リィンさんがフワフワ浮かんでる後ろを、僕ら姉弟はトコトコついていく。
途中に渡った橋の下では、何人ものオークの農夫達が体を洗っていた。
ジュネヴラの風呂屋は無料の公衆浴場で誰でも使える。けど、そこまで行くのが面倒だとか、お湯が好きじゃないという人は、途中の川で水浴びして済ませてしまう。
オーク達は、二足歩行してるし指もある。けど、水浴びしてる彼らの姿は、やっぱりブタっぽい。
僕らはお湯が好きなので、街の風呂屋まで戻る。
お湯が好きだから風呂屋に行くだけですよ、僕にはそれ以外に目的も欲望もありませんよ、るんるん。
街の風呂屋は、既に盛況だ。
脱衣所も湯船もなかなか広いんだけど、お湯を浴びるのが好きな人もたくさん居る。
収穫に忙しいこの時期、体を洗いに来る人で一杯だ。
で、やっぱりきれい好きなのは女性の方が多い。
んでもって、ここの風呂は湯浴み衣を着て入るルール。服を着て入るから、問題なく混浴です。
混浴なんです!
街にいる女性兵士達は、基本的にマナーとかエチケットにうるさくない人達です。軍人ですから。
街の外、森で暮らしてる妖精達も貧乏な田舎暮らしの人達。今の魔王が魔界を統一するまで、山にこもって暮らしてた。妖精の子供が裸で飛び回るのも当たり前。
家族で街に移り住んできた商人や農夫達の奥さんも、開拓精神にあふれたガッツのある、男勝りな人が多い。
つまり、そんな上品でお高くとまった街じゃありません。のどかでざっくばらんな田舎です。
そして、脱衣場に置いてある湯浴み衣の数には限りがあります。
移り住んできて間もない人や多くの妖精は、余計な服を買えないくらい貧乏です。自分用の湯浴み衣を持つ人は少ないです。
しかも裸を見られたくらいでどうこう言わない、良く言えば漢らしい女性、悪く言えば下品で粗野なオバサンっぽい人が大半。
その上、女性と言っても、ゴブリンやオークや妖精やワーキャットまでいるんです。他種族の裸に興味のある人は、なかなかいません。
なし崩しに、みんなごっちゃになっちゃいまあす。
というわけで、今、僕の目の前にはパラダイスが広がっています。
この世界に転移してきて本当に良かったと、神に感謝します。
神様って、決して無慈悲な暴君じゃなかったんですね。
夏だからプールや海に入ることもある、と思って持ってきた海水パンツに着替えながら、心の底からそう思います。
備え置かれた湯浴み衣は、既に使い尽くされてビショビショの状態で風呂場の隅に山積み。
服を着て入るルールなんかお構いなしで、みんな裸で入っちゃいます。
さすがにこの忙しい時期、湯浴み衣を着てないくらいで笑う人も笑われる人もいないです。
というか、街が造られたときに『風呂では湯浴み衣を着る』という法律が作られたんですけど、次第にみんな面倒だからと無視するようになってます。
長身のエルフ女性も、小柄な妖精の女性も、ヒゲ面なドワーフの女性も、緑色のゴブリンの女性も、みーんな裸です。
ああ、素敵ですファンタジー。
これこそまさにファンタジー。
エルフのお姉さんのプルンプルンなおっぱい、素敵です。
妖精さん達のささやかな胸、それはそれでアリと思います。
もちろん一応はタオルや腕で隠すような素振りはあります。ですが、お風呂につかってれば、やっぱり見えちゃいます。
もちろん男も、ワーウルフやワーキャットの女性も、ヒゲ面なドワーフ女性も居ますが、それはアウトオブ眼中。男性入浴客も大勢いるけど目に映りません。
奥の方には、酒場で歌手をしていたコウモリ羽の女性二人もいます。背中を向けて水浴びをしている彼女たち、そのお尻も魅力的です。
あの二人は、酒場が開店する前に、いつもお風呂に来てます。
ポカッ!
いきなり後ろから頭を叩かれました。
「ちょっと、入り口で何をボサッとしてるのよ。
早く入りなさいな」
振り返れば、リィンさんでした。
彼女は、下だけホットパンツみたいのを履いてました。
右手は僕の頭にチョップ、左手は腰にあててます。
だから胸が目の前。
ちょっとだけ膨らんだ二つの上には、小さなサクランボ、よりもっと小さなピンク色の可愛いものがチョコンと乗ってます。
い、いくらペッタンコで、地球で言えば男の子と見分けつかないかもなレベルと言ってもね、こんな目の前で見せられたら、たらたら、ちょちょちょっと、ねえ。
思わず真っ赤になって、回れ右。
ギクシャクしながら大きな浴槽の方へと歩いてく。
落ち着け落ち着け、精神統一邪念滅却……と呟きながらお湯をざっぱんと浴びる。
ぷるぷると湯を弾いて、ついでにエロ魂も落ち着けて目を見開いた。
そしたら、まだ目の前にリィンさんの黄色い瞳。
クルクルとウェーブのかかった赤毛が、濡れて光ってる。
そして彼女の顔は、ニンマリと笑ってた。
「あらあらあ~?
ユータってば、何を真っ赤になってるの?」
「ま、マッカになんか、なってないよ!」
「嘘おっしゃい。
だったらこの赤い頬はなあに?」
そういって、そっと彼女の細い指が僕の頬を撫でる。
い、いやその、逃げようかと思ったけど、何故か逃げれなくて。
避けようと思ったけど避けれなくて。
ビクッと首をすくめたけど、構わず彼女は頬をなでてくる。
「うふふ……人間族のクセに、妖精のお姉さんに興味が出ちゃうなんて、悪い子ねえ」
「い、いや、その……カラかわないでよ!」
「ちょっと、リィン。
おバカな弟をからかわないであげてよ」
僕の背後から冷たい言葉を投げかけてきたのは、姉ちゃん。
振り返れば、ビキニ姿の姉が冷たい目で見下ろしてる。
そして背中を蹴り飛ばされた。
ザッパンと水しぶきを上げて湯船に突き落とされる。
「あんたも!
デレデレしてると、ツカまるから気をつけなさいよ!」
「ひ、ヒトギきのワルいこと、イうなよ」
お湯から顔を出すと、やっぱりリィンさんはニヒヒーと笑ってる。姉ちゃんは虫でも見るような視線。
あーもー、恥ずかしい。
「ふん、カッテにイってろよ。
ボクはムこうでゆっくりつかってるからな!」
すいーっと平泳ぎしながら、うるさい二人から遠ざかる。
チラリと肩越しに振り返れば、二人はワイワイとおしゃべりしながらサウナの方へ行く。
やれやれ、これでゆっくりお風呂に入れる。
それにしても、今日はお客さんが大入りだな。
ワーウルフやワーキャットまで入ってる……猫なのにお湯が好きなのか。
彼らは毛むくじゃらだから、湯船にも毛が浮いちゃってるよ。
ま、湯量は豊富。どんどん沸かして流し込んでくれてるから大丈夫だけど。
ふぅ~、くつろぐなあ。
湯船の一番端、壁に背を預ける。
目の前のパラダイスもいいけど、こうやってゆっくり目を閉じるのも最高にリラックス出来る。
「サリュ!」
「はぁい、ユータ」
夢見心地でいたら、また声をかけられた。
振り返って見上げれば、酒場の歌手二人組。
おおう、二人は、その、何も着てませんよ!
しかも全然隠そうとしてません。
そ、それを下から見上げたら、きゃー!
し、ししし、下から見上げたオッパイは新鮮すぎてててて、しししかももも、あ、あああ、あそあそあそこここまでで!?!?
どっひゃーっ!
直視出来なくて、反射的に真正面へ顔を戻す。
でも視線はチラチラと、彼女たちへつられてしまう。
そそっそしたら、彼女たちは、ボクの僕の左右へ、湯に入って来たんですよお。
も、もう、こっちが恥ずかしくて、肩をすくめて小さくなっちゃいます。
ででもでも、彼女たちはそんなの気にせず、左右から挟み込んでくるんですう!!
「お久しぶりねえ。
最近は見なかったじゃないのさ」
「お店に来てくれたのも、姫様と来た一回だけじゃない。
つれないわねえ」
「あ、あの、その……」
どんどん寄ってくる二人。
黒人女性風の人が右から、長い黒髪の人が左から、からから、むむ胸ををを!?
ぼ、僕は、どうにかなっちゃいそうです!!
「ぼ、ボクは、その、おサケ、ニガテで……」
「あらあら、可愛いことを言うじゃないのさ」
「酒場はお酒を飲むだけの場所じゃないわよ。
あなた、人間族だから……色々と、良いことも出来たのに」
「あたいたちと、良いこと、したくないかい?」
い、良いコトって、なんなんですかーっ!?
おおおお教えて欲しいっす、教えて下さいお姉さん!
なんて叫んでしまいたくなる衝動を必死に抑える。いや正しくは、もう興奮しすぎて声がでない、言葉にならない。
「ほんと、残念だわねえ……もっと早く来てくれれば、お店で楽しませてあげれたのにねえ」
「実はあたしたち、明日にはジュネヴラを出るのよ」
「え? アシタ、ジュネヴラを?」
左の黒髪のお姉さんを見る。
そしたら、目の前に形の良い胸が、水面ギリギリの所に黒めのサクランボが。
視線が釘付けです。
そんな経験不足な僕の有様を楽しそうに、そして残念そうに眺めてる黒髪のお姉さんです。
「そうなのよ。
もうすぐインターラーケンは冬になるでしょ?
夏も終わったし、避暑もこれくらいにして、山を降りようと思うの」
「王族連中も、もうすぐ山を降りるらしいさね。
冬は雪で仕事になんないからねえ。
もっと南の方へ行くさね」
「え? オウゾクも、山を降りる?」
右へ向けば、黒人風な女性のダイナマイトな胸が。
いやそれはおいといて、王族の人達が山を降りる、だって?
ちょっと待って、それじゃルヴァン様や、フェティダさんまで!?
「ええ、そうよ。
だって王族の人達、避暑でヴァカンスのために来たようなものなんだからね。
山の下も涼しくなったし、ここは冬が辛いから、トゥーン様以外は帰っちゃうわ」
え……。
じゃ、じゃあ、僕らは?
僕らはどうなるのっ!?
次回、第九章第三話
『実現不能』
2011年6月14日00:00投稿予定
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