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被災地の住まい再建―ここにこそ、人と資源を

 東日本大震災によって、今も32万人が避難生活をし、被災地からの人口流出も続く。公共工事は盛んだが、そこに希望を見いだせないのだ。5年間で25兆円にのぼる復興予算は、人がまばらな防災都市を造ってはいないか。

 過去に何度も津波に襲われてきた岩手県宮古市。明治と昭和の津波で壊滅的な被害を受けた田老(たろう)町地区は「万里の長城」と呼ばれる大防潮堤で知られた。大津波でそれも倒れ、200人近い犠牲者を出した。

■住民が出てゆく

 ここは津波被害を繰り返しながら、そのたびに水産業を中心に町を復興させた。厳しい土地の宿命と三陸の人のたくましさを象徴する地区だった。

 宮古市は最近、田老で被災した840世帯に、将来希望する居住地を尋ねた。回答は「他の場所」が48%、「田老地区」は45%、「未定」7%だった。

 現地に立てば、被災者の心中の一部を察することができる。

 がれきを除いただけの荒野が広がる。漁港近くの小高い山林が高台移転の候補地に決まったが、用地交渉は始まったばかりだ。集落のあった低地のかさ上げは高台の山を削って出る土砂を使うから、さらに先だ。

 高台で住宅を着工できるまで最短であと2年かかる。

 それまで、狭い仮住まいで待てというのか。「娘が高校を卒業してしまう」。宮古市街地の借り上げアパートに住む54歳の父親は、思いあぐねる。自分は帰還にこだわるが、多感な10代の子にいつまでも避難生活を強いてよいのか。

 被災3県の沿岸42市町村のうち、40市町村で人口が減った。転出の半数は30代以下という。出てゆく人を止めることは難しいが、もとからの過疎高齢化が一気に進んでいく。

■住宅を即年着工に

 田老の山側では、仙台市から青森県八戸市までを結ぶ三陸沿岸自動車道の建設が始まった。1兆3千億円をかけ、10年かけて完成する。

 なかでも宮古中央―田老の21キロは、普通は4年かかる計画決定から測量、用地交渉、着工までを1年でこぎつけた。国土交通省が全国からの応援や民間への委託を使った。幹部は「即日配達にならい、即年着工と名づけた」と起工式で語った。

 そんな人的パワーを、暮らしに直結する支援にも使いたい。被災市町村に入って仕事を助けてくれたらどれほど助かるか。

 役場の職員は、復旧の仕事に忙殺されている。全国の自治体から応援をもらうが、被災者と接する部門の職員のストレスは激しい。1月、兵庫県宝塚市から岩手県大槌町に派遣されていた応援職員が、宿舎の宮古市の仮設住宅で自殺した。

 宮古市は震災後に都市計画課を作った。総勢30人。半分は応援の公務員だ。住宅を移転させる高台の土地をいくらで売ってもらえるか、地主と交渉する。相続が登記されておらず、地主が何人どこに住んでいるかわからぬ土地もたくさんある。気の遠くなる作業が待つ。

 被災者支援の生活課、漁港整備の水産課も、ともかく人が足りない。市は事務庁舎をプレハブで増築したいが、多くの工事による資材不足で遅れている。

 道路とならぶ大型工事が防潮堤だ。田老では、倒れた10メートルのものを、県が今度は14・7メートルまで高くする。かさあげして再生させる町を守るという。

■ソフトパワーを強く

 何らかの防潮堤は必要だ。高台の自動車道は、安全な避難道路になる。水産物の販路も広がる。だが、住宅工事がようやく本格化するこの時期、大型の公共工事が大量に発注されれば、不足している資材や労働力を奪い、一つひとつは小規模な生活直結の工事が遅れる。

 安らぎの家を取り戻してこその復興だ。順番を忘れまい。

 道路や防潮堤は担当の役所が前からあり、造り方もわかっている。住宅用地の交渉はそれぞれが難しい。いま被災地では、工事のハードパワーはあふれ、交渉のソフトパワーの担い手は圧倒的に足りない。

 田老再建にはほかの案もあった。大防潮堤に頼りすぎて被害を大きくした過去を考え、無事に残った家をふくめて集落ごと別の市有地の高台に引っ越したいという願いだった。無事な住宅には国費を出せないという行政の壁で実らなかった。

 もう待てないと、田老に近い既存の団地に、被災者数十戸が自力で家を建て始めた。「顔見知りが多いから安心」という。「第二田老村」と呼ばれるここの住民は故郷に愛着をもつ。

 住まいと暮らしの再建。その支援に、大規模工事に投ずるエネルギーをもってすれば、復興は早まる。移住を余儀なくされた人たちにも、故郷にかかわる機会を手厚く用意したい。

 かつてと同じ生活を再現するのは難しいかもしれない。しかし、それは人口減と高齢化が進む日本全体の手本になる。

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