国勢調査で人口を水増ししたとして、愛知県東浦町の前副町長が逮捕された。
町が市になるための人口5万人以上の要件を満たすため、前副町長の指示で職員が居住実態のない人の名前を調査票に書き込んだとされる。なぜ、そうまでして市制にこだわったのだろう。
隣接する市との間で「肩身が狭かった」「自治体としての格が上がる」―。そんな町の声が漏れ伝わってきている。
大切なのは自治の内実だ。さまざまな規模の市町村それぞれが、住民とともに描く地域づくりを進めやすくするための仕組みを、あらためて考える機会にしなくてはならない。
東浦町は知多半島の付け根にある。名古屋市などのベッドタウンとして、人口は年々増加している。市制実現は8期務めた前町長の時からの悲願だったという。
地方自治法は市になるための要件として、人口のほか▽中心市街地の戸数が全体の6割以上▽農林水産業以外の従事者と家族が6割以上▽都道府県条例の要件を満たす―と規定。東浦町は、人口以外の要件は整えていた。
町の広報に気になる文言があった。「市と町では国・県から移譲される権限に大きな差がつく」「町村の数の減少により町村会の発言力が低下していく」。地方自治制度、地方分権をめぐる議論に欠けている点を突いている。
市町村は人口規模により、政令指定都市、中核市、特例市、一般の市、町村に区分されている。規模が大きくなるにつれ、都道府県から移される権限が増す。
実際は地理的な条件、産業の形態などによって必要となる権限は自治体ごとに異なる。現在の事務量だけでも担いきれず、「これ以上の権限はいらない」とする町村も少なくない。
求められるのは、市町村の実情に応じて権限を移す制度を整えること、小規模な町村の負担を軽くし、県や市、広域連合が補完する仕組みをつくることだ。東浦町が財政と職員数を考慮し、市と同等の事務を望むのなら、愛知県との間で移譲を進めればいい。
今の地方自治論議は大都市に軸足を置きすぎている。町村が将来を懸念するのも無理はない。
東浦町が市制に執着した理由は何か。町であることで被ってきた不利益や、現行の地方自治制度に抱いてきた不満があるのなら、町は率直に語ってほしい。これからの地方自治を考える上での大切な問題提起になるはずだ。