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仮設に暮らして−大震災から2年(3)あつれき/避難者と市民、溝深く

仮設住宅に警戒看板を立てて自衛を図る関係者=1日、いわき市中央台

 国産高級車のボンネットに青と黄のペンキが掛けられていた。外車の前部にも。
 1月9日朝、いわき市中央台の仮設住宅。駐車場の車2台にいたずらされたのが見つかった。福島第1原発事故で避難した福島県広野町の住民約530人が暮らす。
 市内のほかの3カ所の仮設住宅でも車5台が同様の被害に遭ったことが分かった。前夜に集中して狙われたようで、警察は同一犯の可能性があるとみている。
 事件は未解決で、避難者の男性(70)は「仮設住宅は高齢者が多くて不安だ」と気に病む。警察は監視カメラや「パトロール強化中」の看板を設ける防犯対策に乗り出した。

 いわき市で原発事故避難者への嫌がらせが後を絶たない。
 昨年12月には、市役所の本庁と支所の玄関などに「被災者帰れ」とスプレーで落書きされた。
 いわき市は約2万5000人の避難者を受け入れている。市町村単位で最も多い。仮設住宅は36カ所、計約3300戸に上る。避難区域の集中する同県双葉郡に近くて放射線量が低く、流入を促した。
 嫌がらせの背景は避難住民といわき市民の感情的な対立だ。
 「避難者が増えて病院が満杯になり、治療が受けにくくなった」「ごみ出しの日を守らない」
 避難者に対する市民の不満がくすぶる。
 「原発事故の賠償金をもらい、仕事せずにパチンコばかりしている」
 憂さ晴らしさえ許さない雰囲気が漂う。
 避難期間が長引き、摩擦は深刻化している。市民の一人は「ペンキ事件で高級車や外車が狙われたことも両者のあつれきと無縁でない」と言う。
 避難自治体の同県大熊町の住民で、いわき市の仮設住宅で生活する自治会長の男性は「不用意に大熊町民と名乗らないようにしている」と自制している。別の自治会長は「市民が十人いれば十通りの見方がある。いわれのない中傷は避けて通るしかない」と話す。

 避難自治体のうち同県浪江、双葉、大熊、富岡の4町は住民が集団移住する「仮の町」をいわき市に整備することを望んでいる。居住施設と役場、学校、医療機関、商業施設を備える。自治体の中に別の自治体が存在するイメージで、ロサンゼルスのリトルトーキョーに似ている。
 4町は避難区域再編で5年以上帰還できない区域などに指定された。避難は長期化、大規模化する。
 市は避難者と市民をつなぐボランティア活動に補助金を出して融和を図るが、心情的な問題とあって解決策を見つけるのは簡単でない。
 避難者を支援する同市のボランティア団体の赤池孝行事務局長は「いわき市での避難生活は数十年続く。お互いに顔の見える付き合いを重ねるしかない」と述べる。


2013年03月05日火曜日

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