麻生財務相、詐欺罪で起訴の会社社長から過去に献金受領、パーティで「堅実」と挨拶も

 2月22日、東京地検は医療機器販売会社ヤマト樹脂光学(破産)の元社長、久保村広子容疑者(79)を詐欺罪で起訴した。起訴状によると久保村被告は2008年2~3月、大学病院などから医療機器を受注したとする虚偽の売買契約書を、りそな銀行に提出して、同行から40億円を騙し取ったとされる。

 実は、久保村被告と麻生太郎副総理兼財務相は浅からぬ関係にあったのだ。久保村被告が08年に別の汚職事件で逮捕されたとき、麻生副総理の政治資金団体に献金していたことがわかり大騒動となった。今回、5年前のスキャンダルが蒸し返され、外には決して出さないが、麻生副総理は苦虫を噛み潰したような表情をしていることだろう。

 久保村被告と麻生副総理との関係に触れる前に、この詐欺事件について書いておこう。

 ヤマト樹脂光学は1961年創業。66年に法人化したコンタクトレンズの製造・販売会社。当初は大学病院や眼科医など医療機関向けに医療用コンタクトレンズの製造卸を行っていたが、近年は、大手コンタクトレンズ販売チェーン向けに同レンズのOEM生産(相手先ブランドの委託生産)が主力になっていた。全国の大学病院内に売店を開設、病室のテレビで、カードを買えばテレビが見られるプリペイドカード事業にも乗り出した。08年3月期には売上高680億4893万円を上げていた。

 しかし、会社の闇が一気に噴出する。08年7月、コンタクトレンズの使用期限の偽装問題が発覚。翌8月10日に東京地裁に自己破産を申請し、同11日に破産手続きの開始決定を受けた。負債総額は227億円。

 ここから2つの事件に発展する。1つは汚職事件。同8月下旬、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院の医療機器選定をめぐって元部長に賄賂を渡したとして、久保村被告が警視庁捜査2課に贈賄容疑で逮捕された。さらに防衛医科大病院の元眼科部長にも同様の不正を行っていたとして再逮捕。結局、一連の汚職事件で久保村被告は09年3月、懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を受けた。

 医療機器や製薬会社の担当者が受注先の医師を高級料亭などで接待し、現金や商品券をこっそり渡すのは日常化していた。女傑といわれた久保村被告は自らが接待に当たった。大学病院内の売店は、それ以前は各種の天下り団体の利権だったが、ヤマト社が次々と売店の権利を得ることができたのは久保村被告が大学病院の中枢に食い込んでいったからだ。「スゴ腕の女社長」として知られた存在となった。

 汚職事件で一件落着と思いきや、そうではなかった。もう一つの大きな事件が発覚した。医療機器の取引をでっち上げ、メガバンクを含む8つの金融機関から1000億円を超える巨額の融資を引き出していたのだ。

 2月1日、警視庁捜査2課は久保村被告を、りそな銀行から40億円を騙し取った容疑で逮捕した。ヤマト社は03年ごろから10億円以上の不良債権を抱えるようになり、資金繰りが悪化。架空の売掛金を担保に借り入れた金を他の金融機関への返済に充てる、自転車操業を繰り返していた。03年12月から08年8月の破産申し立てまでの間に、合計1140億円の融資を受けていた。

 ババを引いたのが、初取引した、りそな銀行だった。元銀行員のブローカーが、同銀行に「いい融資先がある」とヤマト社を紹介したのがきっかけだった。りそな銀行は08年3月に、防衛医科大病院などへの売掛金を担保に40億円を融資した。その際、久保村被告は「借金をしていることが取引先にわかると、会社の信用が落ちる」と言って、大学病院や学校法人側に、この借り入れの事実を通知しないよう要請していた。

 08年7月末、借入金の返済が遅れたため、りそな銀行は初めて大学病院などに売掛金を担保に融資していることを通知した。するとどうだろう。病院側から「契約は結んでいない」との連絡があり、取引が虚偽のものだったことが判明した。

 手口はいたって単純だ。融資した銀行の1行でもが債権譲渡通知をしていれば、すぐにバレた。そんな初歩的な手続きをしていなかった銀行側にも手落ちはあるが、銀行マンを信用させて、完全に丸め込んでしまった久保村被告の説得力はすごいと言わざるを得ない。

 さて、麻生副総理との関係に戻る。久保村被告が汚職事件で逮捕されたとき、麻生副総理との不明朗な関係が浮上した。久保村被告が汚職容疑で逮捕された08年8月当時、麻生副総理は自民党幹事長。翌9月24日に、内閣総理大臣に就任した。

 汚職事件そのものはベタ記事扱いだったが、現役首相のスキャンダルとあって大騒ぎになった。

 疑惑は3点ある。1つはヤマト社は95年から06年の12年間、麻生副総理(当時は外務大臣など)が支部長を務める自民党福岡県第8選挙区支部や彼の資金管理団体「素淮(そわい)会」に計400万円に上る献金をしていたことだ。

 2つめは麻生外務大臣(当時)が07年6月15日、ヤマト社の創立40周年記念パーティーに出席して「堅実な商売をしている久保村さんのやっている仕事にお力を賜りますように」と挨拶したことだ。これだけだったら政治家と支援者の関係にすぎないが、両者にただならぬ関係があると思わせたのが3つめの事実である。医療機器納入をめぐる汚職事件で社長が逮捕され、破産したヤマト社のコンタクトレンズ事業部の事業を継承した会社の役員に麻生副総理の親族が名を連ねていたことだ。

 この会社は、医療系投資会社のキャピタルメディカル(東京都港区)。05年2月の設立である。ヤマト社が破産手続き開始決定を受けた08年8月11日付で、キャピタルメディカルが事業を継承することでヤマト社と合意していた。

 キャピタルメディカルの社外取締役に麻生副総理の甥の麻生巌氏(38)が、06年3月に就任している。太郎氏の弟で福岡県内を中心に69社を擁する麻生グループの中核企業、麻生(福岡県飯塚市)の麻生泰会長(66)の長男が巌氏。10年に父親の後を継いで麻生の社長になっている。麻生グループの、次期総帥となる人物だ。

 麻生太郎副総理にとって、久保村広子被告との関係は、絶対に触れてほしくないタブーなのかもしれない。
(文=編集部)

※画像は「YouTube」より。

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