ここから本文です

<サンデー時評>居所不明の小中学生千人と「親」

サンデー毎日 3月6日(水)17時0分配信

 ◇岩見隆夫(いわみ・たかお=毎日新聞客員編集委員)

 居所不明の小中学生が全国に千人近くもいる。文部科学省の調査でわかったそうだ。驚きである。それとも、こんな数字には、世間もあまりショックを受けなくなったのだろうか。

 大阪の女児不明事件は、出生直後に死んでいるのに(殺したらしいが)両親が児童手当を不正受給していたことがわかり、詐欺容疑で逮捕されたという。居所不明の千人がどこで何をしているか不安が先に立つが、大阪のような恐ろしいケースがほかにないことを祈るばかりだ。

 やはり親子関係がおかしい。親の子殺し、子の親殺しは論外だが、しかし、その背景にはうっすらとした親子不信が広がっているようにも思える。深刻なテーマだが、どうしたらいいのか、処方箋があるようで、ない。

 先日、高齢者中心のある集まりがあって、一人が以前に聞いた話として次のような親子物語をしてくれた−−。

 その男は妻を早く亡くし、幼い娘と二人暮らしだった。娘が十二歳の時、体調が悪くなる。医者に薬をもらいにいって帰ってきたが、折り返し医者から、

「残念ながらお嬢さんはあと一年の寿命……」

 と電話があった。男は途方にくれる。思いあまって、近所の人が信仰している五感観音に出かけた。五感は目(視覚)、耳(聴覚)、鼻(嗅覚)、舌(味覚)、身(触覚)のことで、それらを守る観音さまだ。男は祈った。

「私の五感の一つをご供養に捧げますから、娘の寿命を十年延ばしていただきたい」

「五感一つでかなえられるのは五年じゃ、十年が望みなら、二つ捧げるのじゃ」

 と観音さまはおっしゃる。それでは、と男は視覚と聴覚を捧げますと誓った。一気に目と耳を失ったのだ。

 娘が二十一歳になった時、恋人ができ結婚した。しかし、命はあと一年。男は再び五感観音にまいって、

「もう十年」

 とお願いし、こんどは嗅覚と味覚を差し出した。娘は幸せに暮らし、子供にも恵まれた。そのうちにいい薬が発見され、娘の病気が治る。

前へ123
3ページ中1ページ目を表示

最終更新:3月6日(水)17時0分

サンデー毎日

 

記事提供社からのご案内(外部サイト)

サンデー毎日

毎日新聞社

2013年3月17日号
3月5日発売

400円(税込)

■「黒田・日銀総裁」で始まる資産バブル
「個人資産」こう殖やす
■転倒は寝たきりにつながる一大事
100歳まで「転ばない」体の作り方

 
 

この記事を読んでいる人はこんな記事も読んでいます

PR

現金1000万円が当たる! ⇒ 無料
PR

Yahoo!ニュースからのお知らせ(3月6日)

注目の情報


PR