昨年の暮れ、一年の日本の音楽シーンを象徴するレコード大賞には2年連続で人気アイドルグループの「AKB48」が輝いた。大賞の発表に際し、審査委員長を務めた日本作曲家協会会長の服部克久氏が発言した「これが日本の音楽業界の現状です」と問題提起とも受け取れるコメントが話題となったが、CD不況の時代に一年間で発売した5作をすべてミリオンヒットさせたその功績は認めざるを得ないといったところではないだろうか。
確かにオリコン<4800>が発表した2012年のシングルCDセールス年間チャートをみてみると、ベスト10に名を連ねるのは、AKB48関連グループとジャニーズ事務所所属のいまや国民的と呼ばれる存在となった「嵐」のみと異例とも呼べる状況だ。特にAKB48は、2年連続で年間ランキングのベスト5を独占しており、2011年からは10作連続初週ミリオンを達成するなどCD不況の時代に考えられないセールス記録をたたき出しているのだ。一部CDの販売方法を巡って批判の声もあるが、結果を残しているところをみると、21世紀に入って元気がなかった日本音楽業界においてまさに救世主のような存在になっていると言える。
さらに、オリコンの「2012年年間音楽ソフトマーケットレポート」によると、CDなどのパッケージ商品によるシングルやアルバムに、音楽DVD、音楽Blu-rayDiscを加え総合計した音楽ソフト市場の2012年の年間総売上額は3,270.3億円となり、対前年比は104.1%で、2006年以来6年ぶりに前年比増となっている。総売上枚数で見ても1億2053.4万枚、前年比101.4%と前年に比べわずかではあるが増加に転じており、枚数での前年比アップは調査を開始した2004年以来初めてだという。ここでもジャニーズ関連やAKB関連を初めてとするアイドルグループの人気が大きく貢献したことが読み取れる結果となった。中でもAKB48をはじめとする人気アイドルの音楽コンテンツを多く手がける老舗レコード会社のキングレコードは、音楽市場全体が縮小する中で過去最高となる記録的な数字をたたき出すなど、破竹の勢いで成長している。
ひとつのレコードレーベルとして考えれば、一部のアーティストに人気に左右されるところが多いだろうが、マクロな視点で国内の音楽業界全体を見てみると、そろそろCD依存の体質から本格的に脱却していかなくてはならないだろう。世界では、CD販売から音楽配信のシフトが進んでおり、米国では既に音楽産業に占める音楽コンテンツ配信の総売上がCD販売額を上回っている。しかし、日本では、登録不要の無料音楽配信する「レコチョク」など国内のモバイル音楽配信サイトの一部は成功しているが、米アップルが運営する「iTunesミュージックストア」の日本での売上げシェアはごくわずかで、今や米国を凌ぐとされる音楽市場にしては、少な過ぎる状況となっている。それにはいくつかの要素が考えられるが、一番大きいのは、著作権などを巡るハードルを乗りこえるための努力が先送りにされていたためではないだろうか。
しかし、先月、いよいよクラウド型音楽配信サービス「iTunesイン・ザ・クラウド」のサービスが日本でも開始された。日本音楽著作権協会(JASRAC)と米アップルの間で著作権を巡る交渉において一定の歩み寄りがみられたという話も出ているが、依然としてその線引きに関しては曖昧なままだ。音楽市場全体が縮小する中、日本の音楽業界もネット配信に活路を見いだすしか方法はないといったところだろう。さらに、音楽配信の大手でもあるレコチョクやソニー に加え、NTTドコモ やKDDI なども急激に増加するスマホユーザーに向けて、定額で音楽が聞き放題になる配信サービスを提供するなど、大手レコード会社と連携した動きも本格化してきた。
国内におけるCD販売額の減少率は他国に比べてまだ低いが、1998年のピーク時に比べると約1/3まで落ち込んでおり、店を閉めるCDショップも増えているようだ。しかも、ネットでの音楽配信も伸び悩んでおり、このままでは米国と並ぶ程の巨大マーケットとされる日本の音楽市場が一気に衰退への道を歩んでいくことにもなりかねない。しかし、米国の音楽市場が収縮傾向にあるように、安易に音楽配信にスライドし音楽コンテンツを安売りすることになれば、今まで売れていたパッケージ販売も激減することになり、結果的に国内全体での音楽コンテンツ売上額減少に導くという可能性もある。世界の痩流に合わせクラウド型配信の流れに一気にスライドしていくか、より魅力のある付加価値を創造しパッケージ販売を重視する独自の日本スタイルを貫くか、今、日本の音楽業界は難しい選択を突きつけられている。(編集担当:北尾準)