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3.11大震災
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仮設に暮らして−大震災から2年(2)コミュニティー/自ら動き新たな関係

春からの農作業の進め方や身近なことを語り合う「友結ファーム」のメンバー

 隣人との部屋を隔てるのは、たった1枚の薄い壁。子どもたちの走り回る音が響かないよう神経をとがらせる。
 宮城県女川町の仮設住宅団地。20代の母親は、小学生と保育園児の2人の子どもがいる。
 「声や足音が、毎日うるさいんだけれど」
 ある日、同じ仮設に住む親類を通じて、遠回しに苦情が耳に入った。子どもの物音に壁をたたかれたこともあった。
 「なるべく静かにさせようとするけれど、まだ小さいし、どうしても大きな声を出したり、音を立てたりしてしまう」。気を使う母親は苦情におびえ、恐怖さえ感じる。
 心が萎縮してしまう。子どもたちに注意を繰り返すうちに、子どもの1人がストレスで円形脱毛症になった。母親も気疲れで頭痛が続き、精神安定剤を服用した時期もあった。

 見知らぬ者同士が集まった仮設住宅。世代も世帯構成もばらばら、震災でそれぞれがさまざまな事情を抱える。
 新たな人間関係を築く余裕がない被災者も少なくない。隣家でも心の距離は縮まらず、コミュニティーづくりはそう容易ではない。
 震災前、この一家が住んでいた近所は顔見知りばかり。住んでいたアパートでは、子どもがはしゃいでも周囲は温かく見守ってくれた。「町外へ移ろうか」。いま、引っ越しも考える。
 女川町は現在、集合タイプの災害公営住宅整備を進める。高齢者から子育て家庭まで。バランスのいい、幅広い世代の入居を検討するが、母親は不安に感じる。
 「仮設住宅と同じように、子どもたちがうるさがられはしないだろうか。世代別に住む棟を分けるなどしてほしい」

 数年間の仮住まいでもお互い、気持ちよく暮らそう。住民らが積極的に交流の場を設ける仮設住宅団地もある。
 「そろそろジャガイモの植え付けの時期だねえ」「ことしの冬は寒いから、4月からかな」
 大船渡市猪川地区の長洞仮設団地内の地域公民館。集まった入居者の間で、お茶を飲みながら会話が交わされる。
 話題は共同農園「友結(ゆうゆう)ファーム」のこと。ファームは昨年3月、入居者の交流を深めるため、団地内にできた。約20人が7アールの畑でジャガイモやニンジン、ナスなどを共同で栽培、収穫してきた。
 「団地は知らない者同士の集まりだったが、作業を通して人間関係ができた」。ファーム代表の阿部重義さん(65)は手応えを感じている。
 長洞団地は308戸、約750人が暮らす。市内の37仮設団地に暮らす住民全体の6分の1を占め、最大規模だ。
 市内全域から被災者が集まり、地域のつながりが薄いという課題を抱えていた。
 昨年5月、小学生らによる吹奏楽団も結成された。別々の学校の児童や親たちが親睦を深める機会になっている。
 住民が自ら動きだす。それが人と人とをつなぐ。コミュニティーづくりへの一歩ともなる。


2013年03月04日月曜日

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