ロシアで８歳の少女が時速１００キロで車を運転したとして、同乗していた両親に対し警察が捜査を開始した。
両親は娘の運転の様子をインターネットで公開しており、その非常識ぶりがロシア社会でも糾弾されているが、事件は交通事情が世界最悪とも言われるロシア社会の構造的問題も反映しているとも言えそうだ。
（黒川信雄）
「怖がるな。少なくとも１００キロは出せ！」
動画投稿サイト「ユーチューブ」には、車を運転する女児の隣で、気の狂ったような言葉で娘に高速運転を促す若い父親の姿が映し出されていた。激しいテクノ調の音楽が鳴り響くなか、少女の運転していた乗用車「アウディ」のスピードは間もなく１００キロに到達。時折、対向車とすれ違いながらロシア西部サンクトペテルブルクの郊外とみられる道路を爆走し、間もなく家の前で停車した。
少女は運転中シートベルトも締めず、楽しそうに運転をこなしていた。動画の撮影者は、後部座席に座っていた母親で、自分自身を撮影する場面もあった。
動画は多くの視聴者の注目を集めたが、現地メディアによると、間もなく警察が両親に対する捜査を開始した。事件を取り上げたテレビのニュース番組は「極めて無責任で、非常識な行為だ」と、両親を非難した。
ただ、ドライバーとしてのモラルのなさという点では、ロシアにおいてはこの両親だけが特別だとは言い難そうだ。
ロシアは交通事情の劣悪さで知られる。経済協力開発機構（ＯＥＣＤ）によると、ロシアは中東欧を含む欧州地域で交通事故の死亡率が最も高く、これらの地域の交通事故死亡者の３分の１を占めるという。
その背景にあるのは、まず急激な乗用車の普及だ。２００３年に１１０万台だった新車乗用車の年間販売台数は、１１年には倍以上の２４８万台に拡大した。大都市の路上では複数台の車が並列して駐車され、その脇をすり抜けるように車が走行する。モスクワの中心部では毎日のように大渋滞が発生し、事故が頻発している。
さらに、事故防止に向けた交通当局の取り組みの悪さも指摘される。スピード違反や飲酒運転への取り締まりはずさんで、事故時には有利な「取り計らい」を得るため賄賂が横行し、有力者が裁判で有利な扱いを受けるのも日常茶飯事だ。
そのようななかで、ドライバーのモラルが低下するのは当然の結果といえそうだ。事実、動画サイト上にはほかにも、ロシア国内とみられる場所で、子供が車を運転する動画があふれている。
現地報道によると、女児の父親に対しては、無免許者に運転をさせた罪が問われるとみられるほか、刑事事件に発生する可能性も指摘されている。しかし同様の事件が再び起こる可能性は、極めて高いと言えそうだ。
（動画は以下のサイトで公開）ｈｔｔｐｓ：／／ｗｗｗ．ｙｏｕｔｕｂｅ．ｃｏｍ／ｗａｔｃｈ？ｖ＝ｊｚｉＵｎｌＩｄ９ｕＹ