経営再建中のシャープが韓国サムスン電子と資本提携する。サムスンから100億円前後の出資を受け入れるものだが、「シャープの技術は二流」(サムスン関係者)とまで言い放つ宿敵と手を結ぶシャープの真意は…。今秋には2千億円の社債の償還が迫る中、財務体質の強化という意味では半歩前進だが、関係者の間では「なりふり構わぬ支援を取り付けても、経営が上向くとは思えない」との厳しい声が聞こえてくる。(島田耕)
■手段も選べず、追い詰められる
「相手が宿敵かどうかなど関係ない。シャープの財務状況は、そこまで追い詰められているのだろう」
家電業界を担当するある証券アナリストは、シャープとサムスンの資本提携についてこう推測する。
その上で「経営不振からワラをもすがる思いで台湾の鴻海精密工業と結びつきを作ったものの、結局うまくいきそうにない。そんな背景もあり、シャープは手段を選べない状況下だ」と指摘する。
6日にも発表が予定されているシャープとサムスン電子の資本提携は、シャープが月内にも実施する第三者割当増資をサムスンが引き受け、100億円前後を出資する。出資比率は3・4〜3・5%になる見通しで、サムスンはシャープの大株主となる。
シャープは、主力の亀山工場(三重県亀山市)などで生産する薄型テレビ用パネルの一部をサムスンに供給しており、今回の提携をてこにテレビやスマートフォン(高機能携帯電話)向け液晶パネルの供給を拡大し、早期の業績回復につなげる。
が、業界の一部には「あのサムスンと資本提携するのか」という驚きの声が広がっている。「あのサムスン」とは「ライバル」という意味ではない。
■「日本は力が抜けた」カリスマ会長の暴言
昨年1月。米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES」で、サムスンのイ・ゴンヒ会長は会場内を見て回り、「日本はもう力が抜けてしまったようだ」と、なかばあきれた表情で、日本の家電各社が展示した最先端の家電製品を酷評した。
サムスンは、日本の優秀な技術者をヘッドハンティングし、その技術力で世界の頂点に上りつめたともいわれている。それにもかかわらず、イ会長の言葉に象徴されるように「もはや日本はライバルではない」といった発言が散見され、なかには「シャープやパナソニックは二流技術」とまで口にするサムスン関係者もいるという。
連結売上高16兆円超のサムスンにとっては、100億円の出資でシャープの主要株主となれるメリットは大きい。液晶事業だけをとっても、シャープが業界に先駆けて事業化している新型液晶「IGZO」は魅力のひとつだろう。
一方、シャープがサムスンと電撃的な資本提携に踏み切ったのは、財務状況の悪化から昨年3月に合意した電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界最大手の台湾・鴻海精密工業との提携交渉が思うように進んでいないためだ。鴻海とは9・9%の出資を受けることで合意したものの、出資期限の3月26日を前に協議はまとまっていない。
■宿敵との電撃提携でも危機は去らず
自己資本比率が昨年12月時点で9・6%まで落ち込んでいるシャープにとって今、必要なのは「現金」。昨年12月には米半導体大手のクアルコムから最大100億円の出資を受け入れることで合意、すでに50億円は受け入れている。また、米半導体大手インテルと交渉を進めているとの報道もあるが、いずれも財務体質が一気に改善するほどの状況には至っていない。
別の関係者はこう解説する。「鴻海は創業者が一代で築き上げた、いわば“成金企業”。だから、シャープに対し、1千億円を超える出資も検討していた。しかし、それも頓挫しかけている。今のシャープでは1社から100億円の出資を受けるのが精いっぱいではないだろうか」
サムスンとの電撃提携でも危機が去ったわけではない。シャープにとってはまだ資金は必要で、今後も手を差しのべてくれる企業を探す必要がある。
前出の証券アナリストは「サムスンとの提携が吉とでるか凶とでるかは不明だが、今後も慌てて提携すれば、鴻海の二の舞になる恐れは十分あると感じている」と指摘する。
(島田耕)