Don't say goodbye 29
Don't say goodbye 29
作戦会議
シヌは、公園にいた。
目を閉じ、天を仰ぎながら、長い時間一人でベンチに座っている。
最後のミニョは、とても冷静で、とても寂しい目をして、
何を言われても、気持ちは変わらない・・・そう訴えていた。
あんな目のミニョを見たのは、これで二回目だ。
沖縄の教会でおまえを待つ俺に、おまえが向けた視線は、
今日と同じ、とても強い気持ちを示していた。
俺は勘違いをしていたのか?
今度は、おまえも俺と同じ気持ちだと、信じていた。
少しずつ、気持ちが近くなる。
もう少し待てば、きっと自分の気持ちに素直になってくれると思っていた。
別れを告げられたというのに、
今も、俺はまだ、心のどこかで信じようとしている。
目を閉じ、天を仰いだまま、深い溜息をついた。
驚き、苦しみや、悲しみ、怒り・・・憎しみまで
いろんなものが混ざり合って
俺は目を開けていられなかった。
目を閉じて、目の奥の熱いものが流れ出ないように、じっと耐えていた。
終わらせるのか?
もう止めるのか?
信じていては、いけないのか?
このまま、今のこの気持ちを、心の奥のどこかに押し込んで、
決して開けないように、見ないようにすれば、楽になるか・・・?と思って、
その方法を探していた。
携帯が、着信を知らせている。
シヌは、迷ったが、何かを決意したかのように、
ゆっくりと目を開けて、携帯のディスプレイを確認する。
「ミナム・・・」
ミナムは、修道院の院長様から、電話を受け、事実を知った。
ミニョが再びアフリカへ行くことにした、と。
今度は期限がないことも。
「・・・ミニョがそれを望んだのですか?」
院長様は、穏やかな声で答えてくださった。
「決めたのはジェンマ自身です。
ですが、本心ではないでしょう。
・・・ジェンマの目は、怯えていました。
心の扉が開いたのでしょうね。
今まで知らなかった、もう一人の自分をみつけたのでしょう。
ずっとここにいれば、知らずに済んだのでしょうが・・・。
今、ジェンマは、本当の愛を知って、
自分自身に怯えているのです」
「・・・出発は・・・いつですか?」
「夏、一か月後の予定です」
そして、院長様は最後にミナムにこう言った。
「ミナム、まだ時間はありますよ」
少し急ぎすぎたか。
院長様の知らせを聞いて、ミナムは考え込んでいた。
・・・ごめん、ミニョ。
おまえの兄として、おまえには幸せになってほしくて、
いろいろと仕掛けすぎたな。
人の裏腹な気持ち、言葉、態度、汚い部分・・・
そんなものとは一切縁がなかったおまえ。
でも、本当はおまえも持っているんだ、って
本気で愛したら、そんなこともあるんだ。
だから、おまえの心の奥から、
それを、勇気をもって引っ張り出せって、
その方が楽になるって・・・
はぁ~~先走りすぎた。
・・・ごめん、ミニョ。
・・・ごめん、シヌヒョン。
「ミナム?」
電話の向こうのミナムに向かってシヌは、冷静にふるまった。
「ヒョン! そこにミニョは、いる?」
・・・知っているのか?
「いや、いない。俺一人だ」
・・・・・・
「ヒョン、まだ帰ってないだろ? 今、どこにいるの?」
10分後、ミナムは公園のブランコを揺らしながら、
院長様から聞いた、経緯を話していた。
シヌは、ミナムが現れたことで、少し落ち着きを取り戻した。
「来月、8月か」
「そう。 でも、まだ、1ケ月ある」
ミナムはわざと、ゆっくり、言葉を区切った。
・・・そう、院長様も言っていた。時間はある、って。
シヌは、俯いていた。
そのシヌを、ずっとミナムはみつめている。
『逃げるな、逃げるな』、と念じながら。
『ヒョンが逃げたら、ミニョは一生このままだ。
これじゃ、シスターになったのと同じだろ?
いや、それよりやっかいだ。
シヌヒョンを愛してんだから、あいつ・・・』
シヌが、その視線に気がついたのか、顏をあげてミナムを見た。
ミナムが、シヌの顔色を窺い、悪戯な「どお?」という表情を浮かべる。
ふっ・・・まったく、おまえは、こんな時に。
シヌがかすかに微笑んだ。
「決まり! この1ケ月、ミニョ捕獲作戦の開始だな」
ミナムが言う。
「ちょっと、ネーミングがジェルミみたいでかっこ悪いけど・・・」
・・・・・
「手始めは、アルバムのジャケット撮影から行くか・・・」
俺もその気になってきた。
どうせだめでも、何もやらないよりいい。
悪あがきも慣れてる。
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