとかエスノの要素が出るといいなとか、作品中に天文と地文という対立した組織があるので、方向性の違う表現ができるんじゃないかなとか、いろいろ膨らませていきました。
土屋:志方さんと『アルトネリコ』のプロジェクトでご一緒して一番思ったのが、作曲する方に資料を渡して、互いに必要な部分を確認して「はいどうぞ」という感じで終わるケースも多い中、志方さんの場合、そこから根掘り葉掘り聞いてくるんですよ。「この詩はこう書いてあるんですが、より状況をつかみたいので、前後のシナリオも見せていただいていいでしょうか?」とか。
私はどちらかというと全体を俯瞰して、チェスの駒を動かすようにキャラクターを作ってしまうので、心情などの細かい部分で矛盾とかが生じてしまうことも多いのですが、志方さんはキャラとなって謳う仕事もされるので、キャラクターの心情を汲み取ってくれて、それでよくなったところがすごくたくさんあります。そんな感じで、一緒に世界を創ってもらったなという印象がすごく強いです。
『シェルノサージュ』でもそういう風にかかわってほしいと思ったので、詩だけではなくBGMまで含めて、音楽側から世界を作っていただけませんかということで、特に夢世界関連のサウンドディレクションもやっていただいています。そういうことなので、最初からシナリオや世界観の資料を全部お渡しして、ご協力いただきました。
──『シェルノサージュ』の資料だと、かなりの分量があったと思うのですが。
志方:逆にそれがありがたかったです。こちらから「完成していなくても構わないので出せる資料があれば全部ください」とお願いするくらいなので(笑)。土屋さんの描く世界はとても壮大かつ綿密で個性的な世界なので、それを表現するためには、少しでも資料があったほうが世界に溶け込めて助かるんです。
──普段の音楽作りでも、資料などはすごく読み込まれたりするんですか?
志方:そうですね、資料などはあればあるほど助かります。いただいた資料を読み込んで、そこでインスピレーションをもらい、さらにそれを返させていただいて、どんどん理解を深めていくといった感じですね。
──恥ずかしながら、音楽の制作はもっと直感的なものがウェイトを占めているのかと思っていました。
志方:私は比較的勢いのある曲が得意だったりするんですけど、ヒロインには繊細な表現が必要だと思うので(笑)。例えば『アルトネリコ2』の楽曲『EXEC_over.METHOD_SUBLIMATION/.~ee wassa sos yehar』などは、「あのー、呪詛でもいいですか? 大丈夫ですか?」という感じで、わりと勢いよくすぐにできましたね。
一方で『アルトネリコ』でミシャの曲を考えた時は、本当に悩みました。自分の環境や気持ちに比べて、彼女はすごくかけ離れた特殊な状況に置かれているんですよね。それを身近なものとして捉えたくて、極端なお話になってしまって今となれば少し笑ってしまうのですが、資料やシナリオをブツブツと読んで覚えたあとに、部屋を真っ暗にして「この中で謳い続けるんだ」って言いながら、ろうそくだけを灯して暗い中で作曲をしてみたりとかすることもありました。
空想の世界やキャラクターたちを確かな“肉”を持って表現するには、なんでもやらなくちゃ、という感じで。でもキャラクターの気持ちになりきると、ついついそれを引きずってしまうことがあるので少し困ってしまうんですよね(苦笑)。
──それでは続きまして、少し前に一段落した『試練編』についてお聞かせください。『試練編』の楽曲を制作するうえでのテーマや特に気を配ったことなどはありますか?
志方:『シェルノサージュ』の世界はとても切迫した状況なので、そういう空気が漂いつつも美しかったり、あるいは壮大だったりとか、そこの兼ね合いはとても難しいのですが、やりがいがあると感じながら表現しました。ただ、このあとは『崩壊(編)』ですものね……。
──ちょうど話題にも挙がりましたが『試練編』に続いて『崩壊編』となりますが、音楽などはどのようになるのでしょうか。かなり違った感じになるのでしょうか。
土屋:そうですね、『崩壊編』というくらいですから。ただ“崩壊”と言ってもいろいろありますよね。単純にすべてがガラガラと崩れて無に帰するわけではなく、何かが崩れて何かが生まれる“転機”だと思ってください。
『試練編』はプレーヤーの皆様に世界の雰囲気やキャラクターを理解して溶け込んでもらい、なじんでもらうというところが一番大事でした。『崩壊編』ではそんな世界で「実はこんなことがあるんです」というのが示され、今までの4話で培ってきたものに対して衝撃的なものが待ち受けています。
──『崩壊編』では音楽的に「こうしていきたい」ということや、テーマはあったりしますか?
志方:『試練編』のイオンちゃんは生まれたばかりの……ひよこ?(笑)で頼りないけれど、やる時にはきちんとやるというのを表現するのが苦心したところです。『崩壊編』ではもっと世界と密接にかかわることになり、苦悩もするけれどそのうえでどんどん成長していくので、その成長をダイナミックに描いていきたいと思っています。
──今回たくさんの曲を作られていますが、すんなりできたりとか、特に気に入っている曲があれば教えてください。
志方:どの曲も作った時はすべてを出しきった「これで!」というものとはいえ、思い返すともうちょっとこうしたらよかったかなというのはやはりあるのですが、そんな中でも『Ahih rei-yah』は個人的にもすごく好きですね。BGMの方だとシャールの巣で流れる『フラスコの海』、ダイブゲートで流れる『夢の栖』、第三幕で流れる『宵闇の花』が自分の中でもすんなりできましたし、気に入っています。
土屋:あの3曲は、アンケートなどでも本当にすごい人気ですね。
──サントラも出ますので、この機会に生活のBGMとして改めて聴いてもらうというのもいいですよね。ちなみにサントラを制作されるうえで特に力を入れられたところや、ここを聴いてほしいというところはありますか?
土屋:実はサントラでは、ゲーム上の音楽とミックスがちょっと違うんですよ。
志方:ゲーム上だとPS Vitaのスピーカー特性のことなどもあり、またバイオリンなど人の声とかぶりやすい帯域の音もあるので、その辺は削ったりしています。それをそのまま曲として聴くと物足りなくなってしまうので、すべてサントラ用にリミックスしてあります。あとはゲームだと曲がループ状態で流れていますが、それに対してサントラではエンディングっぽいものを作ったりしているので、ゲームの雰囲気も感じつつ、サントラならではの世界観を楽しんでいただけたらいいなぁと思います。
──『アルトネリコ』でもご一緒されてきましたが、改めて土屋さんからみた『シェルノサージュ』の曲というのはどのようなものでしょうか。
土屋:これはもう、本当に志方さんに感謝しきりですね。さまざまな事情を鑑みて、こちらからはこの曲数でとお願いするわけですが、シナリオを読まれて「ここはこういう曲があったほうがいい」「ここはこうしたほうがいい」「ここはこれがないとちょっとシーンとして盛り上がらない」などいろいろと手を施していただき、ものすごく曲が増えました。私としてはとてもありがたいお話なのですが、ご苦労おかけしました、と(笑)。でもお陰様でどの曲もすごくよいものになっていて、プレイヤーからの評判もとてもよいです。
→ボーカル曲と書き下ろし曲にこめられた想いとは。
さらにあの曲のロングVer.が存在することも判明!(2ページ目へ)
(C)GUST CO.,LTD. 2012
データ
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