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第3部・手探りの車避難(下)規制/都市幹線道、迷う運転者

津波で流された乗用車やトラックが散乱した産業道路=2011年3月14日、多賀城市

車がひっきりなしに行き交う釜石市中心部の国道283号。2月の津波注意報の際は新日鉄住金釜石製鉄所(左側)の構内道路が開放された

 普段から交通量が多く、不特定多数の車が行き交う幹線道路。東日本大震災では、土地勘のない場所を運転中に渋滞で動けなくなり、津波に巻き込まれたドライバーが数多くいた。

 沿道の量販店やマンションに遮られ、濁流に気付かなかった。
 仙台市泉区の会社員庄司真一さん(48)は震災発生直後、多賀城市八幡の国道45号で渋滞に足止めされた。東松島市の営業先から仙台市の職場に車で戻る途中だった。
 歩行者数人が慌てて国道を横切った。「何だ?」。直後、脇道から国道に流れ込む水を見た。
 水かさはどんどん増した。車がゆっくり持ち上がり、流され始めた。思わずブレーキを踏む。意味がなかった。
 数百メートル流され、車はブロック塀に引っかかった。幸い、パワーウインドーが動いた。窓を開け、車外へ逃れた。
 渋滞に巻き込まれていた時、車のラジオは仙台空港への津波到達を報じていた。「ここも危ないだろうか」。不安だったが、逃げようにも避難場所が分からない。
 片側2車線の道は車でぎゅうぎゅう詰めだった。「車を乗り捨てたら、後ろの邪魔になる」。そんな迷いも、避難行動を妨げた。
 多賀城市によると、市内の死者188人のうち、市外の住民は91人を占めた。車内で見つかった遺体は少なくとも三十数体に上る。被害は国道45号と、さらに海側を走る県道仙台塩釜線(産業道路)に集中していた。
 国土交通省の調査では、国道45号と産業道路の1日の交通量は計7万6000台。市震災復興推進局は「岩手、宮城、福島3県の津波浸水域で最も多い」とみる。

 幹線道路での悲劇を繰り返さないため、国も対策に乗り出した。
 昨年12月7日夕、宮城県沿岸部への津波警報が発令されると、国交省は国道45号の通行規制に踏み切った。対象は多賀城市を挟む形で、宮城県松島町−仙台市宮城野区の20キロ。震災で、区間の75%が津波で浸水した。
 警報発令の直後、仙台東国道維持出張所(仙台市太白区)から松島町、宮城野区の各1カ所に職員を車で向かわせた。新たな車の流入を防ぐはずだったが、規制を始めたのは約1時間後だった。
 出張所から最も近い宮城野区の規制箇所でも、直線距離にして約6.5キロ。一般道の渋滞に加え、高速道も封鎖され、職員が現場に着くまで時間がかかった。
 津波の恐れがあるときに規制される可能性は、十分周知されていなかった。「津波警報発令中」と書いたプラカードを掲げ、迂回(うかい)を呼び掛けても、無視する運転者が相次いだ。
 出張所の田口秀美所長は「警察などの協力なしでは人員に限界がある。車を通して良かったのかどうか、津波の規模に応じてどこを規制するべきか、答えは簡単には出ない」と漏らす。

◎企業、構内道を開放/渋滞緩和へ、模索と自問

 災害時の都市渋滞を少しでも減らそうと、企業が避難道路を提供する動きも出ている。
 震災で1040人が犠牲になった釜石市。太平洋岸に津波注意報が発令された2月6日の午後4時、市中心部に工場を構える新日鉄住金釜石製鉄所の構内道路に、日ごろは走らない一般車両が次々と入り始めた。
 谷に挟まれた市中心部は、浸水域から脱出するための道路が国道283号と国道45号に限られる。復興関連で交通量が多く、朝夕の渋滞は激しい。
 市が避難勧告を出した後、釜石製鉄所は申し合わせ通りに国道283号に面した東門から構内道路を開放した。

 震災当日は、工場前でも渋滞の車列が津波にのまれている。6日は釜石署員の誘導で2キロ離れた中妻門まで車両を案内し、浸水域から少しでも遠ざけた。
 釜石署は、浸水域に入らないよう市中心部の2カ所で交通規制し、国道283号の信号5カ所を手動操作して内陸への車の流れを速くした。
 震災後、練りに練った人海戦術だった。「浸水域では車がスムーズに流れた」と市民からも好評だった。
 それでも関係者の表情に明るさは見えない。
 「津波到達時間まで余裕がないと人海戦術は難しくなる」と釜石署の新家勝昭副署長。釜石製鉄所も「構内道路は大渋滞し、簡単に答えが見つかるわけではないと感じた」と振り返る。
 2月6日の津波注意報では、釜石市をはじめ岩手県内5自治体だけが、避難勧告を発令。各地で交通規制をした。
 釜石市危機管理監の山崎義勝さん(59)は、避難勧告や交通規制を繰り返すことで、地域に避難文化が染み込むと考えている。「原則は徒歩避難だ。道路状況を通じ、ここでは渋滞が起きる、徒歩の方がいいと、身をもって分かってほしい」と話す。

 震災の津波で被災し、解体処理が必要な自動車は、岩手、宮城、福島の3県で約8万台に上る。地方の暮らしはそれほど車への依存度が高い。
 「災害時に必ず渋滞する地域をゾーニングで示し、避難ビルなどを重点整備するべきだ」。車避難の問題に詳しい東洋大の関谷直也准教授(災害社会学)は、現実的な対策を促す。理由として「車避難はコントロールができない」と指摘する。
 なし崩しに避難に車を使えば、道路の許容量は簡単に超えてしまう。車で逃げることが本当に命を守ることになるのか。一人一人が自問するところからしか、教訓は生かされない。(「いのちと地域を守る」取材班)=第4部は3月中旬に掲載します。


2013年02月27日水曜日

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