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東日本大震災2年 地域医療 包括ケアへ連携模索

仮設住宅の在宅患者を訪問する寺田院長(左)。釜石の地域包括ケア構築の試みは、被災地以外でも生かせると確信する

<2年で100人増>
 釜石ファミリークリニックの寺田尚弘院長(50)が車を走らせる。行き先は釜石市の天神町仮設住宅団地。東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた市中心部にある。
 脳梗塞を患い、後遺症がある70代の女性患者を診察した。「ちょっと熱がある。具合が悪そうだ」。患者に点滴をし、経過を見ることにした。
 同クリニックは内科、脳神経外科などのほか、在宅療養科を持つ。在宅患者は市内を中心に現在約320人を抱え、5人の医師が分担して24時間体制で訪問診療する。
 在宅患者は震災の犠牲になったり、市外に転居したりして震災直後は約100人減った。この2年間で新たに約100人増え、震災前と同じ規模に戻った。
 震災前は10年かかって300人を超えた。そのペースに比べ「震災後の増え方は異常だ」と寺田院長。仮設住宅の在宅患者は全体の約1割。被災していない自宅で生活する患者も増えた。
 釜石市の高齢化率は33.5%(2011年10月)と高い。震災は住まいを奪い、コミュニティーを分断した。職を失い、収入を得るため家族が働きに出れば、家庭の介護力は低下する。
 「在宅ニーズが高まる背景は複雑だが、体調や生活環境が変化し、通院できなくなった高齢者が増えたのは確かだ」と寺田院長は言う。

<顔見える関係>
 身近な人を亡くした悲しみ、生活再建の先行き不安、ストレス、孤独感。被災地では健康を損なう社会的要因が膨らむ。
 「心身の健康が侵されるリスクをどう取り除くか。被災地の地域医療に求められている」
 釜石市は昨年7月、国の在宅医療連携拠点事業を受託し、寺田院長ら釜石医師会と市などのメンバー6人を中心に「チームかまいし」を発足させた。在宅医療のさらなる推進を目指し医療、介護、福祉など多様な分野の連携を企画する。
 民生委員や町内会、老人クラブなど地域の団体とも研修会や交流の場を設け、幅広い「顔の見える関係」(市地域医療連携推進室)づくりを模索する。専門職以外との連携も重視する試みは、釜石独自の取り組みだ。

<高齢者見守る>
 連携の下地は震災前にあった。医師不足などを背景に釜石市民病院が07年4月、県立釜石病院に統合。残った医療機関が「急性期」「慢性期」「在宅」の役割分担を明確にし、地域医療を守ってきた。
 震災直後の混乱期も乗り切り、いまは医療、介護、福祉などのサービスを一体的に提供する「地域包括ケア」の構築が焦点だ。
 新たな連携は一つの形になった。チームかまいしのメンバーも加わる「地域包括ケアを考える懇話会」は2月27日、今後建設が本格化する復興住宅の在り方を野田武則釜石市長に提言した。
 懇話会は医療、介護など専門職以外にボランティア、老人クラブなどの地域の団体、大学の建築関係者ら幅広いメンバーで構成。昨年10月から議論を重ねた。懇話会会長の小泉嘉明釜石医師会長(67)は「復興まちづくりは皆で協力して進めたい」と力を込める。
 提言は、孤立を防ぐコミュニティー再生や生きがいづくりの場の機能に注目した復興住宅の方向性を示した。
 高齢者をより多くの目で見守る。その仕組みづくりは「復興まちづくり」そのものだ。


2013年03月06日水曜日


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