サンデー時評:居所不明の小中学生千人と「親」

2013年03月06日

 ◇岩見隆夫(いわみ・たかお=毎日新聞客員編集委員)

 居所不明の小中学生が全国に千人近くもいる。文部科学省の調査でわかったそうだ。驚きである。それとも、こんな数字には、世間もあまりショックを受けなくなったのだろうか。

 大阪の女児不明事件は、出生直後に死んでいるのに(殺したらしいが)両親が児童手当を不正受給していたことがわかり、詐欺容疑で逮捕されたという。居所不明の千人がどこで何をしているか不安が先に立つが、大阪のような恐ろしいケースがほかにないことを祈るばかりだ。

 やはり親子関係がおかしい。親の子殺し、子の親殺しは論外だが、しかし、その背景にはうっすらとした親子不信が広がっているようにも思える。深刻なテーマだが、どうしたらいいのか、処方箋があるようで、ない。

 先日、高齢者中心のある集まりがあって、一人が以前に聞いた話として次のような親子物語をしてくれた−−。

 その男は妻を早く亡くし、幼い娘と二人暮らしだった。娘が十二歳の時、体調が悪くなる。医者に薬をもらいにいって帰ってきたが、折り返し医者から、

「残念ながらお嬢さんはあと一年の寿命……」

 と電話があった。男は途方にくれる。思いあまって、近所の人が信仰している五感観音に出かけた。五感は目(視覚)、耳(聴覚)、鼻(嗅覚)、舌(味覚)、身(触覚)のことで、それらを守る観音さまだ。男は祈った。

「私の五感の一つをご供養に捧げますから、娘の寿命を十年延ばしていただきたい」

「五感一つでかなえられるのは五年じゃ、十年が望みなら、二つ捧げるのじゃ」

 と観音さまはおっしゃる。それでは、と男は視覚と聴覚を捧げますと誓った。一気に目と耳を失ったのだ。

 娘が二十一歳になった時、恋人ができ結婚した。しかし、命はあと一年。男は再び五感観音にまいって、

「もう十年」

 とお願いし、こんどは嗅覚と味覚を差し出した。娘は幸せに暮らし、子供にも恵まれた。そのうちにいい薬が発見され、娘の病気が治る。

 男は娘夫婦と孫の四人で抱き合い、喜び合った。娘たちの涙が男の手のひらにポタポタと落ち、すでに四つの感覚を失っている男だったが、確実に涙を感じ取ることができた。

「ああ、最後に触覚を残しておいてよかったなあ」

 と男は心からつぶやいたのだった−−。

◇視覚聴覚失った復員兵 乳房吸わせた岸壁の母

 集まりに参加していた全員がシーンとなった。作り話ではあろうが、父親の捨て身の情愛に感じ入り、おれにできるかな、と自らに問うたからである。とても、そこまでは犠牲的になれそうにない、とみんなが思った。物語の提供者に質問がでた。

「捧げる順番には、何か理由があるのですか」

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