「いつかはゆかし」は商品性を明らかにして欲しい

広瀬隆雄

2013年03月05日 03:20

【消費者の、知る権利】
金融商品に限らず、どんな財やサービスを購入する場合でも、消費者はその製品やサービスの安全性や品質について、事前に正直な説明を受ける権利があると、僕は思います。

「いつかはゆかし」を巡って、一部ブロガーとの間で、とうとう「訴訟も辞さぬ」というところまで事態がエスカレートしています。

僕はずっと金融商品を販売し、設計する立場に居たので、「買い手にとってフェアな商品や、その商品へのフェアな案内の仕方」という問題について、悩み抜いてきました。この問題は、色んな意味で、永久に「正解」が出ない問題なのかもしれません。

難しい問題だとわかっているからこそ、安易に「いつかはゆかし」をdisるという気には、とてもなれなかったのです。

【10%に、違和感ナシ!】
「いつかはゆかし」に関しては、彼らがそのホームページで主張している:
つまり大切なのは、平均金利10%以上を目指して、長期で積立運用することなのです。
という文言にある、「10%」というのがリアリスティック(現実味がある)かどうか?といいう問題に関してだけ、過去にエントリーを書きました。その記事にもある通り、僕の考えでは10%という数字そのものに大きな違和感は持たないのです。

しかし……

「自分年金積立サービス いつかはゆかし」に関しては、別のところに引っ掛かるものを感じます。

たとえば:
世界第100位のファンドでも16%の好成績というデータが出ています(Barron’s TOP100 Hedge Funds)
という謳い文句があります。これは僕的にはペケです。

なぜか?

それは、そもそもBarron’s TOP100 Hedge Fundsに入るような優秀なヘッジファンドは、雑魚のような投資家は、相手にしないからです。

これは僕自身がファンドをやっているので、自分自身のファンドのコンフィデンシャル・オファーリング・メモランダムでも「マーケティングする相手は、適格投資家だけ!」ということをハッキリ明記しています。(ちなみに僕のパートナーシップはUSオンショアですので、日本人をターゲットにしていません。過去に一度も日本人に対して売ろうとしたことはないし、今後もアリマセン)

成功を収めている大手のヘッジファンドというのは、一般論として「空室待ち」状態になっているところが多いです。それはつまり100口を超えて新しい投資家を招き入れることはしたくないので、解約する人が出るまで、投資を待たされるということです。

だからどこかの馬の骨のような日本人投資家が、「お宅のファンドに投資したいのですが…」とすり寄って行っても「お帰りは、あちらです!」とドアを指さされるのがオチです。

言い直すと「あんたらBarron’s TOP100Hedge Fundsに、顧客の投資資金を、あたかもガッツリぶち込んでいるような書き方しているけれど、本当に投資実績、あるの?」という素朴な疑問が湧きあがってくるということです。

まあ、ウチの受験生の坊主のところへも色んな大学から大学案内が来るけど、そのどれにも綺麗なパツキンのネエチャンの写真が出ているのと同じノリですかね?

The brochure looks nice……

というやつです。

まさかそのパンフ見て、本当にそれらの大学のキャンパスに、そんなピカピカ女子が居て、そこへ行けばオトモダチになれると錯覚するような痛い学生は居ないと思うけど(笑)

たぶんMarket Hackの愛読者の中には日本の生保などに勤めていて、外国のHedge Fundsなどのオルタナティブ投資ばかりを専門にやっている人がいらっしゃると思うけど、日本を代表する生命保険会社ですら、トップのファンドからはしょっちゅう門前払いを喰わされます。そのたびごとに、砂を噛むようなくやしい思いをされている担当者を私は多く知っています。そんなときに「優良なファンドは、いくらだってある」と言われたって、額面通り真に受けることは、僕には到底できません。

それと海外のヘッジファンドは口数(=顧客口座数)が増えることを極端に嫌います。それは「プライベート」な登記であれば100人以上の顧客をそもそも法律的に持てないし、口数が多くなればクライアント・リレーションズの手間が煩雑になり、ファンドのオーナーシップ比率の再計算(=新規に顧客を招き入れるたびに除数が変わってしまいます)をしなければならないからです。さらに毎月のインベストメント・レターの送付などの手間も増えます。

ファンズ・オブ・ファンズのような商品が出てきた背景には、そのような事情があるのです。

適格投資家というのは、基本的に億万長者なわけですから、「月5万円の積み立て」なんて、問題外の、そのまた外。

もしそんな少額の資金でも受け入れてくれるようなプライベート・ファンドがあるのならは、たぶん日本からお金を出す時点で、複数の受益者の少額の資金をひとまとめ(aggregation)している筈です。そうでなければとてもじゃないけどブックキーピングが出来ませんから。

一体、その部分のハードルを、いつかはゆかしはどう超えているのか? という商品設計上の説明が、同社のホームページには、ありません。

また実際にどの投資先にお金を突っ込んだ実績があるのかも明示されてないのは首をかしげたくなります。

【プライベートとは】
最後に、投資の世界で「プライベート」と言えば、それはひとつの事しか指しません。答えは「100人以下」です。これは英語から日本語への翻訳の問題ではなく、法律上の定義の問題です。

100人以上に対してマーケティングする商品は、全てパブリック(一般投資家を巻き込んだ商品)ということになります。

だから「プライベートバンク」という名前を冠しながらテレビ広告を打ってマスにアプローチするという事自体が、僕にはコミカルな事のように思えてしょうがないのです。


【おまけ】
ヘッジファンドの本当に厳しい世界を描いた自著です。
全ての輝けるもの
全ての輝けるもの [Kindle版]

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米国の投資顧問会社で活躍中。BRICsの経済動向に詳しい

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