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前川さん再審取り消し 厚い“壁”如実に示す判断
(2013年3月7日午前6時48分)
1986年に福井市で起きた女子中学生殺人事件で、名古屋高裁は有罪が確定し服役した前川彰司さんの再審開始決定を取り消した。前川さんが逮捕時から一貫して訴えてきた無実の叫びにまたも“壁”が立ちはだかった。
それにしても、同高裁金沢支部が一昨年11月に下した再審開始の決定判断をことごとく覆す決定理由であり、ほとんど同じ証拠からこうも百八十度異なる判断が導かれるのか、前川さん自身や弁護団でなくとも驚きを禁じ得ない。弁護団の特別抗告により判断の場は最高裁に移ることになる。「疑わしきは被告の利益に」という原則に沿って、より慎重な審理を求めたい。
有罪の根拠となったのは自白や物証ではなく、複数の知人らの目撃証言のみだった。名高裁金沢支部は再審請求審で証言について「裏付けとなる証拠などなく信用性に疑問」とした。
これに対して名古屋高裁は「変遷などが認められるが、それぞれの事情を考慮すると変遷の理由には合理性があり、十分信用できる」と指摘。さらに「不公正な捜査があったと疑わせるものではなく、確定判決の事実認定に合理的な疑いを差し挟む余地はない」と断じた。
証言に関しては専門家から「変遷がパターン化している不自然性を論ずべきだった」との指摘もある。さらに「大筋で合っているというだけで信用性を肯定した」というのであるならば、供述の危険性に対する認識の妥当性が問われるだろう。
再審開始決定後の高検の申し立てによる異議審で検察側が主に発したのは「新しい供述調書も中核部分は変わらない。弁護側が提出した証拠はどれも新規性を認めがたく、明白性に欠ける」との主張だった。
弁護側が提出し、名高裁金沢支部が認めた証拠の「第3の凶器」は今回、否定された。前川さんが事件後に乗ったとされる車内の血液反応の再現実験に関しても、捜査時との条件の違いを理由に認められなかった。
「新規性」や「明白性」の観点は、別人の犯行を示す決定的な証拠がない中、再審の条件として求められる規定である。名古屋高裁は今回、この規定を厳格に運用したといえよう。再審開始の要件となる刑事訴訟法の規定「無罪や軽い刑にすべき明らかな証拠」に当たるものはないとの判断であり、再審の困難さをあらためて浮き彫りにしたといえる。
弁護団は異議審で「詳細な主張に対し、検察側はまともに答えることができなかった」と再審開始に自信を深めていた。だが判決が覆った東京電力女性殺害事件や足利事件のDNA鑑定結果のように、明確な証拠まではなく、訴えを認めさせる上でネックとなったといえよう。
ただ、検察側の立証も不十分であり、明白な証拠は見当たらないのも事実だ。知人証言の変遷の不自然さに対する疑念が完全に晴れたとは言えないだろう。証言に対する最高裁の判断次第では再審の扉が開かれる可能性も残されている。詳細な検討を加えたうえでの判断を待ちたい。