ドクタービジット
2012年8月 5日
「がん」について子どもたちに学んでもらおうと、学校に医師を派遣する「ドクタービジット」が7月17日、神奈川県立横浜平沼高校(横浜市西区)でありました。1年生約280人が授業に参加。子宮頸(けい)がんについて、宮城悦子・横浜市立大学付属病院准教授(50)の講義を聴いた後、生徒たちは活発な意見交換をしました。「女の子はもちろん、男の子にも関係があるんだよ」「そうなの?」。宮城さんと生徒たちの声が響きました。
主催 : 朝日新聞社、日本対がん協会 協賛 : アフラック 協力 : リボンムーブメント
みなさん、今日はがんの話をします。自分には関係ないと思うかもしれませんが、大間違いですよ。特に後半でお話をする子宮頸がんは、若い人に増えていて、皆さんのお母さんの世代に多いのです。男の子にも関係あります。
人間の体はすべて細胞でできています。細胞にはDNAという設計図があって、DNAは放射線や紫外線、たばこ、ストレスなどいろんな理由で傷つきます。そうやってできたのが、がん細胞です。
DNAは傷ついても修復される仕組みがあります。がん細胞は、免疫の力で消えることが多いのですが、中にはすり抜けて徐々に増え、がんの塊になるものがあります。
私が医師になりたてのころに経験した20代の患者さんは、もうすぐお産というときに、大出血をして病院に来ました。がんからの出血でした。おなかを切って赤ちゃんは生まれ、その後、抗がん剤や放射線治療などをしたのですが、2年後に可愛いお子さんを残して、このお母さんは亡くなってしまいました。
日本では年々がんで死んでいく人が増えていますが、アメリカでは減っています。予防できるがんが分かり、対策ができているからです。
子宮は赤ちゃんができるところです。その出口にできるのが子宮頸がんで、科学の進歩によって理論的にはゼロにすることができます。そのためには、ヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチンの接種と、検診を受けることです。
どうして、日本で若い女性に子宮頸がんが増えているのか。HPVは性交渉で感染するので、若い女の子がセックスする年齢が早まったからかな、と思ってしまいます。でも、アメリカやオーストラリアの女の子と比べて日本の女の子が特別おませなわけではありません。
HPVは性的接触で粘膜に感染しますが、ほとんどは、がんになる前に自然に治ります。感染が治らなかった方たちの中から、がんになる人が出てきます。
HPVの感染は日常茶飯事で、男女とも同じ頻度で起きています。性交渉の相手が1人の女性でも、3年後に調べると半分くらいは感染の跡があります。言い換えると、一度でもセックスの経験のある女の子は、だれでもかかる可能性があるのです。
感染を防ぐのが、女子のみなさんが受けたワクチンです。がんをつくるHPVウイルスは15種類程度で、ワクチンはその中の二つのタイプの感染を抑えます。
このワクチンは3回打ちます。ただし予防効果は100%ではありません。約70%と考えられています。残りの30%を検診でカバーすることで、100%にすることができます。
がんになってしまったら、たとえ命が助かっても、日常生活にいろいろな障害が起こる可能性があります。早期発見のために検診が重要です。日本では20歳以上が対象です。
早期で見つけられれば、悪いところだけ手術で切り取って、赤ちゃんを産むこともできます。進行してしまうと子宮も卵巣も手術で取らなくてはいけません。
20歳になってボーイフレンドがいたら、必ず検診を受けてください。ぜひこのことを周りの大人や友人にも広めてください。
講義後は、生徒たちが10人ひと組になって意見を交わすグループディスカッションを行った。感想を言い合い、どうしたら検診の受診率を上げられるか、アイデアもいろいろ出た。女子大生を中心に、子宮頸がん予防の啓発活動をしている「リボンムーブメント」のメンバー3人もサポート役として参加した。
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「今日の授業どうだった? 予防のためには何が大切だって言ってた?」
「リボンムーブメント」代表で、横浜市大3年生の新井涼子さん(21)が水を向けると、ある女子生徒は「ワクチンと、なんだっけ。……診断?」。周りから「検診でしょー」と笑いが起きた。
「うん、検診ね。診断は検診を受けて、その結果なわけだからOKだよ。せっかく検診を受けても診断受けないままの人もいるからね」と新井さん。
横浜市では今年度、中1から高3までの女子が子宮頸がんワクチン接種の補助対象となっている。このため、すでに接種した生徒が多く、ワクチンの体験談でも盛り上がった。「注射、痛かったよねえ」「そう? 私は全然痛くなかったよ」。ワクチンを打ったけど、病気のことはよく知らなかった、という生徒も少なくなかった。
関戸ひな子さんは「住んでいたのが横浜市外で、ワクチンの補助が中3までだった。値段が高いし、受けなくても大丈夫かなという気持ちがあって、受けていませんでした」。市内在住の谷口加奈子さんは「友達に誘われて、無料だったし、受けた方が安心かな、と思ってワクチンを受けました」と、それぞれ自分たちの経験を発表した。
男子生徒からは「自分たちに関係あるの?」という声も出た。
宮城さんが「さっきも言ったけど、ウイルスは男女どっちもかかるんだよ。だから、男の子からガールフレンドにうつしちゃう可能性があるわけ」と説明した。すると、「そうかあ」。さらに「アメリカやオーストラリアだと、男性もワクチン受けられるんだよ」という宮城さんの言葉に、「へえ、そうなんだ!」と驚きの声が上がった。
受診率アップの方法を一生懸命考えるグループもあった。釣本陽太さんは「検診についてはまだ知られていないので、芸能人が出演するCMをもっとすればよい。注射を痛くなくするなど、ワクチンを受けやすくしてほしい」。
山本顕弘さんからは「価値観の近い、高校生に年齢が近い人がこういう授業をすれば、みんな興味を持つのでは」という提案があった。さらに、「他校の人にも私たちが広げていきたい。いっそ、自分が政治家になって、広めるという意見も出ました」。
生徒たちのやりとりと発表を聞いた宮城さんは、「本質をついている感想がたくさん出た。この世代こそ、きちんと知識を身につけ、自分たちで考える機会があることが大切だと実感した」と話していた。
■ 生徒たちから出た意見や感想 ■
- がんになったら支えてもらう相手が必要
- がんになった瞬間は分からないから怖い
- たばこを吸わないなどの予防法、率先してやりたい
- 親にもがんの話をしたい
- 子宮頸がんワクチンを打っても70%しか予防できないことを知らなかった
- 日本の検診率が低いことに驚いた
- 男子にもウイルスが感染することを知らなかった
- どこでもワクチン、検診を無料で受けられるようにして欲しい
- 検診を義務化すればいい
- 検診を受けない理由は、自分はがんにならないと思っているから
- 忙しかったり面倒くさかったりして検診を受けないのでは
- 受診率を上げるためにソーシャルネットワークを使う
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