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事件
【産経抄】3月11日
2013.3.11 03:18
[産経抄]
岩手県に住む小学3年の少女は、母親に呼びかける。「3月10日まではいい日だったね」。少女の母親は、東日本大震災による津波に流され、仕事場の前で遺体で見つかった。その母親への思いをつづった詩は、あしなが育英会が作った、遺児の作文集の表題作となっている。
▼震災遺児ではないが、父親が自殺した7歳の少年が書いた「ぼくの夢」という詩を思い出した。「大きくなったら/ぼくは博士になりたい/そしてドラえもんに出てくるような/タイムマシンをつくる」。父親が亡くなる前日に戻って、自殺を止めるというのだ。
▼タイムマシンがあったら、津波からどれほど多くの人を救えただろう。ただ少年より少し年長の少女は、そんな夢想を抱かない。保育園から帰って食べた母親手作りのおやつ。いっしょに作ったケーキ。3月10日までの楽しかった思い出と、母親が亡くなった場所、時間を「忘れない」と言い切っている。
▼あの日から、2年の月日が過ぎた。復興が順調に進んでいる被災地がある一方で、いまだ人の気配が失われたままの地域も少なくない。被災者一人一人のたどる足取りの違いは、もっと大きいはずだ。
▼2年前、『ときぐすり』という詩を紹介した。7年前に妻に先立たれた作者の藤森重紀さんが、知人の音楽家から教えられた言葉だ。確かに、時の経過には悲しみを癒やす効果がある。少女にとっての「時薬」は、母親と過ごしたかけがえのない「時の記憶」ではないか。
▼藤森さんは、周囲の励ましが、かじかんだ心をほぐす「解き薬かもしれない」ともいう。被災者それぞれに処方箋(せん)も、回復時期も違う。それでも「ときぐすり」は必ず効く、と信じたい。
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