こんにちは、こくぼしんじです。早くも連載3回目になりました。
第1回では「名ゼリフの作り方」。第2回では「リアクションの重要性」。そして今回は「ハッタリのかまし方」。ハッタリにもいろいろあるんですが、ここでは主にキャラクター設定のお話です。
ちなみに今回のお話は、単純に作品を面白くするだけの話ではありません。作家として商業ベースに乗るためには欠かせない「作品の量産能力」や「読者に興味を持たせる能力」。これらも同時に鍛えられるお話かと思います。
では行きましょう!
まずは何も考えず、主人公を日本一、世界一、宇宙一に設定せよ!
これはラノベや小説というよりマンガ寄りのノウハウなんですが……。
主人公に何か特徴や特技を設定したら、それをいちいち「日本一」「世界一」「宇宙一」といった感じで、演出的に”盛る”んですね。あるいは、物語のスタート時にそうでなくても、いつかは日本一、世界一になるような人物として設定するワケです。
軽く考えただけでも、これだけの実例が出ます。
「宇宙一の浮気者」……「うる星やつら」の諸星あたる
「世界一の外科医」……「ブラックジャック」
「世界一のスナイパー」……「ゴルゴ13」のデューク東郷
「一子相伝の暗殺拳の使い手」……「北斗の拳」のケンシロウ
「日本一の受験ノウハウの持ち主」……「ドラゴン桜」の桜木建二
「(将来の)地上最強の生物」……「刃牙シリーズ」の範馬刃牙
「(将来の)海賊王」……「ワンピース」のモンキー・D・ルフィ
こうした名作マンガの例にならい、まずは思い切って、主人公の設定に「日本一の○○」「世界一の○○」「宇宙一の○○」と冠をつけてみましょう。
こりゃ〜大変だと身構えてしまう志望者さんも、いるかも知れませんね。
何しろ「日本一の○○」「宇宙一の○○」と設定したら、そういう人物をちゃんと、説得力をもって描けるように、勉強しなくちゃいけませんから。作者自身が。
そんなワケで、設定に無茶なハッタリをかけると「生みの苦労」は確実に増えます。
でも、結論から書いてしまうと、実はこうやって設定面で無理矢理に「盛った」方が、書き続けていくには楽なんです。たとえ、上のような取材やお勉強の苦労が増えたとしても。
なぜか?
ハッタリの効いた「良い設定」は、良いエピソードをも連れてくる
ハッタリの効いた設定が有効に機能すると、作劇において少なくとも3つ、大きなメリットが得られます。
例を交えながら紹介するので、可能であれば、ぜひご自分の作品と比べながら読んでみてください。
アクションとリアクションが盛り上がる。
まず、1つ想像してみてほしいんですね。いわゆる「恥ずかしがり屋の女の子」ってのを。
想像できましたか?
で、その恥ずかしがり屋の女の子が、道端で好きな男の子にばったり会ったら、どんな反応しますかね? あなたもぜひ、考えてみてください。参考としていうと、むかし私がシナリオを教えていた頃の受講生たちはこう答えてくれました。
「赤くなります」
「建物の影に隠れます」
ま、普通ですね。
では次に、いまの恥ずかしがり屋の女の子を、こう再設定しましょう。
「彼女がもし、日本一恥ずかしがり屋の女の子」だったら?
すると……もう分かるかと思いますが、答えが如実に変わるんです。
「シャベルを取り出し、穴を掘って隠れます」
「叫びながら爆走し、街中を大混乱に陥れます」
……こんな感じに設定1つを「盛る」だけで、いちいち盛り上がる方向に話が動いてくれるということ。これが1つ目。
新展開が向こうからやってくる。
こちらは、いわゆるバトル物や1話完結タイプの物語でいちばん顕著になる効果なのですが……。
主人公に「日本一」「世界一」「宇宙一」といった看板がついていると、その噂を聞きつけた依頼人や挑戦者が勝手にやってくるという展開を作りやすくなります。
主人公がもし、ズブの素人や取り柄なしだったら、向こうから誰かがネタやトラブルを用意して近づいてくることは基本的にありません。もしあったら、それはほとんどがご都合主義です。この場合、主人公は目標やライバルを自分で探して、挑んでいくしかないというワケ。
でも、主人公を何かの天才に設定しておけば、その特技を頼る人物が向こうから勝手に来るという展開を用意しても、不自然ではなくなるワケです。
例えば、日本一の噂を聞きつけて挑戦しにきた。不可能を可能にするという評判を聞きつけ、悩み事の解決を依頼しにきた……。そういった具合に、物語のパターンはいくらでも膨らみますよね。
ちなみに、このパターンで作劇されている作品の代表例は「ゴルゴ13」です。
ゴルゴ13ノベルズ1 落日の死影
船戸 与一 (著), さいとう ・たかを (著)
価格:1092円,20%OFF,★★☆☆☆,2件のレビュー
直木賞作家・船戸与一がついに「ゴルゴ13」小説化に挑む! 活動初期に脚本に関わった「ゴルゴ13」でも屈指の名作と呼ばれる3作品をついに自ら小説化、3か月にわたり毎月刊行いたします。紙の本とも同時発売! 最初に刊行される「落日の死影」の内容は… 米国大統領のもとに難題が持ち込まれた。それは過去の政権とCIAが秘密裏に製造した「死霊の泉」なる猛毒物質の存在である。孤島に貯蔵されたこの物質を、存在証拠もろとも消し去ること。これがGへの依頼だった。
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ちょっと考えてみましょう。
「ゴルゴ13」の主人公・デューク東郷がもし、2流以下のスナイパーだったら……?
答えは単純ですよね。そもそも大きな仕事が来ないので、ちっとも作品が盛り上がらず、今のような長編シリーズ、名作にはなり得ていないでしょう。
彼が超一流、世界一だからこそ、世界中の情報機関や支配階層の人間が、極めて困難な仕事の完遂を求めて彼を頼ります。ひいては世界各地を舞台にした一大スペクタクルが量産されるワケです。
設定に説得力を持たせるための、追加エピソードが生まれる。
ここで一度、読者の目線に戻りましょう。
上でさんざん「日本一」だの「世界一」だのと煽ったワケですが……読者にしてみれば、そんなキャラクターをいきなり見せられたところで、「日本一」「世界一」には見えないはずなんですね。
ではどうすれば、作者の意図通りにキャラクターがすごく見えるのか?
いちばん王道的な答えは「エピソードを重ねること」です。
例えば、強いキャラクターを見せたいのであれば、その人物がどうやって強くなったのか、血の滲むような特訓や、強くなりたいと思った過去の原点などを描く必要が生まれますよね。
同様に、心にトラウマを抱えたキャラクターを見せたいのなら、トラウマの原因となったエピソードを描くことになるでしょう。あるいはラブコメなどで、ヒロインの気持ちを主人公に傾けさせたいなら、ヒロインの気持ちが動くようなエピソードが必要になるはずです。
こうやって、人物の背景を掘り下げることで、初めて読者はキャラ設定や展開に納得できるワケです。同時に、そういったエピソードを盛ることで、シリーズ化や長編作品に必要な「分量」も確保できます。
グラップラー刃牙 第1巻
板垣恵介 (著)
価格:400円,9%OFF,★★★★☆,6件のレビュー
範馬刃牙は“地上最強の生物”=父を超えるため、最強を名乗る男達と戦う! 格闘まんがの決定版!強き者の高見をめざし、その少年は閃光となって駆け抜ける!! 今はじまる真格闘伝説!!
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実際に読むと分かりますが……この作品は「登場する様々な格闘家たちの強さや魅力をひたすら紹介しまくっているだけ」です。ホントに身も蓋もない解説ですが……(笑)。
でも、だからこそ刃牙シリーズは100巻も続いたんです。それぞれのキャラクターを魅力的に見せるため、エピソードを量産する必要に迫られ、結果として量も膨れ上がったワケ。
まさに「必要は発明の母」といったところでしょうか。
上達したいなら、当面は主人公を「フツーの人」に設定するな!
これまでのシナリオ指導経験から、作家志望者が陥る失敗や陥りやすい罠の数々は、それなりに分析してあるんですけど……。
むかしのオレ自身も含めて、習作中の失敗で一番多いのは、何といっても「主人公をありきたりな、普通の人に設定してしまう」ことです。
繰り返しになりますけど、主人公を天才や何かの「日本一」に設定すると、勉強や調べ物がムチャクチャ必要になります。天才、日本一と目されるに値する「人物」を、読者が見て納得できるように描かなくてはいけなくなりますから。
でも、フツーの人を等身大に描くだけであれば、その辺りの努力が必要ありません。作者的にとても「楽」できるんです。資料の読み漁りや取材、あるいは特別な体験がなくてもすぐに書き始められるので。
ただ、その「楽」な書き方を何年続けても、商業出版で通用するレベルまでは上達しないというか。
誰でも持ち上げられる5kgや10kgのバーベルでトレーニングを続けても、世界一の力持ちにはなれないのと一緒です。要は目指すレベルに応じて、適切な負荷をかけましょうと。
そして作劇上達における負荷とは、まさしく「ハッタリをかますこと」なんです。主人公や世界観に仕込んだハッタリを、いかに矛盾や不自然なく「成立」させるか。その負荷をクリアすることで、作者は次のレベルに成長できます。
もっとも、本シリーズは電子書籍の著者さんに向けた作劇講座なので、こうした商業出版向きの努力を強制するのも、一面ではどうかと思いますが。一晩でサラッと書いたような作品が、TwitterやFacebookで「面白い!」とバズられて大ヒットする……そんなパターンもこの先、必ず生まれると思っていますし。
また、細かい矛盾やご都合主義が散見されるため、新人賞のような場では評価されにくいものの、本来的には面白い作品—-つまり「大味だけど面白い作品」に、今後はもっとチャンスが生まれることでしょう。
以上、強制とかしないけど、気にはして欲しい……そんな話です。
それと、もう1つの問題を忘れてはいけませんね。
主人公を「普通の人」に設定することで生まれる、もう1つの問題。それは、主人公や世界観があんまりフツーだと、そもそものあらすじや作品紹介から面白くなりにくいってコトです。
なぜなら優秀なあらすじや作品紹介とは、その多くがまず、魅力的な主人公キャラクターや世界設定の紹介から始まるものだから。
ちょうどいいので、あなたの手がいま空いているなら、amazonなどのページで、ぜひお気に入りのマンガやラノベの第1巻のページ、そこに書かれた「作品紹介」を読んでみてください。ほとんどの作品紹介において、主人公や世界の設定が、ストーリーよりも重点的に紹介されているはずです。
これ、多くの読者に手に取ってもらうためには「ストーリーよりも、魅力的な設定の方が重要だ」という一面の真実を表しているんですよ。
例えば「北斗の拳」なんてその最たるもので、第1話のストーリーそのものはちっとも面白くないワケです。
水を求めてフラフラさまよっていたケンシロウが、村でリンという少女に助けてもらい、そのお礼に、ちょうど村を襲ってきた盗賊たちを華麗にやっつけてあげた。
これだけですから。ストーリー自体は。
でも、暴力が支配する核戦争後の無法の荒野という世界観、指先1つで敵を爆発させる一子相伝の暗殺拳「北斗神拳」、それを身につけたケンシロウという主人公……そんな「設定要素」を補足してあげると、あら不思議! 不朽の名作になるワケです。
つまり設定における「ハッタリ」には、作品を面白くする効果と、読者に「読みたい!」と思わせる効果の両方があるってこと。もっと言うなら、キャラクターや世界観の設定時点で、もう「読者に読んでもらうための戦い」が始まっているんです。
異論、反論、受け付けます。 @gactors
今回も残念ながら(?)クイズを出すようなお題ではないんですけど、代わりに受け付けたいのが……
これまでの講義内容に対する「反論」「疑問」です。
オレのTwitterアカウント@gactorsにそうした異論や質問を投げてくれれば、今後、このコーナーで順番に回答します。
まあ、単なる罵倒や人格攻撃はスルーしますけど(笑)。
志望者さんや同業者さんからの真面目な質問や異論に対しては、きちんと回答したいと思っています。特に同業者さんからのちょっと意地悪めな質問とか、歓迎です。
実をいうと、むかし指導していた頃にも、特に今回のハッタリを巡る部分では、受講生や同業の後輩たちから異論がたくさん出たんですね。だから今回もきっと、読者の皆さんから思うところはあるんじゃないかと。
なお、過去に受け取った質問や異論を少し挙げてみると……
「普通の人を主人公にして、売れた作品はいくつもありますよね? ○○とか○○とか……」
「ノウハウが少年漫画に寄りすぎていて、少女漫画には使えないのでは?」
「ハッタリばかりでない、日常の面白さを描きたいんですけど……どうすれば?」
指導者やインストラクターを鍛えるのは、ひとえに「質疑応答」だと思ってますんで。今後ともよろしくお願いします。
この記事を書いた人
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本名:小久保真司(こくぼしんじ)
1974.10.12.うまれ。
東京・浅草というか山谷地区出身。現在は渋谷在住。早稲田中学・高校を経て、慶應義塾大学総合政策学部卒業。その後は某専門学校の声優科、勝田声優学院の事務員を経て漫画やゲームのシナリオライターに。2008年に友人の誘いで専門学校の講師となるが、ブログの記載内容を巡って学校側と喧嘩し、翌年に退職(笑)その後はがんばれ!アクターズを立ち上げ、自分で生徒を集めて指導に専念しています。
史上最弱の声優養成所『がんばれ!アクターズ』http://www.gactors.net/
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