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	鬼ゆり峠（三）
	著／団鬼六
	発行／イースト・プレス

	シリーズ／鬼ゆり峠
	形　式　：
	価　格　：　1,365円（税込）

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著者プロフィール

　団　鬼六（だん　おにろく）
　１９３１年４月、滋賀県彦根市生まれ。関西学院大学法学部卒業。『花と蛇』『伊藤晴雨物語』などによって官能文学のジャンルで一時代を画す。
　また、趣味の将棋を通じて知り合ったアマ棋界の強豪・小池重明の生涯を描いた『真剣師小池重明』によって新境地を拓く。その他、伊藤晴雨と竹久夢二をめぐる三角関係を描いた『外道の群れ』など著書多数。

解説

　「ああ、もう、もう、許して」
　弟・菊之助を助けるため、屈辱的な淫虐地獄を耐え続ける浪路。お付きの女中とまで狂態を演じさせられ泣き狂う浪路だったが、次第に言い知れぬ快感に襲われていく――。
　時代悦虐小説『鬼ゆり峠』第３巻。すべてのＳＭ小説ファンに捧げられる究極の一冊！

第十三章　菊之助の涙　娼婦と少年／可愛い玩具／二匹の狼／酔うお銀
第十四章　悶える姉弟　獣の戯れ／男達の技巧／新入り
第十五章　無念の再会　望みの綱／涙の主従／千鳥の契り
第十六章　禁断の接吻　肉の踊り／女と女／哀しき媚態
第十七章　千津の恋　　白と白／淫婦の手管／肉の合戦／汚辱花／汗と涙
第十八章　淫らな記憶　女の嫉妬／女の秘密／紅ぐも屋

抄録

　冷たい程の光沢を放つ冴えた乳色の美しい裸身を仰臥させ、両腿を押し開いたままで縛りつけられている浪路――そして、身を寄せつけて激しく泣きつつ、懸命になって愛撫を加えている千津も素っ裸であり、その白く霞んだ厚味のある肉づきは汗を滲ませて切なげに揺れ動いているのだった。
　そして、浪路も千津も恍惚と陶酔に酔い痴れ、完全に自分を失って共に淫鬼になり切ったような痴態を示し合うまでになっている。
　「浪路どの、もっと燃えろ。もっといい声を出さんか。身体を溶け潰して真の悦びを示さなければ菊之助を救う事は出来ぬのだぞ」
　と、定次郎が茶碗酒を口に運びながら意地悪く嘲笑すると、お春はまた横から手を出して千津の責め立てている部分をたしかめ、
　「駄目、駄目、まだ潤みが足りないよ。女中の手管だけじゃ気をやれないから熊造さんを呼んで来てくれというのかい」
　などとおどしたり、からかったり、その度に浪路は、ああっ、と上気した頬を悲痛なばかりに歪めて、千津、もっともっと、奥の方まで激しくっ、と我を忘れて思わず昂ぶった声をはり上げるのだった。
　そして、横から添寝するように身を寄せつけ、ゆるやかに浪路の柔らかい乳房を片手で揉み上げながらお銀が含み笑いをしてささやいて来ると、浪路はためらいもなく唇を慄わせながら、
　「千津、お、お願い、舌。舌を使って」
　と、すすり泣くような声で催促するのだった。
　自分の肉体を千津の手管で溶かすため、自分も努力しなくてはならぬとは、ああ、何と辛い仕事なのか、浪路はひきつった声で泣きじゃくり、自分と千津を同時に傷つけなければならぬこの苦しさと恐ろしさに悶え泣くのである。
　奥様っ、お許しをっ、と激しく一声叫んで千津はのっぴきならぬ自分の昂ぶりをぶち当てるよう唇を触れさせた。
　あっ、と浪路は突然、火でも押し当てられたような艶やかなうなじを、うっ、とのけぞらし左右につながれた優美な二肢をブルブル慄わせる。
　「ああ、千津。あ、あなたをこのように傷つけてしまった浪路を許してっ」
　「何をおっしゃいます、奥様。千津こそ奥様をこのようにみじめに傷つけているのではありませんか。ああ、もう何もおっしゃらないで。千津は淫婦なのです。奥様の生血をすする妖怪にまで成り果てました」
　千津はわめくようにそういうと落花無残とばかり深く舌先を滑りこませていく。
　ううっ、と浪路は汗ばんだ富士額を極度に歪め、喰いしばった歯をカチカチ噛み鳴らした。魂が溶けてしまいそうな汚辱を伴う快美感がぐっとこみ上がり、浪路は火を吐くような喘ぎを洩らし始めたのである。
　千津の全身の肉という肉も官能の美酒に酔い痴れたよう甘く溶けてしまっている。女の肉を一つ一つ剥がすように粘っこく愛撫しながら唇に含み、吸い上げると浪路は玉の緒も凍りつくばかりの戦慄めいた痙攣を示し、ああっ千津っ、と上ずった声をはり上げるのだった。
　お銀がまた浪路に次の手段を教えようとして耳元にニヤニヤしながら口を寄せていくと全身を灼熱の炎で焼かれている浪路はお銀の言葉を半分も聞かぬ内に、
　「ね、千津、浪路にも千津を愛させてっ、ねえ、それを浪路にもさせてっ」
　と、ひきつった声で叫んだ。
　一瞬、ハッとし、狼狽を示す千津の波打つ背中にお春が手をかけて、
　「さ、何も照れる事はないじゃないか。浪路様は相嘗めがしたいとおねだりなさっているんだよ」
　と、笑いながら逆体位で千津を乗せ上げようとする。
　「そ、それは、ああ、いけませぬ。と、とてもそのような、ああ　許して――」

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