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誰かの妄想・はてな版

2013-02-26

右翼における従軍慰安婦問題に対する姿勢と南京大虐殺に対する姿勢の違いに関する大ざっぱな考察

となると課題として浮かび上がるのが、侵略戦争についても戦争犯罪の多くについても日本の責任を(保守派なりに)はっきりと認めている論者がこと「慰安婦」問題に関してはなぜああなのか、という問題だ。反対に、日本の戦争の侵略性は否定するが「慰安所」制度については深刻な人権侵害で誤りであった、とする論者が見当たらない、少なくとも目立たないのはなぜなのだろうか。「慰安婦」問題の否認の核にあるのは何であるのかを考えるうえで、念頭においておくべきことの一つだろう。

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20130219/p1

南京大虐殺に見られる捕虜・民間人虐殺に対して日本の加害責任を認める論者は右翼・保守の中でも少なくありませんが、従軍慰安婦問題になるとこの加害責任を認めない右翼・保守論者がほとんどです。この傾向は、右翼・保守に限らず、当時の参戦兵士全般にも見られるように思います*1

この点については私も以前から疑問に思っていたところで、自分なりの仮説を考えてはいますので、とりあえずつれづれに述べておこうかと思います。

最初に南京事件にしても従軍慰安婦にしても、事実として存在したことなので、それ自体を否定するような保守・右翼はここでは対象外とします。事実ではあるが、「必要悪」とか「やむをえない」「当時は普通」という弁明をする保守・右翼を対象とします。


日本の右翼・保守の基本的な考え方として、天皇を家長とし国民を子どもとみなす家族的世界観があります。この世界観では、戦争は、天皇と国民が一家として協力して別の家族(国家)と争うという視点になります。

保守・右翼の美学では、天皇を頂点とした日本という家族は戦争に際しても正々堂々と敵に対するべき、となります。このため、南京事件のように既に降伏して捕虜となった兵士や民間人を日本軍が虐殺すると言う行為は、美学に反しており、そのために保守・右翼にとって南京事件は加害責任を認めざるを得ない戦争犯罪となるわけです。

ところがこの世界観で見ると、従軍慰安婦は天皇を頂点とした日本という家族の一員となります。保守・右翼の考え方では、従軍慰安婦は兵士と共に天皇の為に尽くした戦友であり、兵士が命をかけ戦場で戦い貢献するように、従軍慰安婦は兵士に性を捧げて貢献するという協力関係です。家族が協力し合うように、兵士も慰安婦も協力し合う。慰安婦がその協力を拒むということは、保守・右翼にとっては兵士が敵前逃亡するに等しい行為に見える。家族の一員が裏切ったように見える。

だからこそ、保守・右翼は、従軍慰安婦が戦争犯罪などとは認めない。確かに貧困などの理由で兵士相手の売春をせざるを得なかった境遇には同情はするが、兵士だって徴兵され命をかけたのだ、お前だけ身勝手な主張をするなど「家族として」許せない。そもそも日本という家族の中のことは家族内で決めることであって、揉め事を家族の外に出すのは恥をさらすことだ。海外諸国を巻き込んで従軍慰安婦を問題化させるなど何と恥さらしなことをするのか、とこういう認識なのではないかと考えています。

保守・右翼の美学では、家族内で起きた問題は、家族の中で片付け、外に出さない。従軍慰安婦は日本という家族内の話であるので、外から問題視されること自体認められない。そして保守・右翼の美学では、家族内で起きた問題は、家長が専断して構わない。家長に従わず外に揉め事を出そうとする者は許せない、となるわけです。

もちろん戦後、朝鮮台湾が日本から離脱した為、植民地での慰安婦に対して、この家族観を押し付けるのは筋違いですが、それだけ感情的なものがあるように思えます。

とまあ、大ざっぱで取り留めのない考察ですが、ブレインストーミング的に思いついたことを書いてみました。

*1:もちろん、保守系軍オタに見られる自称中立なネット論者にも良く見かけますが、彼らの場合は彼等自身の信念とか思考とかではなく、現在どの論調が多数派か、だけで日和見した結果なので、今回は考察の対象とはしません。

rawan60rawan60 2013/02/27 03:21 >家族の一員が裏切ったように見える

ちょっと先を越された感じです(笑
この「裏切り者と見る感情」については、Apemenさんところで「沖縄集団自決」への保守・右派の対応の類似性で後日書こうかと思っていました。

ApemanApeman 2013/02/27 15:44 >既に降伏して捕虜となった兵士や民間人を日本軍が虐殺すると言う行為は、美学に反しており

彼らの語彙を用いるなら「男らしくない」とか「士道にもとる」といった具合ですかね。他方、性暴力というのは渡辺淳一の「男は獣」発言や太田誠一の「元気があるからいい」発言が示すように、右派にとっては「男らしさの発露」という側面ももつので、虐殺ほどには端的に断罪されない……という解釈も思いつきます。

浜かもめ浜かもめ 2013/02/27 21:27 いつも有意義な考えさせられるお話をありがとうございます。そうか。歪んだ同族意識が右翼というもの(今のヘイトスピーカー達が果たして本当に右翼と言えるのかどうかわかりませんが)の本質に流れているのかもしれないですね。人間は、外に向くときより内側に向くときにより一層の残虐性、冷酷性を示すもの。学生同士や先輩後輩関係での、当たり前のように発揮されてそして何も顧みられない暴力性は、まさに保守というものの負の部分かもしれないですね。

白楽正志白楽正志 2013/02/28 12:41 @unseen_wall 戦中の「真正右翼」(の論理)と軍部(主に関東軍)、そして大本営発表とそれを後押しした当時の大新聞(マスコミの論調)とを区分けする必要があろうかと思います。南京入城前の日本兵士の「13人斬りという英雄的行為」を捏造したのは朝日新聞でしたし。私も昔、近所にいた引き揚げ兵が中国人の首を切り落としたと自慢するのを何度か聞きました。虚偽であったでしょうが、吐き気を催すものでした。他方、私は男性なので、もし戦地に行かされたら、最期の慰謝として女性を求めることがない、とは断言できません。

scopedogscopedog 2013/03/01 00:49
id:rawan60さん
まだ上手く表現できませんが、歴史認識に限らず、体罰や親学などの社会問題に対する保守・右派の一貫した認識があるように思います。包含する問題が大きすぎてなかなか捕えきれないのですが・・・

id:Apemanさん
性暴力を「右派にとっては「男らしさの発露」という側面ももつ」というのは同感です。女は男に従うことを喜びとする、といった価値観が背景にありそうで、根が深すぎて全体像を捉えるのが難しいですね。

浜かもめさん
「学生同士や先輩後輩関係での、当たり前のように発揮されてそして何も顧みられない暴力性」というのは、いじめなどにも通じますし、単純に結べるものではないにしても保守の価値観と関連がありそうに思います。


白楽正志さん
>戦中の「真正右翼」(の論理)と軍部(主に関東軍)、そして大本営発表とそれを後押しした当時の大新聞(マスコミの論調)とを区分けする必要があろうかと思います。
それはどうでしょうか。南京事件と慰安婦問題に対する認識の違いについて考察する上で、そこまで細かく分類する必要は今のところないように思えます。
ところで、
>南京入城前の日本兵士の「13人斬りという英雄的行為」を捏造したのは朝日新聞でしたし。
これは何の話ですか?

rawan60rawan60 2013/03/01 15:22 >包含する問題が大きすぎてなかなか捕えきれないのですが・・・

様々な価値観が複雑に絡み合っているので捉え方が難しいですね。
天皇制を源泉としてそ「家族」という捉えかたをした場合も、それは「親和性」よりも、強権的な「家父長制」や、そこのある「階層」を民族的階層として転化させているという見方も必要だと思います。エスノセントリズムが民衆レベルでも強かったであろうことは(まあ、今もですが)、日中戦争前からの記録でも見かけるところです。
また天皇制を絡めて考えると、「女性天皇」の誕生を嫌う保守的女性観の片鱗を見出すことも出来ますね。

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