【原発事故】廃炉作業 燃料取り出し最優先 識者の目 京都大 原子炉実験所助教今中哲二さん
長年にわたり原子力の危険性について警鐘を鳴らしてきた京都大原子炉実験所の今中哲二助教(62)に、廃炉作業を行っている福島第一原発の現状評価と今後の見通しを聞いた。
−今年11月には4号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しが予定されている。福島第一原発の現状について、どのように捉えるか。
「今日、明日に何かをしなければ急激に悪くなるという危機的状態は脱している。ただし、非常事態であることに変わりはない。菅直人元首相が発令した原子力緊急事態宣言が、いまだ解除されていないのもそのことを示している」
−特に憂慮すべき点は。
「多くの国民が心配しているのは、4号機の使用済み燃料プールが崩落する恐れがあるのではないか、ということだろう。国も東電も危険性を承知しているからこそ、燃料取り出しが最優先課題になっている」
−東電は建屋の耐震性に問題はないとしているが。
「4号機と他号機の爆発は根本的に異なる。4号機はダクトを通じて水素が侵入し、建物全体に回って爆発したと考えられる。あのような状態になっては耐震性も分からない。東電は大丈夫だといっても、何が起こるか分からない」
−先日の発表では、放射性セシウムの放出量は事故当初に比べれば約8千万分の1に減ったという。
「かねて疑問に思っているが、炉心がちゃんと水に漬かっていれば、放射性セシウムが放出されることはないはずだ。格納容器や建屋内の壁に付着しているセシウムがダクトなどを通じて外部に出ているのではないかと推測している」
−廃炉作業の課題は。
「壊れた原子炉が3つあるだけでもチェルノブイリ原発事故よりも作業が大変だと思う。溶融燃料が水に漬かっているのかも分からない。安全に作業しようとするならば、原子炉格納容器そのものに水を満たすことになる。ただ、作業そのものはやりにくくなる」
−廃炉作業は数十年に及ぶ。県民はどのように向き合っていけばいいのか。
「放射能問題としてみれば100年、200年単位になる。重要なことは、住民が自らさまざまな情報を集め、被ばくの基準を自分で持つことだ。国は年間積算線量の20ミリシーベルトを基準に避難区域を設定するなど、さまざまな線引きをしているが目安にすぎず、住民が納得できなければうまくいくものではない。例えば、たばこが人体に害があると分かっていても、通常は一本吸っただけで将来、がんになるとは思わない。長期的には放射線のリスクとどう付き合うのか、一つの『文化』が必要になるだろう」
いまなか・てつじ 広島市出身。大阪大工学部原子力工学科卒、東工大大学院修士課程原子核工学修了。昭和51年から京都大原子炉実験所助教。原発事故後、飯舘村で調査。専門は原子力工学。
(カテゴリー:震災から2年)