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 あの姉妹にもう一人の妹がいた――。
 それと、一部ながら未来兵器とソ連空軍の女性エースが登場予定(ヒントはノモンハン事件で出て来たあの人)です。
第八章 変わりゆく世界~1942年~
第五十六話 第二の亡命 再会し本当の姉妹
12月22日 旅順海軍司令部

 旅順海軍司令部は旅順の小高い丘の上に存在しており、そこから旅順の町や海、果ては旅順海軍工廠の各ドックの様子までも見渡せる。
 そのドックの内、4つの10万トンドックは『紀伊』型電子戦略戦艦の改装工事のために塞がれている。
 これは、先の艦隊演習で発覚した『紀伊』型の火力不足と被弾時における機関室全滅と弾薬庫誘爆を引き起こしかねない設計のためである。
 本来、『紀伊』型はその超重火力を得るために46cm三連装主砲5基を搭載し、その火力を持って敵戦艦を寄せ付けないのを条件に、主砲5基とその弾薬庫さらに装甲を隔てて高出力の機関を搭載したために、機関部に被弾すれば弾薬庫まで到達し誘爆を招く危険性を常に背負っているのだ。
 その危険性が仇となって、艦隊演習では物の見事に弾薬庫引火からの誘爆そして轟沈と言う、その危険性が演習とは言え発生してしまったのだ。
 これには建造元の旅順海軍工廠や艦政本部では、このままの『紀伊』型の状態では実戦でも同じ事が起きかねないとして幾多の改装プランを提出。その中には50口径48cm連装主砲5基へと換装する案等あったが、最終的に採用された案は三番主砲を撤去する代わりに『吾妻』型と同じ口径として九八式50口径48cm三連装主砲4基12門を搭載し、それに伴い対48cm防御に増強、弾薬庫及び機関室の装甲強化、対空火器の強化等徹底的な改装を行う事が決定、旅順海軍工廠での改装が始まった。
 そんな背景があり改装されている『紀伊』型を一瞥し、二階堂は今回の艦隊演習や『紀伊』型の改装を始めとする書類や資料を裁いていく。こうも簡単に言っているが、元あった書類の量は活字を見るのが嫌な人は勿論、普通の人でも逃げ出してしまう程の量である。

「んっ、んっ~~!!何とか終わったぁ~~!!」

 最後の書類にハンコを押し、ようやく終わったと腕を伸ばす二階堂。

「お疲れ様です、二階堂司令」

「御苦労さまです、二階堂司令」

 最初に言ってお茶を出したのは『紀伊』艦長の永塚美姫海軍大佐で、次に言ったのは『吾妻』艦長にして『巫女艦長』の渾名を持つ吉祥寺玲奈海軍大佐である。
 本来ならいつもいるはずの姫島紫苑海軍少将は、とある場所に出張のためにいなく代わりに永塚と吉祥寺と言う姫路女性士官学校第五期、第六期生首席で卒業した優秀且つ貴重な人材であるため、二階堂のサポート役に回っている。

「ありがとうな美姫に玲奈」

 永塚からもらったお茶を飲みつつ、感謝の意を表する二階堂に、二人は顔を赤らめる。
 特に、永塚はこれまでよりも表情が柔らかくなっており、吉祥寺は誰からも好かれる性格故か、思わずはにかんでいる。

「あ、ありがとうございます二階堂司令」

「こ、こちらもです」

「あぁ。それよりも――この時位はさ、堅苦しい感じは無しで」

 二階堂曰く、誰かいるのならともかく、誰もいない状態では堅苦しい階級の呼び合いは無しにしてほしいと言う事だ。

「で、ですが……」

「ならば――永塚美姫海軍大佐及び吉祥寺玲奈海軍大佐に命令する。私事の時には階級を付けずに、俺の事を“紅蓮”と呼んでくれ。これは艦隊司令からの命令だ」

 艦隊司令からの命令――階級社会である軍において命令は絶対的であり、これにはさすがの2人も承諾せざるを得ない。

「わ、分かりました。ぐ、紅蓮」

「了解ですよ、紅蓮」

 こう聞くと、とても新鮮的に見えるため、二階堂は思わずニヤリとしてしまう。

「いいね~新鮮的で。良く言えた御褒美に頭を撫でるぞ」

 そう言うと、二階堂は二人の頭を優しく撫でると、見る見るうちに二人の顔が真っ赤になりトロンとした表情になる。

「し、幸せです……!!」

「ふにゃぁ~」

 ……さすがは二階堂。自分が気に入った女性を知らずの内に掌握しているのだ。
 その時、机の上に乗っている黒電話が鳴り響き、二階堂はすかさず受話器を取る。

「はい。こちら旅順海軍司令部だ」

「あ、紅蓮なの!?」

 相手は姫島だった。彼女は視察として、大連にある第零航空艦隊とアストレイ・フリートの艦載機や航空機が運用する飛行場に視察に行っていたのだ。

「紫苑か!何故そんなに切羽詰まっているのだ?」

「だ、だって――ぼ、亡命者が航空機に乗って来たのですよ!?」

「ぼ、亡命者だと!?」

 思わず、勢いよく立ち上がってしまう二階堂。
 話によると、最初に亡命者を乗せた航空機が来たのは、朝鮮に駐在している朝鮮軍の対空電探が2つの光点を映し出し、迎撃機として海軍の零式双発局地戦闘機『天雷』一一型及び陸軍の二式陸上戦闘機『鍾馗』一型が緊急発進(スクランブル)したものの、その航空機は何とジェット機であり速度では話にもならなかった。
 この時、飛行訓練のために上空でF-14D『スーパー・トムキャット』に搭乗していたクライン三姉妹ことアイリス・グロム・クライン海軍大尉、フェルト・グロム・クライン海軍中尉、セイバー・グロム・クライン海軍中尉の3人が向かったが、そのジェット機はF-14の完成形とも言えるF-14D『スーパー・トムキャット』を軽くあしらってしまい、飛行場への強行着陸を許してしまったのだ。

「そうなのか……」

「それに、そのジェット機はね、聞いて驚かないでよ――Su-37『テルミナートル』だよ」

「て、テルミナートルだと!?」

「そうだよ。あのテルミナートル」

 Su-37『テルミナートル』――ロシア連邦のスホーイ社が設計・開発したマルチロール機であり、NATOコードネームは『フランカーE2』だが、一般に呼ばれた事がなく『スーパー・フランカー』の名前の方が有名な戦闘機である。
 Su-37は、同社で開発されたSu-27『フランカー』に、カナード翼を付けたSu-35(Su-27M)(NATOコードネーム『フランカーE1』) に、推力偏向ノズル付属のサトゥールン製『AL-37FU』ターボファンエンジン(推力147kN)を搭載し発展させた全天候型単座戦闘機であり、第4.5世代ジェット戦闘機に該当、初飛行は1996年(平成8年)4月2日となっている。
 Su-37は、Su-27を超える高い機動性を持っていたSu-35をベースに推力偏向ノズルを装備することによって驚異的な機動性を実現することに成功した。これによって従来の航空機では不可能であった『空中でほとんど高度を変えることなくその場で宙返りをする』クルビットと呼ばれる機動が可能になり、1996年(平成8年)のファーンバラ航空ショーで初めてそれを披露し注目を浴びた。
 だが、推力偏向装置付きエンジン(サトゥールン製『AL-37FU』ターボファンエンジン)を生産の遅れていたインド向けのSu-30MKI(NATOコードネーム『フランカーH』)にとられるなど飛行停止状態が続き、2機あった試作機の内#711は2002年(平成14年)12月19日モスクワ近郊のシャトゥラにて墜落、#712は推力偏向装置が取り外され、プレ生産型のSu-35(T-10M-12)に戻され、現在はルースキエ・ヴィーチャズィ(ロシアンナイツの意味。ロシア空軍の展示飛行チーム)に配備されている。
 そんな未来での経緯を持つSu-37『テルミナートル』だが、どうしてこの世界に存在しているのか?その答えはパイロットに聞くしかない。

「事情は分かった。今そちらに向かう」

「うん、待っているよ紅蓮」

 そう言うと、受話器を電話機に戻して出発の準備して大連の飛行場にへと向かう。


 大連飛行場に到着した二階堂達を待っていたのは、話にあった2機のSu-37『テルミナートル』と3機のF-14D『スーパー・トムキャット』が駐機所に停まっていた。

「本当にテルミナートルが……」

「こ、このような噴進戦闘機は事が無いです」

「本当にソ連が作り上げた戦闘機なのですか」

 それぞれの反応は違っていた。二階堂は本当に目の前にあのテルミナートルが目の前に駐機されている事に、永塚は三式噴進艦上戦闘機『旭風』とは全く形が違うテルミナートルに、吉祥寺は本当にソ連が作り上げた戦闘機なのかと言うのが、それぞれ思っていた事であった。

「あっ、紅蓮。こっちだよ」

 二階堂達を見つけた姫島は、早速亡命して来たパイロットが尋問を受けているとされている小部屋に案内される。
 そして、その小部屋に入るとクライン三姉妹から尋問されるパイロット――しかも顔立ちからして二人とも女性――に目が入る。

「ご、ご主人様」

「敬礼はいい。それより、彼女達は?」

 二階堂が入った事を知ったアイリス達が敬礼し、それに敬礼で返すと現在の状況を聞く。

「はい。まず左の方はソビエト連邦空軍極東方面軍第三独立航空師団所属のカリスト・S・ヴォストロワ空軍少佐と――」

 ここでアイリスが右に座る女性を見る。

「同所属のステラ・グロム・クライン空軍大尉です」

 この瞬間、誰もが耳を疑った。クライン――アイリス達と同じ名字ではないかと――。

「はい。私達にはもう一人の妹がいました――その妹です」

「な、何だと……」

「そんな事があるなんて……」

「信じられません……」

「言われてみれば確かに似ていますね」

 これもそれぞれ違う反応を見せていた。

「それで、彼女達が亡命して来た理由とは?」

「実は――『すまないが、それ位は私達に語らせてくれ』――えっ??」

 アイリスが言おうとした時、黙って二階堂達を見ていたカリスト・S・ヴォストロワ空軍少佐がそう言ってくる。

「構わない。真実が知りたいからな」

「ありがとうございます――私は祖国を守るために、祖国が訴えかけてくる全世界の人々が手を取り合える真の自由と平和と共存が存在する世界の形成を信じて戦って来ました」

 カリストはここで区切ると、また語りだす。

「ですが、私はその中で堕落しかけている国民、腐敗している上層部、慢心になりつつある上官と指揮官――私にとって、本当に守るべき物はこんなものではないと。そこで出会い亡命を呼び掛けましたのが、ステラ大尉なのです」

 カリストはそう言うと、彼女――ステラ・グロム・クラインを見る。
 その視線を感じてか、ステラは語りだす。

「私、ステラ・グロム・クラインは、本来なら両親を殺した憎むべきソ連の軍隊に入隊しました。その理由は、かつて行き別れてしまった姉達を探すための手掛かりを掴むために、偽名を使って入隊したのです。そこで、姉達が日本に亡命して日本軍の一員として戦っている事を突きとめました。その中で私はカリスト少佐の仰った通り、自由や平等を訴えかけるソ連そのものが腐敗しつつある実態をも同時に突き止めたのです」

 ステラは、アイリス達を一瞥するとまた語りだした。

「そこで私は同じ心境を持っていましたカリスト少佐に亡命の話を持ちかけたのです。最初こそは信じられないと言っていましたが、事情を話したために共に亡命する事になったのです。そして、私達がいたウラジオストク軍港内の敷地内にある空軍基地から、本国から来たとされる最新鋭機――Su-37『テルミナートル』と偶然装備されていたミサイルと増槽と共に、軍内部にいる反ソ連派の暗躍によって警備の域が届かない深夜に奪取し、多少の出迎えがありましたがここに辿り着けたのです」

 ここまで聞くと、彼女達の言葉にウソはないと信じられる。

「なるほどな……分かった。君達の処遇はこちらの方で何とかするよ」

「「本当にありがとうございます」」

 カリストとステラは深く頭を下げた。

「ではこれで失礼するが――監視の方はクライン三姉妹、頼むぞ」

「勿論です」

「任せて下さい」

「大丈夫だって」

「それを聞いて安心した。では失礼する」

 二階堂達が退室すると、早速アイリス達はステラに抱きつく。

「やっと会えたね!さみしかったよ!」

「私もです、アイリス御姉様に、フェルト姉様、セイバー姉様ぁ~!!」

 会う時から尋問するまでは互いを知らなく、分かったとしてもこう言った再会の抱擁は出来なかったが、二人の身柄の保証の保証が仮にだが成り立った事で、その押さえられていた心からの再会の抱擁が出来たのだ。

「ウランウデで行き別れてしまった時、本当に会えなくなるのかと思うと涙が……」

「大丈夫だよ。もうあなたをどこにへと置いていかないからね」

「ごめんね……本当にごめんね」

「何よりも無事でよかったよ」

 離れ離れになった姉妹達の再会に、それぞれの目から涙が溢れ出ている。
 ここで一旦整理しておこう。クライン三姉妹――いや四姉妹は亡命の際に、ソ連と大日本帝国の満州地方に近いウランウデまで来れたものの、そこで一悶着がありひょんな事から乗る列車を間違えてしまい(三姉妹が旅順方面、ステラがウラジオストク方面)、そこから行き別れてしまったのだ。
 その後、行き別れたステラは、姉達の足取りをつかむために止むを得ず偽名を使ってソ連軍に入隊し、女性空軍将兵としてパイロットになりつつ、諜報活動を行っていた。そこで、自分の姉達が日本軍の一員としていると言う事実を得て、これと同時に、ソ連に関わる重要機密と腐敗しつつある事実を目の当たりにしたのだ。
 そこで、同じ祖国の惨状に失望していたカリストを何とか説得して、共に姉達がいるとされる旅順にへと亡命しようと計画を立て、偶然ウラジオストク軍港内の空軍基地に配備されていた2機しかない最新鋭機――Su-37『テルミナートル』を搭載されているミサイルごと軍内部にいる反ソ連派の暗躍によって奪取、そのまま大連の飛行場に強行着陸したのだ。
 途中でクライン三姉妹が搭乗するF-14D『スーパー・トムキャット』3機を相手に、ミサイルを搭載している状態で軽くあしらえたのは、エンジンにある推力偏向ノズルによる従来の航空機では出せない高機動性能と彼女達が持つ天性の腕によるものであった。
 そして、尋問を受けようと同じロシア人であるクライン三姉妹が尋問官として尋問をする際、それぞれを見た瞬間、まさかと言う思いが生まれ名前を聞いた瞬間、互いに信じられないと言わんばかりに互いの名前を言ってしまう程で、そこからは先程の通り、二階堂達が彼女達の処遇を一任し、取り敢えず身柄だけは確保されたと言う訳だ。

「それと――カリスト少佐もよろしくお願いします」

 ステラとの抱擁を外したアイリスは、左に座っていたカリストに敬礼し、これから仲間になるであろうと言う意味合いで右手を差し出した。

「……こちらこそよろしく頼みたい――グロム・トリニティ」

 右手を差し伸べられたのを見て、カリストは戸惑いを見せたものの、アイリスの真っ直ぐな瞳を見て、カリストも右手を差し出して互いに固い握手を交わした。
 ――この後に組織される大日本帝国空軍の女性トップエース部隊として、名を馳せる事になる伝説の始まりであった。
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