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卵子の残り数を知って人生設計を
3月8日 17時10分
国内で不妊に悩む夫婦は急増していて、6組に1組に上るとされています。
急増の主な原因は、働く女性が増え、30代半ばを過ぎたごろから妊娠しにくくなる「卵子の老化」です。
卵子の老化は、卵子の「質」が低下するというものですが、実は、これとは別に、卵子の「数」も不妊と大きな関わりがあります。
いま、自分の体に残っている卵子の数を調べて、将来の不妊を防ごうという取り組みが始まっています。
社会部の牧本真由美記者が解説します。
卵子の元となる細胞は減り続ける
卵子の元となる「卵祖細胞」という細胞は、女性が生まれたときから卵巣の中にあります。
生まれた時はおよそ200万個ありますが、月経が始まる思春期には20万から30万個ほどになり、その後も増えることなく減り続けていきます。
この減少のスピードには個人差があります。
30歳前後の若い時期に、卵子がなくなる「早発閉経」の人は、100人に1人に上るとされています。
月経などに異常がなく突然、閉経する人もいて、速いペースでなくなっているかどうか気がつかないケースが多いということです。
卵子の残りの数が分かる“AMH検査”
不妊につながる、この卵子の数の減少。
残っている卵子の数を簡単な血液検査だけで調べることができます。
「AMH検査」と呼ばれるものです。
AMHは、「アンチミューラリアンホルモン」の略で、卵子の元の細胞を包む「卵胞」から分泌されています。
血液中に含まれるこのAMHの量を調べることで、卵巣の中に残っている卵子の数を推定するのです。
これまで不妊治療の治療法を決めたり、いつまで治療できるのかを判断したりする指標として使われてきました。
このAMH検査は、血液検査なので医療的な危険性はなく、血液中のAMHの量は月経周期など体調に左右されないためいつでも受けることができます。
検査は主に不妊治療専門のクリニックで行われていて、費用は保険が適用されていないので1回5000円から1万円ほどです。
広がるAMH検査
私は、この検査を行っている名古屋市の不妊治療専門のクリニックを訪ねました。
ここでは最近、検査を受ける若い女性が増えており、多い月では200人を越えるということです。
検査を受けた20代の未婚女性は、「不妊に悩んでいるわけではありませんが、あとどのくらいの期間、妊娠が可能なのか知りたいと思い検査を受けました」と話していました。
クリニックの院長の浅田義正医師は、「卵子の質は30代半ばを過ぎたごろから低下し妊娠しにくくなりますが、残っている卵子の数は人それぞれで、20代だから大丈夫、30代前半だから大丈夫とは絶対に言えない。ぜひ若いうちに検査を受けて欲しい」と話していました。
検査で人生設計を見直した女性も
この検査を受けて、人生設計の見直しを迫られた女性もいます。
東京でエステ店を経営する森瞳さん(35)もその1人です。
森さんは、26歳の時に店をオープンしました。
店を増やし、事業を拡大させることが夢でした。
29歳で結婚しましたが、仕事が優先だとして子どもは30代後半に産もうと考えていたということです。
その準備のため33歳の時に受けたAMH検査で思わぬ結果が出ました。
医師からは、卵巣は閉経間際の状態で、卵子は残りわずかだと告げられました。
森さんは、結果を知った時のことについて、「まさかという感じで目の前が真っ暗になって1週間ほど泣き続けました。やりたいことがいっぱいあるのに諦めなきゃいけないのかとか。自分の生活や目標など、プランが全部、総崩れになってしまいました」と話していました。
森さんは結果を受けて、仕事の時間を大幅に減らして、不妊治療を行っていますが、妊娠には至っていません。
みずからの経験を生かしてNPOを設立
森さんは、若い女性に同じような苦しみを味わってほしくないと、ことし1月、NPOを立ち上げました。
妊娠に必要な知識を知ってもらおうという活動を始めています。
先月は、美容業界で働く女性たちの集まりを訪れました。
森さんは、妊娠についての知識を持っていなかったことへの後悔や、検査を受けて人生設計を大幅に見直したみずからの経験を交えながら、「妊娠には適した時期があることを知ったうえで、仕事とのバランスを考えてほしい」と訴えました。
参加した女性の1人は、「今後の仕事と出産というライフプランにしっかりと向き合っていきたいと思いました」と話していました。
森さんは、「キャリアを磨いて、一生懸命仕事をしていく時期があってもいいと思います。だからこそ、自分が後悔しないようにAMH検査などを受けて自分の体をしっかりと知ったうえで、戦略的に人生を考えてもらいたい」と話していました。
1つの参考値として
わたしもこの検査を2度受けました。
先月の検査の結果は、同じ年齢のほぼ平均値でした。
しかし、1年前に受けた検査と比べると、数値は確実に下がっていました。
「健康に気を遣っているから大丈夫だろう」という根拠のない自信を持っていましたが、医師の言うとおり卵子は確実に減っていくということを実感し、「自分の体にしっかり向き合っていこう」と思っています。
これまで不妊で悩む多くの夫婦に取材をするなかで、卵子の数や老化などの知識がないままに不妊になり後悔する人たちの話をたくさん聞きました。
このため、子どもを産みたい場合はいつ産むのか、人生設計を立てるべきだと強く感じています。
AMH検査は、まだ数年の新しい検査で、若い女性についてのまとまったデータはなく目安でしかないという指摘もありますが、人生設計を考えるための参考として、この検査を受けることも考えてほしいと思います。