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Σガムダン、始動
「ケレス! これはどういうことだ? なぜあの区画が爆発している?」
 この場で最も偉いであろうブリッジの中心に座る男。先ほど命令を発した男が激昂する。
「申し訳ございませんプルートゥ。しかし作戦の成功率を1%でもあげるための行動ですのでどうかご容赦を」
 ケレスと呼ばれた男は怜悧な瞳でプルートゥと呼んだ男を見る。罪悪感の一つすらない目、ここは戦場、甘いことを言うな、と暗に言っているようにも見えた。
「っ! 民間人に危害は加えてはならんとあれほどっ! まあよい! その痛みもこの私が背負おわねばなるまい。このプルートゥ・ローウェルがな。プルートゥガムダンで出るぞ!」
 プルートゥは立ち上がりブリッジから去った。為すべきことを為すために、全ての痛みを背負う覚悟でこの場に居るのだ。今さら、この程度の誤差で揺らぐわけにはいかない。

     ☆

「こっちは無事なのか? 無事な所を伝って行ったらこんなところに来ちまったが……格納庫……なのか? っ! 大量の死体か。ここで銃撃戦でもあったみたいだな。まあ死体なんて見飽きちまったけどさ」
 ふざけた様子を取りつくろうカイ。実際ここに至るまで、カイは多くの死体を、多くの惨劇を見てきた。今さらこの程度、などと考えてしまう程度には、感覚がくるってしまっていたのだ。
「おいっ! 誰かいるのか?」
 そんな中、カイに向けて声が発せられた。
「あんた……誰だ?」
 呆然と問うカイ。目の前に現れた男は、明らかに満身創痍であった。身体の多くに銃に撃たれたような痕があり、血も、かなり大量に出ている。
「子供? まぁいい。ごほぉ! 俺はミゲル。ミゲル・チヂワ少佐だ。所属は小僧に言っても仕方あるまいな。ところで小僧……地球は好きか?」
「な、なんだよ急に」
 唐突な質問にカイは面喰う。
「好きかって聞いてるんだよ。ごふっ」
 しかし男の必死な問いかけを、カイは無視することが出来なかった。
「……正直好きじゃないよ。宇宙の方がよっぽど好きさ。つーかあんた大丈夫なのか?」
 ゆえにカイは正直に答える。一瞬ミゲルは考え込んだが、自身の身体、そしてカイの顔を見て――
「そうか、そういうのでも悪くないかもな。おい小僧。このキーをくれてやる。こいつはそこの新型機Σガムダンの起動キーだ。おまえがこいつをどう使うかはおまえの勝手だ。好きに使え。だが、出来ることならばごふぉ! いや良い。考えるな、己が感じたままに、動け。それできっと……ぁ、がぁ……これで……いいですかい? 俺の役目は――」
 ミゲルは言うだけ言って倒れ込んだ。
「おい! おい! おっさん!」
 カイはそれを抱き起こそうとするも、ミゲルはすでに――
「……死んだ……のか?」
 息絶えていた。カイはまだ温かいそれを、丁重に床に寝かせた。そしてキーを見て、閉まっているドアの先、おそらくその先にあるであろう何かを――
「……行こう」
 カイはその先へ向かった。ここが――カイにとって運命の分かれ道となる。

 カイの目の前には白い巨人の姿があった。まっさらな機体。まるで白いキャンパスのようなそれは、無限の可能性を秘めているように見えた。
「こいつがΣガムダン……俺が乗っていいのか? これを好きに使っていいのか? これで復讐して良いのか? ……やってやる……リュウ、ミライ。見てろ……必ず……必ず復讐してやるからな」
 少年は武器を手に入れた。どうしようもない絶望。それを覆すことなど出来はしない。だけど、それでもカイは――今のカイは何かにその衝動をぶつけなければ、気が済まないのだ。リュウとミライ、やっと掴んだ宇宙への切符。希望に満ちた未来。全てを奪われた、なら――
「奪って……やる」
 奪い返さねばならない。どんなことがあっても――カイはこの事態の元凶に復讐を誓う。何処の誰だかわからぬ存在に、カイは――誓う。

     ☆

「えーとキーの挿し場所は……ここか。キーを回して起動。これでいいのかうわぁ! 急に明るくなった。って起動したからか……声紋認証と網膜認証…………やけに厳重だな……認証終了。これで動く……のか? マニュアルは……ねえぞおっさん! くそ! そんでも動かすだけならシミュレーターと大して変わらない、か? ……武装は……バルカンとビームセイバーだけ!? おいおい手ぇ抜き過ぎだろ! ちっくしょう! 大した新型機だよ! ハッチは……開いてるってか壊されてるのか……えっと……」
 カイは一拍置いて視線の先、宇宙を見る。其処は既に憧れた場所ではなく――
「Σガムダン出ます」
 焼けつくほどの復讐の空。カイは初めてガムダンに乗って宇宙に出る。それはカイにとって念願であり、三人にとっての、夢でもあった。本来希望に満ちたその船出、しかしカイの胸にあるのは、そんな綺麗なモノではない。誰に向けていいのかもわからぬ怒り。それを滾らせカイは行く。
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