Updated: Tokyo  2013/03/09 13:04  |  New York  2013/03/08 23:04  |  London  2013/03/09 04:04
 

さよなら白川総裁、資産市場は歓迎-評価は歴史家に委ねることに

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  3月8日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁が19日に退任する。株式など資産市場はその退出を好感し、アベノミクスの下で日銀に送り込まれてくるリフレ派の正副総裁を歓迎している。しかし、長く日銀を間近に見てきたエコノミストの間からは、その評価を断じるのは時期尚早で、歴史に委ねるべきだという声も上がっている。

白川総裁が2月5日夕、任期満了を待たず、2人の副総裁とともに3月19日で退任する意向を示した翌日、円相場は一時、2010年5月以来2年9カ月ぶりの円安水準である1ドル=94円台を付けた。これを好感し、日経平均株価は3.8%上昇。リーマン破たん後間もない08年9月29日以来、約4年5カ月ぶりの高値となった。

一方、次期総裁として黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁、次期副総裁として岩田規久男学習院大教授の名前が報じられた2月25日、円相場は前週末のニューヨーク市場終値(93円42銭)から一時94円77銭と2010年5月以来の水準に下落。これを受けて日経平均株価は前週末比2.4%上昇した。株式市場は「白川日銀」に対して明確な「ノー」を突きつけるとともに、「黒田日銀」に対する高い期待を示した格好だ。

その黒田氏は4日、衆院での所信聴取で「日本のデフレは15年続いている。日銀が十分責任を果たせていなかったのは事実だ」と指摘。米連邦準備制度理事会(FRB)がリーマンショック後の金融危機に際し、「同じ量的緩和でも、その時々の金融市場の動向に応じて、できるだけ金融緩和が効果的になるように努力している」のに対して、日銀の努力は「やはりまだ不十分だった」と断罪した。

円高対応に追われた5年間

SMBC日興証券の岩下真理債券ストラテジストは「白川総裁の5年間を振り返ると、リーマンショックの危機対応と円高対策に苦労した歳月だった」と語る。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「海外の経済・金融環境が悪く、円高基調が続く中で、政治圧力に押されて追加緩和を繰り返した5年間だったと総括される」という。

リーマンショック後の08年10月に政策金利を0.5%から0.3%に、12月に0.1%に引き下げ、翌09年3月18日には長期国債の月々の買い入れ額を年1.4兆円から1.8兆円に増額。同年12月には0.1%の固定金利オペを導入して数次の追加緩和を行ったが、その後も円高は止まらず、10年10月に長期国債に加え、指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)を買い入れる包括緩和策を導入した。

シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「白川総裁の任期は08年4月に始まっており、世界金融危機以降ときれいに重なっている。誰が総裁でも難しいかじ取りを迫られる局面だった可能性が高い」と指摘。「特に日本は他の先進国に先駆けて民間部門のディレバレッジ(債務削減)や金融システムの健全化にめどをつけていたため、その分、金融緩和が欧米に比べて小規模になりがちだった」という。

いら立ちのスケープゴートに

村嶋氏はさらに、「それに加え、白川総裁が金融政策の効果の限界をしばしば率直に指摘したことも、金融緩和のアナウンスメント効果を弱め、円高を招いてしまった」と指摘する。

東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「資産規模やリスク資産買い入れにおいて、実際はかなり踏み込んだ金融緩和が行われ、その一方で通貨の信認や国債価格安定は崩れなかったが、デフレに対する即効性はなかったため、一般には日銀の政策は理解されなかった」と指摘。「結果として低成長へのいら立ちの『スケープゴート』に日銀はされてしまった」と指摘する。

JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「白川総裁は、過剰な金融緩和は過度な相場変動を招来する可能性が高いと信じ、漸進的な金融緩和が望ましいとの立場から、金融緩和策を実施しても、市場へのメッセージは控え目だった」と指摘。これに対し、「デフレ回避を信条とするバーナンキFRB議長は、市場に対するコミュニケーション戦術を重視、両者の対応は対照的だった」という。

その上で「白川総裁が中長期的な経済の安定を目指したのに対し、バーナンキ議長は短期の経済の下振れ回避に重点を置いた政策を行った。その結果、円高となり、円高に耐え切れない日本経済の下で、金融政策は政治介入を招き、軍配はバーナンキ議長に上がった」と語る。

その評価は歴史家の手に 

菅野氏は一方で、「金融緩和の長期化の下での資産価格上昇は、従来の緩和局面同様、何らかの資産バブルを発生させる可能性が高く、いずれバブル崩壊となるリスクをはらんでいる」と指摘。「いったんはバーナンキ議長に対して上がった軍配だが、『資産バブル⇒資産バブル崩壊』が現実のものとなれば、白川総裁の警告が正しかったことになる。白川総裁の評価は歴史家の手に委ねるべきだろう」という。

バークレイズ証券の森田長太郎チーフストラテジストは「過去数年間にわたる欧米の金融政策の成否は、長期的な観点からはまだ断定できる段階にはない」と指摘。「日本にはアカデミズムの世界を中心に、非常にナイーブな米国礼賛、バーナンキFRB礼賛の論調が強いが、こういった論調が長期的かつ歴史的な検証に耐え得るものかどうか疑問はある」と語る。

その上で、森田氏は「白川日銀に対する評価も、歴史的な評価の中でどのように定まってゆくのかは拙速に言うことはできないだろう」としている。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net

更新日時: 2013/03/08 00:00 JST

 
 
 
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