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サケボン2

Author:サケボン2
【ようこそいらっしゃいませ!】
ameで書いていた「イケメン」の二次小説を、2011年11月末にてこちらへ移動しました。

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『お話紹介』・・・
幸せなシヌヒョンとミニョのお話は「Don't say goodbye」と「カフェ・ロゼッタ」にて。
「Lie」「いっぱいキスしよう」の2つは空想(作り上げた)キャラの女の子とシヌの恋。よかったら女の子になりきって読んでください。
「DARK・・・」「枯れたシヌ・・・」はちょっとグレーゾーンなシヌヒョンのお話(R18)です。
「短編」の、「エイプリル・フール」はミナムが猟奇敵な愛をみせます。一部R18です。
「美獣」は高校生の彼らの話。でもこちらは第一章まででストップ中です。
「ミモザ恋しくて」は、とある映画を題材にした悲恋です。

ヨンファ君のお話は「バボ」「LikeTattoo」「friday's」などがあります。女の子は自分に置き換えで読んで頂いてOKです。



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CNBLUEメジャーデビューから

Don't say goodbye 29

Don't say goodbye 29
  作戦会議




シヌは、公園にいた。
目を閉じ、天を仰ぎながら、長い時間一人でベンチに座っている。


最後のミニョは、とても冷静で、とても寂しい目をして、
何を言われても、気持ちは変わらない・・・そう訴えていた。


あんな目のミニョを見たのは、これで二回目だ。
沖縄の教会でおまえを待つ俺に、おまえが向けた視線は、
今日と同じ、とても強い気持ちを示していた。



俺は勘違いをしていたのか?

今度は、おまえも俺と同じ気持ちだと、信じていた。
少しずつ、気持ちが近くなる。
もう少し待てば、きっと自分の気持ちに素直になってくれると思っていた。

別れを告げられたというのに、
今も、俺はまだ、心のどこかで信じようとしている。


目を閉じ、天を仰いだまま、深い溜息をついた。


驚き、苦しみや、悲しみ、怒り・・・憎しみまで
いろんなものが混ざり合って
俺は目を開けていられなかった。
目を閉じて、目の奥の熱いものが流れ出ないように、じっと耐えていた。


終わらせるのか?
もう止めるのか?
信じていては、いけないのか?


このまま、今のこの気持ちを、心の奥のどこかに押し込んで、
決して開けないように、見ないようにすれば、楽になるか・・・?と思って、
その方法を探していた。




携帯が、着信を知らせている。

シヌは、迷ったが、何かを決意したかのように、
ゆっくりと目を開けて、携帯のディスプレイを確認する。
「ミナム・・・」




ミナムは、修道院の院長様から、電話を受け、事実を知った。
ミニョが再びアフリカへ行くことにした、と。
今度は期限がないことも。
「・・・ミニョがそれを望んだのですか?」
院長様は、穏やかな声で答えてくださった。


「決めたのはジェンマ自身です。
 
 ですが、本心ではないでしょう。
 ・・・ジェンマの目は、怯えていました。
 
 心の扉が開いたのでしょうね。
 今まで知らなかった、もう一人の自分をみつけたのでしょう。
 ずっとここにいれば、知らずに済んだのでしょうが・・・。
 
 今、ジェンマは、本当の愛を知って、
 自分自身に怯えているのです」


「・・・出発は・・・いつですか?」
「夏、一か月後の予定です」


そして、院長様は最後にミナムにこう言った。
「ミナム、まだ時間はありますよ」


少し急ぎすぎたか。
院長様の知らせを聞いて、ミナムは考え込んでいた。

・・・ごめん、ミニョ。
おまえの兄として、おまえには幸せになってほしくて、
いろいろと仕掛けすぎたな。


人の裏腹な気持ち、言葉、態度、汚い部分・・・
そんなものとは一切縁がなかったおまえ。
でも、本当はおまえも持っているんだ、って
本気で愛したら、そんなこともあるんだ。
だから、おまえの心の奥から、

それを、勇気をもって引っ張り出せって、
その方が楽になるって・・・

はぁ~~先走りすぎた。
・・・ごめん、ミニョ。
・・・ごめん、シヌヒョン。





「ミナム?」
電話の向こうのミナムに向かってシヌは、冷静にふるまった。

「ヒョン! そこにミニョは、いる?」
・・・知っているのか?
「いや、いない。俺一人だ」
・・・・・・
「ヒョン、まだ帰ってないだろ? 今、どこにいるの?」



10分後、ミナムは公園のブランコを揺らしながら、
院長様から聞いた、経緯を話していた。


シヌは、ミナムが現れたことで、少し落ち着きを取り戻した。


「来月、8月か」
「そう。 でも、まだ、1ケ月ある」
ミナムはわざと、ゆっくり、言葉を区切った。

・・・そう、院長様も言っていた。時間はある、って。


シヌは、俯いていた。

そのシヌを、ずっとミナムはみつめている。
『逃げるな、逃げるな』、と念じながら。

『ヒョンが逃げたら、ミニョは一生このままだ。
これじゃ、シスターになったのと同じだろ?
いや、それよりやっかいだ。
シヌヒョンを愛してんだから、あいつ・・・』


シヌが、その視線に気がついたのか、顏をあげてミナムを見た。
ミナムが、シヌの顔色を窺い、悪戯な「どお?」という表情を浮かべる。


ふっ・・・まったく、おまえは、こんな時に。
シヌがかすかに微笑んだ。


「決まり! この1ケ月、ミニョ捕獲作戦の開始だな」
ミナムが言う。
「ちょっと、ネーミングがジェルミみたいでかっこ悪いけど・・・」



・・・・・
「手始めは、アルバムのジャケット撮影から行くか・・・」


俺もその気になってきた。
どうせだめでも、何もやらないよりいい。
悪あがきも慣れてる。

  






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Don't say goodbye 30

Don't say goodbye 30
  作戦実行




翌日から、積極的に作戦を実行にうつした。
・・・期限は1ケ月。
手始めにソロミニアルバムのジャケット撮影からだ。


<ミニョ捕獲作戦会議① アルバム ジャケット撮影>
前回の打ち合わせで、ほぼ、コンセプトは固まっていた。
今日の打ち合わせには、ワン・コーディも参加している。


「ラブリーシヌをイメージさせるジャケね?」


これまでのシヌのイメージである「ブルー」や「黒」といった、
冷静沈着な男をアピールする色ではなく、
「白」を基本としていくことになっていた。


「白」を全面に出すことで、
誠実、真実、恋に落ちた幸福な男を表現し、
一方、白が持つ、もう一つのイメージとして
孤独、別れ、という恋に悩む男を表現することになっている。


「白のシヌかぁ・・・」ワン・コーディの妄想が広がる。
「うん、いいわぁ~シヌぅ~思いっきりラブリーに仕上げてあげちゃうね!」


・・・・・・・

「あ、ちょっといいかな?」シヌが意見を言う。
「女性モデル、もう決まった?」


今回は、これまでのシヌのイメージをがらりと変える戦法で、
ジャケットも女性モデルとのツーショットで飾ることになっていた。


「一人、推薦したいんだ。大切なソロアルバムだからさ、モデルも重要だし」
「あら? いい娘がいるの?」
全員、興味深々。シヌの次の言葉を待っている。

シヌは、不敵な笑みを浮かべて言った。
・・・・・・・
「あぁ、コ・ミニョ」



もちろん、本人は知らない。
しかし、あれだけのことをやって、俺を本気で悩ませた。
・・・これぐらいはやってもらうさ。


ジャケット写真には、女性モデルの顏は出ない。
ファンが、女性を自分に置き換えて想像しやすいように、という考えだ。
これならミニョも問題ないだろう。


「ついでに、お願いがある。モデルの衣装は、ウェディングドレスを入れて」



ジャケットとPVは、リンクさせることとなり、
結果的にPVにもミニョを使うことになった。
ワン・コーディは、早速イメージどおりの教会と、衣装をおさえるために動いた。

この日の打ち合わせは、怒涛の勢いで終了した。




「一応、計画どおり。急いで終わらせたよ」 シヌはミナムに電話している。
「OK! あとはメンバー打ち合わせだな」 ミナムが言う。
「問題は・・・ジェルミだ」


<ミニョ捕獲作戦会議② A.N.JELL合宿所 >
その夜、合宿所に戻るとジェルミが走り寄ってきた。


「シヌヒョーンっ! ミニョをジャケット撮影に使うって、本当なの?」
「ああ、PVにも出てもらう」
「えぇ~! ずるいよ ヒョーンっ!それにさぁ~・・・」

ジェルミは、テギョンをちらりと見る。

「ん? なんだ、ジェルミ? 何が言いたい?」
テギョンは、水を飲み、手の甲で口を拭って平然と聞く。

「平気なわけ? テギョンヒョン知ってたの・・・? え~シヌヒョン、俺も出してよ!」
「ジェルミ、おまえ、血迷ったか?」
ミナムがジェルミの腕を掴まえて、シヌから引き離した。


「しかし、シヌヒョン、やったね?」 ミナムがニヤリと笑う。
「・・・ほんと、いい兄貴だろ?」


テギョンとジェルミには、ミナムから経緯を説明した。


ジェルミは、想像どおり、叫び声をあげ、シヌを潤んだ目でみつめた。
「って言うか、シヌヒョン・・・ミニョをそんなに・・・シヌヒョ~ぉン!!」
ずっと変わらず、ミニョを思い続けていたシヌの気持ちを考えると、感涙だったらしい。


しかし、テギョンはそんなジェルミを横目で見ながら
「最後の悪あがき、だな。 で、何をすればいい?」
いつもの少し横柄な態度だが、さすがに、ミニョがアフリカに無期限で行く、
と聞いたときには、少し顔色がかわった。



作戦内容はシヌが説明した。


「期限はあと1ケ月。
俺のソロミニアルバムの発売とかぶるから、
なかなか時間が取れない。
だからこそ、ここを最後のチャンスとして利用したい。」


「まずは、ジャケットとPV撮影。
場所は教会だ。
俺とミニョは、新郎・新婦役。


ここで俺は・・・プロポーズする」


ミナムは、親指をたてて「OK!」と言い、
ジェルミはクッションを抱きしめたまま、泣くのをぐっと我慢し、
テギョンは、ふふん、と鼻を鳴らし、しかし、口元を歪めて微笑んだ。

この日、A.N.JELLはひとつになった。


ただし問題がふたつ。

1つは、社長の説得。
そしてもう1つは、誰がミニョを説得する?


 






 

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Don't say goodbye 31

Don't say goodbye 31 
 任務遂行中



<ミニョ捕獲作戦 ③ 準備 >


レコーディングは無事終了した。


俺を取り巻く環境は、次のプロモーション展開に目が向いている。

そこには常に、「コ・ミニョ」の名前がついて回る。
そう。
ミニョは、俺のソロミニアルバムの重要なスタッフの一人になっている。
ただし、本人はまだ知らない。



ミニョからアフリカ行きの告白を受けて以来、
俺とミニョの間には、距離ができている。


ミニョは何も言わないけれど、俺の気もちには気がついていて、
俺は、結果的に、別れを告げられた形になっているから。
だから、距離を感じるのも仕方がないことだ、と思う。


ただ、俺たちは、表面上は、とても穏やかに、
出発までの約1ケ月、楽しい思い出を残そうとしている。


俺との毎日のメールも復活したし、公園でも、たまに会う。
ミナムが合宿所へ連れてくることもあるし、
ジェルミとはバイクにも乗った。
テギョンは忙しくて、いないことの方が多いが、
合宿所で一緒に食事をするときは、顏を出してくれる。


ミニョは、残り1ケ月のソウルでの生活を、
宝箱につめて持っていくかのように、
大切に大切にしているのがわかる。



ミニョは知らない。
俺が、俺たちが、ミニョを必死で止めようとしていることを。


正攻法でいっても、凍ったミニョの心は、なかなか溶けそうにないので、
今回は汚い手を使ってみる。
布石を打って、ミニョの慈悲の気持ちに訴えかける作戦だ。


正直、ここまで・・・とも思うが、
今回だけは、形振りかまわず、追いかけてみたい。
そうしないと後悔する。



『手放すってことは、最後までひきとめた時、言えることなんだろう?
 だったら、シヌ、おまえはこの1ケ月、死にもの狂いでひきとめろ。
 ・・・俺たちにできることがあるなら、やってやる』



テギョンが、4人揃った前で、俺に向かってそう言った。

ああ、そうだったな。
危うく、俺もあきらめるところだった。

もう「演技」はしない。


『理解のあるふり』をして、見送ることは、もうできない。
『大人のふり』をして、待てるほど余裕はない。


ミニョが、本気でアフリカへ行くことを、望んでいるのならばまだしも、
すべてをあきらめるために行くのは許さない。



さて、そろそろミニョを迎えにいく時間か。
今日は、ミニョに「モデル」の依頼をする日だ。
アフリカへ行って、俺から離れていくお詫びとして・・・。




<ミニョ捕獲作戦 ④ 罠>


「ミニョ!」
今日も、俺はいつもどおり、片手をあげてミニョを呼ぶ。


「シヌヒョン!」
ミニョも、何もなかったように、ちょこちょこと走ってくる。


いつもどおりに静かな店で食事をし、他愛のない話をしながら
車でミニョをアパートまで送る。


いつもなら、アパートの前で車を停め、
助手席のミニョをエスコートするが、
今日は、ハンドルに手をかけたまま、ミニョをみつめた。


「シヌヒョン? どうかしましたか?」
「・・・いや、実は、すごく言いにくいんだけど、ひとつお願いがある」
「お願い?」
「うん・・・アフリカに行く前に、俺を助けてくれないか?」
「え? 私がシヌヒョンを、助ける・・・ですか?」
「うん。ミニョにやってほしいことがある。大切なこと」


・・・・・・・
「ミニョ。俺が今、ソロデビュー前だって知ってるよね?」
「・・・はい。この前レコーディングが終わったって。
 いい出来だ、ってテギョンオッパが言ってましたよね?」
「そう、それ」
「はい。私も、すごく楽しみです。 あ、発売のときはまだこっちにいるから・・・」


・・・・・・
はぁ~、シヌが深い溜息をつく。

あ・・・アフリカ行きのこと、口にしちゃったから・・・すみません、シヌヒョン。
ミニョが、困った顏でシヌをみつめる。


・・・・・・
「ミニョ、はい、って言って」
「え?」
「ミニョ、俺のミニアルバムのジャケット撮影に協力して!」
「はい?」
シヌが、にっこり微笑む。


「いい思い出にしたいから、大切な意味をもつアルバムなんだ。
 だから、ミニョに協力してほしい。
 ・・・ミニョ、俺と一緒に出てほしい。モデルとして」



その後、ミニョはなかなか車から降りることができなかった。
いつになく、シヌが粘り腰だったからだ。


最後には、
「俺を置いていくんだろ?」
シヌの悲しい表情が、ミニョの心を揺さぶった。


「はぁ・・・」深い溜息。
「でも・・・」迷い。

「ミニョ・・・」 シヌのとっておきの微笑みと優しい声。

「・・・わかりました。やってみます」



今日の任務完了。

気が変わらないうちに、撮影日を伝え、スケジュールをおさえた。
撮影は、5日後。
出発までは、あと25日。




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Don't say goodbye 作成にあたって②

みなさま、いつもお読みいただき、

ありがとうございます。

サケボンです。


第31話をお読みいただくとわかりますが、

ミニョの出発まであと25日間、

そのカウントダウンが始まりました。

よってお話もその期間のお話となります。


描き始めたのがたしか6月半ばでしたが、

あと少しで描き終わりそうです。


途中、いろいろみなさまを心配させたシヌとミニョ。

(とくにミニョの天然っぷりは・・・)

最後は幸せになってくれますように、と

みなさまからの祈りの声と、プレッシャーを

日々感じております。


怒涛のような更新を続け、

このペースでいくと終わりも早いかと・・・

なにせあと25日間(しつこい?)ですから。


まずはいつもお読みいただいているみなさまへ

お礼をこめてご挨拶でした。


さて、続きをテケテケと打ち込もうかな。

息子寝てるし(遅い昼寝)。





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Don't say goodbye 32

Don't say goodbye 32 
任務遂行中



<ターゲットの憂鬱>


撮影か・・・


前はテギョンオッパと一緒だった。
今度はシヌヒョンと。


シヌヒョンは、どんな内容なのかは教えてくれなかったけど、
「顏は出さないから」って言ってたし。


これって・・・いつか、もっと時間が経ったとき
懐かしい、いい思い出になっていくのかな・・・。




翌日、児童養護施設のミニョに、
ワン・コーディから連絡が入った。


「ミニョ?わたしよ。ワ~ン・コーディよ~~」
「オンニ?」
「仕事中? ごめんね。
 私もちょっと時間がなくって、確認だけど・・・
 ミニョのサイズ、教えてくれる? 変わってない?」

・・・・・・

今度の撮影で、私のために準備する衣装のことだったらしい。
ドレスがあるから、とか言っていたけど、
前に、ヘイさんが着てたような綺麗なドレス、着るのかなぁ。


「ミニョ?いくら顏は撮らないっていっても、モデルよ、モデル!
 わかってる?
 首、肩、あぁそれと肘に膝・・・それから指!ここはポイント!
 しっかりお手入れしとくのよ!」


そこまで言ったオンニは、最後にこう付け加えて笑った。

「大丈夫、シヌに全部任せなさい! 準備万端、だ・か・ら!」

・・・そんなお手入れって、何をどうすればいいの?もう・・・




その日の夜遅くに、アパートのドアを叩く音がした。
「ミニョ? 起きてる?」


「シヌヒョン?」 
ドアを少し開けてみると、シヌが笑顔で立っていた。
手には小さな箱を持っている。

「よかった。もっと早い時間に来るはずだったんだけど・・・」
そう言って、ミニョに小さな箱を手渡しする。
「?」
ミニョが、目を見開いて、ちょっと首を傾げてシヌを見る。


はぁ~・・・また、その顏する。 まったく。
・・・アフリカに行こうが行くまいが、もうかまわない!って叫んで、
おまえをその場で押し倒すぞ!
無防備で、可愛いすぎる。
しかし・・・あと4日、あと4日。撮影まで我慢、我慢。


その間に、ミニョはシヌに渡された小さな箱を揺らして、
その中の音を確認し、微笑んでいる。
・・・ふっ、まるで小さい子どもだな。


「撮影まで、あと4日。
 今日、オンニから電話があっただろ?
 いろいろお手入れ道具が必要って聞いたから、用意した。
 
 ミニョ、俺のソロデビューだからな。
 きっちり、あと4日で磨き上げてこいよ!」

シヌは、ミニョに顏を寄せ、目を覗き込んでそう言った。
シヌの目が明るく笑っていた。




箱の中身は、
いい香りのボディクリームが数種類、パウダー、
ハンドクリーム、ネイルファイルとポリッシュ、
手袋、手書きの使用順序までついている・・・


手書きの使用順序をもとに、お手入れをはじめたミニョは、
ふと、手をとめてそっと呟いた。

「大丈夫かな・・・」

この半年、ミニョとしてソウルで普通の生活を過ごした。
その間は、大丈夫だったが、
いざ撮影現場に入るとなると、少し不安だった。
・・・ミナムだった頃のこと、
・・・テギョンオッパが好きだったあの時のこと、
いろいろ思い出しそう。


でも、シヌヒョンのため。
シヌヒョンと一緒にいられるのも、あと少しだから。
そう思うと、胸の奥がキュっとなるのを感じた。





<ミニョ捕獲作戦 ⑤ 不審な動き>


「あ、はい。お世話になりました・・・」

「ええ、大丈夫です。 彼も今は必死です。
 僕の時とは・・・僕の二の舞はしませんよ、きっと」

「いつも、ご連絡が遅くなって申し訳ありません・・・」


シヌが合宿所のテラスに向かう階段をあがっていると、
テラスの端で、テギョンが誰かと電話をしていた。

テギョンは、シヌに気がつくと、携帯を手で隠すようにして持った。
まるで、相手の声が漏れ聞こえないように。


テギョンの発する言葉から推測すると、
目上、仕事相手か?


「はい、では、またご連絡いたします。
 それまでは・・・よろしくお願いします」


そのままシヌがテギョンを見ていると、テギョンが電話を切って、
「なんだ? 準備は万端なのか? そろそろだろ?」と
早口でまくし立ててきた。


・・・何か、あるな?

そう感じたが、テギョンは「寝る」、と一言残し、足早に去っていく。
・・・やっぱり、何かある。


その時、テギョンがふと立ち止まった。
そして、振り向かず、シヌに背中を見せたままの姿勢で、


「・・・おまえの告白、成功させるって約束したからな」 と言った。



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Don't say goodbye 33

Don't say goodbye 33
  任務遂行中




<ミニョ捕獲作戦 ⑥ 布石>


「え? 空港ですか?」
「ああ、朝の便で飛ぶ。日帰りの予定だけど」

シヌは、この日、一人で仁川空港にいた。
朝の便で、釜山に向かう。


「・・・ミニョ、追いかけてくる?」
シヌは、わざと低い声で聞いた。


「え! シヌヒョンっ・・・まだ気にしてます・・・よね?」
ミナムだった頃、あの時のことだ。
シヌは、くすっと笑った。

「嘘だよ。今回はちょっとした用事があって行ってくるだけ。
 じゃ、もう入らなきゃ。
 あ、お手入れ、完璧にな! あと2日だ」
そう言って、電話を切った。




今回の「ちょっとした用事」とは、釜山に住んでいるシヌの両親に、
ミニョとのことを許してもらうためだ。


「母さん、混乱してるかもな・・・」


一度は「好きな彼女」として、母に説明をした。
しかし、A.N.JELLリーダーであるテギョンの彼女ではないか・・・
「疑惑の女性」と大きく取り上げられた時期もあった。

正直に、自分の気持ちを伝えよう。
まぁ、最後にミニョがどう答えてくれるか、だからなぁ・・・



釜山に着き、空港へは母が迎えに来てくれていた。
「あら、やっぱりシヌ一人なのね?」
ちょっと残念そうだ。

「いきなりそれはないだろ」 笑って答える。


家族はいい。
シヌは昔から、人前ではなかなか本心を出さなかった。
その方がラクだったからだ。
しかし、両親にはどんなに隠そうとしても、本当のシヌが見えるようで、
そのうち両親の前だけでは、素のままの自分でいられた。


「父さんは?」
「シヌがうちに着く頃を見計らって、うちに戻ってくるわよ」

「そう・・・あ、母さん。俺、明後日・・・彼女にプロポーズするよ」

キーーーーーーーーーっ。車が停まった。


「おい、おい、危ないって!」
「だって、だって、シヌ~? まぁ、シヌ~~~!」
母さんの目が潤んでいる。
この反応、想像はしていたが。


「断られるかも・・・知れないんだぞ」

母は、そんなことはない、大丈夫だ、と言わんばかりに
頭を左右に振っている。ブンブン、音がするくらいに。

「シヌ、うちに帰ってたら時間がもったいないわ。
 父さんの会社の近くまで行くから。
 ちょっとまって、電話しなきゃ」


久し振りの実家での母の手料理は、「また今度ね」ということになった。




釜山空港。
さすがに日帰りはきついが、俺を見送る両親の表情をみると、
来てよかった、とそう思う。


俺の説明を聞いて、母は泣いていた。
息子がそんな思いをしたのか、という悲しさよりも、
そんなにまで思える女性と出会って良かった、ということの方が大きいようだ。


父は、まっすぐに俺をみていた。
何度か頷いて、「手放しちゃだめだぞ。もしもの時は付いて行くんだ」・・・と。
・・・それくらいの覚悟でいけ、ということのようだ。


背中を押された。
行って来い。負けるな。
そして、次はちゃんと一緒に、連れてこい。

そう言われている気がした。



あぁ、やりますとも。
あと2日、俄然やる気になってきた。


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Don't say goodbye 34

Don't say goodbye 34
 任務遂行中



<ミニョ捕獲作戦 ⑦ 最終日>



「いよいよ明日だね、ヒョーン! あぁ、ドキドキするよ~」


このセリフを、すでに8回は聞いただろう。

「ジェルミ、緊張しすぎじゃない?」
そういうミナムも、さっきからコードを間違っている。


今、俺たちは、合宿所の練習室で、最後の音合わせを行っている。
明日の本番のために。


・・・・・・
「あぁ~、ギターやるって言わなきゃよかった!まったく、もぉ~」
ミナムは、ギターと格闘中だ。
「おい、頼むぞ、ミナム・・・」


「・・・ところで、テギョンヒョンは?」
今日、最終の合わせを指示したのはテギョンだが、
その本人が、まだ姿を見せていない。


「テギョンは大丈夫だ。心配ない」
シヌはそう言って、ミナムの練習を再開した。

「・・・ジェルミはいいよなぁ、ちぇっ」

ジェルミは明日、ドレス姿のミニョをある場所へ運ぶ・・・これが任務だ。
「なに言ってんの? 僕が連れてこなきゃ始まらないんだよ!」
・・・重要な任務なんだから・・・と、ブツブツ呟いている。


「おまえたちが居てくれるから、俺も勇気が出るよ」



ミナムが、ギターに注いでいた視線を、チラッとシヌに移動する。
ジェルミも椅子に座って、足をブラブラさせながら、
そんな二人を笑って見ている。


・・・・・・・
「いよいよ明日だ」





その頃、テギョンは、修道院にいた。
院長様と話をするためにやってきた。


以前、アフリカからイ・キュジュン(医師)が一時帰国した際に、
テギョンに連絡をくれたのは、院長様だった。
院長様の計らいで、テギョンはキュジュンと会い、話をした。
それ以来、電話ではあったが、院長様とは定期的に連絡を取り合っていた。


「いよいよ、明日、なのですね?」
院長様が、穏やかな声で言う。
「・・・はい。そうです。
 明日・・・ミニョがもう一度、扉を開く日です」


「・・・テギョンさん。 あなたの心は、迷っていませんか?」
院長様が、テギョンの目を覗き込むようにして聞く。


・・・・・・・
「正直言うと・・・明日、違う男の隣に立つミニョの姿をみて、
 普通でいられるのか・・・自信はありません。
 ・・・目を・・・逸らしてしまいたくなるかも・・・知れません。
  
 それでも、シヌとミニョを、
 二人を、離してはならないと、そう思えるようになりました。
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 院長様、明日、もしもの時には連絡をします。お願いします」

テギョンは深々とお辞儀をした。


院長様は、一度ゆっくりと頷いて
「ここから祈っております」・・・とおっしゃった。





テギョンは、その日、少し遅い時間に戻ってきた。


すでに最終練習は終了し、
ミナムはギターを片手に、自室へ戻っていった。
ジェルミは、明日泣かないように、
今からイメージトレーニングをして鍛えておくらしい。


シヌはテラスでテギョンを待っていた。


「・・・シヌ・・・」
「どこに行ってたんだ?」

 ・・・ふっ
「まったくおまえは、人のことに関心のないふりをして、
 実は、よく見てるよな」 
テギョンは、あからさまに不機嫌な声で言う。


「・・・時と場合によるけどな」
シヌは、小さく笑みを浮かべながら言った。
テギョンも口元を歪めて、笑みを浮かべた。


「・・・修道院の、院長様に会ってきた」
テギョンの突然の告白に、シヌは目を見開いた。


「ミニョは、アフリカへは行かない。
 いや、行けない、というのが正確な答えだな」
「テギョン?」


「院長様には待ってもらっている。
 ・・・ミニョは、まだ正式なスタッフリストに、入ってない。

 あ・・・だからと言って、安心するなよ。
 明日のおまえの出来栄え次第で、どうにでも変わるから。
 わかるだろ?」



テギョンの目は、ミニョに別れを告げたあの日、
階段をあがりながら、俺を一瞬見据えた、あの日と同じ視線だった。


『あとはおまえに任せた・・・わかってるな?』



シヌは頷いて、「あぁ、わかってる」と呟いた。




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Don't say goodbye 35

Don't say goodbye 35
  任務遂行



正直に言えば、俺は怖い。
明日を迎えるのが、怖い。


ここまでしても、無理かもしれないから。
何を言っても、ミニョの心は溶けないかもしれない。
離れようと思えば、アフリカじゃなくったって、どこでもいいはずだ。
そして・・・
今度、失敗したら、次は、ない。


この数日、そう思う気持ちを押し隠し、冷静にふるまった。
しかし、本当はとてつもなく、怖かった。


だからこそ、みんなの気持ちが有難い。
こんなことに巻き込んでしまって・・・

それぞれに、違う思いを抱いているはずなのに。



ジェルミ。
おまえがミニョを、心から思っていることは、知っている。
男だと思いながらも、揺れてたんだろ?
おまえの優しい気持ちを、無駄にしたくない。
ありがとう。


ミナム。
今回は、おまえにどれだけ助けられたことだろう。
おまえの仕掛けた罠に、見事に嵌まった気もするが、
大切な妹を思うおまえの気持ち、ちゃんと応えられるようにしたい。
明日も、よろしくな。


テギョン・・・

ミニョへの愛情の深さを、思い知らされた。
死にもの狂いで止めているのは、どっちなんだ・・・
そう嫉妬してしまうくらいだ。


もし、明日、俺がミニョの心を掴まえることができたとしても、
この気持ちは、これから先も、ずっと付き纏うだろう。

おまえとの間の出来事は、ミニョにとって、計り知れない意味を持っている。
俺には、ミニョが、おまえを愛したという事実を消すことはできない。
だから、俺は、そんなミニョを丸ごと、一生愛し続けていく、としか言えない。


「ちゃんとわかってる」・・・声に出して呟いていた。



さぁ、少し眠ろう。
あと数時間で、本番だ。





<ミニョ捕獲作戦 当日>


その日は、晴れていた。


マ室長がワゴンで迎えに来た。

乗り込むのは、シヌとミナムの二人。
ミナムは、久しぶりの現場復帰であるミニョに配慮して、
同行することになっていた。
ワゴンにはもちろん、ワン・コーディも乗っている。

「いよいよね、ラブリーシヌちゃん!」


今や、アン社長を筆頭に、マ室長、ワン・コーディの3名も
この作戦の大切なメンバーだ。

社長は、アイドルの恋愛には最後まで反対していたが、
もともと男性ファンの多いシヌには、これもイメージチェンジの
きっかけになる・・・
というテギョンの意見に、一気に流されていった。

ミニョを取り巻く包囲網は、驚くほど強化されていた。



ワゴンは、次にミニョのアパートへ向かう。
アパートの前の道に、ミニョの姿があった。


「おはよう、ミニョ! 体調はどう?」 シヌがいつもどおりの笑顔で言う。
「・・・おはようございます・・・まぁまぁです」 ミニョは少し緊張気味だ。

「ミニョ!」 ミナムがワゴンの開いたドアから顏を出す。
「あ、オッパ!来てたんですね!」 少し緊張が解れたのか、笑顔が大きくなる。


「さぁ、乗って~出発よ!」
ワン・コーディの声で、ミニョも車へと乗りこんだ。

いよいよ、捕獲作戦の最終戦が開始される。



車内では、ミニョが、ワンから今日の撮影スケジュールの説明を受けている。

「・・・えっと、先にジャケット撮影があって、あとでPV撮影ですね」
「場所は・・・教会! わぁ~きれ~い・・・」
ミニョは、オンニが手配した教会のパンフレットを手にしている。


「でしょ?でしょ? 緑の丘の上に、白い壁の教会があるのよ~」
「天気が良くて、よかったですよね~?」


「・・・ねぇ、人の結婚式に招待されたわけじゃなくってさ、自分の・・・」
と言いかけて、ミナムが慌てて黙りこくる。
シヌが睨んでいる。


・・・先が思いやられる・・・頼むぞ、ミナム・・・
・・・ごめん、ヒョン!・・・
男同士のアイコンタクトだ。


ミニョはまったく気がつかない。教会の写真と、衣装の話に興味深々だ。
・・・やっぱり女の子だな。
シヌは、そんなミニョをみて微笑んだ。

しかし、事実を知ったらどう思うだろう。
そう考えると、笑顔ではしゃぐミニョが愛おしい反面、怖くもあった。




合宿所では、テギョンとジェルミが荷物をまとめて移動の準備をしている。
「ジェルミ、忘れ物はないか?」
「OK! 大丈夫、いつでもいいよ~」
「よし、じゃ、行くぞ」


テギョンとジェルミは、白い・・・シヌの車で移動することになっている。
「うまくいったら、二人で帰ってきたいだろ?」というテギョンの配慮だ。
「テギョンヒョン、女心を掴む天才だね?」


ジェルミ・・・
だったら、もっとうまくいってるだろう・・・っ!

そう思ったが、テギョンはあえて「ふふん」と鼻を鳴らして、笑った。


これで、捕獲準備完了。
あとは、計画を実行に移すのみとなった。


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Don't say goodbye 36

Don't say goodbye 36
実行の日



※いよいよ作戦開始です。

ここからは、実況中継・・・よって、細かく細かく区切って更新すると思います。

読み手のみなさまには、ご面倒おかけしますが、

内容は、飛ばして読んでも大丈夫ですから、少しの間、ご辛抱願います。

まずは、衣装替え・・・




<ミニョ捕獲作戦 当日 衣装替え>



「ミニョ、先に準備に入るわよ。 こっちに来て!」
ワン・コーディが、ミニョを控室に移動させた。
さぁ、いよいよ開始だ。


控室には、純白のドレスが数着準備されている。


「オンニ? これって・・・」
「そう、ウェディングドレス。きれいでしょ~」
「ウェディング・・・ドレス・・・」
ミニョは、口をポカンと開けて、ドレスを眺めている。


「ほら、これとかミニョに、ぜ~ったい似合うと思うのよ!」


ワン・コーディが手にしたドレスは、
鎖骨のラインが広めに開いている、美しいボートネックで、
純白のAラインのシルエットが、愛らしい。


「実は、シヌもこれが一番のお気に入りみたいでね。
 ふふふ。今日は、まずこれを試してみましょ!」
ワン・コーディがウィンクする。


「シヌヒョンが・・・これを・・・?」

ミニョは、そのドレスに、そっと触れてみた。
シルクのつるりとした滑らかな肌触りと、
上品なレースの柔らかな感触。


・・・これを着て、シヌヒョンと撮影するの?・・・

そう思うと、胸がきゅんとした。
あ、私・・・。
ミニョは、自分の胸に手をあて、一度深呼吸をした。



ワン・コーディは、手際よく、ミニョのヘアメイクを仕上げていく。

肩まで伸びていた髪は、小さくまとめられ、白い生花で飾られた。
爪には、薄いピンクのネイルが塗られる。
「ミニョ、頑張ったわね。お手入れの成果、出てるんじゃない?」


肌も、本物の新婦のように、内側から幸せな輝きを放っていたし、
何よりも、そのピンクの艶やかな唇が、シヌの唇で塞がれる瞬間を見たい!
と、ワンの妄想の世界は広がりっぱなしだった。


「うん!ばっちり! 綺麗よ、ミニョ!
 シヌに早く見せてあげたい。 こんなミニョ見たら、イチコロね。
 あ~でも、もう少し我慢・・・・・・ね? ミニョ」
ワン・コーディは、そう言って、シヌの控室へ移動した。



ミニョは、一人、控室の鏡に、自分の姿を映した。
・・・これが、私?


ミニョは、ゆっくりと、その場でぐるりと回ってみた。
ドレスの裾が広がって、床と擦れる音がする。
・・・花嫁。

教会の扉を開けて、ずっと先に立っている一人の男性のもとへ
ゆっくりゆっくり歩いていく・・・
見上げると、微笑んだ口元が見える

・・・シヌヒョン・・・


ミニョの、胸の鼓動が、どんどん速まった。

あ、私、何を考えてるんだろ・・・
ミニョは、頭の中で想像した姿を打ち消すように、
胸に手をあてて、頭を左右に振った。


・・・今日は、ただの撮影。勘違いしちゃだめよ、ミニョ。


しかし、ミニョは、鏡の中にいる幸せそうな花嫁の姿から、
目を逸らすことができなかった。




シヌは、白いタキシードを着て、
胸ポケットには、ミニョの髪に飾った生花と同じものを入れる。
どこから見ても、幸せな、そして、とてつもなく格好いい新郎だ。


「シヌ、・・・ミニョね、ドレスを見て、うっとりしてたわ」
ワン・コーディが、シヌの髪を整えながら、静かに呟いた。
シヌが、微笑んだ。
まずは『その気にする作戦』、成功か?


「はぁ~~~、それにしてもミニョったら綺麗・・・本物の花嫁みたいなの・・・」
ワン・コーディが、ブラシをカウンターに置き、
シヌの顏を覗き込んで、腕を軽くつついて言った。
「シヌ! こうなったら、本物の花嫁にしてあげられるように、頑張ってよ!」


シヌは、少し困った表情で、小さく何度も頷いた。

・・・今更、プレッシャー感じるとはな・・・俺も小さい。

本物の新郎も、当日はこんな感じかな・・・。



撮影開始まで、あと10分。

カウントダウン開始。





衣装替え番外編:


「なんでここなんだろ?」

ジェルミの情けない声がする。


この教会には、他にも控室はあるのだが、

機材置き場やスタッフルームになっているし、

どこでミニョと遭遇するかわからないし・・・


ジェルミはトイレの個室で着替えている。

「ミナムはいいなぁ、シヌヒョンと一緒だもんな~」


・・・・・・・

「俺と一緒じゃ、いやってことか?」

そう、テギョンもここにいる・・・



二人は、ミナムと同じ、黒いタキシードに着替えていた。

・・・「ここ、暑いよな」





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Don't say goodbye 37

Don't say goodbye 37



<ミニョ捕獲作戦 当日 対面>



最初の撮影場所は、緑の丘の上。
一面に姫女苑(ひめじょおん)の白い花が咲いている。


ミニョは、その丘の上の斜面に、ドレスの裾を、大きく広げて座っていた。
清楚なその花と、ミニョの雰囲気がよく合っていて、とても愛らしい。


ワン・コーディは、ミニョを強い日差しから守るため、
大きな白いパラソルを準備していた。



シヌが控室を出て、丘の上へと移動する。
大きな白いパラソルが、揺れているのが見える。
きっとそこにミニョがいるんだろう。


自然と、心が踊っている。
シヌは、走り出したい衝動を、ギリギリのところで抑えていた。


「ミニョ・・・」
シヌが、つとめて冷静な声で、ミニョを呼ぶ。
ワン・コーディが、パラソルをそっとはずすと、そこにミニョがいた。



緑の丘の、斜面に咲いている、白い花の妖精のように。
ミニョは、少しはにかんで、微笑んでみせた。
「・・・シヌヒョン、ドレスってウェディングドレス、だったんですね?」
そう言って、恥ずかしそうに俯いた。


「ミニョ・・・」
シヌは、また名前を呼んだ。
ミニョが微笑みながら、シヌの方を見る。
何ですか?と言いたそうに、首をかしげて、シヌを見上げる。



・・・はぁ~ やられたな、シヌヒョン・・・
ミナムは、深い溜息をついた。
まぁ、わかるよ。ミニョは可愛い。可愛すぎる。
でもね、シヌヒョン、今日は作戦があるでしょ!


ミナムは、ポン!っと、大げさにシヌの肩に手を置いて、
シヌの背後から顏を出し、「ミニョ!」と明るく声をかけた。
その瞬間、シヌが戻ってきた。


・・・頼むよ、シヌヒョン!
・・・すまん、ミナム・・・
男同士のアイコンタクト・・・だ。


「オッパまで、タキシードに着替えたんですか?」
「うん。雰囲気でるだろ?」
ミナムは、ミニョにそう言って笑った。



丘の上での撮影は、順調に進んでいた。
時折、花嫁ミニョの仕草に、心奪われる新郎シヌがいるが、
その都度、花嫁兄ミナムがフォローし、問題なく進行している。

数ショットを撮り終えて、場所の移動となった。
次は、教会の中。 


移動中、シヌがミニョの腕をとり、そっと支えてやった。
「・・・以前、ヘイさんがドレスを着たとき・・・」
ミニョは、ミナムだった頃のことを思い出して、呟いていた。


「あぁ、メンバー全員でヘイのお供をしたな」 
シヌがそのシーンを思い出し、困ったような表情で笑った。
「今日のお供は俺だけだから、不服か?」
「あ、違います!もう・・・」


ミニョは、外の明るい雰囲気に慣れたのか、リラックスしている。
シヌは、支えているミニョの腕から自身の手を離し、
ミニョに自分の腕を差し出した。

「ミニョ、腕を組もう」
「え・・・」
一瞬ためらったが、ミニョは恥ずかしそうに、
シヌの腕に自分の腕を廻した。

ミニョとシヌは、自然と顔を見合わせて微笑む。
まるで、本当のカップルのように。




教会の中での撮影が始まる。


小さな窓の前で、二人は向かい合っている。
室内が暗くなり、窓の外の木漏れ日が、
二人のシルエットをぼんやりとうつし出す。


愛し合う二人が、微笑みあっているという設定だ。
二人が見つめあいながら、自然に話をしている状態で
撮影が開始された。



「ミニョ、手をかして」


ミニョがだまって手を差し出すと、
シヌは、ポケットから小さく光るものを取り出した。
「・・・シヌヒョン」


シヌは、ミニョの手をとって、小さく光る・・・指輪をミニョの細い指に着けた。
「受け取ってほしい」と呟きながら。

「あ、シヌヒョン・・・」
ミニョが驚いて、シヌを見上げる。
シヌは、少し心配そうな目でミニョを見ていた。


「シヌヒョン、この指輪・・・」ミニョの目がシヌを見た。
「・・・俺の、本当の気持ちだ」

ミニョが目を見開く。
アフリカに行くといった自分に、
まさか、そんなことをするとは思っていなかったのだろう。


「あ・・・私・・・」
ミニョは、目を潤ませ、その目は視線が定まらない。
声にならない声で、何かを呟いている。
「ミニョ? どうした?」
シヌが、顏を寄せて、小さな声で聞いた。

「・・・あ、ダメ・・・ダメ・・・っ」
ミニョの目から、大粒の涙が零れ落ちる。
ミニョの唇が小刻みに震えている。
「シヌヒョン・・・私は」

ミニョの言葉が終わらないうちに、シヌが重ねて言った。


「ミニョ、今すぐ返事はいらない。
 ただ、俺との人生を、もう一度だけ考えて欲しい。

 ・・・本当に、俺から離れられる? ミニョ?」

肩を震わせながら、指輪をみつめるミニョを、そっと抱きしめた。



ジャケット撮影は無事、終了した。
メイクを直して休憩し、そのままPV撮影にうつる。




対面 番外編:


「テギョンヒョン、ミニョ綺麗だよ~」


「・・・おまえ、そんなものまで準備してたのか」

「ヒョンの分もあるよ! ほら!」

・・・・・・

「はやく出せよ、まったく」


二人は、遠くからオペラグラスで鑑賞した。





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Don't say goodbye 38

Don't say goodbye 38



<ミニョ捕獲作戦 当日 教会>



ミニョは、ワン・コーディに引っ張られるようにして、控室に戻った。


「ミニョ! さぁ、目元を直さなきゃ。こんなに泣いちゃって・・・」
「・・・オンニ。 今日は・・・どこまでが撮影?」


「何を言ってるの?ミニョ?」

「だって・・・さっきのシヌヒョン・・・本気なのか・・・」


ふっ・・・ミニョったら。
「シヌはね、めったに本音を出さないけど、長い付き合いだからわかるわ。
 今日のシヌは、100%、本気よ。
 あのシヌが、大勢の前でこんなことするんだもん。
 本気に決まってるじゃない!・・・幸せものよ、ミニョ!」



PV撮影までには、もう少し休憩時間がある。
ミニョは、くすり指の小さく光る指輪をみつめていた。



胸がざわめく。
アフリカに行くと、ここへは戻らないと言った私に、どうして?

ミニョは、くすり指の指輪に、もう片方の手で優しく触れた。


 『・・・俺の、本当の気持ちだ』
 『受け取ってほしい・・・』


シヌヒョンの、本当の気持ち。
私に、受け止めて、欲しい・・・? シヌヒョン・・・



胸がざわめく。
私の、私の気持ちは・・・?


 『・・・本当に、俺から離れられる? ミニョ』


私の、本当の気持ちは・・・



「ミニョ? 大丈夫? そろそろ始まるわよ」
ワン・コーディの声が控室に響いた。



いよいよ教会の中で、PV撮影がはじまる。


ステンドグラスが美しく輝く場所で、
シヌがギターを弾きながら歌う。
シヌは、すでにセッテイングに入っていた。


OKの合図が出れば、教会の扉が開いて、ミニョが中に入っていく。
バージンロードを一人で歩き、シヌのところへ行く、という予定だ。


扉の外で、一人スタンバイしているミニョは、
まだ、胸のざわめきを止めることができなかった。


緑の丘の上で、優しい微笑みを浮かべていたミニョとは違う。
周囲のスタッフにも、その表情の変化は伝わっていた。
しかし、見方によれば、永遠の誓いを交わす直前の、花嫁の緊張・・・
とも取れるような、複雑な表情だった。


教会の中から、かすかにギターとピアノの音色が漏れてくる。
とても、優しく、しかし悲しいメロディだった。


ミニョが俯いていると、側にワン・コーディが寄り添ってくれた。

「オンニ、私、怖い。 中に入れない、どうしよう・・・」
「・・・ミニョ? 迷わないで、まっすぐに歩いて行ってごらん?
 必ず、シヌが受け止めてくれるわ」
ワン・コーディが、ミニョの肩を抱きしめて優しく言った。

「逃げちゃだめよ、ミニョ」

「・・・オンニ・・・」



そして、監督からOKサインが出た。

ミニョの目の前の、扉が開く・・・




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Don't say goodbye 39

Don't say goodbye 39

扉を開けて




ミニョの目の前の、扉が開いた・・・



・・・・・・そこに、ジェルミが笑顔で立っていた。



「おめでとう、ミニョ!」
ジェルミは、優しい笑顔を浮かべてミニョをまっすぐ見ている。


・・・おめでとう?
ジェルミが、腕を差し出す。
「ミニョ、今日は、僕がバージンロードを一緒に歩くよ、いいよね?」
「?」


「ほら!」
ジェルミは、固まっているミニョの腕を取り、自分の腕に廻す。
「さ、いくよ! みんなが待ってる」
「・・・みんな?」


教会内は薄暗く、逆光で、先がよく見えない。
この先に、シヌがいるんだろうか?


その時、優しいピアノの調べと、少しおいて、ギターの音色がした。
ジェルミに支えられ、ミニョはゆっくりとバージンロードを歩く。


その途中から、シヌの歌声が聴こえてきた。



『どうして君を 置いていかなきゃいけないの』
『どうやって 君なしで生きるっていうの』
『息もできないほどつらいのに』
『どうしたらいいって言うんだ? そんなこと言わないでくれ、僕にはできないよ』



次のフレーズで声が入れ替わる

・・・この声・・・ミナムオッパ?



『どうして僕を置いていくの』
『どうやって僕なしで 生きるっていうの』
『冷静にしてる君が 僕にはぎこちなく見える』
『無理・・・しないでほしいんだ』



あ・・・そこにいる?
教会内の、暗さに慣れてきたミニョの目に、見えたのは、
この道を歩いた先に、座ってギターを弾いている・・・シヌ。


そして、少し後ろに、ギターを弾いているミナム、
その隣には、ピアノを弾いているテギョンの姿があった。



「・・・ジェルミ?」
ミニョは、涙を浮かべながら、ジェルミの名を呼んだ。
視線は、まっすぐに、シヌをみつめたまま。


「うん。みんないるよ。ミニョ」
・・・・・・・
「みんな、ミニョのこと好きだから。手放すなんてこと、できないんだよ」
そう言ったジェルミも、目に涙を浮かべていた。



『僕の頭の中には 君の記憶しかない』
『押し出そうとしても・・・できないんだ』
『だから、今は、その言葉を言わないでほしい・・・Say Good-Bye』


ずっと、目を閉じたまま歌っていたシヌが、ふと瞼を開けた。
目の前に、ミニョがいる。


『少し待ってくれ、もう後悔したくない』
『君に愛をあげるから、愛してるから』
『君だけをみている』
『心が君を覚えてる』
『消そうとしても、消えないんだ』
『だから今は言わないで Say Good-Bye・・・』


ミニョは、大粒の涙を流し、震える唇を噛みしめていた。
再び、テギョンの奏でる優しいピアノが流れる。



・・・みんなして、騙したのね?



ミナムが、切ない表情をしている。
ジェルミは、一緒にバージンロードを歩き始めたときから泣いていた。
でも今は、笑顔で泣いている。
テギョンは、口元にいつもとは違う、優しい笑みを浮かべている。


そして、シヌは、心配そうな目をして、ミニョをみつめている。


・・・シヌヒョン、私の気持ちが、心配なんですね?



いつの間にか、曲が終わった。
シヌが、ギターをイスにもたせ掛けて、立ち上がる。


その瞬間に、ミニョは・・・


シヌに抱きついていた。


「みんなして、騙して・・・許さないから・・・」 泣きながらそう言った。

「・・・あぁ、ごめんミニョ。ごめん」 シヌの声もくぐもっていた。



「ねぇ、誓いのキスは?」 微笑みながら、ミナムが言う。


シヌは、ミニョをみつめた。
シヌの目も潤んでいる。

ミニョが、少し背伸びをして、シヌの唇にそっと触れた。

「・・・ミニョ?」


ミナムが「おっ!」、ジェルミが「えっ!」・・・そして、笑っている。

「ふっ・・・やるな、ミニョ」
そう呟いて、テギョンも微笑んだ。

いつの間にか、テギョンはシヌのギターを手に取り、
ミナムを見て小さく頷き、ギターを弾き始めた。
そして、ジェルミと三人で歌い始める。


『kiss me out of the bearded barley
Nightly beside the green green grass・・・』


シヌは、ミニョの頬を両手で包みこみ、顏を寄せる。
・・・そして、長い、長い、キスをした。







KISS番外編:


「ところでさぁ、あのキス、長すぎじゃない?」

「うん、俺もそう思った。妹の唇にあの野郎!・・・」


「俺も、やっときゃよかった」

「え! テギョンヒョン!・・・」




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Don't say goodbye 40 感謝します

Don't say goodbye をお読みいただいているみなさまへ



先日、あと25日分のお話だから、早く終わるかも・・・と

みなさまへのお礼と感謝の意味を込めたご挨拶の際に

たしかにそう書きました。


しかし、今日の午前中に、すでに「捕獲作戦」が終了し・・・

(先日の挨拶から2日しか経過していないのに)

あまりに書き進めたせいですね。

すみません。


シヌヒョンとミニョが無事(表面的には)に結ばれ、

ここで終わり・・・でもいいのですが、どうしましょう。


もう少し、ほんとにもう少し、もともとアフリカに行くという

リミットだった残り20日分を描いてみようかな・・・と。


テギョンの裏工作とか、

ミナムの罠とか、

ジェルミの葛藤とか、

そうしたものも描いてみようかな、と。


そう思っております。


シヌヒョンとミニョのラブな話からは少し離れる場合もありますので、

お許しください。


でも、あっという間だったけど、最後まで(シヌヒョン&ミニョの)描けて

よかった~と、思います。幸せでした!



お読みいただいて、感謝です。

そして温かいコメントやら、メッセージやら。。。

本当にうれしかったです!

ありがとうございました。


サケボン



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Don't say goodbye 番外編 『幸せな日』

Don't say goodbye 番外編 『幸せな日』



「ホントにもう・・・」
「許さない?」


ミニョは、シヌの車の助手席に座り、
今日一日の出来事を思い出しては、同じセリフを繰り返している。


「だって、だって、みんながいる前であんな・・・」
「キス、したこと?」
「・・・はい。 もう・・・」
「許さない?」

ミニョは、少し拗ねたような顏をして、シヌを見る。
シヌは、この顏を見るたびに、小さく微笑んで、「ごめん」と言う。


「だって、みんなで騙してたんでしょ? もう・・・」
「許さない?」
ミニョは、ぷ~っと頬を膨らませて、シヌを見る。
「だから、ミニョ、ごめん」


「もう!っ」・・・ミニョが大きな声を出した。

「ミニョ?」
シヌは、一度チラリとミニョを見て、ハンドルを切った。
車を停めて、ハンドルから手を離し、身体ごとミニョを見る。

「ミニョ? 怒ってる?」

シヌの、本気で心配している顏を見ると、
ミニョはそれ以上何も言えなくなった。


・・・もとをただせば、私がアフリカに行くって言ったから・・・かな?

ミニョは、頭を小さく左右に振って、俯いた。
「怒ってはいません。 ただ・・・急すぎて、びっくりしただけ」
俯いたまま、そう答えた。


ミニョは、そう言いながら、薬指の指輪を、もう片方の手で触れている。


・・・ミニョ。
その姿がとても愛おしく見えて、
シヌはミニョの身体をそっと、優しく抱きしめた。

やっと、俺のところに来てくれた。
もう離さない。
ミニョも、シヌの腕の中で、静かに身を寄せている。
シヌは、ミニョの髪にそっと唇を寄せ、「ありがとう」と呟いた。


その後は、二人とも口数が少なくなり、車は静かにアパートに到着した。



ドアの前まで送ると、ミニョが何かを躊躇っているのがわかった。
「どうした?ミニョ?」
「あ・・・シヌヒョン、私まだ、遊園地の約束・・・」 
そこまで言って、ミニョは俯いた。


ミニョ・・・シヌは頷いて言った。

「じゃ、遠慮なくいただくよ。 全部、俺のものだし」

「?」


悪戯な笑顔でシヌがそう答えた。





合宿所にて:


「今夜、シヌヒョンは帰ってくると思う?」

「・・・俺は帰ってきてほしい・・・かわいい妹を守りたい・・・けど無理かな?」

「・・・まだそんなに遅くないから、行くか?」

「え! テギョンヒョン・・・それはちょっと~」

「ん? 文句あるか?」


「これってさ、嫉妬だよね?」「うん、そうだろ・・・」


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Don't say goodbye 番外編 『あの日の夜』

Don't say goodbye 番外編 『あの日の夜』




キッチンで、お茶の用意をしているミニョの後ろ姿を見ていると、
なぜか自然と笑みがこぼれる。
こんな顏、だれにも見せられないな・・・自分でも気持ち悪い。


シヌは、ソファからそっと立ち上がり、ミニョの背後に立ち、

肩越しに、その横顔を見た。


「何か手伝おうか?」 わざと、ミニョの耳元でささやく。
「え! シヌヒョン!」
ミニョは驚いて、少し腰を引いた。
ミニョのそばに、悪戯な目をしたシヌがいる。


「あ、いや、大丈夫です。座っててください」
ミニョが、顏を左右に小さく振りながら、視線でソファを示す。
・・・困ってる? ミニョ、可愛い。


その顏がもっと見たくて、シヌはミニョの希望は完全に無視して、
そのままキッチンにもたれかかり、ずっとミニョを見ている。
シヌは、とても幸せそうな笑顔だ、
それと見ていて、ミニョもつい笑顔になる。


「くすっ」「ふっ」 どちらからともなく、小さな笑い声がこぼれた。



「ねぇ、ミニョ」
「はい?」
「今日は、ありがとう。
途中でいなくなったら、どうしようかって、実は少し不安だった」
・・・・・
「オンニに・・・言われたんです」
「?」
「まっすぐに歩いて行けばいいって。そうしたら、シヌヒョンが掴まえてくれるから、って」

シヌが微笑んで言った。
「正確に言うと、掴まえられたのは俺のほうだけど」
「?」

「ギターを置いて、ミニョを抱きしめようとしたら、ミニョが飛び込んできた」
・・・
「だろ?」
・・・
ミニョは、耳まで真っ赤になっている。やっぱり可愛い。

「うれしかった、すごく。・・・ミニョ、ありがとう」
ミニョの背後に回り込み、後ろからそっと抱きしめた。
「あ、シヌヒョン、あぶないです・・・お湯が・・・っ」


「は・な・さ・な・い!」

「シヌヒョン!」
また、どちらからともなく、微笑む。



ミニョとこんな時間を過ごせるなんて、一年前には想像もしてなかった。
抱きしめた腕の中に、おまえがいる。
それだけで、幸せだ。ありがとう、ミニョ。


「さ、準備できましたよ。ソファに戻ってください!」

ミニョは、廻した俺の腕を、トントンと叩いてそう言った。



二人でソファに座り、お茶を飲む。
カップがお揃いだ。


そのカップをじっと見ていると、ミニョが、
「遊園地のあと、お礼のお茶の話をしたでしょ?
それで、急いで買ったんです。このカップ・・・」と言った。
「わざわざ?」
ミニョが、だまって頷く。

シヌは、くくく・・・と声を押し殺したように笑い、俯いた。
「あ、へんでした?」
シヌは、ただ「違う」と頭を左右に振るだけだ。

「シヌヒョン?」
顏をあげたシヌは、一度見せてくれた子供のような満面の笑みを
浮かべている。
「ほんと、ありがと」
と言って、また笑った。




「ミニョ、ひとつだけ聞いていいか?」
急に真面目な顔をしてシヌが言う。
「?」 シヌを見た。

「ふ~~~」一度深い溜息をついたシヌは、ミニョの目を見てこう言った。

「まだ行くつもり?」

あ・・・アフリカ?  ミニョは目を逸らした。
「ミニョ? 俺は、ミニョが自分のために行きたいって言うのなら、
考えてみてもいいと思ってる。正直、いやだけど、考えることはできる。
・・・でも、もし、テギョンや俺から逃げるためなら、行かせられない。わかる?ミニョ」


・・・・・・・
「・・・はい。 わかっています・・・・・・ もう逃げたり、しません」
そう言って、顏をあげたミニョは、少し切ない目をしていた。



テギョンのこと。
すぐに消せないことはわかっている。
いや、ずっと消えないかもしれない。
でも、俺は、テギョンを覚えているおまえの心もひっくるめて愛そうと思う。
だから、心配するな、大丈夫だ。

シヌは、ミニョをそっと抱きしめて、心の中でそう呟いた。
『俺がいる』・・・『大丈夫だ』


・・・・・・・・・・
「遅くなったな、そろそろ戻るよ」
「あ、・・・はい・・・」
ミニョの顏が少し曇った。

「何?ミニョ、どうした?」
「あ、いいえ、何でもないんですけど・・・」
「けど・・・?」
「・・・」


「ミニョ、言いたいことは、何でも言ってほしい。そうじゃないとわからない。
隠さないで、今、言いたいことあるんだろ?」


「あ・・・この指輪・・・」
くすり指の小さく光る指輪を、手で触れている。
今日、ずっとそうしてたな、ミニョ。


「うん。言ったとおり。俺の気持ち」
ミニョがシヌの目をみつめる。
ふっ・・・、
「ミニョは、全部俺のものだ!ってこと」
「?」
「わからない?」
シヌの目がまた悪戯な目つきになった。

少し微笑みながら、顏を寄せる。
・・・シヌヒョン!



「ここも・・・ここも・・・ここも・・・それから、ここも・・・」
くぐもった声でそう呟きながら、シヌはミニョにキスをする。
額・・・瞼・・・頬、そして唇。

軽く唇を重ねただけのキスだったが、「チュッ」というその音で
ミニョは眩暈を感じた。

だめ・・・心臓飛び出ちゃう!


「・・・ミニョ、今日はここまでね」
シヌが、耳元でそう優しく呟いた。
「本当はもっと進みたいけど、それは次にしよう。
また、アパートまで送ってあげるから、そのときまで取っておくよ」


・・・もう送ってくれないくていいです~~

「シヌヒョン、これって、送り・・・」
「そう。オオカミ」
にっこり笑顔で言った。


しばらくして、合宿所にシヌの車が停まった。
ドアの閉まる音がする。




三人衆:
「案外、シヌヒョン早かったね」
「ああ、俺、シヌヒョンのこと見直した」

「・・・だまされるな。奴は、シヌ、だぞ」
「テギョンヒョ~ン!」(デュエット)




・・・テギョンヒョンのことを、二人が慰めている図、ですが。
いったいこの三人はどこで飲んでいるんでしょう・・・?



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Don't say goodbye 番外編『ソロミニアルバム』

Don't say goodbye 番外編『ソロミニアルバム』




いよいよシヌのソロデビュー、始動。
先週から、TVCMでPVのカットが流され始めた。



『薄暗い教会で、ギターを弾きながら歌っているシヌのもとに
ウェデイングドレス姿の花嫁が歩いてくる。
花嫁は、うしろ姿だけだが、
最後に、花嫁に何か囁いて、キスをするシヌの横顔が流れる』



そのCMが放送されるやいなや、ファンからの問い合わせが殺到した。
アン社長の狙いどおり、ラブリーシヌは好調だ。

「あの切ない声、切ない視線・・・あぁ、ワンダフル!
いよいよラブリーシヌの時代到来だな!」
アン社長の意見に、マ室長も、うんうんと大きく頷いている。


当の本人は、大切なミニョとの思い出を、
自分のプロモーションに利用することへのうしろめたさと、
CMをみたミニョから、抗議のメールや電話が入っていることで
少し頭を悩ませていた。


『シヌヒョン! キスシーンはだめです~ 恥ずかしくて街を歩けません!』
『どうしてキスしてる時、顏のアップなんですか! いやだ~死んじゃいます!』


ミニョの顏、映ってないじゃん・・・
結婚式だし、キスはするだろ・・・
っていうか、そんなにイヤか?


はぁ・・・・・・・
気がつくと、深い深い溜息をついていた。


「どうしたシヌ? 本番はこれからだぞ!」


明日は、ショーケース当日。
はじめてソロとして、ステージに立つ。
これまでとは違う緊張がはしる。
ただ、ミナムがピアノの伴奏のため、同じステージにたつことになっているのが
せめてもの救いだ。

明日は、テギョンとジェルミも会場に駆けつけてくれる。
ミニョも、もちろん誘っているが、会場でPVが流れることを知り、
「恥ずかしい」「死んじゃう」の連発だ。


ミニョへの・・・気持ちを告白する意味もあるアルバム・・・。
だから、ちゃんと聴いてほしい。
それに、ショーケースを皮切りに、音楽番組への出演が増えるし、
グループとしての活動もあって、急激に忙しくなる。
これまでみたいに、会える時間もなくなるっていうのに・・・。
ミニョにも来てほしい、とは言っているが、どうなることやら・・・。



・・・・・・・

「だれだよ? おい・・・。 え、、、ミニョ? ・・・どうして?」

目の前にいるのは・・・ミニョらしい。
らしいが、???
なぜ、変装してるんだ?


金髪の外はねボブスタイル、黒い大きなサングラス、水玉の黒いワンピース、
黒い手袋、つばの大きな黒の帽子、黒いパンプス・・・おいおい、何があった?

「オンニに、貸してもらったんです」
・・・ワン・コーディ? なぜ?
「PVに出てるってバレたら、いけないかと思って・・・」


本気で心配しているミニョには悪いが、この方がよっぽど怪しい。
怪しいにもほどがある。
ワン・コーディも、顏が引きつっている・・・
「いきなり控室にきて、変装用の服貸して!って言うから・・・
準備ってものができなかったのよ~・・・ごめん」


そうか・・・。


「・・・ありがと・・・」
「え?」
「ありがと・・・ミニョ、おかげで緊張がほぐれた」
シヌが笑って言った。
しかし、肩は震えている。


「できれば・・・着替えた方がいいと思うよ。怪しまれないように・・・」
そうアドバイスしたが、ミニョは眉間にしわを寄せた。


俺は、スタンバイのため、ステージに向かった。
会場にあんな女がいたら、余計目立つ。
まぁ、探す手間は省けるけどな・・・
でも、ミニョ、来てくれてありがとう。


ニヤニヤしながらステージ裏で待機すると、
ミナムが俺を見て笑って言った。
「ヒョン! ミニョ見た?・・・仮装大会、小さなワン・コーディ!」
俺は大きく頷いて、「気もちはありがたい」と答えた。


さぁ、出番だ。
ミニョ、サングラスは外して、よく見ててくれよ!





今日は二人:
「ワン・コーディの隣にいる女、だれだ?」
「ん?・・・チビ・コーディ?」
「・・・あの帽子、邪魔だろ」


「あ、サングラス取ったよ・・・」
「え!・・・ミニョ!?」(デュエット)


「・・・シヌの趣味か・・・?」「・・・」




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Don't say goodbye 番外編『お泊りの夜』

Don't say goodbye 番外編『お泊りの夜』




はぁ・・・今夜もこんな時間か。


ミニョは相変わらず、毎日、日記のようなメールをくれる。
ただ、俺は、最近そのメールにすら返信ができないくらい忙しい。
ソロ活動は順調に進んでいる。
その反面、仕事量はこれまでの倍になったわけで、
電話はおろか、メールの返信すらできない状態だ。


それにしても・・・
一言ぐらい書いてくれよ。
『会いたい』とか、『声がききたい』とか・・・

あの時は、言ってくれたくせに。


はぁ・・・だめだ、完全に惚れきっている。
俺が会いたい、声が聞きたい・・・完璧にミニョの充電切れだ。


シヌはもう一度、時計を確認した。
このまま、行ってみるか・・・
シヌの車は合宿所を通り過ぎ、ミニョのアパートへ向かった。



アパートの脇に車を停め、念のため一度電話をしてみる。
「寝てるよな・・・」
10コールで出なかったら、そのまま帰ろう。


1、2、3、4、・・・8、「・・・」


「・・・ミニョ?」
「あ~い?」
・・・寝てたな。ごめん。


「ミニョ? 俺・・・」
「・・・・・・・・? シヌ、ピョン?」
・・・ピョンって・・・おい


「うん、シヌヒョン・・・だ」
「え! あ! シヌヒョン!」
・・・おはよ、ミニョ。ごめん。


「寝てたよな・・・ごめん・・・顏が見たくてさ」
「あ・・・」
「ミニョ・・・外、出れる?」
「へっ?」
「今、アパートの前にいる。いやなら、いいよ、帰るし」
「へっ? あ、ここ?」


ドタッ、バタン、ガチャ・・・ドアからミニョが顏を出した。
「シヌヒョン!」
シヌも急いで車から出る。
お互い、携帯を握りしめたままだ。


「・・・ごめん」
ドアの前で、シヌはパジャマ姿のミニョを、きつく抱きしめた。

はぁ・・・
「会いたかった」
深い溜息とともに、シヌが呟いた。
シヌの腕の中で、ミニョがゴソゴソと動いている。
「・・・ミニョ?」
ミニョは、シヌの胸に置いていた両手をはずし、
シヌの背中に、そっとその両腕を廻した。
「シヌヒョン・・・良かった・・・」
「ミニョ・・・」
「私も、すごく会いたかったんです、シヌヒョン・・・」


ドアの前の灯りに照らされたミニョは、少しはにかんだ表情をしていた。

シヌは、ミニョの顏をまじまじと見て、ふと、肩から下へ視線をうつす。
ミニョは、自分がパジャマ姿だったことに気がつき、
パッとシヌから離れた。




「ミニョ、中に入れてくれる?」




・・・・・・・

こんな時間に二人きり。
しかも、ミニョの部屋で。


「ミニョ、俺に会いたかった?」
これって、付き合い始めた頃の彼女が言うセリフじゃないか・・・?
「・・・はい」

「実は、メールにも『声が聞きたい』って書いたんですけど・・・送れなくて」
「・・・どうして?」
「だって、忙しいのわかってるし、迷惑かけたくないし、これって我儘かな?って」
ミニョ・・・
「これ・・・」
そう言って、ミニョは携帯の「保存未送信」のメッセージを見せた。
そこには、『会いたいな』『電話してもいいですか』の文字があった。



ミニョ・・・、はぁ~ だめだ。可愛い。
俺の自制心、薄っぺらすぎる。もう抑えがきかない。
ミニョ、ごめん。


シヌは、ミニョの腕を掴んで、強く引き寄せた。
ミニョの耳元でささやく、
「ここに・・・泊まってもいい?」



あ・・・シヌヒョン・・・それって・・・
オンニがこの前、言ってたこと?
シヌのショーケースの時の変装で、お世話になったお礼を言いに行った時、
オンニはミニョにこう言った。

『シヌが、ミニョの部屋にお泊りしたい、って言ったら、
それは、もっと仲良くしたい、ってことだから、イヤなんて言っちゃだめよ!』


・・・あぁ、そう。もっと仲良くなる・・・私もそう思う。
うん、ここは断っちゃだめよね!
でも、ちょっと大人の雰囲気なんだけど・・・シヌヒョンの目つきが色っぽいし。



「・・・ミニョ? だめ?」
シヌが、吐息まじりに問いかける。
目が・・・ますます色っぽい。
「あ・・・だめ・・・じゃ・・・ないです」
「?」
「・・・」
「ミニョ?」
シヌが、抱きしめていた腕の力を緩めて、正面からミニョの様子を窺う。
「ミニョ・・・」
ミニョは俯いていたが、ちらっとシヌを見て、小さく何度か頷いた。


「きゃっ!」
ミニョは、そのまま抱きかかえられ・・・そっとベッドへ降ろされた。


これって、仲良くするんですよね?・・・
ミニョは、目を真ん丸にしてシヌを見ている。
見つめあっていたら・・・シヌが、「くっ」と笑った。
そして、愛おしそうに目を細めてミニョを見て、こう言った。

「ミニョ、一緒に寝てもいい? 明日の朝、施設まで送るよ」



その夜、シヌとミニョは、ふたり抱き合って眠った。
シヌが、ミニョの頭を優しく撫でる。
しばらくすると、規則正しい、優しい寝息が聞こえてきた。

少し開いた唇に、シヌはそっとキスをした。



一歩前進。
一応、充電は完了。
しかし、俺一人、我慢大会開始・・・か?




・・・・・・
本日、このことは、三人衆は知らない。
シヌの隠密行動。






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Don't say goodbye 番外編 『追憶』 

Don't say goodbye 番外編 『追憶』 



合宿所で二人きり。


ミニョがここへ来るのは、もう1ケ月ぶりになる。
あの時は、ミニョがまたアフリカに行く、という話が出ていて、
メンバーとの思い出作りとして食事に誘った。


・・・裏では、捕獲作戦を進めていたんだっけ。


ミニョのアフリカ行きの出発予定日も、とっくに過ぎて、
そうした意味では、少し安心できるようになった。
・・・もう、どこにも行かない、だろ?


今日は、シヌの休みに合わせて、ミニョも施設の仕事を休んだ。
といっても、だれもいない合宿所で、二人きりのんびりしただけだったけれど。


「どこか、行きたいところはない?」
シヌは、ミニョに何度もそう聞いた。
「はい。 今日はのんびりしたいんです。だめですか?」
何度聞いても、ミニョはそう返事をする。
「ミニョがいいなら、別にかまわないよ」


3人が出かけたあと、俺はミニョを迎えに行き、
それからは、お茶をしたり、リビングでDVDを観たり、
一緒に昼食を作って、テラスで食べた。
今は、またテラスに出て、二人寄り添って夕日を見ている。




「今日は、空が澄んでいるから、星が見えそうだな」
・・・・・・
「ミニョ、どうした? 疲れちゃったか?」


ミニョが空をみつめたまま、ぼんやりしている。
・・・ミニョ、どうした? 今、何を考えてる?
シヌが訝しげにミニョをみつめていると、その視線に気がついたミニョが、
はっとした顏でシヌを振り返る。

「あぁ、ごめんなさい。 ちょっと疲れちゃったかも・・・」
ミニョはそう言って、一度微笑んでみせた後、少し俯いた。


「・・・ミニョ」
俺は、小さく呟いて、ミニョを後ろから抱きしめる。
顏を、ミニョの肩に乗せるようにして、ギュっと抱きしめた。
・・・ミニョが、一瞬遠いところへ行ってしまうような気がして、
強く抱きしめずには、いられなかった。


「シヌヒョン」
ふ・・・っ、
「ずっと、ヒョン、なんだな」
「あ・・・ごめんなさい。わかってるんだけど・・・なかなか言えなくて」
「ん?」
肩越しに、ミニョの顏を覗き込んだ。
ミニョと目が合う。
すぐそばに、ミニョの唇がある。


俺は、身体を少し横に移動して、もう一度ミニョをみつめた後、
そっと唇に触れた。
重ねるだけのキス。
唇を離すとき、「ミニョ・・・」と名前を呼んだ。


ミニョは、そのまま、俯いて・・・肩が上下に小さく動いた。
「っ・・・・・」
「ミニョ?」
涙が一筋流れた。泣いている。


俺は一度、聞こえないくらいの小さな溜息をついて、
ミニョの震える身体を抱きしめた。
今度は、背中に腕を廻して、俺の胸に、泣いているミニョの頬を
押し当てるようにして抱いた。

「ミニョ?」



ミニョは、たまにこうなる。


何かを思い出したんだろう。
それが、どんなことなのか、俺は聞かない。
ミニョも言わない。

心の奥の、記憶がおもてに出てきた瞬間、
ミニョは、一瞬、俺のもとから離れて行ってしまう。
遠くへ行かないように、俺は、そんなミニョを抱きとめる。

そんなことを、これまで何度か経験した。



そして、そんな夜は、ミニョのすべてを自分のものにしたい衝動と闘うことになる。

俺の独占欲で、すべてを手に入れたくなってしまう。

ミニョの記憶を消すことはできないから、俺の記憶でいっぱいにしたい、と思ってしまう。

ミニョの前では、大人のふりはできないな・・・。


ミニョは、きっと拒まないだろうと思う。
でも、多分・・・ミニョは、はじめてだと思うから、
その、はじめての時を、大切にしたい。
最初で、最後の男になりたい。
・・・こんなことを願うのは、男の勝手だとは思うが、どうしてもそう思う。


おまえの心の中を、俺でいっぱいにするには、あとどれくらい必要かな。
もう少し、待つか・・・


俺の肩に軽く頭をもたせかけて、空を眺めている。
空が暗くなってきた。



やっぱり今夜は、星が綺麗だな、ミニョ。
でも、そこに月も出ていること、気がついてるか? ミニョ・・・



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今夜は七夕なので、星にちなんだ読み物を・・・と思ったら、なんだか切なくなりました。

Don't say goodbye 『嵐の予感 前篇』

Don't say goodbye 『嵐の予感 前篇』




教会で俺が告白して、3ケ月になる。
街は、すでに秋の気配がしていた。


ソロでの活動も成功し、今は充電期間。
A.N.JELLのメンバーとしてだけでなく、カン・シヌとしても
次のアルバムの準備に入っていた。

そして、この時期、ミニョと俺に、ちょっとした嵐の予感がした。




「ミニョ、今度の土曜は休み?」
「土曜日、ですか・・・?」
ミニョの部屋のカレンダー、今週の土曜日には、小さな丸いしるしがついている。
ミニョは、そのしるしを確認して、こたえた。
「・・・ごめんなさい。この日は、院長様に会いに行くつもりでした」
そうか・・・
「あ、じゃぁ、送っていくよ。待ってるから、一緒に帰って、食事しよう」
「あ、いいえ。この日は・・・一人で、行きたい・・・行きます!」


ミニョ?

土曜は久しぶりの完全OFFだから、一緒にいたかったんだけど。
それにしても、ちょっと変な感じだ。


ミニョは、そそくさとキッチンに行って、お茶の準備をし始めた。

シヌは、その後ろ姿をしばらく眺めていた。

「・・・ミニョ」
後ろからそっと抱きしめる。
ミニョが拗ねたとき、怒ったとき、悲しそうなとき・・・、
きまってシヌは、ミニョを後ろからそっと抱きしめていた。

今日も・・・ミニョの様子がおかしい。
いや、違う。 ここ最近、ずっとミニョの様子がおかしい。


ミニョは、シヌに抱きしめられたまま、お揃いのカップにお茶を注ぐ。
「シヌヒョン、お茶の準備できましたよ」
そう言って、いつものように、廻されたシヌの腕をトントンと叩いて合図をおくる。
ミニョは、シヌを振り返り、微笑んだ。


いつもと変わらない?
気のせいか?




・・・・・・・
土曜日は、「部屋に戻ったら、連絡しますから、待っていてください」、
というミニョの願いを聞き入れて、シヌはおとなしく合宿所で待つことにした。
帰りは、夕方の4時くらいだ、と言っていた。


この日は、何度も時計をみた。
こんな日に限って、ジェルミもミナムもいない。
テギョンは、地下の練習室で、新曲のつめをしている。

もう一度時計をみると、4時ちょっと前。
「アパート、行ってみるか」
シヌは、上着を取って車に乗り込み、ミニョのアパートへと急いだ。


連絡がくるのを待っていられない。
「・・・待つのは慣れてるはずだけど、こんな日もあっていいよな」
そう呟いていた。


公園の下を抜けて、ミニョのアパートへと向かう路地に入った。
夕方のこの道は、人通りもなく、静かだった。

ミニョのアパートの近く、少し道幅が広くなっているところに、
灰色の車が停まっていた。
そのわきに、背の高い男性と、小柄の女性が立っているのが見えた。


シヌは、運転していた白い車を、その灰色の車が停まっている少し先に停めた。
そして、バックミラー越しに、後方のカップルを確かめる。

ミニョ・・・?
そこに、ベージュのワンピースを着たミニョと、
水色のシャツに、白っぽいパンツ姿の背の高い男がたっていた。



・・・・・・・・・

男は、手に黒い箱を持っている。
その黒い箱をミニョに渡すと、ミニョが中を確かめる。

驚いた表情のミニョが、その男を見上げている。

男は、ミニョの手から箱を取り上げ、
箱の中の・・・傾きはじめた太陽に照らされて輝く小さなもの・・・ネックレスを
両手に取り、ミニョの首に両手を廻す。
少し、顏を傾け、顏を寄せながら。


・・・・・・・・・


・・・何だ?
・・・だれだ?


シヌは、車を降り、バタン!と大きな音をたててドアを閉めた。

静かな路地に、その音は大きすぎて、
ミニョが、ハッした顏で、こちらを見る。
シヌとミニョの視線があった。


「シヌヒョン!」
「・・・ミニョ」


男は、ゆっくり振り返って、シヌを見た。
シヌに視線を合わせたまま小さく頷いて、ミニョを振り返り、何か呟いている。
ミニョも、少し困った表情を見せ、その男を見た。

その瞬間、男はミニョの唇に・・・軽くキスをした。



・・・何だ?
・・・だれだ?


・・・もしかして・・・

遠い過去の記憶になっていた、あの言葉がよみがえった。

『私が、テギョンオッパを、裏切ったんです』


・・・まさか、あの男。
シヌの、身体中の血が騒いだ。
そうだ、あの男だ。
今更、何をしに来た? ミニョに何をしている? ミニョ、どうしてこいつといる?

シヌは、大股で二人に近寄った。

目を細めて、一瞬ミニョを見る。
そして、そのまま男に視線を動かした。


「君が、カン・シヌ君か?」
男がシヌに向かって言った。
「あなたは?」
「イ・キュジュンです。ミニョさんとアフリカで・・・」
「やはり、あなたでしたか」
シヌは、キュジュンの言葉を遮った。
「・・・何をしてるんだ?」





・・・・・・・・・

キュジュンは、ポケットから黒い箱を取り出して手渡しした。

「?」

「開けてみて」


その箱には、ヘラクレスノットのネックレスが入っていた。
「これは?」
「かして、つけてあげるよ」

キュジュンは、その箱をミニョの手から取り上げ、
中のネックレスを手にして、両手をミニョの首に廻した。

ミニョが身体を後ろに引こうとすると、低い声で
「じっとして、ミニョさん」 と言った。
なぜか、その声でミニョの身体は動けなくなった。

キュジュンの顏がミニョの耳元に寄せられる。

「このネックレスのヘッドの意味、知ってる?」
キュジュンが、耳元でささやく。

ミニョが身動きせず、返事もできないでいると、
キュジュンは「ふっ」と笑って言った。

「ヘラクレスノット・・・永遠の絆、だよ」

「さぁ、できた」
キュジュンは、ミニョから身体を離し、ミニョの首元に光る
ネックレスをみて、微笑んだ。


「永遠の、絆・・・?」
「そう。私からプレゼントするものじゃないとは思うけど・・・」
そう言って、困ったような表情で笑ったが、
「でも、いいでしょ? 妹を・・・お嫁に出す兄のような心境だ」
と小さく言った。
「キュジュン先生・・・?」

「夢を、それから私を振ってまでして手に入れた幸せでしょう?」
ミニョの肩を抱く。
「強く結ばれて、永遠に幸せになってもらわないと、また私の心が乱れるからね」
そう言って、また微笑んだ。



・・・・・・・・・

バタン!とドアが閉まる音がした。
気がつくと、シヌが車から出て、こっちへ向かっている。


「シヌヒョン!」
「・・・ミニョ」


一度視線が合ったが、すぐにシヌの視線は、ミニョから離れ、
ミニョのすぐ隣に立っているキュジュンに向けられた。

キュジュンもシヌを見る。
そして一度小さく頷いて、
「彼だね?」とミニョに呟いた。

ミニョは、こんな場面を見られてしまったうしろめたさもあって、
少し困惑した表情で頷き、キュジュンを見る。

その瞬間、キュジュンの唇がミニョの唇に重なった。

唇が離れる瞬間に、「これくらい、いいよね?」とキュジュンが呟いた。



・・・・・・・・・

「君が、カン・シヌ君か?」
男がシヌに向かって言った。
「あなたは?」
「イ・キュジュンです。ミニョさんとアフリカで・・・」
「やはり、あなたでしたか」
シヌは、キュジュンの言葉を遮った。

「何をしてるんだ?」

キュジュンは、その問いには答えず、ミニョを見た。

その時、シヌの左手が、キュジュンの肩を強く掴み、
右手は顎を殴っていた。


「う・・・・・っ」 キュジュンは路地に倒れこむ。
唇の端に、血がにじんでいる。唇か、口の中を切ってしまったらしい。
「あ! 先生! 大丈夫ですか?」
ミニョが驚いて、倒れたキュジュンの隣にしゃがみこみ、顏を覗き込んでいる。


「ミニョ!」
シヌが大きな声でミニョを呼んだ。叫んだ、と言ったほうがいいくらいに。
シヌを振り返ったミニョの目は、涙で潤んでいた。

「・・・ミニョ?」
シヌは、顏を左右に小さく振っている。
ミニョのその表情の意味がつかめない。なぜ、そんな顏をするんだ?
おまえ、その男を・・・


「ひどい!シヌヒョン、殴るなんてひどいです! 先生、怪我しちゃう!」
そう言って、シヌをちらっと見たあと、ミニョはまたその男を心配している。
「大丈夫ですか?先生。 血が出てる」

「大丈夫・・・と言いたいけど、さすが、若い男性の力はすごいね。やられたな・・・」
そう言って、ハンカチで血を拭いながら、立ち上がってシヌを見た。

「シヌ君、勘違いさせちゃったみたいだけど、なんでもないから・・・」

「何言ってるんだ?あんたは、さっき、ミニョに・・・」
「あぁ、あのキスは、兄から妹へのお祝いのキスみたいなものですよ」
「・・・」
「これ以上、ここいいると、もっとひどいことになりそうだね」
そう言って、ミニョを見て、
「もう、部屋まで送らなくていいね。彼がいるから・・・じゃ、また」


キュジュンは、灰色の車に乗り込み、口の端を手で押さえながら、去って行った。




・・・・・・・・・
「・・・シヌヒョン」
「乗って、話はあとだ」

ハンドルを持つシヌの右手のくすり指、第二関節が赤くなっている。
指、怪我しちゃった・・・シヌヒョン。



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Don't say goodbye 『嵐の予感 中篇・アメ限』

Don't say goodbye 『嵐の予感 中篇・アメ限』



アパートまでの道のり、シヌは一言も口をきかない。


・・・怒ってますよね・・・シヌヒョン。
何度か、静かに前を向いたままのシヌの横顔を、盗み見た。
はぁ~・・・自然と溜息が漏れる。


「溜息つきたいのは、こっちだ」
シヌがやっと、口を開いた。


「シヌヒョン・・・」
「ほら、着いた。カギは?」
シヌが不機嫌な声で言う。
ミニョがバッグからカギを出すと、シヌは、ミニョの手から奪い取り、
部屋のカギを開けて、ミニョをドアの中へ押し込んだ。




狭い玄関で、シヌはいきなりミニョを抱きしめて、キスをした。
いつもと違う、ちょっと乱暴なキス。

ミニョの頭を押さえ、何度も顏の角度を変え、
唇をかさねては離し、離しては、かさねて・・・
キスは、どんどん深くなっていく。


シヌヒョン・・・だめ。
シヌの肩を掴んでいるミニョの両手に、力が入る。
ミニョは苦しくて、唇が離れた隙に声を漏らしてしまった。
「ん・・・」、「はぁ・・・」
その漏れだす声を耳にして、シヌは更に深いキスをした。

もうだめ・・・そう思ったとき、
シヌは、ミニョを抱きしめていた腕の力を緩めた。


「おいで・・・」
低い声でそう言うと、ミニョの腕を掴んだまま、部屋の奥へ入っていく。



二人は、部屋の真ん中で、見つめあっている。
シヌの強い視線に、ミニョは身動きも取れない。


シヌは、静かにミニョに近寄り、両手を首に廻した。
「・・・シヌヒョン?」
ミニョの耳元で、シヌが小さな溜息をつく。
「・・・取れた」


シヌの掌には、キュジュンから貰ったネックレスがあった。
そのネックレスをじっとみつめて、ぎゅっと握りしめたあと、
ミニョを見た。 
いつもと違う。
あきらかに怒っているが、その怒りを抑えるようにほんの少し目を細めて、
静かにミニョを見ている。


「ミニョ? どういうことだ?・・・俺に説明できる?」
シヌが、少し顏を傾けて、ミニョに問いかけた。


・・・どこから説明したらいいんだろ?
・・・どこから、見てたの?
ミニョが混乱した頭を整理させようとして、俯いて考えていると、
腕を強い力で掴まれ、「こっちに来て」とシヌに連れて行かれた。


・・・シヌヒョン。



ミニョは、そのままベッドに押し倒された。
シヌが、ベッドに横たわるミニョの、小さな身体に覆いかぶさるようにして、
唇を寄せてくる・・・そして、唇をあわせる寸前にこう言った。
「ミニョ。今日は・・・許せそうにない・・・もう我慢しない」

ミニョは、また、深い深い、キスを受けた。


重ねた唇が熱い。
頬をシヌの手で包まれ、シヌは少しずつ顏の角度を変える。
そうして、ミニョは何度もキスを受ける。

だんだん苦しくなって、ミニョの唇が少し開くと、
シヌはその隙間から優しく滑り込んできた。
「ん・・・っ」

シヌヒョン・・・。
ミニョは、動けなかった。
ただ、目を閉じ、シヌのキスを感じていた。


気がつくと、ミニョの服はすべて剥ぎ取られ、
シヌもまた、同じように素肌を合わせていた。


一度だけ、ミニョはうっすらと目を開けた。
そこには、首筋にキスの雨を降らせるシヌの髪が揺れていて、
今、自分を苦しめているのは、この人だ、とあらためて感じることができた。


「あ・・・シヌ、ヒョン」
声にならない声が漏れる。
シヌは何も言わない。
ミニョのすべてを奪うために、ミニョのすべてを自分のものにするために、
ただ、それだけのためにミニョに指で触れ、キスをしていた。


「・・・はぁ・・・だめ、です」
ミニョが恥ずかしさのあまり、シヌの手を止めようとして押さえると、
シヌは、両手をミニョの頭の上で押さえつけ、その白い胸にキスをした。
何度もキスをして、白い肌に、うす紅の小さな花を咲かせていく。


俺のしるしだ・・・シヌは、その小さな花を見ながら、そう思った。
ここにも・・・
シヌの唇が、下りていく。
「シヌヒョン!・・・」
ミニョの身体中に、小さな花が咲き、そのたびにミニョは苦しくなっていく。


もう・・・だめぇ!
ミニョは、シヌの長い指と唇の感触で、
頭がぼぉっとして、何も考えられない。
いつの間にか、両手は自由になっていたが、もう力が入らない。
目を閉じて、身体の中心が熱くなるのを感じていた。



「ミニョ・・・」
はじめて、シヌの声が聞こえた。
くぐもった、シヌの声が。
ミニョが、その声に瞼を開こうとした瞬間、身体にシヌの体重を感じ、
同時に、するどい痛みが貫いた。


「やぁぁ・・・っ、イタ・・・ぃ」
ベッドの上の方に、逃げようとするミニョをシヌが押さえつける。
そして、ミニョの中に、シヌの身体が、深く沈み込んでくる。


ミニョは、その痛みに耐えようとして、きつく目を閉じ、息をとめた。
「あぁ・・・ミニョ、息をして」
「はぁ・・・」
口を開けて、息をすると、少し痛みが遠のいた。
しかし、また、次の波が寄せてくる。
「あ・・・やぁぁ・・・あ・・・ん、あ・・・」
静かな部屋の中に、ミニョの短い声と、シヌの荒い息、
そしてベッドの軋む音が聞こえた。



ミニョは、涙を流していた。
シヌのすべてを受け入れて、幸せなはずなのに、なぜだろう。


・・・シヌヒョン、私のこと・・・愛して・・・

何度も寄せる波に、ミニョの思考はそこでストップした。


・・・そして、気がつくと、ミニョはシヌの隣で小さく肩を上下させていた。




・・・・・・・・・

ミニョは、肩で小さく息をしている。まだ、呼吸が整わないようだ。
瞼もまだ、閉じたままだ。


シヌは、さっきまでの嵐のような時間を思い起こし、隣にいるミニョをそっと見た。

・・・ミニョ。
ミニョの閉じている瞼から頬に、ひとすじ、涙のあとが残っている。
・・・泣いてるのか?
シヌは、自分の心臓がギュっとだれかに掴まれたような、そんな感触がした。



「・・・ミニョ」
そう呟くと、ミニョの頬に唇をつけて、涙のあとを消した。
「ごめん、ミニョ。・・・大丈夫か?」
「・・・・・・はい」
声にならない声でそうこたえ、ミニョは、瞼を開けた。
その目は潤んでいた。


ごめん、ミニョ。無理をさせてしまった。

「ミニョ」・・・シヌも声にならない吐息だけで、ミニョの名を呼び、
ミニョの頬を手で包み込んで、そっとキスをした。
さっきまでとは違う、優しいキスだった。

「・・・愛してる」
シヌは、呟くように言った。



突然、ミニョの目から、ポロっと涙がこぼれ、頬に流れていく。



「ミニョ・・・」
「あ、よかった・・・」
ミニョの唇が震えている。
「・・・よかった・・・」
ミニョが、震えながら、シヌの視線を避けるように顏を横に向けた。
ミニョ? どうした?

「はぁ・・・。ちゃんと、言って・・・くれた」

「私、もう・・・嫌われたかと、思って・・・」


あ、・・・俺・・・。
さっき、あまりにも余裕がなさすぎて、
「愛している」という、気持ちを伝えることもできず、ただミニョを激しく抱いてしまった。
・・・気にしてたのか、ミニョ。
俺に愛されてるかどうか。



シヌの予想どおり、ミニョは初めてだった。
ミニョは、何も言わなかったが、そうだとわかる。
それでも、俺を拒まず、受け入れてくれた。
なのに、俺は、ちっとも優しくしてやれなかった。

・・・あれほど、はじめての時を大切にしたい、って考えていたのに・・・
ほんと、ミニョの前では大人でいられない。


シヌは、ミニョを優しく抱き寄せ、もう一度キスをした。
片方の腕にミニョの頭を乗せ、
もう片方の手でミニョの髪を優しく撫でながら、もう一度言った。

「愛してる、心から」

ミニョは涙で目を潤ませたまま、微笑んだ。
「私も、愛してます」




しばらくして、ミニョが言った。
「・・・ごめんなさい、シヌヒョン・・・心配かけちゃった」
「?」
・・・あぁ、そうだった。あいつ。

ミニョが心配そうな顔で、シヌをみつめている。
「怒って・・・ますよね?」
「もう、説明できる?」


ミニョが、胸に抱きしめられたまま、コクンと頷く。

ミニョは、ゆっくりと俺に話しはじめた。


・・・・・・・・・


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アメ限をお読みいただきありがとうございます。

初、ちょっと大人な描写。苦手な方はすみませんでした。

なお、『嵐の予感 後編』は、このアメ限の続きとしてキュジュン先生とのお話を付け加えています。

はぁ~シヌヒョンとミニョ初!・・・しかし、ちょっと切ないモード。

きっとシヌヒョンはこの仕切り直しに、甘い夜を準備することでしょう。ふっふっふ。

『まだあるんかい!』(三人衆より)

Don't say goodbye 『嵐の予感 後編』

Don't say goodbye 『嵐の予感 後編』



キュジュンが去ってから、アパートまでの道のり、シヌは一言も口をきかない。


ミニョは、静かに前を向いたままのシヌの横顔を、盗み見た。
ふぅ・・・自然と小さな溜息が漏れる。


「溜息つきたいのは、こっちだ」
シヌがやっと、口を開いた。


「シヌヒョン・・・」
「ほら、着いた。カギは?」
シヌが不機嫌な声で言う。
ミニョがバッグからカギを出すと、シヌは、ミニョの手から奪い取り、
部屋のカギを開けて、ミニョをドアの中へ押し込んだ。



狭い玄関で、シヌはいきなりミニョを抱きしめて、キスをした。
いつもと違う、ちょっと乱暴なキス。

玄関のドアにぶつかりそうなミニョの頭を押さえ、

シヌは、何度も顏の角度を変え、唇を重ねる。

もうだめ・・・、そう思ったとき、
ミニョを抱きしめていた腕の力を緩めた。


「おいで・・・」

部屋の真ん中で、二人して見つめあっている。
シヌの強い視線に、ミニョは身動きも取れない。


シヌは、静かにミニョに近寄り、両手を首に廻した。
ミニョの耳元で、シヌが小さな溜息をつく。
「・・・取れた」


シヌの掌には、キュジュンから貰ったネックレスがあった。
そのネックレスをじっとみつめて、握りしめたあと、ミニョを見た。 
いつもと違う。
あきらかに怒っているが、その怒りを抑えるようにほんの少し目を細めて、
ミニョを見ている。

「ミニョ? どういうことだ?・・・説明できる?」
シヌが、少し顏を傾けて、ミニョに問いかけた。


・・・どこから説明したらいいんだろ?
・・・どこから、見てたの?
ミニョが混乱した頭を整理させようとして、俯いて考えていると、
腕を強い力で掴まれ、「こっちに来て!」とシヌに連れて行かれた。


・・・シヌヒョン。



ミニョは、そのままベッドに押し倒された。
シヌが、ミニョの身体に覆いかぶさるようにして、ミニョを見た。
「ミニョ。今日は・・・許せそうにない・・・もう・・・我慢しない」
シヌが、そう言った。


シヌヒョン・・・。
ミニョは、動けなかった。
ただ、目を閉じ、シヌを感じていた。


途中、一度だけ瞼をうっすら開けた時、首筋にキスの雨を降らせている

シヌの髪が揺れるのを見た。

私を今、苦しめているのは、この人なんだ・・・

ミニョは、そう実感した。

そうやって、嵐の時間が過ぎて行った。



・・・・・・・・・

ミニョは小さく肩で息をしている。
瞼は閉じたままだ。


シヌは、さっきまでの嵐のような時間を思い起こし、隣にいるミニョをそっと見た。

ミニョの閉じている瞼から頬に、ひとすじ、涙のあとが残っている。
・・・泣いてるのか?
シヌは、自分の心臓がギュっとだれかに掴まれたような、そんな感触がした。


「・・・ミニョ」
そう呟くと、ミニョの頬に唇をつけて、涙のあとを消した。

「ごめん、ミニョ。・・・大丈夫か?」
「・・・・・・はい」
声にならない声でそうこたえ、ミニョは、瞼を開けた。
その目は潤んでいた。


ミニョ・・・シヌも声にならない吐息でミニョの名を呼び、
頬を手で包み込んで、そっとキスをした。
「・・・愛してる」
シヌは、呟くように言った。


ミニョの目から、ポロっと涙がこぼれ、頬に流れていく。


「ミニョ・・・」
「あ、よかった・・・」
「?」
「ちゃんと、言って・・・くれた」


あ、・・・俺・・・。
さっき、あまりにも余裕がなさすぎて、
「愛してる」という、自分の気持ちを伝えることもできず、ただミニョを抱いてしまった。
愛されているか・・・気にしてたのか、ミニョ。


シヌの予想どおり、ミニョは初めてだった。
ミニョは、何も言わなかったが、そうだとわかる。
それでも、俺を拒まず、受け入れてくれた。
なのに、俺は、ちっとも優しくしてやれなかった。

・・・あれほど、はじめての時を大切にしたい、って考えていたのに・・・
ほんと、ミニョの前では大人でいられない。


シヌは、ミニョを優しく抱き寄せ、もう一度キスをした。
片方の腕にミニョの頭を乗せ、
もう片方の手でミニョの髪を優しく撫でながら、もう一度言った。

「愛してる」

ミニョは涙で目を潤ませたまま、微笑んだ。

「私も、愛しています」



しばらくして、ミニョが言った。
「・・・ごめんなさい、シヌヒョン・・・心配かけちゃった」
「?」
・・・あぁ、そうだった。あいつ。


ミニョが心配そうな顔で、シヌをみつめている。
「怒って・・・ますよね?」
「もう、説明できる?」
ミニョが、胸に抱きしめられたまま、コクンと頷く。


ミニョは、身体にシーツを巻き付け、

ベッドに起き上がると、そのままゆっくりと俺に話しはじめた。




・・・・・・・・・


「先日、修道院の院長様にお会いしたとき、

キュジュン先生が帰国した、ということを聞きました。

院長様が、私とシヌヒョンとのことをお話になって、

先生が会いたいとおっしゃっている、ということも。


・・・私、シヌヒョンに言えなくて。

先生とは、アフリカを出てから、一度も会っていないし、

連絡もしてない。

でも言えなくて・・・

言うと、余計な心配をかけそうだし。

それで、今日まで黙っていたんです。・・・ごめんなさい」

「会ったのは、今日、だけ?」

この質問に、ミニョは、頷いて答えた。


「・・・どんな話を・・・したんだ?」

「あの・・・ネックレスは?」

俺は、また落ち着きをなくしかけて、矢継ぎ早に質問していた。

ミニョは、そんな俺の目を見て、俯いた。


「・・・結局、心配かけちゃいました、ね」 唇を噛んでいる。

「・・・」

ミニョはシヌの目をみつめて言った。


「先生が何を考えてるのか、私にもわかりません。

ただ、アフリカに居たとき、あなたの心にいたのは、今、そばにいる男性だったのか、

って聞かれて・・・そうです、って答えました」

ミニョの目が潤んでいる。

「私は、今、愛している人と一緒にいます、そう答えました」


そう言って、ミニョはシヌを見た。

「ミニョ」


「あのネックレスは・・・?」

「永遠の絆 って意味があるそうです」

「絆?」

「・・・はい。名前は忘れちゃったけど・・・先生がそう言っていました」

「それを、ミニョに?」

「はい。 妹をお嫁に出す兄の心境だ、って」

・・・そう言えば、そんなことを言ってたな。


『「シヌ君、勘違いさせちゃったみたいだけど、なんでもないから・・・

あのキスは、兄から妹へのお祝いのキスみたいなものですよ」』


「ふざけた奴・・・」

シヌは、低い声で呟いていた。

「シヌヒョン」

ミニョが、その声に少し驚いて、シヌを見つめている。



ベッドの端に、ネックレスが落ちている。

さっき、ミニョの首から外した後、手に握ったままミニョをベッドへ連れてきた。

・・・一緒に来たか・・・こいつ。

シヌは、そのネックレスを手にして、じっとみつめた。

・・・だれと、だれの永遠の絆を期待してるんだ?

はっきりさせとくか・・・



ふと気がつくと、ミニョは心配そうに、シヌを見ている。


「ミニョ、おまえは、もう全部俺のものだ」

シヌは、ミニョを抱き寄せた。

「あ・・・」

ミニョの身体に纏っていたシーツがずれて、胸元がはだける。

「・・・や・・・」

くすっ・・・

「そんな声、ほかの誰にも聞かせちゃだめだ。わかってる?」


「そんなミニョを知ってていいのは、俺だけ」

そう言って、胸元に優しくキスをした。

「・・・シヌヒョン・・・」

「そう、その声ね。俺を呼ぶ声・・・」



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初!・・・ここではそのすべては描いておりませんが、実はけっこう切ないモードで。

きっとシヌヒョンは、このまま甘~い時間を過ごしてリカバーするのかな?





Don't say goodbye 短編  『そんな彼』

Don't say goodbye 短編 『そんな彼』



最近、機嫌がいい。
ものすごく機嫌がいい。
・・・というか、気持ち悪いくらい。


「ねぇ、ねぇ、やっぱりへんじゃない?シヌヒョン・・・」
ジェルミが、屋上からテラスを見下ろしながら、そう言った。


そう言った相手は、ミナム。
ミナムはニヤニヤしながら、テラスを眺めている。
「だぁね~~」


テラスにいるシヌは、一見いつもどおりに見えるが、
日々一緒にいるメンバーには、その変化が手に取るようにわかる。


「ミナム・・・シヌヒョンに八重歯があるって知ってた?」
「?・・・何それ?」
「俺さ~、すごい長い付き合いじゃない。でもさぁ~この前知ったんだよね・・・」


シヌは、微笑むことはあっても、大声を出して笑うようなタイプではない。
しかし、最近のシヌは、たまに口を開けて笑う。
・・・こんなことは人として当たり前のことかもしれないが、
相手がシヌとなると、ちょっと違う。


「この前さ、俺、仕事でちょっとミスってさ、テギョンヒョンに注意されて・・・」
今、思い出しても、あのときのテギョンヒョンは怖かったなぁ・・・


「その時、シヌヒョンがいつものように慰めてくれて。
すごく大切にしてるあの甘いお茶、出してくれて。
嬉しくってさぁ・・・ありがとう!って抱きついたら、
に~っ・・・って口を横に開けて笑ったんだよ、ヒョンが。
八重歯がさぁ・・・見えたの。はじめて・・・はじめてだよ! これってすごくない?」


「ふ~ん、人間シヌヒョンってこと?」
「うん・・・」


・・・・・・・・
「いよいよか?」
「何?」


「いや、もう済んだとか?」
「何?何?・・・ミナムぅ、何?」


「ヒョンと、ミニョ、ちょっと進展したんじゃない?」
「え! ミニョ? え!・・・何?・・・進展?」


・・・ジェルミ・・・妄想の世界突入・・・

『シヌオッパぁ~』『ミニョ~』
二人が明るい太陽の下、草原を走っている。
『待てよ~ミニョぉ~』
シヌが、ミニョを追いかける。
やっと手を摑まえた。そのまま二人は倒れこむ・・・そして、二人は・・・


「え~! シヌヒョンとミニョが、そんなこと!」
「おい、ジェルミ、声デカいって!」



テラスでは、自分の名前を呼ばれた気がして、シヌがきょろきょろしている。
「気のせいか?」

携帯が着信を知らせる。「電話?」


・・・・・
「もしもし、シヌヒョン?」
「違います」 きっぱり。


「え?」
「ヒョン・・・じゃない」 きっぱり。

「あ・・・」
「どちらさま?」
「・・・もう!」
「・・・ん?」


「・・・オッパ」
「聞こえな~い」
「オッパ!!」
シヌが、耳から携帯を少し離した。
すごい声だな・・・ふっ。


「よくできました・・・チュっ」
「え?」
シヌが、携帯に向かってキスをした。
チュっという、唇が触れる音で、その様子がわかる。
「・・・もう・・・オッパぁ」




屋上の二人・・・凍りついている。

「見た?」
「うん、見た」
「キス・・・したよね?」


「・・・テギョンヒョン、今日帰ってくる?」
「うん・・・たしか8時には」


「今夜、9時、練習室集合ね。もちろん、シヌヒョンには内緒」
「ラジャー」



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例の三人衆へのご希望が多かったので(人気者ね、デビューさせちゃおうかしら)いつも読んでいただくみなさまへの感謝の意味を込めて描いてみました。超番外編、短編です。


Don't say goodbye 『こんな彼女』

Don't say goodbye 『こんな彼女』



「カン・シヌさん、格好いいですぅ~」
ミニョは、クッションに抱きつき、TVの歌番組に出演しているシヌに夢中だ。


「あ、この表情・・・色っぽいですよね~」
「目を閉じて歌うのって、いいなぁ。
・・・あ、PVの教会でも目を閉じてましたね~」
と、言って、ソファに一人座っている俺を見た。
そう、本物は、ここにいる。


「ミニョ、TVのシヌじゃなくて、こっちのシヌのほうがよくないか?」
「ん・・・でも、TVのシヌさん、とっても格好いいんですよ~!」



はぁ~~~っ。
今夜は、仕事が早く終わったから、ミニョのアパートに直行したっていうのに、
おまえは、TVの俺に夢中なのか?
しかも、「さん」か? やっと「オッパ」って呼んでくれるようになったのに。


・・・原因は、わかっている。


「俺の実家に、一緒に行こう」 昨日、電話でミニョに伝えた。
「・・・はい」 
ミニョは恥ずかしそうに、そう答えた。
そう、ここまでは良かった。


今週末、ミニョが施設の仕事が休みだということを、俺は事前に知っていて、
俺の休みも無理やり調整した。週末に、二人で釜山に帰るためだ。

「みんなもミニョに会いたいっていってるんだ。一緒に行こう、今週末」
「え?・・・今週・・・末? 今日は木曜日・・・ですよね?オッパ・・・」

そう。
日程が急すぎること、ミニョ以外の俺の家族はみんな知っていたこと。
そして、一泊二日、俺とお泊りであること。
この3点セット・・・ここにミニョは拗ねている。
「私だって、いろんな準備が必要なのに・・・」


何もいらない、そのままのミニョを家族に会わせたい、それだけだ。
それにソウルにいると、なかなか自由になれない。
少し離れた釜山で、俺の生まれた街で、ミニョと二人だけの時間を過ごしたい。


・・・俺の仕事は不規則で、これからだってどうなるかわからない。
それに、この業界では、いろんな憶測や、噂話も飛び交って、
いつミニョに辛い思いをさせるかもしれない。
まだ結婚を決めるには早いけど、家族公認の恋人・・・
そうなるだけでも、ミニョが安心するんじゃないか、そう思った。

・・・それに、あいつ、キュジュン・・・
俺にはまだ納得できていない部分がある。
あいつから守るためにも。


しかし、ミニョは拗ねている。
拗ねて、TVのシヌにしか興味がないようなふりをして・・・



「あ、歌、終わっちゃいました・・・」
すごい残念そうなミニョ。

「ミニョ、TVのカン・シヌの、どこがそんなにいいんだ?」
俺も真面目に聞いてみる。


「そうですね~」
・・・・・・・
「まず、すごく色っぽい! セクシーって、あぁいう感じの男の人を言うんですね、きっと」
・・・セクシー?
「それから、曲によっては、なんだか冷たい感じで、クール!そうそうクールです!」
・・・クール?
「たまに、意地悪な目つきするんですよ。こんな感じの・・・」
そう言って、ミニョは、目を細めて上からの視線を投げる。
・・・意地悪?



・・・・・・・
「そうか、おまえはそんなカン・シヌが好きなわけだ・・・」
ふ~~~ん・・・
「セクシーで、クールで・・・その上、意地悪・・・」

ちょっと低くて、ゆっくりなシヌの口調が気になって、
ミニョが、シヌを振り返ったとき、そこには、
「セクシーな微笑みを浮かべ、ちょっと意地悪な目つきの、クールなシヌ」がいた。



「あ・・・シヌオッパ・・・(微笑・・・凍る)」

「こんな感じか? ん? どおだ? ミニョ?」
シヌが、営業用のセクシースマイルで、どんどん顏を寄せてくる。


「あ、シヌオッパぁ・・・」

「今更遅いよ、オッパなんて呼んでも・・・」
ドキっ。
だめです、そんな顏して・・・
「どぉ? カン・シヌに襲われる気分は」
え・・・え~、シヌオッパ。


シヌは、ミニョの肩に手を置き、顏を傾けて・・・
キスする寸前に呟いた。

「明日はお泊りだから、今日ぐらいはミニョをゆっくり寝させてあげようって
思ったけど・・・無理だな。今夜は、前夜祭・・・ね」

う・・・シヌオッパ。
セクシーシヌが、ミニョの唇を塞ぎ、長い夜が始まった。




・・・・・・・
「シヌオッパ・・・もう、だめです」
「だめ、ゆ・る・さ・な・い」
あ・・・ん、もぅ・・・
「明日・・・早いんでしょ?」
「ん? 大丈夫、荷物は車に積み込んでる」
きゃっ・・・そんなとこ・・・もぅ、シヌオッパ・・・




・・・・・・・
「ミニョ? 起きろ、朝だぞ・・・」
ん? シヌオッパの声?
ミニョが目をこすりながら、薄目を開けると、そこにシヌの顏があった。


くすっ・・・
良く寝てたな。
「え?オッパ!あ、出発?」
「うん。そう。そろそろ起きなきゃ。お茶の用意してるよ」
「え!」
ガバっと、ベッドに起き上がる。


「ミニョ、今朝はサービス満点だね」
満面の笑みのシヌ。
「え? あ、あ!あぁぁ!」
叫んだミニョは、自分の姿に気がついて、急いでフトンを身体に巻きつける。


そう、昨夜のなごり・・・白い胸元に小さなピンクの花びらの跡。
ミニョは裸のままだった。

「まぁ、今夜のことだけ考えれば、そのままでもいいんだけどさ。
一応、親父もおふくろも見るから・・・ね?」
シヌは、すました顏で言う。


「さ、準備して、あと一時間半で出発するぞ」



釜山、シヌの家族・・・緊張するはずの出来事。
しかし、それどころではない、ミニョ。
・・・これもシヌの計算だろうか・・・?





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Don't say goodbye 『暗い空と海の境界線で』

Don't say goodbye 『暗い空と海の境界線で』



ふと、頬に風を感じた。


そっと目を開けると、部屋の中は暗かった。
窓へ目を向けると、カーテンの隙間から見える空も、
まだ薄暗いことがわかる。


ミニョ?
シヌの隣で眠っているはずの、ミニョの気配がない。
「ミニョ・・・」
寝起きのシヌの声が、静かなホテルの部屋に響いた。


返事はない。

一瞬、心に不安を感じ、掛け布団を跳ね除けてベッドの端に座り、
ナイトテーブルのランプをつけ、部屋の様子を窺ってみる。


テラスにつながる窓が少し開いているらしく、カーテンが風に揺れていた。
そこにいるのか?
シヌは、昨夜脱ぎ捨てたバスローブを緩く身体に巻きつけ、
ソファにかけていたブランケットを持って、
そっとテラスへ続く大きな窓を開け、外へ出た。


外の景色は、やはりまだ薄暗い。
秋の風が、肌に冷たい。
テラスに置かれた白いイスに、シヌと同じバスローブを身に着けた
ミニョが、丸くなって座っていた。


ミニョは、薄暗い空と、境界線がはっきりしない暗い海をぼんやり眺めている。
・・・いつからそこにいたんだ?


「ミニョ」
シヌは、ミニョを驚かせないように、できるだけ、優しい声で、
呟くようにミニョの名前を呼んだ。


一瞬、ハッとしたように身体を起こし、ミニョは声のする方向へ振り向いた。
「あ、オッパ・・・起こしちゃいました?」
「いや、勝手に目が覚めたんだ」


ミニョの隣にイスを動かし、顏を寄せて座った。
ミニョの表情を確かめたい。
どうした?ミニョ。


まだ外は暗く、ミニョの細かい表情までは読み取れない。
シヌは、ミニョの頬に手を当てて、涙の跡を確かめた。


「オッパ・・・大丈夫です」
そんなシヌの気持ちを知ってか、ミニョはそう答えた。
「眠れなくて。・・・散歩しようかと思ったけど、もしオッパが目覚めたとき、
私が部屋にいないと心配すると思ったから・・・ここにいました」


ミニョの腕に触れると、身体が冷え切っていることがわかる。
ずっと、長い時間ここにいたのか?

「どうした?ミニョ。 気分でも悪い?」
「いいえ、違います、ほんとに大丈夫」
小さく微笑む。


シヌは、自分の体の熱で温めるようにミニョを抱き寄せ、ブランケットをかけた。
ミニョの額に、自分の額を合わせて、もう一度聞いた。
「疲れさせたかな」


ミニョは、困ったような、溜息のような吐息を漏らし、少し身体をひいて
シヌと合わせた額をはずす。


「違うんです・・・」


・・・・・・・

「こんなに幸せでいいのかな、って。どうして私なのかな、って。
そう思ったら、なんだか、眠れなくて」

ミニョ?





二人はシヌの故郷、釜山にやってきた。
シヌの両親に会うため。




・・・・・・・

これまで誰もいなかったわけじゃない。
年相応の付き合いは経験してきた。
いや、むしろ、この仕事についてからは、年齢以上の無理をした恋愛もあった。
しかし、これまでだれも家族に紹介したことはなかった。
女性に、ある一定以上の気持ちを持つことはなかったし、
そうした関係も、あまり長くは続かなかったからだ。


女性の唇も、肌も、涙も、
慣れていると思っていた。


「冷たい」と言われることもある。
「無関心だ」と罵られたこともあった。
TVでみるカン・シヌとは違う。
冷静、というよりも無感動。
優しさも、それを隠すための手段にすぎない。


そんなシヌが、ミニョの前では普通の男でいられる。
家族にしか理解できないことかもしれないが、
普通のカン・シヌでいられる。
ミニョは、シヌにとって、そうした特別の存在であることを、
両親はわかってくれた。


『ミニョさん、シヌのことをわかってあげてね』 と何回も言っていた。
『シヌ、言葉でちゃんと伝えるんだぞ』 と何回も言われた。


・・・・・・・

「オッパ・・・私、ここにきて良かった」
ミニョが、昨夜、ホテルの大きな窓から夜の海を見ながらそう呟いた。
シヌは、その横顔をみてそっと微笑んだ。
・・・ありがとう。
俺もほっとしている。
今度はちゃんとついてきてくれた・・・。

そして、大切な宝物を扱うように、優しく優しく抱いた。





・・・・・・・

「こんなに幸せでいいのかな、って。どうして私なのかな、って。
そう思ったら、なんだか、眠れなくて」
薄暗い、夜明け前の海を前にして、ミニョはそう呟いた。


シヌは、ミニョをみつめ、ミニョの手を引いた。
「ミニョ ・・・こっちにおいで」
二人は立ち上がり、テラスの柵にもたれる。
シヌは、いつもどおり、ミニョを後ろから優しく抱きしめ、ブランケットをかけなおした。
二人で、空と海を眺める。


どこまでが海で、どこからが空なのかわからない。
一面、薄暗いグレー。
遠くで波の音だけが聴こえる。



「俺の心は、こんな色だったかもしれない」
シヌがポツリと呟いた。
「オッパ・・・?」
ミニョが、顏を少しだけシヌの胸に寄せてくる。
シヌは、そんなミニョの髪に、そっとキスをして、もう一度ぎゅっと抱きしめた。


「そこに太陽が隠れてるってわかってて、太陽が出てくるのをずっと待っていて、
でも・・・雲が厚くて、なかなか出てきてくれないんだ。
そのうち、夜になって、また暗闇に戻る。そんな毎日だった」


・・・
「ミニョ、もうすぐ朝日が昇る。空が変わる。
・・・空が変わると、海も変わるって知ってるか?」


「海が変わる?」
「そう。空が青くて澄み渡ると、海も同じように、深い青になる。

・・・俺も同じだ。
ミニョが、幸せだと、俺も幸せな気分になる。
どうしてミニョなのかなんて、俺にもわからない。
ミニョが、俺の心に光を与えてくれた・・・俺にわかるのは、それくらいだ」


・・・オッパ。
ミニョは、シヌの腕に抱きしめられたまま、シヌを見上げた。


「ミニョ・・・雲が厚くて、顏を出せない時は、ちゃんと言って。
風を呼んで、雲、何処かへ飛ばしてやるから。
だから、もう、隠れるようなことは、するな」

シヌを見上げるミニョを更にギュッと抱きしめて、ミニョの額にキスをした。


涙がこぼれ落ちた。
ずっと、一緒にいたい・・・ずっと大切にしたい・・・
ミニョは視界がぼやけていくのを感じながら、自分を包み込むその腕を
両手で抱きしめた。



「あ・・・オッパ、朝日・・・ですね」
「うん」


薄暗かった空が、徐々にピンク色に染まっていく。
空が次第に明るくなり、その下の海の色も澄んだブルーに変わっていく。



「ミニョ、俺はこんな仕事をしてるから、すごく不規則だし、
いろんな・・・耳にしなくてもいいようなことまで、
おまえのところに入ってくるかもしれない。
それで、悲しい思いをさせるかもしれない。
でも、信じてて、俺のこと。

もう離さないから。ずっと、一緒にいよう。
・・・俺が、幸せにするから」



くすっ
泣くなよ、ミニョ。
だって・・・こんなの、プロポーズみたい・・・感動しちゃいます
?? 
って、そのつもりで・・・おい、ミニョ



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昨日2つの奇跡が起こりました。1つは、息子がフットサルの試合で決勝ゴールを決めたこと。もう1つは、『嵐の予感 後編』が最大瞬間風速1位だったこと。夜中一人でこの物語を考えながら、まっこりで乾杯しました。さて、いよいよシヌヒョン、キュジュン先生と闘い(?)ます。シヌヒョンへの応援よろしくお願いします~!

Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 前編』

Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 前編』




ビルの8階にある、静かなレストラン。
一番奥の個室に通される。
「カン・シヌ・・・か」
殴られた顎を手で触れながら、レストランスタッフのあとをついていく。
すでに痛みはひき、傷も消えかかっていたが、あのときの衝撃は今も記憶に残っている。


「こちらです」


キュジュンは、少し間をおいて、扉を開けた。
シヌは、窓ぎわに立って、外を眺めていた。
扉が開く音がして、シヌが振り返った。

シヌは、キュジュンに向かってまっすぐに立ち、
少し目を細めてキュジュンを見た。

「先日は、どうも」
あの日、いきなり殴ってしまったことを、特別詫びることもなく、ただ簡単に挨拶をした。
いつも冷静で礼儀正しいシヌにしては、めずらしいことだ。


「こちらこそ」
キュジュンも、それに合わせたように簡単な挨拶で済ませた。


年は・・・たしか私よりも6、7歳若かったはずだな。
今を時めくアイドルか。
それにしても、どうして彼女の周りには、業界人の恋人がついて回るんだ?
至って普通の女性だというのに。


キュジュンは、まるで値踏みするかのように、シヌをじっと見ていた。



「・・・何か見つかりましたか?」
「・・・」 キュジュンが、怪訝な顔をする。
「さっきから、あら探しでもするみたいに、私を見ていらっしゃるので・・・」
声の穏やかさとは裏腹に、シヌの視線は強い。
まっすぐにキュジュンを見ている。


「あぁ、失礼しました。 
・・・テギョン君といい、あなたといい、なぜミニョさんの周りには、
いわゆるスターと呼ばれる人たちが多いのか、と思ってね。
テギョン君に会ったときにも感じましたが、あなたにも一部の隙もない。さすがですね」


・・・テギョンに会った?
この男、いやな予感がする。


シヌは、ミニョからキュジュンの連絡先を聞きだし、
「話がある」とキュジュンに呼び出しをかけていた。
このレストランは、事務所のアン社長の懇意の店で、そういう意味では面倒がない。



「ところで、今日、ここに呼び出された理由は何かな?」
・・・・
シヌは、無言でポケットに手を入れ、ネックレスを取り出してみせた。


「あぁ、そのことでしたか」
「この意味を教えていただけますか?・・・それと」
「キスの意味も、ですか?」
・・・
シヌの目が鋭くなる。
キュジュンの目から視線を逸らすことなく、ゆっくりと頷いた。


ふっ・・・
キュジュンがふいに笑った。

・・・挑発してるのか? シヌは顔色を変えずにキュジュンを睨んでいる。



「不安なことでもあるんですか? カン・シヌさん」
「・・・不安?」
「そう。私が、あなたからミニョさんを奪うとか?」
「・・・」
「あなたが、テギョン君からミニョさんを奪ったように」


・・・何が言いたいんだ?
気がつくと、シヌはネックレスを強く握りしめていた。


「ミニョさんの恋人は、ファン・テギョンさんでした。
そして、今、彼女はカン・シヌさん、あなたの恋人だ。
・・・お二人は、同じグループのメンバーですよね?
私は、あまりそのへんのことは疎くて知らないが、
人気絶頂のアイドルグループだと、お聞きしています。
一緒に仕事をしている若い女性スタッフの中にも、あなた方のファンがいますよ」


そこまで言って、キュジュンはシヌが握りしめているネックレスに目をやった。

「そのネックレスヘッドには、永遠の絆、という意味があるんです。
だから、よくプロポーズにも使われるらしい。
ふっ・・・まぁ、これもうちのスタッフから教えてもらったことですが」


「それで、このネックレスで、プロポーズをしに来た、ってことですか?」
シヌは、ここまで話を聞いて、顔色ひとつ変えない。
得意のポーカーフェイスだ。
ただ、ネックレスを握る指の力は、どんどん強くなっている。


「・・・最後の悪あがきだと、思って許してください」
「許す?」



「彼女・・・ミニョさんに必要なものは、永遠の絆・・・そう思いませんか?」

・・・
「あなたも、ミニョさんの生い立ちについては、知っているはずだ。
彼女は、親からの愛を知らずに、施設で育てられた。
今、大人の女性になった彼女には、平穏な、永遠の絆を誓ってあげることが
何よりも重要なはずでしょう」
・・・
「カン・シヌさん、あなたには、それが約束できますか?」

・・・
「どういう意味ですか? 何が言いたい?」 シヌが低い声で冷静に言った。


「・・・ミニョさんの、その後のことが心配で、修道院の院長にお話をお聞きしました。
しかし、院長はなかなか教えてくださらなくてね。
たまたま、アフリカに一緒に行っていた修道女の方が帰国していて、
ちょっと尋ねてみたら、いろいろと話をしてくれました。
・・・
ミニョさんが、心に秘めていた男性と結ばれた、と聞いて、内心穏やかではなかった。
前の恋人であるテギョンさんと、同じ世界に住む男性らしいと聞いて、特にね」

鼻にかけたように小さく笑って、こう言った。


「・・・そういう世界に住む人に、ミニョさんのような純粋な女性を一生愛していけるものか、と」


「いずれ、彼女を傷つけるんじゃないか、と思ってね。
いつか、あなたは彼女を傷つける。
あなたのような仕事についている男性が、ミニョさん一人をずっと愛していけるとは
思えないんですよ、私には」


「だから、あなたがその役目を果たす、とでも言いたいんですか?」
「・・・そういうことです」


シヌは、一瞬、目を閉じた。
何をふざけたことを言ってるんだ、こいつは。

「つまり、あの日、あなたが言っていた『妹への兄の気持ち』ではない、ということですね?」
「・・・そんなことを・・・言いましたね」


シヌは、じっとキュジュンを見た。

しばらくして、キュジュンがシヌの視線から目を逸らすと同時に、
「これは、私からあなたにお返しします」
そう言って、手に握っていたネックレスを、テーブルのうえに置いた。
シヌの視線は、キュジュンを捉えたままだった。


「彼女が、そうして欲しいと?」

シヌは頷いた。
「ミニョは、あなたの気持ちの真意を掴みかねていた。
あなたに勘違いをさせてはいけない、と。
・・・

今、ミニョが愛しているのは・・・この私だけです」


ふっ・・・キュジュンは、顏をそむけて窓の外に目をやった。
そして、再びシヌに向けた目は、憎しみにも似たものが宿っていた。

「テギョン君といい、あなたといい、どうしてそうも自信があるのか・・・
彼女の心をまったく疑いもしない。
・・・いいでしょう。 これは返してもらいます」


「キュジュンさん・・・二度と、ミニョには会わないでください。
いや、手だしをしないでください」
シヌがきっぱりと言う。


キュジュンは、小さく何度か頷いて、ネックレスを手にした。
掌のネックレスをみつめ、シヌに目を向ける。

「あなたの永遠の絆・・・拝見させていただきますよ・・・」
そう言って、扉の向こうに去って行った。




・・・あいつ、何かひっかかる。
シヌは、窓の外を眺めながら、キュジュンの最後の言葉を思い出していた。



とりあえず、ここを出よう。
長居は禁物だ。



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キュジュンの言葉・・・・・・ここからシヌとミニョへの風が、少しずつ強くなっていきます。

Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 中編』

Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 中編』




「やられたな・・・」 アン社長が呟く。



『A.N.JELLメンバーの女性関係発覚 いつわりのエンジェル』
と題された記事がネットに掲載された。


内容は、グループのリーダーであるファン・テギョンと、
最近ソロデビューして注目されているカン・シヌの二人が、
同じ一人の女性を愛し、カン・シヌがその女性を奪った。
いわゆる「略奪愛」という内容だ。

ミニョの名前は辛うじて伏せられてはいるが、
ミニョに近い存在の人たちには、気がつかれてもおかしくはない内容だ。


「この時期に、こんな記事が出るのは痛いな・・・」マ室長も頭を抱えている。


グループは、カムバックステージに向けての最後の調整中だった。
シヌも同時に、ソロアルバム第二弾の準備に入っていた。


これまでも、アイドルの女性関係については、数々の噂話が流された。
テギョンとヘイの熱愛騒動もその一つだ。
ヘイの破局報道のあと、テギョンには本命あり、とわかるや否や、
ヘイとの熱愛話は途切れた。


しかし、今回は、その「テギョンの本命」を、「シヌが略奪した」という内容で、
ネットに掲載されると同時に反響が大きすぎた。
数時間のうちに、その内容にあることないこと、尾ひれがついている。


さすがのアン社長も、今回ばかりはお手上げだ。
「どこからの情報だ?まったく」



・・・・・・・

「遅くなりました」
テギョンが事務所の社長室に入ってきた。

そこには、アン社長、マ室長、そしてシヌがいた。

「おぉ、テギョン。よく来れたな、外は大丈夫か?」社長が言った。
「・・・ふっ。慣れていますよ」 口元を歪めて言う。


ソファに座るや否や、テギョンはシヌに向かって言った。
「シヌ、どういうことだ?」 
テギョンが眉間にしわを寄せ、強い視線でシヌを見る。
・・・どういうことだ?・・・ミニョは大丈夫なんだろうな?
テギョンの視線は、そう言っていた。


「すまない。 俺が、迂闊だった」
シヌが、俯いて答える。
いやな予感はしたが、まさかここまでするとは・・・本当に迂闊だった。

多分・・・あいつ、キュジュンの仕業だ。


「今は、状況が変わっているだろう?」
テギョンが、新しいネットの記事を見て言う。


そこには、『悪女』『二股女』・・・
テギョンとシヌの関係を語った記事から、今では略奪愛の張本人である「一人の女性」への
嫉妬や妬みからくるひどい書き込みがメインになっている。


「こんなのシスターが見たら、シスター死んじゃうな、きっと」
マ室長が呟き、あっ!と口を押える。
シヌは、苦笑した。
・・・そのとおりだ。
ミニョ、見てなきゃいいが・・・





・・・・・・・

「えぇ~、これって本当?」
施設の若い女性スタッフが、休憩中にネットでみつけた記事を見て、叫んでいる。
「どうしたの?」
ミニョが、声をかけた。


「これ、これ! あのアイドルグループA.N.JELLが、メンバー間で略奪愛ですって~」
「・・・?」
ミニョはゴシップ記事には興味はないが、今回は別だ。
略奪愛・・・? 

いやな予感がした。

記事の内容を読むと、その渦中の女性は、ミニョのことだとわかる。


『テギョンとシヌの間で揺れた女』、
『テギョンを捨てて、シヌのもとに走った女』
『アイドルA.N.JELL テギョンを弄んだ女』・・・


・・・これって、私のこと? 
でも、どうして、こんな。


オッパ、知ってる・・・よね。 もちろん。
あ、どうしよう、私、すごい迷惑かけてる・・・。


ミニョは、張り裂けそうな胸の痛みを感じ、
その場を離れて、廊下の壁にもたれ、胸を押さえて、はぁ・・・っと深い溜息をつく。

「ミニョさん、どうしたの? 気分でも悪いの?」
マネージャーがその様子をみて、声をかけてくれた。
「・・・あ、すみません。 大丈夫・・・です」
ミニョは、肩で息をしていた。
どうしよう、どうしたらいい?・・・オッパ。



落ち着かない気持ちのまま、施設で子供たちと接していた。
今日に限って、ゆっくりと時間が過ぎる気がする。
やっと仕事が終わり、アパートに戻る時間になった。
その時、携帯が鳴った。


「ミニョ。 今、大丈夫か?」
「・・・あ、オッパ・・・」
シヌの声を聞いた瞬間、これまで必死で我慢していた涙がこぼれ落ちていく。


・・・知ってるのか?
「ミニョ、よく聞いて。 今夜は、今から言うホテルに泊まって。いいね?」

アパートも調べあげられ、記者が詰め寄っているという情報が入っていた。
今夜は帰れない。いや、もしかしたら、しばらくの間・・・。

ミニョは、震える手で、シヌの言うホテルの名前と住所をメモにとった。


「ミニョ、俺も」
「オッパ、一人で行きます・・・大丈夫、です」
ミニョは、シヌの言葉を遮って、言った。

・・・迷惑かけてるのは、私。
もっとしっかりしなきゃ。泣いてちゃだめ。

「ミニョ?」
「オッパ、いろいろ大変でしょ? ホテルへは一人で行けます。大丈夫。
オンニにお願いして、着替えとか・・・持ってきてもらいます」



その夜、シヌはホテルのミニョのもとへは戻れなかった。
シヌの身体が空いた頃には、すでに朝方になっていた。

ミニョ、眠れただろうか・・・。
シヌは、事務所の廊下のベンチに座って、空を眺めていた。


「そんなところで何してるんだ? 行けよ、今すぐ」
テギョンが、少し離れた場所からシヌをみて、強い口調でそう言った。


「テギョン・・・」
「おおかた、一人で大丈夫、とか言ってんだろ? でも、あいつが大丈夫なはず・・・ない・・・だろ?」
テギョンは、シヌを見ながら口を窄めて言った。


・・・そうだな。
ホテルの部屋で、一人泣いているミニョの姿が浮かぶ。
シヌは、頷いて「あぁ、行ってくる」と一言残し、立ち上がった。



階段を駆け下りるとき、一度だけ2階のテギョンを見た。

テギョンは、柵にもたれ、シヌに右の掌を挙げて合図をした。

・・・こっちはどうにかするから、おまえはミニョを掴まえとけ。
そう言われた気がした。






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Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 後編その1』

Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 後編その1』



シヌは、車の中からホテルの担当者へ連絡を入れた。


記者達も、まだ、ここまでは追跡していないようだ。
もしそれらしい人物を見かけた場合も、ミニョの部屋へは
絶対に通さない契約になっていることを再度確認した。


「ミニョ、待ってろ。今行くから」



・・・
シヌは、周りを一度窺って、だれもいないことを確認し、
ミニョがいる部屋のカギを開け、ドアを押した。


「・・・ミニョ」
眠っているかもしれない。シヌは、小さい声で、そっと呟いた。



ツインルームのその部屋は、ベッドの脇のライトが点けっ放しだった。
しかし、ミニョの姿はない。
ベッドも、横になった形跡がない。
ベランダにもいない。


・・・ミニョ・・・
シヌは胸騒ぎがした。



『こんなのシスターが見たら、シスター死んじゃうな、きっと』
さっきのマ室長の言葉がよみがえる。

まさか、と思いながら、シヌはミニョの携帯を鳴らす。
・・・出てくれ、ミニョ。
しかし、留守番電話のメッセージに切り替わった。

ミニョ どこへ行った?


たしかにフロントでは、ミニョのチェックインを確認した。
その後、ホテルから外へは出ていないはずだ。
でも・・・どこだ?

・・・とにかく、探そう。
ミニョのことだ、わざと心配をかけるようなことはしない。
そんなに遠くへは行っていないはずだ。



シヌは、フロントに事情を説明し、ホテル内をそれとなく確認してもらうように依頼した。
その後、シヌは一人ホテルを出て、周囲を走って探した。
夜明けが近いと言ってもこの時間だ、まだそれほど人通りは多くない。

明洞の街もまだ静かだった。
通りを走りながら、ミニョを探す。

・・・はぁ
シヌは肩で息をしている。
ミニョ・・・


あ、聖堂・・・? ふと、見上げたとき、シヌの目に聖堂の屋根が見えた。

この時間は閉まってるはずだ・・・
でも、ミニョの行きそうな場所・・・よし、行ってみよう。
シヌは、また走り出した。




明洞聖堂。




ミニョがミナムだった頃、一度テギョンが送ってきた教会だ。
シヌは、あの日の出来事を、一瞬、思い出していた。
あの時は、後ろにいる俺に気がつかないまま、テギョンのところに行ってしまった。

今日は俺がおまえを見つけて、連れて帰る。 何処にいる、ミニョ・・・


教会の周囲をまわってみたが、ミニョらしき姿はない。
・・・中には・・・入れないか。



大通りに出てみる。
車はまだ少なく、人影もまばらだ。


・・・・・・
シヌの目がとまった。



通りを挟んだところにある、深夜営業のコーヒーショップの中にミニョの姿が見えた。


「ミニョ!」
思わず、大きな声でミニョを呼んでいた。
店の中にいるミニョに聞こえるはずはない。
でも呼ばずにはいられなかった。


・・・やっとみつけた。
シヌは、大きく肩で息をして、通りを渡っていった。
店の前に立ち、大きな窓からもう一度ミニョの姿を確認する。



ミニョは、コーヒーの入ったカップを両手で持ち、
テーブルに両肘をついて、今にも泣きそうな顔をして、テーブルをみつめている。


シヌは小さく溜息をついた。

・・・ミニョを悲しませないって、誓ったばっかりだというのに、俺は何をしてるんだ、まったく。
すまない、ミニョ。おまえを巻き込んでしまった。

シヌは、もう一度溜息をついた。


自動ドアが開き、シヌは店に入ると、ミニョの前で立ち止まった。
その気配を感じ、ミニョがそっと顏をあげる。


「あ・・・オッパ・・・」
その瞬間、ミニョの目が涙で潤んでいく。

・・・ずっと我慢してたのか?
シヌは、そんなミニョを見てそう思った。


「ミニョ、ごめん」
シヌは、そう呟いて、イスに座ったままのミニョをそっと抱きしめた。

「帰ろう・・・俺が一緒にいるから・・・ミニョ、帰ろう」
耳元でそう呟いて、ミニョの肩を抱いた。

ミニョの肩が震えていた。




ミニョの肩を抱いたまま、ホテルの部屋へ戻る。
もう一度、あたりを窺って部屋にはいった。


ツインルームは、そのままだった。
ベッドサイドのライトで、壁がぼんやり照らされている。


「ミニョ、座って・・・」

シヌは、ミニョをベッドに座らせた。
ライトの下で見るミニョの目の下には、うっすらクマができている。眠っていないんだろう。


シヌが、ミニョにもう一度声をかけようとした時、ミニョが呟いた。


「・・・私のせいで、私がいるから・・・ここにいるから・・・」

涙が続々とこぼれ落ち、 唇が細かく震えている。


「・・・どうしたらいい?・・・うっ、私、どこに・・・うっ、ぁ・・・ごめん・・・なさい・・・」

最後は、もう声にならなかった。



シヌは、慌ててミニョの傍に駆け寄り、違う、そうじゃない、と頭を左右に振りながら、ミニョを抱き寄せた。
ビクっと、ミニョの身体が反応し、逃げようとするのを感じる。


だめだ、ミニョ。逃がさない。
シヌは、ミニョを強く抱きしめて唇を重ねた。


ミニョの心に、刻み込まれてしまった悲しい言葉をもみ消すように。
さっきミニョが口した言葉を、二度と口にしないように。

何度も、何度も、唇を重ねた。



どこにも行かなくていい、
どこにも行くな、ミニョ。


そう心で叫びながら、シヌは深く唇を重ねていく。


息が苦しくて、逃げ出したくて、ミニョはシヌの胸に置いた手でシヌを押し返していた。
シヌの唇が一瞬離れる隙に、声を出す。

「オッパ・・・いやぁ」 

またシヌの唇で塞がれる。
「やめ・・・て」 
「だめだ」 シヌが呟く。

苦しくて、何も考えられなくなって、ミニョの両手の力がだんだん抜けていく。
その手が、シヌの胸にそっと置かれるだけのものに変わったとき、
やっとシヌの唇が離れた。



「ミニョ、こっちを見て。 俺を見るんだ、ミニョ」

涙で潤んだ目で、ミニョはシヌを見た。
シヌは、泣きそうな切ない表情をしている。



シヌは、キュジュンとの出来事を、ゆっくりミニョに説明した。
・・・・・・・


「まだ、確認はできていないけど、あの先生の仕業だと思う。
俺が、もっときっちり話をしていれば良かったんだ。
まさか、ミニョを巻き込むようなことまでするとは・・・すまない、ミニョ」


ミニョは、ぼぉっとしている。信じられないのだろうか。


「ミニョ?」
ミニョが、シヌの顏を見上げた。

「・・・私、先生に会います。会って、話をします」

「テギョンオッパを裏切って、先生に揺れて・・・、私、やっぱりひどいことしてる」




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Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 後編その2』

※後編ですが、長くなってしまったので、「後編1・2・・・」と続きます。

もう少しお付き合いください。すみません・・・


Don't say goodbye 『嵐の前の静けさ 後編その2』




翌朝、事務所のエントランスで、緊急インタビューが行われた。
多くの記者と、ファンに揉みくちゃにされているのは、テギョンだった。


テギョンが、左手を顏の前に掲げて、記者を制する。


「ちゃんと話をしたいから、少し離れてくれ!・・・離れるんだ!」


その口調と目の厳しさに、記者たちはしぶしぶテギョンから離れ、
テギョンの周囲をぐるっと囲むようにして並んだ。


・・・・・

ごほっ。
「今日のインタビューには、他のメンバーは出ません」 テギョンの先制攻撃。


『え、シヌさんは?』
「今、来ないっていっただろ?」という目でギロっと睨む。  撃沈。


・・・・・

『テギョンさんと、シヌさんが、一人の女性の間で、もめていらっしゃったとか』
「・・・別にもめていませんよ。 それにもしも心変わりだったとしても、それは、恋愛にはつきものでしょう?」
テギョンが、質問してきた女性記者に、ちょっと切ない雰囲気の営業スマイルで答える。
『あぁ~(love)・・・(でもテギョンさんとシヌさんの間で揺れるなんて・・・うらやましいぃ~)』


・・・・・

『噂では、その女性が二股かけていた、とか』
「ギロっ!」『うっ・・・』
「そんな女性なら、私もシヌも、最初から惚れたりしません・・・そうでしょ?」
そんな質問はありえない!と言わんばかりの表情で、男性記者を無視し、
女性記者たちの目をみつめながら、同意を求める。もちろん、例の営業スマイルで。
『そうですよね~天下のA.N.JELLですもんね~(lovelove)・・・』


・・・・・

『では、今回の騒動は、事実でないと?』
「ん・・・いよいよ来たな」という意味深な表情を浮かべる。
「・・・言いにくいんですが・・・私の片思い、だったということですよ」


『テギョンさんがステージを降りて、告白した女性ですよね?』
「・・・きたな・・・」テギョンは一瞬困った表情を作り、小さく何度か頷き、
「ご存じでしょう。 私は告白しましたが、彼女は海外に行ってしまった」と切なく答える。
『なんてこと・・・(あぁ~なんてことを言わせたんでしょう)』
女性記者の間に、溜息にも似た声が漏れている。


・・・・・

『では、その女性は、テギョンさんではなく、シヌさんを・・・』
「そうです。私ではなく、シヌを選んだ。はじめから、シヌだったんですよ」


『ということは・・・』
「ということは、世間で噂されている、その女性の二股とか、浮気とか、そういうたぐいのものではない」
テギョンは、TVカメラに向かって、きっぱりと言い切った。



・・・・・

「さすが、テギョン。ザックリいくなぁ」 アン社長がTVの生放送を見ながら呟いている。

「あ、いよいよです」 マ室長も食い入るように見ている。




・・・・・

『その女性の件で、メンバー間に亀裂が入ったということは・・・』
「亀裂? はっ・・・そんなもの、関係ありません。
事実、シヌのソロミニアルバムで、彼女は我々メンバーに祝福されていますよ。」


『え! あの女性が!』
「そうです。 彼女が、シヌの恋人です」


「みなさん、彼女は一般人です。我々とは違う世界に生きている。
今回のことで、彼女は非常に傷ついています。
だから、彼女の生活を脅かすようなことだけはしないでください。お願いします」

テギョンの一層切ない表情に、あたりは一瞬静まり返った。




『そうよ! メンバーがこんなことで決裂するなんてことないわ!
私たちは、ファンなんだから、応援しなきゃ!』
『おめでとう、シヌさん!』『がんばれテギョンさん!』『おめでとう、シヌさん!』『がんばれテギョンさん!』・・・


・・・がんばれって。おい。  まぁ、ありがとな。 
テギョンは一瞬口元を歪めて、サユリたちの声を聞いた。



・・・・・

「おお~発表しちゃったなあ~。 これで、また人気急上昇だな、う~ん」
顏を見合わせて、微笑む社長と室長・・・




・・・・・

ホテルの部屋で、シヌとミニョも同じ生放送を見ていた。


「俺の恋人宣言・・・テギョンがやってくれたな」 シヌは苦笑している。

・・・すまない、テギョン。画面に映るテギョンの顏を見ながら、心でそう呟いた。


「ミニョ、今日は仕事休んだほうがいいよ。大丈夫?」
「・・・はい。さっき、マネージャーに電話しておきました」

シヌはミニョをみつめて言った。

「それと、今朝、言ってたこと。キュジュンさんに会いに行くって。
これも、考え直してほしい。 ミニョをもう、あいつに会わせたくないんだ。わかる?」


ミニョは、唇を噛んで、俯いた。

しばらくして、顏をあげたミニョに、シヌが言った。
「愛してるのは、俺だけだって、そう言いに行くのか?」

ミニョはだまって頷いた。


シヌは、微笑み、頷きながらこう言った。
「俺も、愛してるからこそ、おまえをあいつに会わせたくない」
ミニョを抱き寄せ、髪にキスをしながらくぐもった声で「俺の傍にいて・・・」、そう言った。






・・・・・・・

「シヌヒョン!」「ミニョ~~」
ミナムと、ジェルミの声がする。


「来てやったぞ」
テギョンの声。



今、ホテルの部屋には、メンバー全員とミニョが集結している。
『打倒 キュジュンの会』発足だ。
ちなみにネーミングはもちろんジェルミ。


シヌからテギョンへ経緯の説明をし、状況を知って怒り狂ったテギョンが残りの二人のスケジュールを
無理やり調整してきた。


「俺があれほど脅したのに、あいつ・・・舐めやがって・・・」 テギョンの怒りは相当なものだ。



「さて、キュジュン・・・どうする?」 テギョンが低い声で言う。
「二度と、ソウルに戻れないくらい、しめちゃう?」 ミナムが軽く提案する。


「アノ・・・しめるって、何するんですか?」 ミニョが間に入る。

「ミニョは聞かなくていい」 シヌが、ミニョの耳を塞ぐ。
「え! だって・・・」と暴れるミニョの耳元で、「じゃぁ、ここで、しゃべれないようにする?」
と、シヌが唇を少しとがらせて言う。

あ・・・その口・・・だめ。
ミニョは、コクンと頷いて、「だまっときます」と返事をした。


「ミニョは、キュジュンに会いに行くって言うんだけど・・・」とシヌが言うと
「はぁ~~?」
「なんでだよ?」
「だめ! そんなの絶対だめ!」
思ったとおりの返事がきて、ミニョの提案は却下となった。


「どうせまた、私のせい・・・とか言ってんだろ?この事故多発地帯!」
「ミニョが言って聞くやつじゃないって、今度のことでわかっただろ?」
「そうだよ~、テギョンヒョンとシヌヒョンが注意したってだめだったんだろ?ミニョが行ったら・・・」


ジェルミのその言葉で、残り三人が妄想の世界に入る。


もしもミニョがキュジュンに襲われでもしたら・・・


「あの野郎、どぉ料理してくれよう・・・」 テギョンの声が怖い。
「半殺しだな」 ミナムが言う。
「半殺しじゃ、だめだ。ぬる過ぎる」 シヌの目が鋭い。


「じゃ、決定。ミニョはここにいる」 ジェルミが言う。 もちろんミニョ以外、賛成。



「キュジュン、明後日にはアフリカに行くらしいよ。院長様に聞いたんだ。
もともとは、しばらくこっちにいるはずだったんだけど、急にアフリカ行きを決めたみたい」
ミナムがそう言った。

「こんなことになって、居ずらくなったか・・・」 テギョンが言う。


「明後日、何時の便だろう?」 シヌが呟く。

「空港で?」
「やっちゃう?」
「・・・やるか」
「うん!決定!」


「え・・・?え・・・?空港で何?」 泣きそうなミニョ。


「おまえは、ここにいるんだ、ミニョ、いいな?」
シヌが、ミニョを振り返って言った。

「・・・は・・・い・・・」






・・・・・・・

明後日、空港で、『打倒 キュジュンの会』決行、決定!


「ところで何時の便?」
「それはミナム調査員の任務だろ?」
「は~? わかったよ」
「で、何するの?ねぇ~ねぇ~」


「ば~か、ミニョのいるところでは言えないだろ!」
「俺のイメージが崩れる」


「え?何?」
「俺、王子さまだし」


「は?・・・エロ王子」



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Don't say goodbye 短編 『秘め事』

Don't say goodbye 短編 『秘め事』




テラスで、夕日を眺めていた。
あたりはすっかり暗くなっている。


・・・なんだか、いろいろあったなぁ、最近。
忙しすぎて、辛いこととか考える時間もなかったから、
それはそれで良かったのかもしれないけど・・・
でも、やっぱり。



「どうして僕は、いつも最後なんだろ?」って思っちゃう。



ミニョが男だって気がつくのも、
ミニョがテギョンヒョンを好きだってわかったのも、

ミニョがアフリカから帰ってきたってことを知るのも、
ミニョが・・・シヌヒョンと付き合い始めたってことを知ったのも



いろんなことを、「最後」に知るんだよね、僕って。



何が違うんだろ?

テギョンヒョンも、シヌヒョンも、ミニョのことが好きで・・・
でも、僕も、ミニョのこと大好きなのに。
どうしてなんだろ?


はぁ~ミニョ・・・綺麗だったなぁ、ウェディングドレス。
二人で腕を組んで、バージンロード歩いて。

あんなにイメトレしたのに、やっぱり泣いちゃった。
・・・ほんとは、あのまんま何処かに連れていきたい気分だったんだけど。



あ、ここかな?
ヒョン達と僕の違うところ。

そういう妄想はするんだけど・・・いまいち、勇気でないんだよね。


はぁ~~~、今夜は眠れそうにないから、バイクに乗ろうかな。
もうバスも動いてないし。




・・・・・・・
「ジェルミ!」 いきなり、後ろから抱きつかれた。

「え? ミナム?」
「な~に黄昏てんの?」

振り返ると、ヒョンもいる。


「ん?」 ヒョンが、両手にビールの小瓶を3本握って、ゆらゆら揺らしている。
「・・・祝い、酒だ・・・」 ヒョンは、いつものように、ちょっと口元を歪めて言った。




「・・・ヒョ~~ンぅ、ミナムぅ~~、うぇ~~~ん」
僕は、もう止まらなくって・・・大声出して泣いてしまった。


だって、だって大好きなミニョが、あんなに綺麗なミニョが・・・シヌヒョンと。


「はい、はい、ジェルミ」 ミナムが頭をなでる。
「やだ! やめてよぉミナム!」 ジェルミが泣きながらミナムの手を押しやる。

「同じ顏して、同じ声して・・・もう、だめだよぉ」

ふっ・・・
「じゃ、俺ならいいのか?」 テギョンがそう言って、ジェルミの頭を「よし、よし」としてくれた。



ジェルミは、俯いて、しばらくクンクンと子犬のように泣いた。
・・・そして、復活した。



「ありがと。もう大丈夫」 いつもの笑顔。
「さ、飲も! 祝い酒! そして失恋記念パーティ!」 
ジェルミのその目はまだ潤んではいたが、明るい笑顔で、こう言った。
「で、だれの?」
「ん・・・もちろん・・・ヒョンの!」 二人同時にテギョンを見る。


「・・・いらんっ」(怒)

「まぁまぁ・・・」(デュエット)




・・・・・・・

「今頃、何してるんだろ? あの二人」
「さぁねぇ~、シヌヒョンって、結構むっつりだからなぁ・・・」


テギョンは、そんな二人の会話を無視して、ビールをちびちび飲んでいる。


「今夜、帰ってくるかなぁ、シヌヒョン」
「う~ん、俺としては、可愛い妹だし・・・今夜のところは、ね。帰ってきてほしいけど・・・」

テギョンが、ちらっと二人を見た。


「ん? ヒョン、おかわり? ビールでいい? もってこようか?」ミナムが聞く。


「・・・今、何時だ?」 テギョンが少し低い声で聞いた。
「えっと・・・」 ミナムが時計を確認する。
「今、8時過ぎ、かな?」


「・・・まだ早いな」

「?」


「ここの近所だしな」
「ん?」


「・・・行くか?」 テギョンがイスから立ち上がった。
「え!」「あ?」・・・「ヒョン?」


「何だ? 行かないのか?」
「あ?えぇぇぇぇぇぇ~」


ふっ・・・
「うそだよ。あいつの伝説忘れたか? 俺もまだ、やられたくはない、からな」

そう言い残して、テギョンは部屋へ戻っていった。


「シヌがいなくても、片付けはちゃんとやれよ! 俺は疲れた、寝る。おやすみ・・・」 

振り向かず、右手を軽く挙げて、ミナムとジェルミに合図を送った。




・・・・・・・
「ヒョン、こんな時間に寝ると思う?」
「う~ん、微妙」
「もうちょっと、ここにいようか」
「だね・・・もしものこと、あるよね?」


「ちっ、あいつら、まだテラスに残ってやがる。・・・今夜はあきらめるか・・・」


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人気ものの三人衆。 ミニョ捕獲作戦の当日、夜を再現してみました。超短編です。

Don't say goodbye 短編 『嵐のあと』

Don't say goodbye 短編 『嵐のあと』



「オッパですか?」
「ミニョ? あ、ちょうど今、俺も電話しようと思ってた」

シヌが、ミニョに電話をしようと携帯を開いた瞬間に、ミニョからの電話が入った。


「どうした?ミニョ」
「うん・・・」

「無事に終わったか、気になってる?」
「・・・はい。そうです」

やっぱりか。相当、気にしてたからな・・・。

「今、まだホテル?」
「はい」
「じゃ、迎えに行くよ、あと一時間ちょっとかな、待ってて」




シヌが迎えに来て、無事にミニョはホテル住まいを終了した。
車で送ってくれる、ということで・・・


「あれ?オッパ、道が違います・・・オッパ?」
「ん? アパートじゃないよ」
「え? アパートじゃないって・・・あ、もしかして合宿所?」
「そう。あたり」




合宿所に来るのは、もう2ケ月ぶり。
合宿所の周囲もすっかり秋になっている。
二人はテラスに立っていた。


「ここから見る公園も、もう秋になってますね」
「あぁ、赤いな、ずいぶん」

「・・・どうして合宿所に?」
「ん? いやだった?」
「そんなことないですけど・・・」


誰もいない合宿所に、二人きりというのはちょっと恥ずかしい気もする。

「みんな仕事ですか?」
「うん。今日のために、スケジュールを無理やり合わせてくれたからな」


そう、キュジュン退治のために、テギョンが躍起になってくれた。


「ん? どうした?」
ミニョがシヌをじっとみている。
「何をしたんですか?先生に」

シヌは知らん顏だ。

「ねぇ、オッパ? 教えてくれたって、いいじゃないですか!」
「ミニョは、知らないほうがいい・・・」 シヌは、わざと眉間にしわを寄せて、低い声で答えた。


案の定、ミニョの表情が曇る。
ぷっ・・・シヌは、我慢できずに吹き出してしまった。


「え? オッパ?」 ミニョが怪訝な顔で、シヌに詰め寄る。
「うそだよ。 安心して。暴力はふるってない。神に誓う」

「・・・大丈夫だったんですよね? 先生も、みなさんも」

くすっ・・・
そんなに心配そうな顔をして・・・
ミニョには申し訳ないが、心配している顏も可愛い。


「オッパ! 笑ってないで、答えてください!」 ミニョが本気で怒り始めた。
「あぁ、ごめん。ほんと、大丈夫だよ。穏便にすませた」


そう言って、ミニョにかいつまんで説明をした。




・・・・・・・
いつの間にか、いつものように、シヌはミニョを後ろから抱きしめている。


「オッパ、心配かけてごめんなさい」ミニョがポツリと呟いた。
「本当だ。いつも心配してる」
「・・・ごめんなさい」


ふっ・・・


「電話しても出ないときとか」
「メールが来ないときとか」
「食欲がないときとか」
「笑わないときとか」
「泣いてるときとか」
・・・ここまで一気に続けた。


「俺以外の男の傍にいるときとか」
「俺以外の男をみてるときとか」


「え! オッパ以外の人と一緒にいたりしません!」
ミニョが、抱きしめられたままの姿勢で、顏だけ振り返ってそう言った。


「うん。わかってる。だけど、心配になるんだよ、男って。」
「・・・」

「もう、ミニョを独り占めしたくて・・・はぁ・・・こんな時に言うつもりじゃなかったけど」
「?」
シヌが、ミニョの髪に顏をうずめて言った。

「結婚・・・しようか」



・・・・・・
「ミニョ」

「ミニョ?」

「ミニョ??」


三度読んでもミニョは動かない。
シヌがミニョの顏を覗き込むと、ミニョは口を少し開けたままの状態で、固まっている。


くすっ・・・「おい、ミニョ!」
シヌが、少し強めの口調でそう言って、身体をよじってキスをした。
触れるだけの優しいキス。


あ・・・
「魔法、とけた?」シヌが微笑みながら聞く。
「・・・魔法?」 ミニョがシヌを見上げる。
シヌが笑っている。その笑顔を見ていると、ミニョは胸がいっぱいになった。

「幸せにしてあげます」


「?・・・ミニョ?」


ミニョが、満面の笑みでこたえる。
「私が、オッパを幸せにしてあげますからね」

「・・・ミニョ」


シヌは、一度微笑んで、ミニョの頬に手をあてて、唇を重ねた。
深い、深いキス・・・。




・・・・・・・

「入りずらいね、ミナム」
「うん」
「車の音すら、気がつかないって・・・」
「もう完璧、ふたりの世界」


「プロポーズなら、違うところでやれ」


「ヒョン! 言って、言って~」(デュエット)


「・・・おい、ビール買いにいくぞ・・・」
「え? これから?」
「ヒョン、冷蔵庫にあるよ!」



「いいから、行くぞ、こい!」



三人衆は、テラスにつながる階段に隠れ・・・そのまま車で出かけて行った・・・



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大きな嵐を乗り越えて、シヌヒョン前進!