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2008年11月30日

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自分を見つめるということ

 自己の発見、自分を見つめる、ということは言葉を変えて言うならば、「人生如何に生きるべきか」という問いと同じことで、時間、空間を越えて存在する、大きな問題です。
そしてこの問題は、人生の夕暮れどきに、また、逆境に訪れるだけではなく日々、その問いに迫られ、解答を求められています。人が死に直面するという事は肉体の死ではなく、生きる存在にとって"精神の死"という最も恐るべき死に脅かされています。ギリシャのデルフィ神託の中に「汝自身を知れ」と刻まれているのを考えると、これは人間の永遠の課題なのかも知れません。自分を見つめたり、深く考えたり、自己を発見しようとする試みは、苦悩している人間が特に多くの機会を持っているのではないかと思います。ある有名な作家が、パリのモンマルトルで自分を見つめ、自分を発見しようとする日記を書いています。
「パリよ、私はお前を征服する。お前を征服したものは世界を征服する。」
と述べているところがあります。これはシーザーがまさにエジプトを征服する様な勢いがありますが、実はこれが彼の最終目標であり、自分の作家としての夢だったのです。
 フランス文学は当時最もレベルの高い、そして、200年に一度の頭脳と言われたマラルメなど、その他多くの作家がいたのでした。その中で自分の名を確固たるものにするにはどんなに大変だったことか。またモンマルトルの町の特徴を作者はこう述べています。
「自分が何でこの町に来たのか分かるような気がした。(自己発見でしょうか)この石で固められた硬さに自分を研ぎに来たのである。この硬さは、あらゆるにせもの、いんちき、つけ焼刃をすべて残酷に剥ぎ取ってしまう、どうしようもない真実さがある。それはどうしようもない硬さで、いい加減なものは絶対受け入れない。甘さも微塵もなく、一流の中の一流の才能がやっと残り、それでさえすぐに滅び去ってしまう。だから、真に"よきもの"に達したものだけがこの硬さと同じ硬さで生き、星のように輝き出す。それ以外はだめで、冷酷、そして非常にも達しないものは生きていけない。」
 作者はこれをまさに人生そのものであると述べて、この環境の中に身をおくのです。私はこれを学生中に読み、ショックを受けたものでした。
 人は仕方なく厳しい状況になって苦悩したりすることはあります。それを逆境と言って、苦悩しながら這い上がっていくのですが、この作者の場合、自分から厳しい状況に追い込んでいくのです。普通の人はそんなことはしません。ロマン・ロランの「ベートーベンの苦悩」という本、ドストエフスキーの「貧しき人々」という本等、逆境を乗り越える事、それが素晴らしい事でした。"自分で"どんどん厳しい状況(それは自分を磨く為かもしれませんが)に追い込んでいくことはなかなか出来るものではありません。トルストイは「戦争と平和」を書く為に、自分で自分を逆境の中に追い込んでいきました。(ここではトルストイについて詳しく語ることは出来ませんが、機会があれば。)
 しかしこれは、よく考えてみれば、"自分で"ではなく、"才能"というものがどんどん自分を厳しい状況に追い込んでいくのかも知れません。失敗の連続で、「七転び八起き」というこの言葉は、本当にそういう状況の人の為の深い言葉で、"君は、こうまでしても立ち上がろうとするのか"と頭の下がる思いがするのです。
 ニクソンが
「負けは終わりではない、やめたら終わりだ。」
というのも、同じ様な言葉で私たちに感動を与えます。映画の中で、自分を発見するのに役立つ作品があります。「かもめのジョナサン」という映画をご存知でしょうか。最近の映画と比べれば、とても地味な映画ですが、私にとっては、ものすごく教えられる事の多かった作品のひとつです。ジョナサンは、"いかに速く飛ぶことが出来るか"ということをある時考え始めます。まわりのかもめは"そんなことを考えるのは無駄"と考えています。確かに、早く飛ぶことが特別必要という事もなく、速く飛べなくても生きてはいけるのです。しかし、ジョナサンは一人で、"いかに速く飛ぶ事が出来るか"をずっと考え、トライしていきます。そしてようやく風を利用することを知ります。その発見の喜びは、ジョナサンにしか判らないでしょう。しかし、まだまだ足りません。ジョナサンは風を利用して、更に急降下することを考えます。そして何回もトライ、うまくいきません。海面に当たりそうになって恐怖が生まれるのです。どうしたらいいんだろう…。映像はジョナサンの真剣な顔つきを写します。私たち人間もほれぼれするような顔つきをします。そして何回もトライするうちに、その恐怖との闘いの中で、ジョナサンはつぶやきます。"It's in me"これを何回もつぶやきます。速く飛べるかどうかは、自分にかかっている。全ては自分の中にあるんだ、"自分を生かすも殺すも自分にある"というふうにジョナサンは本当に何回もつぶやくのです。It's in me. It's in me....と自分に何回も言い聞かせ、そしてジョナサンは飛びます。海面に当たる恐怖を乗り越え、自己の最高の速さ、本当に速く飛ぶのはこうなんだ、ということを体得するのです。どうでしょうか?私たちは、日常ジョナサンのよう生きているでしょうか。私は、常々思ってはいますが、その通りにはなかなか出来ません。なぜならば、限界で生きるということが常に付きまとうからです。"どうして、きみはそこまで出来たんだ"と私は考えてしまいます。言いかえましょう。"どうして、ジョナサンはそこまで出来たんだ"それは"It's in me."の言葉を信じたのです。なまぬるい生活の中で、自分を知るとか、自己を発見するとかは到底できるものではありません。普通からは普通のものしか生まれてこないのです。ジョナサンのように失敗を恐れず、勇気をもってトライしているでしょうか。そしてジョナサンのように何回も何回もあきらめずにトライしているでしょうか。闘うとは、自分の弱さを強さに転ずるということをいいます。ジョナサンは海面にぶつかる恐怖におののく自分と闘っています。限界で闘うというのは大変なことです。つらいこともあるでしょう。やめたいと思うこともあるでしょう。しかし、それはとても美しいことだと思います。誤解しないで下さい。成功するということが美しいと言っているのではありません。様々な葛藤をしている中で、闘っている姿を美しいと言っているのです。私たちは限界で闘う姿を美しいというのをよく知っているはずなのです。スポーツを観る、レースを観る等良い例です。限界で闘うことを恐れてはいけません。ジョナサンを見習って、"It's in me."と言い聞かせましょう。自分を知る、自己発見とは、"It's in me."の中に隠されていると言ってもいいのではないでしょうか。
 今まで述べて来ておわかりでしょうが、"生きる"(限界でかもしれませんがそうでなくても)ということを通して、生きる方法を学ぶのであって、自分の才能もその中から(持っているものもあれば、これから生まれて来るものもあるでしょう)にじみ出て来るのではないでしょうか。人それぞれですから同じものはありません。日常生活の中で、真剣に生きてみて、自分の才能をにじみ出してください。いいものを生み出すのには、時間がかかります。(料理でも、本でも、何でも。)
 時間がかかることを悔やんでいませんか?いいものはじっくり、うまれてくるものです。そしてそれは歴史が証明しています。

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