今何故イラク戦争の検証を行うか
昨日、谷山博史氏がゲストで「イラク戦争の10年と日本」を動画発信しました。
今、何故イラク戦争を検証する必要があるのでしょうか。
安倍政権は集団的自衛権を行おうとします。
更に安倍首相は憲法改定によって、集団的自衛権を実施する体制を取りたいと主張しています。そうすればイラク戦争のような戦争に自衛隊を派遣することとなります。
そうであれば、イラク戦争はどういうものであったか、何故イラク戦争に自衛隊を派遣したかの検証が不可欠です。
このブログでは原発、TPP、増税、ミサイル防衛と、一般に報道されていることが正しくないことをみてきました。
21世紀に入って最大の事件は2001年9月11日の米国同時多発テロ事件です。これを契機に米国の安全保障政策はすっかり変わりました。米国はアフガニスタン戦争とイラク戦争を開始します。
米国は、2003年3月20日イラクへの攻撃を開始し、2011年12月14日米軍は完全撤退をしました。8年以上に及ぶ戦争でした。
イラク戦争の米国兵の死者は4408名です。この戦争でのイラク人の死者数は様々のものがありますが、2009年4月23日付APは11万人以上が死亡したと報じています。
2008年3月2日付ロイターのトロッタ論評は「米国の直接戦費は8350億ドルであるが、ノーベル賞受賞者スティグリッツは3兆ドルに達すると述べている」と報じています。
これだけ犠牲を出したイラク戦争ですが、ここでも戦争は詭弁で開始されています。
ブッシュ大統領は 二〇〇三年一月の一般教書演説で次のように述べました。
「国連は一九九九年、フセインが数百万人を殺害できるのに十分な生物兵器を保有していたとの結論を下した。米国の情報当局は、フセインが五〇〇トン相当のサリン、マスタード(ガス)、VX神経ガスを製造できるだけの材料を保有していたと推定している。国際原子力機関(IAEA)は九〇年代、フセインが高度な核兵器開発計画や核兵器の設計図を持っており、また核爆弾用に五種類のウラン濃縮方法に取り組んでいたことを確認している。
フセインがそれらの兵器を使用する唯一の目的は、支配し、脅し、攻撃するためである。フセインが完全に武装解除しなければ、われわれは、米国民の安全と世界の平和を守るため、連合を率いフセインを武装解除する」
2003年2月5日パウエル国務長官は長文の国連演説をしました。それはイラクの大量破壊兵器を保有している事実を述べ、危険性を訴えることでした。
米国は①イラクは大量の大量会破壊兵器を所有している②米国同時多発テロ事件を起こしたアルケイダと関係を持っているという理由で戦争を開始しました。
米国国内では検証がなされました。2004年9月、イラクの大量破壊兵器を捜索していた米政府調査団のドルファー団長(CIA特別顧問)は、「イラクにおいて、湾岸戦争以降大量破壊兵器はほとんど廃棄された、脅威は存在しなかった」との最終報告書を発表しました。更に、九・一一調査特別委員会は、イラク戦争に入るもう一つの理由、サダム・フセインとアルカイダとの結びつきを否定しました。米国は公的機関でイラク戦争開始の論拠を崩したのです。
パウエル国務長官は、後、謝罪しています。2005年9月8日付USA紙はパウエルの次の発言を報道しました。
「国連演説は自分の歴史の上での汚点である。私は世界に大量破壊兵器があるといった。それは私の歴史の一部である。そのことは私には痛い(painful)なことである」
では日本はどうでしょうか。
2003年当時、日本で疑問の声を上げる学者がいなかったのでしょうか。山脇直司東大教授は「日本外交の哲学的貧困」(公共哲学ネットワーク、2003年11月2日)と題して次の論を展開しています。
・日本外交のおそるべき哲学的貧困とそれを支えた御用学者と呼ばれても仕方のない方々、特に東京大学の先生の責任を指摘(追及)して、こうした事態を正すのはどうしたらよいかについて、皆さんに考える材料を提供したいと思います。
・今から、9ヶ月前の2月6日にこの900番教室で、元国連大量破壊兵器主任主査官スコット・リッター氏の講演がありました。リッター氏は、現在のイラクに国際社会を脅かす大量破壊兵器があるという主張の無理を指摘し、根拠もなくイラク攻撃へと突き進むアメリカ政府を厳しく追及しました。
・3月30日付の読売新聞朝刊に元外交官の岡崎久彦氏の「勇気ある小泉発言」という記事が大々的に載りました。岡崎氏が自分の正しさを裏付ける決定的発言として、二人の東京大学の政治学者の名を出しました。一人の東大教授は「、国際社会は早期の武力行使をすべきかという質問に関する私の答えはおそらく(英語ではきっぱりと)イエス。新国連安保理決議は必要かどうかには、望ましいが不可欠ではない。武力行使を日本は支持すべきかどうかにはイエスである」と述べ、もう一人の教授は、北朝鮮問題を引き合いに出し、「米国は大変よい世界の警察官として今まで機能してきたし、アメリカ以外にその警察官の役割を負える国がない。人々を説得する一番の方法は、アメリカの支持が北朝鮮問題について必要であれば、イラク情勢ではアメリカを支持しなければならない、ということである」と断言しています。
・この三人の方々の外交論で露呈した欠陥をここではっきりさせておく必要があるでしょう。国際法や国連よりも日米同盟が重要だから、どういう理不尽な行動をとろうともアメリカにたてつくなという「長いものには巻かれろ」の恩顧主義です。
・この方々は愛国主義者ではありません。学者としての特権を生かして、利害を超えた普遍的な理念を追求する姿勢が全く見られないのです。残念ながら御用学者と呼ばざるを得ません。
この図式は全く、原発と同じです。確かに東京大学等学界は数多くの御用学者を出しています。同時に真摯に考えている学者もいます。私達の課題は、どうこういう人の発言を捕らえるかです。
山脇直司教授はある会合で他の学者から「二人の東京大学の政治学者の名は誰か」問われても明言されませんでしたが、岡崎久彦氏はこのお二人を田中明彦教授と北岡伸一教授と書いています。
問題はお二人に限りません。岡崎久彦氏の言葉を借りれば「日本の知識人の間ではこの問題がすでに決着している」状況で、皆イラク戦争支持に回ったのです。
米国は2004年から流れが変わりました。イラク戦争支持を唱えた人は言論界の主流から外れました。しかし日本は変わった国です。間違ったことを唱えていた人々がますます大学や学会、言論界で幅をきかせていくことになります。
イラク戦争を検証することがなければ、日本は同じ過ちをまた繰り返します。
日本を「発言や決定に対しては責任を取る」体制にする必要があります。
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