イソップに「ロバと蛙(かえる)」の寓話(ぐうわ)がある。ロバが沼で足を滑らせ、倒れて起き上がれなくなった。泣きわめく声を聞いて沼に住む蛙が言うには、「ちょっと倒れただけでそんなに泣くのなら、俺たちほど長いことここで暮らしたら、一体どうしただろうな」▼古い寸話を、沖縄県の仲井真知事の一昨日の発言に重ねてみた。「オスプレイの訓練の実態が、(本土の人たちに)少しはおわかりいただけるのではないか、という気がします。街の真ん中の普天間基地を中心にして毎日のように動き回っとるんですよ、と」▼米軍機オスプレイが本土で初の低空飛行訓練を行った。それを受けての発言である。控えめな言葉の内に「沖縄のマグマ」が沸々とたぎる。世界一危険と言われる普天間などの基地と隣り合わせに、人々は暮らしてきた▼低空を飛ばれた四国で、各県知事が「不安」を語ったのは当然だろう。そうした不安は沖縄では日常だ。かねて沖縄の人は「小指の痛みは全身の痛み」と訴えてきた。しかし本土の側の無関心は変わらなかった▼この1月、オスプレイの配備に反対する沖縄の首長らが東京を行進した。そのとき、「いやなら日本から出て行け」と言う者が沿道にいたそうだ。沖縄の女性のやりきれぬ投書を、東京新聞で読んだ▼沖縄はかつて対米戦の「捨て石」となり、戦後は不沈空母さながらの「要石(かなめいし)」となって翻弄(ほんろう)されてきた。島の歴史と現在への想像力を持ってほしい。仲井真知事の言葉は、静かに叫んでいる。